5

グリーン・タオの定理3 三角形除去補題の利用

351
0

こんにちは,itouです.今回はグリーン・タオの定理シリーズ第3回,

三角形除去補題
アイタイ・セメレディの定理(コーナー定理ともいう)
ロスの定理

の流れを見ていきます.
各命題の主張は以下の通り.

三角形除去補題

任意のε>0に対してδ=δ(ε)が存在して,以下が成立する.グラフGを任意に考えて,その頂点の個数をnとおく.もしGが高々δn3個しか三角形を含まなければ,高々εn2個の辺を除去することによって,三角形を含まないようなGの部分グラフを得ることができる.

アイタイ・セメレディの定理

整数a,b,c(ただしc0)を用いて{(a,b),(a+c,b),(a,b+c)}と表されるZ2の部分集合をコーナーとよぶ.実数0<δ1に対して正整数NAS(δ)が存在して,以下が成立する.NNAS(δ)を満たす任意の整数Nに対して,AδN2であるような集合A[N]2はコーナーを含む.

ロスの定理

実数0<δ1に対して正整数NRoth(δ)が存在して,以下が成立する.NNRoth(δ)を満たす任意の整数Nに対して,AδNであるような集合A[N]は長さ3の等差数列を含む.

(正確には後述するように三角形除去補題をグラフの言葉で書いた定理を使う)

ここからはグラフ理論の話です.
まず定義を並べます.

定義

グラフ

頂点の集合V,辺の集合Eの組G=(V,E)のことをグラフという.

以降グラフといえば単純無向有限グラフ(辺としてループと多重辺をもたず辺に向きがない,頂点の数が有限のグラフ)を考えます.そうすると辺はその両端の頂点からなる2元集合と同一視できます.つまりE{eP(V):e=2}と考えてよいです.
P(V)Vの冪集合
これを一般化して,

ハイパーグラフ

グラフの定義において辺集合をEP(V){}と同一視したものをハイパーグラフという.

つまり辺とは頂点たちの関係のことをいいます.このように集合に構造を与えていくのが本書におけるグラフの役割です.

集合Vからr個選んだものすべての集合

集合(Vr)(Vr)={eP(V):e=r}とする.

(k頂点)rグラフ

V(V=k)を有限集合とし,rを正整数とする.このとき,V(Vr)の部分集合E(Vr)の組(V,E)のことを(k頂点)rグラフという.

※本には単にrグラフと書かれていますが,わかりやすくするために(k頂点)rグラフとかくことがあります.
※(k頂点)rグラフはr一様ハイパーグラフともいいます.
辺集合E(Vr)の部分集合だということです.(これは大事)

部分rグラフ,同型

2つのrグラフG=(V,E),G=(V,E)について,VVかつEEであるとき,GGの部分rグラフであるという.また全単射写像f:VVであって「eEf(e)E」が成り立つとき,GGは同型であるという.

これは大丈夫だと思います.

k頂点完全rグラフ

k,rr[k]を満たす正整数とする. k頂点完全rグラフKk(r)=(V,E)V=[k],E=([k]r)によって定める.また,Kk(2)=Kkと略記する.Kkk頂点完全グラフという.

[N]とは1以上N以下の整数の集合でした.k頂点完全グラフは
辺集合E([k]r)に等しいような(k頂点)rグラフをいいます.

3部2グラフデータD=(V1,V2,V3;E12,E23,E31)

V1,V2,V3が有限集合であり,各e([3]2)={{1,2},{2,3},{3,1}}に対してEejeVjであるとき,D=((V1,V2,V3);E{1,2},E{2,3},E{3,1})を3部2グラフデータという.また,これをD=(V1,V2,V3;E12,E23,E31)と略記する.

次節のイメージも参考にしてください.

3部2グラフ

「頂点集合が3個の部分に分けられていて,同じ部分に属する相異なる頂点たちが同じ辺の構成要素になることがないような2グラフ」のことを3部2グラフという.3部2グラフデータD=(V1,V2,V3;E12,E23,E31)が与えられたとき,V=j[3]Vjとおき,E=e([3]2)Eeを自然に(V2)の部分集合と思うことによって,3部2グラフを自然に構成できる.このとき,GDから構成される3部2グラフとよぶ.

iIAi=iI{(a,i):aAi}です.(これを非交和といいます.)

三角形

グラフGに対して,K3と同型なGの部分グラフのことをGに含まれる三角形という.

K3(D)

K3(D)を3部2グラフデータDから構成される3部2グラフに含まれる三角形の頂点集合の集まりとする.すなわち,
K3(D)={(v1,v2,v3)V1×V2×V3}:(v1,v2)E12,(v2,v3)E23,(v3,v1)E31
と定義する.

グラフとは頂点集合と,頂点間の関係(辺)から成り立っています.そのような集合と関係のセットのルールこそがグラフなのです.頂点集合はなんでもよいです.すぐ後には格子点の無限集合を頂点としてもつグラフが登場します.

イメージ

3部2グラフのことを単に3部グラフともいいます.3部グラフとは下の図のような構造をもつグラフです.
3部グラフのイメージ 3部グラフのイメージ

三角形除去補題

さて,三角形除去補題とは以下の命題でした.

三角形除去補題

任意のε>0に対してδ=δ(ε)が存在して,以下が成立する.グラフGを任意に考えて,その頂点の個数をnとおく.もしGが高々δn3個しか三角形を含まなければ,高々εn2個の辺を除去することによって,三角形を含まないようなGの部分グラフを得ることができる.

