Hilbert流の体系におけるGlivenkoの定理の証明について書きます.
論理学について知らない方でも読めるように書いたつもりなので, 知っている方は「証明の準備」の節から読んでください.
定義
HMの記号
名前
変項
項演算子
項述語
零項真理函数
二項真理函数
量化子
一階述語論理の項
- が名前ならばは項である.
- が変項ならばは項である.
- が項演算子でが項ならばは項である.
- 上記以外は項ではない.
一階述語論理の論理式
- が項述語でが項ならばは論理式である.
- が項真理函数でが論理式ならばは論理式である.
- が変項でが論理式ならばは論理式である.
- 上記以外は論理式ではない.
のことはと書きます. についても同様です.
はを意味します.
結合の強さはの順です. したがって, はを意味します.
論理式に対し, の自由変項の集合をと表す. また, 変項, 項に対し, 「に自由変項として現れるをすべてに置き換えたもの」をと書く.
自由変項とは, などによって束縛されていないということです.
のちゃんとした定義については[1]などを参照してください.
論理式に対し, とが(文字列として)等しいことをと書く.
このはの記号ではなく, メタ数学の記号です. したがって, は論理式ではありません. 後に出てくるなども同様です.
また, においての有無は無視することがあります.
HMの公理
を任意の論理式, を任意の変項, を任意の項とする.
正確にはこれらは公理ではなく公理図式です. などに具体的な論理式を代入したものが公理となります.
HMの推論規則
ただし, はおよび演繹の前提に自由変項として現れない.
とし, はにを公理として加えたもの, はにを公理として加えたものと定める.
演繹, 証明
を(0個以上の)論理式の列とする.
におけるからへの演繹とは, 有限個の論理式からなる列であって, をみたし, 任意のに対して以下のいずれかが成り立つものである.
- はの公理である.
- はに含まれる.
- 未満の整数が存在し, はから推論規則によって導かれる.
- 未満の整数が存在し, はから推論規則によって導かれる.
をこの演繹における前提という. また, が空列のときの演繹を証明という. におけるの証明が存在するとき, をの定理とよぶ.についても同様に定める. においてからへの演繹が存在することをと書く. についても同様に定める.
演繹定理
における証明において欠かせない演繹定理について解説します.
演繹定理
任意の論理式列, 論理式について以下が成り立つ.
また, についても同様のことが成り立つ.
の証明
からへの演繹が ()であるとする. このとき,
はからへの演繹である.
の証明
はじめに証明の概略を述べる.
がからへの演繹であるとする. このとき, に適切に論理式を補充したものがからへの演繹である.
まず, を示す. 以下が証明である.が演繹の条件のうちどれをみたしているかで場合分けする.- がの公理であるとき
以下のようにとの間に論理式を追加する.
- がに含まれているとき
- がであるとき
- 未満の整数が存在し, がから推論規則によって導かれているとき
であるとして一般性を失わない.
- 未満の整数が存在し, がから推論規則によって導かれているとき
とおく.
以上より, 演繹定理が示された. についても同様に証明できる.をの定理とする.
任意の論理式列, 論理式について以下が成り立つ.
は自明. を示す.
演繹定理よりであり, からへの演繹を, の証明をとしたとき, がからへの演繹である.
定理は公理のように用いても問題ないということです. この事実は以後断りなく用います.
証明の準備
Glivenkoの定理の証明に必要となる定理を証明します. 知っている方は流し読みしてください.
証明
を示せばよい.
証明
を示せばよい.
証明
証明
を示せばよい.
証明
を示せばよい.
証明
を示せばよい.
証明
を示せばよい.
を示せばよい.
証明
を示せばよい.
証明
証明
を示せばよい.
Glivenkoの定理の証明
HMの公理 (再掲)
を任意の論理式, を任意の変項, を任意の項とする.
HMの推論規則 (再掲)
ただし, はおよび演繹の前提に自由変項として現れない.
HJ,HKの公理 (再掲)
とし, はにを公理として加えたもの, はにを公理として加えたものと定める.
黒田否定変換
項述語, 項に対してと定める.
論理式に対し, を以下のように帰納的に定める.
また, 論理式列に対し, と定める.
Glivenkoの定理を証明します.
まず, が空列の場合に示せば十分であることを確認します.
証明
定理7 および定理9 を用いる.
とすると, 演繹定理から
および
となる.
はじめに, を示します.論理式に対し, を以下のように帰納的に定める.
- 項述語, 項に対し, .
- 項真理函数, 論理式に対し, . ただし, 零項真理函数に対して
- 論理式, 変項に対し, , .
(補題13)
による帰納法で示す.
のとき, またはであり, どちらの場合でもであるため補題は成立する.
として, のときに補題が成立しているとする. のときに補題が成立することを示す.
- であるとき
証明
まずを示す.
演繹定理よりである.
についても同様である.
- であるとき
証明
したがってである.
についても同様である.
- であるとき
証明
まずを示す.
演繹定理よりである.
についても同様である.
- であるとき
証明
まずを示す.
演繹定理よりである.
次にを示す.
演繹定理よりである.
- であるとき
証明
したがってである.
についても同様である.
()
と仮定する. このとき, である.
したがって, である.
つづいて, を示します.
証明の概略は, 上で述べた演繹定理の証明と同じです.
がにおけるの証明であるとする. このとき, に適切に論理式を補充したものがにおけるの証明である.
定理2 を思い出します.
定理10 を思い出します.
つづいて, 定理7 を思い出します.
以下はの定理である.
ただし, はおよび演繹の前提に自由変項として現れない.
演繹定理よりを示せばよい.
演繹定理よりを示せばよい.
これでGlivenkoの定理の証明の準備が整ったので証明をします.
()
がにおけるの証明であるとする.
が演繹の条件のうちどれをみたしているかで場合分けする.
- がの公理であるとき
命題14,15より, はの定理である.
- 未満の整数が存在し, がから推論規則によって導かれているとき
であるとして一般性を失わない. 以下のようにとの間に論理式を追加する.
- 未満の整数が存在し, がから推論規則によって導かれているとき
とおく.
以上より, Glivenkoの定理が示された.