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大学数学基礎解説
文献あり

宮寺功著『関数解析』演習略解(第2章)の追加説明にある主張の反証

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 はじめまして。初投稿、失礼します。
 題記にもありますとおり、故宮寺功先生より著述されました、不動の名著・『関数解析』(筑摩書房)の、第2章「線形作用素」章末演習問題10.の略解にて追加の説明として記述されています(一部ですが本文を改変しました)

問題視している主張

 X,Yをノルム空間とする。Xにおいて稠密な定義域D(T)Xをもつ有界線型作用素TL(X,Y)が閉作用素となるための必要充分条件は、D(T)=Xとなることである。

の必要性の真偽を追究します。
 本稿では、その反例を報告するとともに、実際に構成して反証します。もしも勘違い・間違いをしておりましたら、恐縮ながら、ご一報いただけますと幸甚でございます。

*2023年05月21日11時00分、軽微な修正・訂正を実施して更新しました。
*2023年05月21日23時00分、挨拶の文言を追加や変更して更新しました。
*2023年05月27日08時00分、数式の形式を明瞭に改行して更新しました。
*2023年05月27日16時00分、数式に括弧や中点を付加して更新しました。

準備

 本筋の逸脱となるかもしれませんが、充分性については、閉作用素の特徴づけより自明です。のちの議論(反証)においても必要となるため、確認がてら、以下に記載しておきます。

閉作用素の特徴づけ

 X,Yをノルム空間、TD(T)X,R(T)Yなる線型作用素とする。Tが閉作用素であるための必要充分条件は、

{{xn}nND(T)limn(xn,Txn)=(x,y){xD(T)Tx=y(R(T))

である。ただし、X,Yは係数体Φを共有するものとする。

申し訳ございませんが、証明は省略させてください。余談ではありますが、以上の言明を定義とする立場をとる教科書もあります。
 また、数列空間p,について、必要事項を確認します。以降は、実係数体Φ=Rを約束します。

数列空間p

 1p<として、n=1|ξn|p<であるような実数列x={ξn}nNの全体をpと表記する。ミンコフスキーの不等式:

(n=1|ξn+ηn|p)1/p(n=1|ξn|p)1/p+(n=1|ηn|p)1/p

より、各元x={ξn}nNp,y={ηn}nNpに対して、演算+:p×p(x,y){ξn+ηn}nNpの閉性が成立する。これより、pが線型空間をなすことが容易にわかる。ここで、さらに、ノルム関数p:pRを次のように定義すれば;

xp:=(n=1|ξn|p)1/p

完備性の具備も承認される。すなわち、pがバナッハ空間となりうることもわかるのだ。このpは、数列空間と呼称される。

こちらも、省略させていただきます。

数列空間

 有界な実数列x={ξn}nN全体の集合に対し、しかるべき演算を定義して、一様ノルムx=supnN|ξn|を導入すれば、ノルム付き線型空間ばかりかバナッハ空間ともなりうる。この空間は、として表記され、これもまた数列空間と呼称される。

こちらもまた、同様に省略させていただきます。

反例

 まず、Y=Xという特殊な場合に限定します。すると、作用素TXからそれ自身への有界線型作用素の集合L(X)に存在することになりますので、いくぶんは考えやすくなるかと思います。また、mNとして、数列空間mを考察します。ここでは、次のような基底E:=ennNを採用することにします。

e1=(1,0,0,,0n1,0n,0n+1,),e2=(0,1,0,,0n1,0n,0n+1,),e3=(0,0,1,,0n1,0n,0n+1,),±1en=(01,02,03,,0n1,1n,0n+1,),±1

すると、任意の元x={ξn}nNmは、次のとおり、線型結合として一意に表現されるはずです。

x=n=1ξnen.

とくに、有限線型結合全体に記号X0をあたえますが、和・スカラー積およびノルム関数として元々のノルム付き線型空間であるmで定義されたものを転用すれば、X0mの稠密なノルム付き部分空間となります。稠密性については、簡単に述べますと、任意の元x={ξn}nNmに対して、任意の正数ε>0に対して、n=N+1|ξn|m<εmとなるよう充分に大きな自然数NNを選べばよいでしょう。
 ここで、以下の線型作用素Tm:X0X0を考察します。

nN,Tmen=1n(2m1)(m2+1)/m3en.

まずは、Tmの有界性を確認します。

線型作用素Tmの有界性

TmL(X0).

 任意の元x0={ξn}n=1NX0に対するTmより作用させた元Tmx0m‐ノルムを上から評価すればよく、容易。

Tmx0mm=Tmn=1Nξnenmm=n=1NTm(ξnen)mm=n=1Nξn(Tmen)mm=n=1Nξn1n(2m1)(m2+1)/m3enmm=n=1Nξnn(2m1)(m2+1)/m3enmm=n=1N|ξnn(2m1)(m2+1)/m3|m=n=1N|ξnmn(2m1)(m2+1)/m2|n=1N|ξnmn2m1|n=1N|ξnmn|n=1N|ξnm|=n=1N|ξn|m=n=1Nξnenmm=x0mm.

よって、Tmの作用素ノルムは有限。

Tm1.

したがって、ノルム空間からノルム空間への線型作用素における有界性および連続性が互いに同値である、という函数解析学において周知の事実を勘案すれば、Tmの連続性が承認されるでしょう。
 しかし、これ以外にも、用意するものがあります。

ζ:=n=11n2en.

