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大学数学基礎解説
文献あり

格子点と体積の関係

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はじめに

皆さんは以下のような問題に出会したことが一度はあると思う。

1998年東大理系前期第二問

nを正の整数とする。連立不等式
{x+y+znx+yznxyznxy+zn
を満たすxyz空間の点P(x,y,z)で, x,y,zが整数であるものの個数をf(n)とおく。極限
limnf(n)n3
を求めよ。

答えは, 83である。n=1のときの連立不等式が満たす点(x,y,z)で出来上がる四面体の体積である。実は, 一般的にこのような事実は成り立ちます。格子点を数え上げることは, 体積を計算するようなものであると習った人もいるでしょう。 正確に主張を述べると

AR3を体積確定集合(立方体や球などの体積が求まる図形で後述の定義8を参照)とし, S(A)Aの境界上もしくは内部にある格子点全体, そしてVol(A)Aの体積とする。このとき
Vol(A)=limn|S(nA)|n3.

です。R3Rdで置き換えても成り立ちます。証明は, 大学一年生のリーマン積分の正確な定義が分かっていれば問題ありません。

内部, 外部, 境界

内部, 外部, 境界という言葉を数学的に厳密に理解していなくても今回困ることはないので, 読み飛ばしてもらっても構わないが, 定義は以下の通りである。

説明のため
B3(a;ε):={xR3|xa|<ε}
とする。

AR3の内部, 外部, 境界を以下で定める。

aR3
ε>0,B3(a;ε)A
であるとき, aAの内点という。Aの内点全体を内部といい, Aiと書く。

また, Aの補集合Acの内部をAの外部といい, Aeで表し, その元を外点という。

最後に, Aの内点でも外点でもない点全体をAの境界といい, Aと書く。

当然
AAiA

R3=AiAAe
が成り立つ。

リーマン積分の復習

ここではリーマン積分の復習を用語の確認程度でする。だから, リーマン積分の定義を一度もしたことない人はわかりやすい別の資料を漁ってほしい。また分割に合う標本点などは一般的な言葉ではないので, 証明で用語がわからないときに確認してほしい。

直方体の体積と直径

直方体領域I:=[a1,b1]×[a2,b2]×[a3,b3]R3に対し, その体積v(I)と直径d(I)
v(I):=(b1a1)(b2a2)(b3a3),
d(I):=(b1a1)2+(b2a2)2+(b3a3)2
で定める。

ただの直方体の体積と直径を以下の議論で扱いやすいように書いただけです。

閉区間の分割

閉区間[a,b]を考える。そこにa=x0<x1<<xn=bを満たすようなn+1個の点x0,x1,,xnを取ってみる。このとき
Δn:={x0,x1,,xn}
を閉区間[a,b]n分割ということにする。ただ, 今後はnはとくに意識しないから集合Δが正の整数nに対し, 閉区間[a,b]n分割であるなら, Δを閉区間[a,b]の分割ということにする。

直方体の分割

直方体の領域I:=[a1,b1]×[a2,b2]×[a3,b3]R3に対する分割Δとは, 適当な[a1,b1]の分割Δ1,[a2,b2]の分割Δ2,そして, [a3,b3]の分割Δ3を用いて
Δ=Δ1×Δ2×Δ3
を満たす直積集合のことである。

直方体の領域Iは分割Δによっていくつかの互いに内点(内部の点)を共有しない直方体の領域の和集合とみることができる。そのような長方形の総数をK(Δ)と書くことにし, Ik(kK(Δ))とそれぞれの直方体の領域に名前をつける。IkΔの小直方体領域ということにする。
|Δ|:=maxkK(Δ)d(Ik)
Δの幅という。

リーマン和

Ikは定義4で与えたものです。ξkIkを各Ikから取り, ξ:={ξ1,ξ2,,ξK(Δ)}を定め, これをΔに合う標本点ということにする。そして関数f:IRに対し
S(f;Δ;ξ):=kK(Δ)f(ξk)v(Ik)
を定め, これをfΔξに関するリーマン和という。

リーマン積分可能

fI上の実数値関数とする。f
SR,ε>0,δ>0,|Δ|<δIΔ,Δξ,|S(f;Δ;ξ)S|<ε
を満たすとき
abf(x,y,z)dxdydz:=S
と定め, fは直方体領域I上でリーマン積分可能という。

定義関数

AR3に対し, χA:AR
χA(x,y,z)={1((x,y,z)A)0((x,y,z)A)
で定め, これをAの定義関数という。

体積確定集合とその体積

有界集合AR3が体積確定集合であることを以下で定義する。AIを満たす直方体領域Iを任意に取る。
IχA(x,y,z)dxdydz=S
となる実数Sが存在するとき, Aは体積確定集合といい, その体積はSであるという。また
Adxdydz:=IχA(x,y,z)dxdydz
と書く。

証明

自然数nと体積確定集合Aに対し
nA:={yR3xA,y=nx}
とする。

自然数nに対し
Zn:={yxZ,y=xn}
とする。

定理1の再掲

AR3を体積確定集合とし, S(A)Aの境界上もしくは内部にある格子点全体, そしてVol(A)Aの体積とする。このとき
Vol(A)=limn|S(nA)|n3.

