この記事では,環上の加群について定義される組成列の長さが組成列によらず一定であることを束論を用いて証明します(ただ,少し但し書きがつきます).
任意の$R$加群$M$について,$M$がアルティン加群かつネーター加群で長さが有限の組成列を持つなら組成列の長さは組成列によらず一定である.
$M$の部分加群全体の集合は包含関係による順序によって束をなす. $M_1,M_2 \subset M$ の結びは $M_1 + M_2$,交わりは $M_1 \cap M_2$ である.
ここで $M_1 \subset M_3$ のとき $M_1+(M_2 \cap M_3) = (M_1 + M_2) \cap M_3$ であるのでこの束はモジュラ束である.
高さ有限なモジュラ束においてはJordan-Dedekind チェイン条件が成り立つ,すなわち任意の区間について,その区間の極大チェインの長さは全て等しいことが知られているので,組成列の長さは$M$だけに依存する.
用語などは このPDF を参照しました.上の証明の本質部分である「高さ有限なモジュラ束においてはJordan-Dedekind チェイン条件が成り立つ」は命題1.31として紹介されています.束論の入門としておすすめです.
ネーター環における準素イデアル分解とかも,存在性は束論で示せます.
ネーター環,加群やアルティン環,加群の性質の良さというのは,そのイデアルあるいは部分加群と包含関係 $\subset,\supset$ のなす束の性質の良さなのでは,と最近思っています(初学者なので分かりませんが...).