1

スライス圏について

43
0

定義と忘却関手

Cの対象aC上のスライス圏C/aとは,次のようなデータを持つ圏のことである:
[対象] はコドメインがaであるようなCの射f:xaである.
[射] α:fgf,gのドメインx,yの間の射α:xyであって,f=gαをみたすものである.
xαfyga
[射の合成] はCにおける射の合成である.

この記事では,スライス圏のベースとなる対象をa,b,...で,スライス圏の対象をf:xa,g:yb,...で,スライス圏の射をα,β,...で,ベースの間の(Cの)射をφ:ab,...で(なるべく)表す.

Cが終対象1を持つとき,1上のスライス圏C/1Cと圏同型である.

aCに対し,標準的な忘却関手U=Ua:C/aCが次のように定まる:
[on objects] (f:xa)C/aに対し,Uf=xである.
[on arrows] C/aの射α:fgに対し,Uααが表すCの射UfUgである.

xCについて,Uからxへの普遍射Gx,εxが存在する条件を考える.それは,GxC/a, εx:UGxxであって,次の普遍性をみたす; 任意のfC/aと任意のCの射h:Ufxに対し,C/aの射α:fGxが一意に存在して,
fαGxUfUαhUGxεxx
を可換にする.fC/aCの射h:Ufxを与えることは,CのスパンafUfhxを与えることを意味する.またC/aの射α:fGxとは,下図の左の三角形を可換にするCの射のとこである.
UfUαfhUGxGxεxax
従って上述の普遍性はまさに積の普遍性である.よって随伴の一般論から次定理の前半部分を得る.

aCについて,次は同値である.
(イ) 忘却関手U:C/aCの右随伴が存在する.
(ロ) 任意のxCaとの積が存在する.
さらにこれらの同値な条件をみたすとき,Uは厳密余モナディックである.

余モナドT=UG=a×\mathchar:CCのアイレンベルグ・ムーア圏CTは次のようなデータを持つ圏である.
[対象] x,fxCと射f:xa×xであって,idx=(xfx×ax)をみたすものの組である.積への射は成分ごとに決まるので,これは射fa:xaを与えることと等価である.またこのときf=(idxfa)(ペアリング)である.
[射] x,fy,gは,Cの射φ:xyであって,下図を可換にするものである.
xφfyga×xa×φa×y
これはfa=gaφと同値である.
比較関手KT:C/aCTfUf,(idf)で与えられ,明らかに圏同型である.

定理1の同値な条件をみたすとき,a積許容であるという(この記事だけの用語です).

aCが積許容であるとき,忘却関手Uは余極限を保存・創出する.

Uは左随伴であるから余極限を保つ.また余モナディック関手の一般論からUは余極限を創出する.

とくに,aが積許容であるとき,C/aの射α:fgについて,αC/aにおいてエピであることと,これを表すCの射Uα:UfUgCにおいてエピであることは同値である.

依存和と基底変換

Cの射φ:abに対し,後からの合成によりスライス圏の間の関手
φ:=φ\mathchar:C/aC/b
が定まる.これをφに沿った依存和(dependent sum)という.

Cが終対象1を持つとき,同型C/1Cのもと,唯一の射a1に沿った依存和は忘却関手Uに一致する.

前節と同様の考察により,φから(g:yb)C/bへの普遍射φ[g],εgとは,引き戻し
a×byεgφ[g]ygaφb
のことであるとわかる.よって次の定理を得る.

Cの射φ:abについて,次は同値である:
(イ) φに沿った依存和φ:C/aC/bは右随伴を持つ.
(ロ) Cにおいて,φに沿った任意の射の引き戻しを持つ.

定理2の同値な条件をみたすとき,φの右随伴を
φ:C/bC/a
で表し,基底変換(関手)(base change functor)という.

a,bCが積許容であり,φ:abに沿った任意の射の引き戻しが存在するとする.このとき以下は同値である:
(イ) 基底変換φは忠実である.
(ロ) φのすべての引き戻しはエピである.
(ハ) φはエピを反映する.

系1(の下で述べたこと)により,C/a,C/bにおけるエピとCにおけるエピは同値であるから,以下ではこれらを区別しない.
[(イ)(ロ)] 随伴の一般論により,φが忠実であることと,余単位の各成分εgがエピであることとは同値である.
[(ロ)(ハ)] 任意の(f:xb),(g:yb)C/bおよびαC/b(f,g)をとる.引き戻し
a×bxεfφ[α]φ[f]xαfa×byεgφ[g]ygaφb
において,εgがエピであるから,φ[α]がエピであればαもエピである.
[(ハ)(ロ)] (g:yb)C/bに対し,εgの核対を考える.
Eq(εg)φ[εg]a×byεga×byεgφ[g]ygaφb
一般に核対は分裂エピであるから,φ[εg]はエピであり,このとき仮定(ハ)によりεgはエピである.

aφidbidaφb
が引き戻しであるから,φが忠実であれば,上命題(ロ)によりφ自身もエピである.

投稿日:11日前
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

dnbkssk
7
1426

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. 定義と忘却関手
  2. 依存和と基底変換