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積分・級数botを解く integral 1-4

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積分を解く

今週も級数・積分botの積分を解いていきます。

解く積分

integral 1-4

0π2arctansinx2dx=π2123ln2ϕ2

(lnx)n=lnnxと表すことにします。またϕは黄金数です。

特殊関数にある程度馴染みのある人は、右辺を見るとある関数がちらつくかもしれませんが、恐らくその関数も使います。

パラメータの追加

I(s)を次のように定義します。

I(s):=0π2arctan(ssinx)dxs>0

※このとき、I(1/2)=Iです。

I(s)の計算

I'(s)を計算していきます。

I(s)=0π2sarctan(ssinx)dx=0π2sinx1+s2sin2xdx=0π2sinx1+s2s2cos2xdx=01dy1+s2s2y2cosxy=011s2dy((1+s2)/s)2y2=1s212(1+s2)/s01(1(1+s2)/s+y+1(1+s2)/sy)dy=12s1+s2[ln1+s2+sy1+s2sy]01=12s1+s2ln1+s2+s1+s2s=ln(s+1+s2)s1+s2=arsinhss1+s2

※最後はarsinhx=ln(x+1+x2)を使っています。
 arsinhxは、sinhxの逆関数です。

I(s)を求める

I(s)が求まったので、これを積分してI(s)を計算しましょう。
I(0)=0であることに注意すると、

I(s)=0sarsinhss1+s2ds=0sinh1stsinht1+sinh2tcoshtdtssinht=0sinh1stsinhtdt1+sinh2t=cosh2t=20sinh1stetetdt=20sinh1stet1e2tdt=20sinh1stetn=0(e2t)ndte2t<1(t>0)=2n=00sinh1ste(2n+1)tdt=2n=0([te(2n+1)t2n+1]0sinh1s+12n+10sinh1se(2n+1)tdt)=2n=0(sinh1s(esinh1s)2n+12n+1(esinh1s)2n+1(2n+1)2+1(2n+1)2)

ここで、esinhsがさらに計算できて、s2+1sと一致します。

esinhs=eln(s+s2+1)=1s+s2+1=s2+1s

これを先ほどの式に適応して整理すると、

I(s)=2n=01(2n+1)22sinh1sn=0(s2+1s)2n+12n+12n=0(s2+1s)2n+1(2n+1)2

だけで表すことができました。
後は一つずつを計算していくだけです。

第1項の計算

第1項はこんな級数でした。

2n=01(2n+1)2

ここまで見てくれている人は知っていると思いますが、この級数はζ関数という関数と関係があります。

リーマンゼータ関数(Riemann zeta function)

ζ(s):=n=11nsRe(s)>1

第1項は、奇数の平方の逆数和となっているのでζ(2)で書けそうですね。
実際計算すると、

n=01(2n+1)2=n:odd1n2=n=01n2n:even1n2=ζ(2)n=11(2n)2=ζ(2)14ζ(2)=34ζ(2)

ζ(2)=π2/6であることを思い出すと、第1項は、

2n=01(2n+1)2=234ζ(2)=π24

第2項の計算

第2項はこれです。

2sinh1sn=0(s2+1s)2n+12n+1

一見見慣れない形ですが、実はartanhxのテイラー展開の形になっています。
ここで、artanhxの対数関数による表示

artanhxの対数関数による表示

artanhx=12ln1+x1x

証明y=artanhxとおくと、tanhy=xeyeyey+ey=xey(1x)=ey(1+x)e2y=1+x1x自然対数を取り、両辺を2で割ると
artanhx=12ln1+x1x

を使うことで、

artanhxのテイラー展開(マクローリン展開)

artanhx=12ln1+x1x=n=0x2n+12n+1|x|<1

証明artanhx=0x11t2dt=0xn=0(t2)ndt=n=00xt2ndt=n=0x2n+12n+1

が成り立つことがわかります。
今回はx=s2+1ss>0の範囲では0<s2+1s<1なので、

n=0(s2+1s)2n+12n+1=12ln1+s2+1s1s2+1+s=12ln(1s+s2+1)(1+s+s2+1)(1+ss2+1)(1+s+s2+1)=12ln1+s2+1s

