はじめに
皆さんは以下のような問題に出会したことが一度はあると思う。
1998年東大理系前期第二問
を正の整数とする。連立不等式
を満たす空間の点で, が整数であるものの個数をとおく。極限
を求めよ。
答えは, である。のときの連立不等式が満たす点で出来上がる四面体の体積である。実は, 一般的にこのような事実は成り立ちます。格子点を数え上げることは, 体積を計算するようなものであると習った人もいるでしょう。 正確に主張を述べると
を体積確定集合(立方体や球などの体積が求まる図形で後述の定義8を参照)とし, をの境界上もしくは内部にある格子点全体, そしてをの体積とする。このとき
です。をで置き換えても成り立ちます。証明は, 大学一年生のリーマン積分の正確な定義が分かっていれば問題ありません。
内部, 外部, 境界
内部, 外部, 境界という言葉を数学的に厳密に理解していなくても今回困ることはないので, 読み飛ばしてもらっても構わないが, 定義は以下の通りである。
説明のため
とする。
の内部, 外部, 境界を以下で定める。
点が
であるとき, をの内点という。の内点全体を内部といい, と書く。
また, の補集合の内部をの外部といい, で表し, その元を外点という。
最後に, の内点でも外点でもない点全体をの境界といい, と書く。
当然
と
が成り立つ。
リーマン積分の復習
ここではリーマン積分の復習を用語の確認程度でする。だから, リーマン積分の定義を一度もしたことない人はわかりやすい別の資料を漁ってほしい。また分割に合う標本点などは一般的な言葉ではないので, 証明で用語がわからないときに確認してほしい。
ただの直方体の体積と直径を以下の議論で扱いやすいように書いただけです。
閉区間の分割
閉区間を考える。そこにを満たすような個の点を取ってみる。このとき
を閉区間の分割ということにする。ただ, 今後ははとくに意識しないから集合が正の整数に対し, 閉区間の分割であるなら, を閉区間の分割ということにする。
直方体の分割
直方体の領域に対する分割とは, 適当なの分割の分割そして, の分割を用いて
を満たす直積集合のことである。
幅
直方体の領域は分割によっていくつかの互いに内点(内部の点)を共有しない直方体の領域の和集合とみることができる。そのような長方形の総数をと書くことにし, とそれぞれの直方体の領域に名前をつける。をの小直方体領域ということにする。
をの幅という。
リーマン和
は定義4で与えたものです。を各から取り, を定め, これをに合う標本点ということにする。そして関数に対し
を定め, これをのとに関するリーマン和という。
リーマン積分可能
を上の実数値関数とする。が
を満たすとき
と定め, は直方体領域上でリーマン積分可能という。
体積確定集合とその体積
有界集合が体積確定集合であることを以下で定義する。を満たす直方体領域を任意に取る。
となる実数が存在するとき, は体積確定集合といい, その体積はであるという。また
と書く。
証明
定理1の再掲
を体積確定集合とし, をの境界上もしくは内部にある格子点全体, そしてをの体積とする。このとき
まず, 自然数を1つとる。そしてで, かつ,を満たすを1つとる。そして, 閉区間の分割を
を満たすようにとり, の小直方体領域にと名前をつける。ここで, で
を満たすものがただ一つ取れることに留意しよう。
次にに合う標本点をそれぞれ以下で定める。ただし, の内部, 外部, 境界をそれぞれ
- なら, をとる
- なら, を任意にとる
- がその他の場合なら, を任意にとる
と - なら, をとる
- なら, を任意にとる
- がその他の場合なら, を任意にとる
だから
各辺をかけると
は体積確定集合なので, 任意のに対し, あるが存在し
である。手を加えると任意のに対し, あるが存在し
ゆえに
同様の理由で
はさみうちの原理により
ここで,
に注意すると
さいごに
冒頭でも言ったように一般的に次元ユークリッド空間でも同じことが成り立つ。すなわち
定理1の一般化
を体積確定集合(立方体や球などの体積が求まる図形で後述の定義8を参照)とし, をの境界上もしくは内部にある格子点全体, そしてをの体積とする。このとき
さらに, 以下の定理も実は証明の中で得ています。
が2条件
を満たすとき, を次元格子立方体と呼ぶことにする。
を体積確定集合, の内部にある次元格子立方体の総数を外部にある次元格子立方体の総数をとすると
この定理を背景とした以下の京大の問題があります。
2004年京大理系後期
を自然数とする。平面内の原点を中心とする半径の円の内部と周を合わせたものをであらわす。次の条件を満たす1辺の長さが1の正方形の数をとする。
正方形の4頂点はすべてに含まれ, 4頂点のおよび座標はすべて整数である。
このとき
を証明せよ。
上の定理が分かっていれば極限値を求めよと書き換えられても検算が容易にできるので間違えようがありません。今回紹介した定理を知らない人はこれから検算に使ってみてください。