対偶をとってみると主張は

Gにおいて,高々εn2個の辺を除去するだけでは三角形をなくすことが決してできないならば,Gは高々δn3個よりも多くの三角形を含む

です.

ざっくり説明すると「三角形が少ないグラフは三角形を一切なくすことができる」
となります.

この補題をグラフの言葉で述べると以下のようになります.

3部グラフ版三角形除去補題

任意のε>0に対してδ=δTRL(ε)>0が存在して,以下が成立する.3部グラフデータD=(V1,V2,V3;E12,E23,E31)
K3(D)δV1V2V3
を満たすとき,3部グラフデータD=(V1,V2,V3;E12,E23,E31)が存在してK3(D)=かつ任意の(i,j){(1,2),(2,3),(3,1)}に対して

(EijEij)εViVj
が成り立つ.

(EijEij)は除去すべき三角形の個数のことで,それが任意のεで上から抑えられるということです.たしかに先の三角形除去補題と同じことを言っていますね.

3部グラフ版三角形除去補題においては三角形を除去したグラフGGの部分グラフでなくてもよいという意味で,上の三角形除去補題よりも3部グラフ版三角形除去補題の方が強い定理です.今後単に三角形除去補題というときは3部グラフ版三角形除去補題を指すことにします.

三角形除去補題アイタイ・セメレディの定理

実数δを任意にとって,NAS=12(1δTRL(δ/5)+1)と定義します.NNASとし,AδN2を満たす集合A[N]2をとります.このAに対し,3部グラフデータD=(V1,V2,V3;E12,E23,E31)を以下のように定めます.このAに対し,
頂点集合は

V1={L1(a):a[N]}V2={L2(a):a[N]}V3={L3(a):a[2,2N]}
とします.ただし,
L1(a)={(x,y)Z2:x=a}L2(a)={(x,y)Z2:y=a}L3(a)={(x,y)Z2:x+y=a}

とします.Li(a)は直線上の格子点の集合ですが,単に直線と呼ぶことにします.その直線ひとつひとつを頂点とします.

辺集合を次のように定めます.

(Li,Lj)Eij2直線Li,Ljの交点がAの元

いま,K3(D)=K3(D)K3(D)と分割できます.ただし,
K3(D)とは,
「三角形の頂点をなす3直線のうち,2直線を選んでその交点として得られる3つの格子点がA内のコーナーとなるような三角形の集合」で,

K3(D)とは,
「三角形の頂点をなす3直線の交点がAの1元集合であるような三角形の集合」
です.それぞれ非自明なコーナー,自明なコーナーに対応した三角形です.言いたいのはK3(D)でした.背理法で示します.

K3(D)=を仮定すると,

K3(D)=K3(D)=AN2δTRL(δ5)V1V2V3
です.ただし最後の不等号はNASの定義とNNASを用いました.さて,これは三角形除去補題の仮定であったので,3部グラフデータD=(V1,V2,V3;E12,E23,E31)が存在してK3(D)=かつ任意の(i,j){(1,2),(2,3),(3,1)}に対して
(EijEij)δ5ViVj
です.各EijEijに属する辺を除去するとき,K3(D)に属する三角形すべてから辺を一つずつ除去しなければなりません.これらK3(D)に属する三角形は2つの頂点(=2直線)から残りの1点が決まるので,どの2つも辺を共有することはあり得ません.(1辺を共有するならば同じ三角形なので)よって,除去すべき辺の個数は少なくともK3(D)の元以上であり,

K3(D)i,j(1,2),(2,3)(3,1)(EijEij)δ5(5N22N)<δN2
が成り立ちます.最後から2番目の不等号はV1=N,V2=N,V3=2N1に注意し,NN+N(2N1)+(2N1)N=5N22Nより分かります.

K3(D)=Aだったので,結局A<δN2を得ますが,これはAδN2に矛盾し,証明が完了します.

アイタイ・セメレディの定理ロスの定理

実数0<δ1を任意にとって,NRoth=max{NAS(δ2/5),26/δ}とする.NNRoth(δ)とし,AδNを満たすA[N]をとります.集合B[N]2
B={(x,y)[N]2:x+2yA}
とします.
x+2y=aなる(x,y)[N]2a12個あるので,
Ba[δN]a12>a[δN]a32=12δN(δN+1)232δN>δ2N245δN454δ2N25
よって,アイタイ・セメレディの定理より,Bはコーナー{(a,b),(a+c,b),(a,b+c)}を含みます.(a,bZ>0,cZ{0}).このとき,Bの定義よりA{a+2b,a+2b+c,a+2b+2c}を含むことが分かります.これは長さ3の等差数列.

感想

三角形除去補題アイタイ・セメレディの定理の証明におけるグラフの作り方は見事ですね.次回はこれの一般化の証明を追っていきます.

謝辞

ここまで読んで下さりありがとうございました。誤植等指摘お願いいたします.

投稿日:2024416
更新日:2024518
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

itou
itou
148
13513
数学勉強中. https://twitter.com/G7UOMb0Zd8V7LdP

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. 定義
  2. イメージ
  3. 三角形除去補題
  4. 三角形除去補題アイタイ・セメレディの定理
  5. アイタイ・セメレディの定理ロスの定理