本記事の前提知識
基本的な合同式が使えたら十分である.より具体的には,
この記事
の問題1,2がある程度解ければ十分である.
連立合同式を解く
簡単な問題から始めよう.
で割ると余り,で割ると余る,以下の正整数を答えよ.
この程度の問題であれば,小学年生のレベルかもしれない.で割ると余る数を書きだしていけばであり,このうちで割ると余る数はのみである.よって答えはだ.
しかし,これが解けたからといって,次の問題が解けるとは限らない.
で割ると余り,で割ると余る,以下の正整数を答えよ.
このように,数値がある程度大きくなっても解けるだろうか.当然だが,問題1のようにで割って余る数をと書きだすような方法は論外である.
この問題を解く方法はいくつかある.例えばEuclidの互除法を用いる方法や,百五減算のような方法がよく知られているが,ここでは合同式を使う方法を紹介したい.少しコツはいるが,慣れてしまえば一番早い方法だろう.
問題2の解説
とおける.ここでを法とする合同式を考えよう.
まず与式は次のように書かれる.
この式はと変形される.
ここから最終的にはという式を得たい.そこで,左辺のの係数を割れるように,右辺にの倍数を足したり引いたりする.
ここからの途中計算は人によって変わるだろう.単純な例としてとすれば両辺をで割ることができて,という式を得る.あるいはだと気づけば,一気にで割ることもできる.
いきなり答えが出ては解説としてはつまらないのでから続けよう.次は右辺をで割り切れる数にしたいのでとするのがよいだろう.こうすればを得るので,だとわかる.
(確認問題)最初にを取った場合,同じ結論になることを確かめよ.
確認問題の答え
最初の式はである.の係数(の絶対値)は小さいほどよいのでとするのが良いだろう.
このあとは→→とするのが自然だろう.
あるいは最初から→とすればもっと早い.
なお係数は大きな素因数を持たないので非常に扱いやすいが,この値があまりよくない場合にはから始める方がよい場合もある.これから始めると,例えば次のような変形が考え得る.
→→→
練習問題
次の条件を満たす最小の正整数を答えよ.
(1) で割ると余り,で割ると余る
(2) で割ると余り,で割ると余る
(3) で割ると余り,で割ると余る
(4) で割ると余り,で割ると余る
(1)の答え
に対して,で合同式を考える.
よって.
(2)の答え
で合同式を考える.
よって.
(3)の答え
で合同式を考える.(注:を取ると,両辺をで割ることができない.なるべく約数の少ないものを法とする方が無難である.)
(もちろんからスタートしてもよい.すぐにとなるので,これでも簡単である.)
よって.
(4)の答え
最初の式はである.両辺をで割ってとしよう.
で合同式を考えると,すぐにを得る.
よって.
次は,もう少し難しい(というか面倒な)連立合同式である.
練習問題
次の条件を満たす最小の正整数を答えよ.
(1) で割ると余り,で割ると余り,で割ると余る
(2) で割ると余り,で割ると余り,で割ると余り,で割ると余る.
(2)は工夫するとそこまで面倒ではないので,考えてみてほしい.
(1)の答え
まずはを使おう.(が共通の約数を持つので,先にこちらの条件を使ったほうが数が小さくなる.)
で考えてを得るのでとなる整数が存在する.
次にを解いていけばよい.で考えてを得る.
(2)の答え
を変形してである.つまりと置くことで,つの条件を使い切ったことになる.
あとは,を解けばよい.で考えてを得る.
OMCの例題
OMC095(D)
中国剰余定理
中国剰余定理
個の整数が,どのつも互いに素であるとき,連立合同式
を満たす整数が,を法として一意に存在する.
証明は省略する.
この定理は,要するにつのことを言っている.第一にの部分が全て互いに素なら必ず解を持つこと.第二に,そのような解はを法として唯一であること(もう少しわかりやすい表現にすれば, 以下の正整数の中でただ一つである).
の部分が全て互いに素でない場合はどうなるのか?を疑問に持った方は,
高校数学の美しい物語
を参照してほしい.
次に,この定理に関する注意点を書いておく.
中国剰余定理は,解の「存在」を保証してくれるものである.その値を「求める」ことについては,何も言及していない.連立合同式を解いて「中国剰余定理よりが解である」などと書いている答案などをたまに見るが,これは正確ではない.
また,面倒なことを書くが,インターネット上のいくつかのホームページを見ても,あるいは数学の参考書等を見ても,中国剰余定理の練習問題として連立合同式を挙げていることがあるが,これも(厳密には)正確ではない.もちろんそれらの筆者が混同しているわけではなく,中国剰余定理の具体例を練習問題という名称で出題しているに過ぎないのだろう.しかしそれらの読者の中には,それが中国剰余定理を「用いた」例題であると誤解して,先に挙げたような答案を書くのだと思われる.
さらに混乱させかねないことを書くが,「中国剰余定理よりが解である」という表現は必ず誤りかと言うと,そういうわけでもない.例えば次の答案を見よ.
問:で割ると余り,で割ると余り,で割ると余り,で割ると余る,以下の正整数を全て答えよ.
答:は明らかに条件を満たす.中国剰余定理よりのみが解である.すなわち,条件を満たす数はの形で表され,答えは.
この例のように,解の唯一性を保証する意味で「中国剰余定理」を使うのは正しい表記である.なお,この例で「のみ」の部分を省略しても解答として悪くはない.つまり,「中国剰余定理よりが解である」という表現が直ちに誤りであるというわけでもない.
以上,面倒な注であるとは思うが,中国剰余定理の意味を正確に覚えておいてほしいと思う.
もう一つ,この定理に関する注意点である.中国剰余定理は,英語で Chinese remainder theorem と書かれるため,CRT と省略されることがしばしばある(日本語の文献でもしばしばこのように省略される).この表記を自分で使える必要はないが,整数論の分野でCRTと見かけたら Chinese ナントカ theorem だったな→中国剰余定理だな,と思い出せるようにしておこう.
最後に,中国剰余定理を用いる例題である.
整数を正整数で割った余りをで表す.例えばである.このとき,次の値を求めよ.
解答
であり,である.
中国剰余定理より,を満たす任意のに対して,の解がの中にただ一つ存在する.よって,
オイラーの関数
(やや難)
以下でと互いに素な正整数の個数をで表す(これは一般的な記法である).
を素因数分解するとと表されるとき(ただし),
解答
次の連立合同式の解がを法としていくつあるかという問いである.
中国剰余定理から,この連立合同式の解はを法として個存在する.よってを法とすると
個である.
OMCの例題
OMC072(F)
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