少し前に, 力学系のゼミで例として連分数を扱いました. 準備のために細かい証明をしたにも関わらず, 発表の時にはあまり本質的でないと思い, 細かい部分は飛ばす判断をしました.
準備したのに結局使わないのは悲しいので, Mathlog に落としておこうと思います.
殴り書きしたため, 最悪に読みづらいです. すみません.
$\mathbb{N} = \{n \in \mathbb{Z} \mid n > 0\}$ とします.
$f: X \to X$に対して$f^n$で$f$の$n$回合成を表すことにします. また, $n = 0$のときは$\mathrm{id}_X$を表すものとします.
次のような分数表示を有限連分数という.
$$
[a_1, a_2, \ldots, a_n] := \frac{1}{a_1 + \frac{1}{a_2 + \cdots \frac{1}{a_n}}}
$$
ただし$a_i \in \mathbb{N}$
また, 無限列$[a_1, a_2, \ldots]$を無限連分数という. もし$[a_1, \ldots, a_n]$ が $n \to \infty$ で収束先をもつなら, その値を無限連分数の値として定義する.
実は全ての実数に対して連分数による表示が一意に存在します. この記事ではこの証明と構成を目標にします.
連分数を扱うにあたって, 非常に親和性の高い写像を紹介します.
写像$\varphi:[0, 1] \to[0, 1]$を
$$
\varphi(x) =
\left\{
\begin{aligned}
&\frac{1}{x} - \left[\frac{1}{x}\right], &\quad (x \neq 0) \\
&0, &\quad (x = 0)
\end{aligned}
\right.
$$
で定める. (ガウス変換)
ただし, $[x]$は$x$以下の最大の整数である.
さて, この定義を少し変形すると, 次のようになります.
$$
x = \frac{1}{\left[\frac{1}{x}\right] + \varphi(x)}
$$
$\varphi(x)$にもう一度同じことを繰り返すことを考えれば, ただちに次の等式がわかります. $\varphi^{n-1}(x) \neq 0$である限り,
$$
x = \frac{1}{a_1 + \displaystyle\frac{1}{a_2 + \cdots + \frac{1}{a_n + \varphi^n(x)}}}
$$
(ただし, $a_i = \left[\frac{1}{\varphi^{i-1}(x)}\right]$)
すると, 途中で$\varphi^n(x) = 0$となるような$x$は有限連分数表示を持つということがわかります. 実はこれを完全に判定することができます.
$x \in [0, 1]$が有理数 $\iff$ $\exists m > 0, \varphi^m(x) = 0$
多少省略して書く.
$m = rn + k$ としたとき($m, n, r, k$は自然数, $k < n$)
$\varphi\left(\frac{n}{m}\right) = \frac{k}{n}$
である. したがって$x$が有理数ならある$n, m$で$\varphi^n(x) = \frac{1}{m}$となるが, $\varphi\left(\frac{1}{m}\right) = 0$のため$\Rightarrow$が示された. $\Leftarrow$は$x$が有限連分数表示を持つことから明らか.
これはつまり, 次を意味します.
$x \in [0, 1]$が有限連分数表示を持つ $\iff$ $x$は有理数.
$\Rightarrow$は明らか. $\Leftarrow$は補題1による.
また, この表示は一意です. この証明は, 次の無限連分数の時の証明と多分同じなので省きます.
雰囲気的に, 無理数は無限連分数で一意に表せそうですね. 実際にそうなります.
$[0, 1]$内の無理数と, 無限連分数は1対1対応を持つ.
つまり, 無限連分数は常に値を持ち, 無理数の無限連分数表示が一意に存在する.
証明は本質的ではないです. 本質的で意味ありげな証明方法をご存じの方は是非ご紹介をお願いします. 以下枠線内は定理3の証明です.
自然数の無限列$(a_i)$を任意にとる. この時, $[0, 1]$上の関数$f_{a, n}$
$$
f_{a, n} (y) := \frac{1}{a_1 + \displaystyle\frac{1}{a_2 + \cdots + \frac{1}{a_n + y}}}
$$
とすると, $f_{a, n}$は連続であり, 閉区間を閉区間に移す. $f_{a, n}$による閉区間$J$の像を$I_{a, n}(J)$で表す. このとき, $[a_1, \ldots, a_n] \in I_{a, n_0}([0, 1])$である. 次に示す補題4により, $|I_{a, n}([0, 1])| \to 0$ as $n \to \infty$ であり, $([a_1, \ldots, a_n])_{n \in \mathbb{N}}$ は Cauchy 列となるので, 収束先を持つ. ただし, 区間$J=[a, b]$に対して$|J|$は区間の長さ$b- a$を表す.