リーマン・ゼータ関数の特殊値の公式 による牛刀割鶏を容認すれば、登場するものはすべて定数ですので、以上、提示した要素ζmへのさらなる帰属も了解されましょう。ただし、Bnは関・ベルヌーイ数の第n項を意味しています。もちろんですが、面積の評価からの不等式の立式も良い方法であると承知しております。ですが、のちの議論(反証)においても面積評価の手法を使用する場面がありますので、今回は見送りとしました。

ζmm=n=11n2enmm=n=1|1n2|m=n=11n2m=22m1|B2m|(2m)!π2m<.

 ここで、X0ζを添加させます。これも、さきほどの議論と同様に、和・スカラー積およびノルム関数として、元々のノルム付き線型空間であるmで定義されたものを転用すれば、X0mのノルム付き部分空間となります。

X0(ζ):={x0+aζx0X0,aR}.

 いままでに登場してきましたノルム付き線型空間の包含関係を整理しましょう。

X0X0(ζ)m.

X0mで稠密であるという事実を利用しつつ、位相空間論の閉包作用素¯の単調性ならびにバナッハ空間の閉性を適用します。

{X0X0(ζ)m,mX¯0X0(ζ)mX0X0(ζ)m=X0(ζ)=X¯0.

このことは、X0X0(ζ)でもまた稠密であることにほかなりません。
 そこで、前述の作用素TmL(X0)について、稠密な定義域D(Tm)=X0をもつ有界線型作用素Tm:X0(ζ)X0(ζ)と看做します。
 これにて、反例の構成が完了します。では、反証をつうじて、実際に確認していきましょう。

反証

 定理2(閉作用素の特徴づけ)を想起します。任意の有限実数列による無限列{xN}NN={{ξN,n}n=1N}N=1X0に対する条件は、基底Eによる線型結合により次のように換言されます。

{limNTmn=1NξN,nen=x,limNTmn=1NξN,nen=x.

 そこで、Tmが有界のゆえ連続であることに注意して、後半の等式を変形していきます。ただし、最終段の同値変形にさいして、前半の等式が意味する実数列{ξN,n}nNNの収束性を考慮しました。

limNTmn=1NξN,nen=xx=limNn=1NTm(ξN,nen)x=limNn=1NξN,n(Tmen)x=limNn=1NξN,n12(2m1)(m2+1)/m3enx=n=1ξ,n2(2m1)(m2+1)/m3en.

 ここで、作用素Tmの作用後に収束する元xが、X0(ζ)のうち、添加部ζの係数aが非零であるような領域に存在すると仮定します。すると、作用素Tmに作用されないまま収束する元xすなわち実数列{ξ,n}nNについては、じつは始域X0(ζ)をも包含・包摂するmでの存在ですらありえない、ということになってしまうのです。その内容を、補題の形式にのっとって、以下に、より明確に記述しなおします。そして、その状況のもとで、元xの有限線型結合部に出現する基底の添数のなかで最大のものをMNとしますが、とくに、有限結合部が零元の場合はM=0とします。今度は、元xm‐ノルムの発散を導出するために下から評価する算段です。

xm‐ノルムの発散性

x=n=1ξ,nn(2m1)(m2+1)/m3enX0(ζ)X0xm=(n=1|ξ,n|m)1/m.

 添数がM+1以降の基底に対応する係数を比較して各ξ,nを計算するが、数列空間mで定義されているスカラー積の実行に留意されたし。

n=M+1(ξ,nn(2m1)(m2+1)/m3)en=a(n=M+11n2en)=n=M+1(MaMn2)enξ,n=an2(2m1)(m2+1)/m3=an(m1)2/m3(n>M).

ゆえに、xm‐ノルムは発散。

xmm=n=1|ξ,n|mn=M+1|ξ,n|m=n=M+1|an(m1)2/m3|m=|a|mn=M+11n1(2m1)/m2>|a|mM+1dxx1(2m1)/m2=|a|mm22m1x(2m1)/m2|M+1=|a|mm22m1(limLL(2m1)/m2(M+1)(2m1)/m2)=.

 それゆえに、作用素Tmの作用後に収束する元xは有限結合でなければなりません。それはすなわち、作用素Tmに作用されないまま収束する元xも有限結合でなければなりません。任意のxについてζを添加して拡張する以前の定義域X0に存在することがわかりますので、閉作用素として成立するための必要十分条件の満足をすることがわかるでしょう。ところでですが、そもそもですが、始域と定義域の包含関係はD(Tm)=X0X0(ζ)でした。
 以上をもちまして、冒頭にて掲示しました命題1は、偽として棄却されなければならないのです。

謝辞

 拙文、最後までご高覧いただきまして深謝いたします。諸事情により数学からしばらく退いておりましたため、また、初投稿もあいまって、わかりにくい箇所が多々あるのではないかと不安で不安でなりませんが、記事の完成にともない達成感もいささか感じられました。冒頭でも申しあげましたとおり、看過できない論理の飛躍やミス等がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。
 本稿の内容につきましては、学部生時代に作成しました原案を時間のある休日に再考しました、改作となります。
 末筆ながら、今後ともひきつづき、何卒よろしくお願い致します。

参考文献

投稿日:2023520
OptHub AI Competition

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投稿者

現在は20代エンジニアです、、、数学のなかでもとくに函数解析に興味がありますが、大学では可換環論を勉強していました。みかけによらず中国語が苦手です。。。

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