このように計算を進めることが出来ます。
また、sinh1s=ln(s+s2+1)であることと、
今求めた式に注意して第2項を整理すると、

2sinh1sn=0(s2+1s)2n+12n+1=ln(s+s2+1)ln1+s2+1s

第3項の計算

いよいよ最後の第3項です。

2n=0(s2+1s)2n+1(2n+1)2

しかしこの級数はなかなか難しく、初等的な変形をしていてもうまくいきません。
(少なくとも筆者は、この級数を解決する初等的な方法を思いつきませんでした。)
そこでとある特殊関数を二つ導入します。

ルジャンドル(Legendre)のχ関数

χs(z)=n=0z2n+1(2n+1)s

多重対数関数

Lis(z)=n=1znns

どうでしょうか、χ関数の定義は今求めたい級数にピッタリ一致しますね。
しかし、この関数のままでは計算しにくいので、多重対数関数という関数に帰着させて解きます。(なので、わざわざχ関数は定義しなくても良かったのですが、せっかくなので書きました。)

χ関数と多重対数関数の関係式

χs(z)=12Lis(z)12Lis(z)

証明12Lis(z)12Lis(z)=12n=1znns12n=1(z)nns=12(n:oddznns+n:evenznns)12(n:odd(z)nns+n:even(z)nns)=n:oddznns=n=0z2n+1(2n+1)s=χs(z)

第3項で出てきた級数はχ関数の定義から次のように表せます。

n=0(s2+1s)2n+1(2n+1)2=χ2(s2+1s)

また、χ関数と多重対数関数の関係式より、

χ2(s2+1s)=12Li2(s+s2+1)12Li2(ss2+1)

このように整理され、第3項はこの結果を代入して、

2n=0(s2+1s)2n+1(2n+1)2=Li2(ss2+1)Li2(s+s2+1)

I(s)の結果

先ほど求めた項の計算をすべて足すことで、

I(s)=0π2arctan(ssinx)dx=π24ln(s+s2+1)ln1+s2+1s+Li2(ss2+1)Li2(s+s2+1)

長かったですが、ようやくI(s)が求まりました。
もちろんχ関数を用いて、

I(s)=0π2arctan(ssinx)dx=π24ln(s+s2+1)ln1+s2+1s2χ2(s2+1s)

とも表すことが出来ます。

元の積分を求める。

ここで、今回求めたい積分はI(1/2)に等しいので、代入して

I=I(12)=0π2arctansinx2dx=π24ln(1+52)ln(2+5)+Li2(152)Li2(1+52)

黄金数ϕを用いて更に式を整理します。
以下にϕの累乗の一部を載せておきます。

ϕ:=1+52ϕ2=3+52ϕ3=2+5ϕ1=1+52ϕ2=352ϕ3=2+5

これらを用いると、

I=π24lnϕlnϕ3+Li2(ϕ1)Li2(ϕ1)=π243ln2ϕ+Li2(ϕ1)Li2(ϕ1)

のようにして整理されました。

二重対数関数を処理する

ϕを用いて綺麗になりましたが、二重対数関数Li2が残ってしまっています。ほとんどの実数で二重対数関数は計算できませんが、引数に黄金数の累乗が入っている場合は計算できることがあります。
今回はうまく計算できるのでそれを示すためにいくつか補題を用意しました。

二重対数関数Li2の積分表示

Li2(z)=0zln(1t)tdt

証明Li2(z)=n=1znn2=n=10ztn1ndt=0z1tn=1tnndt=0zln(1t)tdt
最後の式変形はln(1x)のテイラー展開
ln(1x)=n=1xnn
を使いました。
二重対数関数Li2の相反公式

Li2(x)+Li2(1x)=π26lnxln(1x)

証明補題2よりLi2(x)+Li2(1x)=0xln(1t)tdt01xln(1t)tdt=01ln(1t)tdt1xln(1t)tdt01xln(1t)tdt=Li2(1)1xln(1t)tdt+1xln(s)1sds1ts=n=11n21xln(1t)tdt[ln(1s)lns]1x+1xln(1s)sds=π26ln(1x)lnx+ln(1s)ln(s)|s1
ここでln(1s)|s1よりもlns|s1のほうが速く収束するので最後の項が消えて、補題3が示されます。
二重対数関数Li2の関係式

