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斎藤線型の命題[3.10]の証明について

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線型代数の復習で気づいたこと守備録です。
齋藤線型の命題[3.10]は一次方程式系の理論を用いずに線型空間の次元の一意性を示す重要な命題ですが、証明がやや言葉足らずでなにをやっているのかわからなくなったことがあるので、自分なりに加筆します。
齋藤線型の命題[3.10] 齋藤線型の命題[3.10]

定義だけおさらいしておきます。

極大線型独立系

$V$を線型空間とする. $V$の任意の部分集合$S$の有限個のベクトル$\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,\cdots, \boldsymbol{e}_n$が次の条件

  1. $\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,\cdots, \boldsymbol{e}_n$は線形独立である.
  2. $S$の任意のベクトルは$\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,\cdots, \boldsymbol{e}_n$の線型結合で書ける.

を満たすとき,$\{\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,\cdots, \boldsymbol{e}_n\} $$S$極大線型独立系であると言う.

それでは本題に移ります。

齋藤線型の命題[3.10]

$V$を線型空間とする. $V$の有限部分集合$S$$n$個の元から成る極大線型独立系を持つならば,$n$個より多くの$S$のベクトルは線形従属である. とくに,$S$の任意の極大線型独立系は$n$個のベクトルより成る.

$S$$n$個の元から成る極大線型独立系を持つとし,$S$$m$個の元から成る部分集合$F$$F = \{\boldsymbol{f}_1,\boldsymbol{f}_2,\cdots, \boldsymbol{f}_m\}$と置く.
このとき,定理の主張の対偶
$\boldsymbol{f}_1,\boldsymbol{f}_2,\cdots, \boldsymbol{f}_m$が線型独立 $\Longrightarrow$ $n \geq m$$\cdots \, (\ast)$
を示せばよい.
とくに,$F$$S$の極大線型独立系であったとすれば,上の主張により$n \geq m$$n \leq m$を得,$m = n$となり,$S$の任意の極大線型独立系は$n$個のベクトルより成ることもわかる.

$k = |S|$と置き,$k$に関する帰納法で証明する.
まず$k = 1$のときはよい.
$k > 1$とし,$k-1$に対しては$(\ast)$が成り立つと仮定して$|S| = k$のときを考える。
$E = \{\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,\cdots, \boldsymbol{e}_n\}$$S$の極大線型独立系とし,$\boldsymbol{f}_1,\boldsymbol{f}_2,\cdots, \boldsymbol{f}_m$が線型独立であるとしよう.

もし$E \supseteq F$ならば$n \geq m$となる.
$E \nsupseteq F$ならば$F$の元で,$E$に含まれないものが存在する. このうち一つを$\boldsymbol{f}_m$とする.
$S' = S - \{\boldsymbol{f}_m\}$ とすると$|S'| = k-1$であり,極大線型独立系として$E$を持つ.
一方,$\boldsymbol{f}_1,\boldsymbol{f}_2,\cdots, \boldsymbol{f}_{m-1}$$S'$に含まれ,線型独立である.
帰納法の仮定によって,$n \geq m-1$となる.

$n = m-1$を仮定しよう.

このとき,$F' = \{\boldsymbol{f}_1,\boldsymbol{f}_2,\cdots, \boldsymbol{f}_{m-1}\}$$S'$の極大線型独立系となっている.
実際,$S'$$F'$を含む極大線型独立系$F''$を考えると,帰納法の仮定によって$S'$の任意の極大線型独立系は$n \, (=m-1)$個の元から成るので$|F''| = m-1$.
$F' \subseteq F''$であり,$|F'| = |F''|$が成り立つので$F'' = F'$となるからである.

したがって,$\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,\cdots, \boldsymbol{e}_n$$\boldsymbol{f}_1,\boldsymbol{f}_2,\cdots, \boldsymbol{f}_{m-1}$の線型結合で書ける.
一方,$\boldsymbol{f}_m$$\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,\cdots, \boldsymbol{e}_n$の線型結合で書けるから,結局$\boldsymbol{f}_m$$\boldsymbol{f}_1,\boldsymbol{f}_2,\cdots, \boldsymbol{f}_{m-1}$の線型結合となり,
これらの線型独立性に反する.したがって$n > m-1$つまり$n \geq m$でなければならない.

以上によって,$(\ast)$の証明が終わった.

$Q.E.D.$

結構くどく書きました。帰納法を用いた証明では何が仮定されているのか途中でわかりづらくなりがちです。

今回の命題から、(有限次元)線形空間の次元の一意性が直ちに言えます。

読んでくれてありがとう。
今回はこのへんで。

投稿日:67
更新日:614
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