まず, 自然数nを1つとる。そしてAI:=[a1,b1]×[a2,b2]×[a3,b3]で, (ai,bi)Z2nかつ,(ai,bi)Zn(i=1,2,3)を満たすIを1つとる。そして, 閉区間[ai,bi]の分割Δi:={x0i,x1i,,xki+1i}(i=1,2,3)

  • x0i<x1i<<xki+1i
  • 0lki,xli<xl+1i

を満たすようにとり, Δの小直方体領域にIk(kK(Δ))と名前をつける。ここで, aIk
a(Zn)3
を満たすものがただ一つ取れることに留意しよう。

次にΔに合う標本点をξ,ξそれぞれ以下で定める。ただし, Aの内部, 外部, 境界をそれぞれAi,Ae,A

  • IkAi(kK(Δ))なら, ξk(Zn)3をとる
  • IkAe(kK(Δ))なら, ξkを任意にとる
  • Ik(kK(Δ))がその他の場合なら, ξkAeを任意にとる
  • IkAi(kK(Δ))なら, ξk(Zn)3をとる
  • IkAe(kK(Δ))なら, ξkを任意にとる
  • Ik(kK(Δ))がその他の場合なら, ξkAiを任意にとる

k=1K(Δ)χA(ξk)=AiIk,
|A(Zn)3|=Aa(Zn)3,
k=1K(Δ)χA(ξk)=AIk
だから
k=1K(Δ)χA(ξk)|A(Zn)3|k=1K(Δ)χA(ξk).
各辺v(Ik)=1n3をかけると
k=1K(Δ)χA(ξk)v(Ik)1n3|A(Zn)3|k=1K(Δ)χA(ξk)v(Ik).
Aは体積確定集合なので, 任意のε>0に対し, あるδ>0が存在し
|Δ|=3n<δ,|k=1K(Δ)χA(ξk)v(Ik)VolA|<ε
である。手を加えると任意のε>0に対し, あるδ>0が存在し
n>N=[3δ],|k=1K(Δ)χA(ξk)v(Ik)VolA|<ε.
ゆえに
limnk=1K(Δ)χA(ξk)v(Ik)=Vol(A).
同様の理由で
limnk=1K(Δ)χA(ξk)v(Ik)=Vol(A).
はさみうちの原理により
Vol(A)=limn|A(Zn)3|n3.
ここで,
|S(nA)|:=nAZ=|A(Zn)3|
に注意すると
Vol(A)=limn|S(nA)|n3.

さいごに

冒頭でも言ったように一般的にd次元ユークリッド空間でも同じことが成り立つ。すなわち

定理1の一般化

ARdを体積確定集合(立方体や球などの体積が求まる図形で後述の定義8を参照)とし, S(A)Aの境界上もしくは内部にある格子点全体, そしてVol(A)Aの体積とする。このとき
Vol(A)=limn|S(nA)|nd.

さらに, 以下の定理も実は証明の中で得ています。

I:=[a1,b1]×[a2,b2]××[ad,bd]Rdが2条件

  • (ai,bi)(n=1,2,,d)が格子点である
  • Vol(I)=1

を満たすとき, Id次元格子立方体と呼ぶことにする。

ARdを体積確定集合, nAの内部にあるd次元格子立方体の総数をN0(nA),外部にあるd次元格子立方体の総数をN1(nA)とすると
Vol(A)=limnN0(nA)nd=limnN1(nA)nd.

この定理を背景とした以下の京大の問題があります。

2004年京大理系後期

nを自然数とする。xy平面内の原点を中心とする半径nの円の内部と周を合わせたものをCnであらわす。次の条件()を満たす1辺の長さが1の正方形の数をN(n)とする。

() 正方形の4頂点はすべてCnに含まれ, 4頂点のxおよびy座標はすべて整数である。

このとき
limnN(n)n2=π
を証明せよ。

上の定理が分かっていれば極限値を求めよと書き換えられても検算が容易にできるので間違えようがありません。今回紹介した定理を知らない人はこれから検算に使ってみてください。

参考文献

[1]
杉浦光夫, 解析入門1
[2]
微分積分学, 笠原晧司
[3]
日比孝之, 凸多面体論
[6]
池谷哲, 第2版 世界一わかりやすい 京大の理系数学 合格講座 人気大学過去問シリーズ
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更新日:213
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fancy
fancy
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6692
自分の勉強用に投稿するのでn番煎じのものが多いよ

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  3. 証明
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