この記事では,環上の加群について定義される組成列の長さが組成列によらず一定であることを束論を用いて証明します(ただ,少し但し書きがつきます追記:ギャップを埋め但し書きを取り除きました).
用語などは
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[1]を参照しています.
以降 $\bot$ で束の最小元を,$\top$ で最大元を表す.また「 $x< y$ 」かつ「 $x< z< y$ なる $z \neq x,y$ が存在しない」とき $x<:y$ と書く.
$M$の部分加群全体の集合は包含関係による順序によって束をなす. $M_1,M_2 \subset M$ の結び $\lor$ は $M_1 + M_2$,交わり $\land$ は $M_1 \cap M_2$ である.
ここで $M_1 \subset M_3$ のとき $M_1+(M_2 \cap M_3) = (M_1 + M_2) \cap M_3$ であるのでこの束はモジュラ束である.
この束を $L(M)$ と書くことにする.
任意の$R$加群$M$について,$M$が長さが有限の組成列を持つなら $L(M)$ の高さは有限である.
モジュラ束 $L$ が長さ $n$ の極大鎖 $x_0 = \top <:x_1 <: \cdots <: x_{n-1} < x_n = \top$ を持っていたとする.$L = [\bot, \top] = [x_0, \top]$ の高さが無限だと仮定する.
$[x_{n-1},\top]$ は明らかに高さが有限である.よって,$[x_{i'},\top]$ が高さ無限であるような $0\leq i' < n-1$ のうち最大のもの $i$ が取れる.このとき $[x_{i+1},\top]$ は高さ有限なモジュラ束なので,Jordan-Dedekind チェイン条件が成り立つ.$[x_i,\top]$ の高さが有限でないことから,$[x_i,\top]$ の長さが $2n - 2i$ の鎖 $y_0 = x_i < y_1 < \cdots < y_{2n - 2i} = \top$ をとることができる.$y_{n - i} \geq x_{i + 1}$ と仮定すると $y_{n - i} < y_{n - i + 1} \cdots < y_{2n - 2i} = \top$ が $[x_{i + 1},\top]$ の長さ $n - i$ の鎖となってしまい矛盾.よって $y_{n - i} \not \geq x_{i + 1}$ より $x_{i + 1} \land y_{n - i} = x_i$,よって任意の $0 \leq j \leq n - i$ について $x_{i + 1} \land y_j = x_i$.$x_{i+1} \lor y_j (0 \leq j \leq n - i)$ を考えると,これは$[x_{i + 1},\top]$ の鎖となるので,特に長さは $n - i - 1$ 以下.よってある $0 \leq k< l \leq n -i$ が存在し $x_{i + 1} \lor y_k = x_{i + 1} \lor y_l$ となる.$y_0 = x_i <: x_{i+1}$ より,$x_{i + 1} \lor y_j = x_{i + 1}$ となる $j$ は $0$ のみである.よって,$x_{i + 1} \lor y_k = x_{i + 1} \lor y_l > x_{i + 1}$ であるので,$L' = \{ x_i, x_{i + 1}, y_k, y_l, x_{i + 1} \lor y_k = x_{i + 1} \lor y_l \}$ とすればこれは $N_5$ という束に同型な $L$ の部分束となる.これは $L$ がモジュラ束であることに矛盾.よって示された.
任意の$R$加群$M$について,$M$が長さが有限の組成列を持つなら組成列の長さは組成列によらず一定である.
補題2よりこのとき $L(M)$ は高さ有限のモジュラ束である.
高さ有限なモジュラ束においてはJordan-Dedekind チェイン条件が成り立つので,組成列の長さは$M$だけに依存する.
証明の本質部分である「高さ有限なモジュラ束においてはJordan-Dedekind チェイン条件が成り立つ」は[1]内で命題1.31として紹介されている.
ネーター環における準素イデアル分解とかも,存在性は束論で示せます. ← 嘘かもです. ← 超限帰納法みたいなノリで自然に示せるものなので,これを束論と言い張るのは無理がありそう.
ネーター環,加群やアルティン環,加群の性質の良さというのは,そのイデアルあるいは部分加群と包含関係 $\subset,\supset$ のなす束の性質の良さなのでは,と最近思っています(初学者なので分かりませんが...).
追記:代数体の整数環で素因数分解ではなく素イデアル分解がうまくいくのは,$a \leq b \Leftrightarrow b \mid a$(つまり整除関係による半順序)と $I \leq J \Leftrightarrow I \subset J$(つまり包含関係による半順序)を比べたとき,後者は最低でもモジュラ束になることが確定しているからなのかな,ということを思いました.