Li2(1x)+Li2(11x)=ln2x2

証明この関係式を示すために、
Li2(x)Li2(11x)
の微分を計算します。
ddx{Li2(x)Li2(11x)}=ln(1x)x+ln(1/x)11/x1x2=ln(1x)x+lnxx(1x)=ln(1x)x+lnx(1x+11x)=ln(1x)x+lnxx+lnx1x
この両辺を1からxまで積分して、
1xddx{Li2(x)Li2(11x)}dx=1xln(1t)tdt+1xlnttdt+1xlnt1tdtLi2(x)Li2(1)Li2(11x)+Li2(0)=[lntln(1t)]1x1xlnt1tdt+1xlnt(lnt)dt+1xlnt1tdtLi2(x)Li2(11x)π26=lnxln(1x)+lnsln(1s)|s1+[12ln2t]1xLi2(x)Li2(11x)=π26+ln2x2lnxln(1x)
補題3からこの式を引くことで、補題4を得ます。
多重対数関数Lisの次数下げ

Lis(x2)=2s1(Lis(x)+Lis(x))

証明Lis(x)+Lis(x)=n=1xnns+n=1(x)nns=n:oddxnns+n:evenxnns+n:odd(x)nns+n:even(x)nns=2n:evenxnns=2n=1x2n(2n)s=12s1n=1(x2)nns=12s1Lis(x2)
両辺2s1倍すれば補題5が示されます。

これらを駆使して特殊値を求めていきましょう。
補題3のxϕ1を代入して計算を進めると、

Li2(ϕ1)+Li2(1ϕ1)=π26lnϕ1ln(1ϕ1)Li2(ϕ1)+Li2(ϕ2)=π26+lnϕlnϕ2Li2(ϕ1)=π262ln2ϕLi2(ϕ2)

また、補題4のxϕを代入して計算を進めると、

Li2(1ϕ)+Li2(1ϕ1)=12ln2ϕLi2(ϕ1)+Li2(ϕ2)=12ln2ϕLi2(ϕ1)=12ln2ϕLi2(ϕ2)

最後に、補題5のxϕ1を代入して上の二つの式を使うと、

Li2(ϕ2)=2Li2(ϕ1)+2Li2(ϕ1)=2(π262ln2ϕLi2(ϕ2))+2(12ln2ϕLi2(ϕ2))=π235ln2ϕ4Li2(ϕ2)

Li2(ϕ2)を左辺に移行して、両辺5で割ると、

Li2(ϕ2)=π215ln2ϕ

となって、Li2(ϕ2)が求まりました!
これをもう一度上の二つの関係式に代入して整理することで、

Li2(ϕ1)=π210ln2ϕLi2(ϕ1)=π215+ln2ϕ2

特殊値を求めるだけでもだいぶ大変でしたね。
ようやくIを求める準備が整いました。

Iを求める

いよいよラストスパートです。(とは言え、後は結果を代入するだけです。)
今わかっているIの式は、

I=π243ln2ϕ+Li2(ϕ1)Li2(ϕ1)

でした。
よって、今求めた二重対数関数の特殊値を代入して整理すると、

I=π243ln2ϕ+Li2(ϕ1)Li2(ϕ1)=π243ln2ϕ+(π215+ln2ϕ2)(π210ln2ϕ)=π2123ln2ϕ2

求めたい積分が計算出来ました。

ここまで見てくれてありがとうございました。
今回の記事の参考にさせて頂いた「 まめけびさん 」が、
I(s)s1/2以外にも12を入れた積分を解説しています。

ここまで大変な積分は久しぶりです。
それではまた。

投稿日:2024年10月20日
更新日:2日前
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  1. 積分を解く
  2. 解く積分
  3. パラメータの追加
  4. $I'(s)$の計算
  5. $I(s)$を求める
  6. 二重対数関数を処理する
  7. $I$を求める