任意の$a \in \mathbb{N}^\mathbb{N}$ に対して, $|I_{a, n}([0, 1])| \to 0$ as $n \to \infty$
まず, $J_0 = [s, t], J_1 = [\frac{1}{a_n + t}, \frac{1}{a_n + s}]$とすると, $I_{a, n}(J_0) = I_{a, n-1}(J_1)$となる. 同じようにして, 区間の列を$J_0, \ldots, J_n$を
$$
I_n(J_0) = I_{n-1}(J_1) = \cdots = |J_n|
$$
となるように定める.
ここで, 例えば
$$
|J_1| = \frac{t - s}{(a_n + s)(a_n + t)}
\leq \frac{t - s}{a_n(a_n + (t - s))}
= \frac{|J_0|}{a_n^2 + a_n|J_0|}
\leq \frac{|J_0|}{1 + |J_0|}
$$
であるが,
$$
b_{n+1} = \frac{b_n}{1 + b_n}
$$
は
$$
b_n = \frac{b_0}{1 + nb_0}
$$
となるので,
$$
|J_n| \leq \frac{|J_0|}{1 + n|J_0|}
$$
である. したがって, $|I_n([0, 1])| \leq \frac{1}{1 + n} \to 0$
$x \in [0, 1]$を無理数としたとき, $a_n := \displaystyle\left[\frac{1}{\varphi^{n-1}(x)}\right]$とする. このとき, $\varphi^n(x) \in [0, 1]$のため, 任意の$n \in \mathbb{N}$で$x \in I_{a, n}([0, 1])$となる. また, 当然無限連分数も$[a_1, a_2, \ldots, ] \in I_{a, n}([0, 1])$である. ゆえに,
$$
x, [a_1, a_2, \ldots] \in \bigcap_{n \in \mathbb{N}} I_{a, n}([0, 1])
$$
であるが, この集合は距離が0より大きい2点を含まないため, この2点の距離は0であり, つまり
$$
x = [a_1, a_2, \ldots]
$$
異なる無限連分数が異なる値を持つことを示せばよい. まず, $f_{a, n}$は単射なので(単射$z \mapsto \frac{1}{a_i + z}$を$n$回合成していることに注目すれば簡単である), 任意の閉区間$J, J'$について, $J \cap J = \emptyset$ならば, $I_{a, n}(J) \cap I_{a, n}(J') = \emptyset$である.
ここで, 2つの異なる無限連分数$x = [a_1, a_2, \ldots], y = [b_1, b_2, \ldots, ]$をとる. すなわち, あるkがあり, $a_k \neq b_k$となる. このような最小の$k$を$m$としておく. ここで, $a_m, b_m$の差は1以上であるため, 任意の$d \in (0, 1)$に対して$I_{a, m}([0, d]) \cap I_{b, m}([0, d]) = \emptyset$ となる. ここで, その$d$として$[a_{m+1}, a_{m+2}, \ldots]$と$[b_{m+1}, b_{m+2}, \ldots]$のうち大きい方の値を選ぶと,
$x \in I_{a, m}([0, d]), \ y \in I_{b, m}([0, d])$である. しかしこの2つの集合は交わりをもたないので, $x \neq y$である
まず今回の結果は次のように言えます.
$\mathcal{S}$を有限または無限自然数列全体の集合
$$
\mathcal{S} := \coprod_{\omega \in \mathbb{N} \cup \{\mathbb{N}\}} \mathbb{N}^\omega
$$
とします.
次を満たす全単射$h: \mathcal{S} \to \mathbb{R}$ が存在する.
任意の$a \in \mathcal{S}$に対して,
$$
h(a) = [a]
$$
せっかくなので, 少しだけ力学系的な意味に触れます.
$\mathcal{S}$上のシフト作用素$E$, すなわち$(Ea)_n = a_{n+1}$を満たす$E: \mathcal{S} \to \mathcal{S}$と, $\varphi$は$h$により共役である. すなわち
$$
\varphi \circ h = h \circ E
$$
さて, シフト作用素というものは, 挙動が完全にわかっているものと考えてもよいでしょう. 力学系において共役というのは, 実質的に同じ写像という意味です. つまり, この一見謎な写像$\varphi$というものは, 連分数表示によって完全に理解されたのです.