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雑記:級数の収束

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{Aut}[0]{\operatorname{Aut}} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{c}[0]{\cdot} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[4]{{}_2F_1\left(\begin{matrix}#1,#2\\#3\end{matrix};#4\right)} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{FF}[6]{{}_3F_2\left(\begin{matrix}#1,#2,#3\\#4,#5\end{matrix};#6\right)} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{La}[0]{\Lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{M}[4]{\begin{pmatrix}#1& #2\\#3& #4\end{pmatrix}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{O}[0]{\Omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では級数の収束と発散に関する基本事項についてまとめていきます。
 なお本当に基本的なことしか解説しないので、種々の収束判定法などについてはこの記事では特に紹介しません。

コーシー列

 級数の収束性を議論するにあたって、まず極限というものの基本性質、特にコーシー列という概念について触れておく必要があります。

コーシー列

 任意の$\e>0$に対しある$N$が存在して、$m,n>N$ならば
$$|a_m-a_n|<\e$$
が成り立つ。を満たすような数列$a_n$コーシー列という。

 この条件は往々にして
$$|a_m-a_n|\to0\quad(m,n\to\infty)$$
のように表すことがあります。
 実数は有理数からなるコーシー列に対しその収束先を適当に構成したものとして定義され(ることがあり)ます(そのことについては特に解説しません)。したがって以下の命題が成り立ちます。

 数列$a_n$がコーシー列であることと極限
$$\lim_{n\to\infty}a_n$$
を持つことは同値である。

 $a_n$が収束先$\a$を持つとき
$$|a_m-a_n|\leq|a_m-\a|+|\a-a_n|\to0\quad(m,n\to\infty)$$
が成り立つので$a_n$はコーシー列となる。
 またコーシー列が収束列であることは実数の定義に他ならない。

 特に以下の系が得られます。

 級数$\sum^\infty_{n=0}a_n$が収束することと
$$\l|\sum^n_{k=m}a_k\r|\to0\quad(m,n\to\infty)$$
が成り立つことは同値である。

 級数の収束性を議論するにあたって十分大きい任意の$m< n$に対して
$$\sum^n_{k=m}a_k$$
を不等式評価していくことが重要となってきます。

絶対収束

 級数の収束性について確認するのに一番簡単な方法として絶対収束性を確かめるということがあります。

絶対収束

 級数$\sum^\infty_{n=0}a_n$絶対収束するとは級数
$$\sum^\infty_{n=0}|a_n|$$
が収束することを言う。

 絶対収束する級数は収束する。

 級数$\sum^\infty_{n=0}a_n$が絶対収束するとき
$$\l|\sum^n_{k=m}a_k\r|\leq\sum^n_{k=m}|a_k|\to0\quad(m,n\to\infty)$$
とコーシー性がわかる。

 $\sum^\infty_{n=0}|a_n|$のように各項が正となるような級数のことを正項級数と言います。正項級数を考える利点として実数の持つ以下の性質が利用できることが挙げられます。

単調収束定理

 単調増加、つまり
$$a_0\leq a_1\leq\cdots\leq a_n\leq\cdots$$
を満たすような数列$a_n$が有界である、つまりある$C>0$に対して
$$|a_n|\leq C$$
が成り立つとき、$a_n$は収束列となる。

 いま正項級数の部分列は単調増加なので以下が成り立つことになります。

 ある$C>0$が存在して任意の$n$に対し
$$\sum^n_{k=0}|a_k|< C$$
が成り立つとき、級数$\sum^\infty_{n=0}a_n$は(絶対)収束する。

 高校数学の範囲では具体的な収束先の分からない級数の収束性を確かめるのは難しいものがあったと思いますが、(大抵の場合)これらの命題を使えば適当な定数で上から抑えるだけでその収束性を示すことができ、その点で非常に便利な事実となっています。

条件収束と再配列

 しかし級数の中には絶対収束しないが元の級数は収束するようなものが存在します。そのような級数のことを条件収束級数と言います。例えば
$$\sum^\infty_{n=1}\frac{(-1)^{n-1}}n,\quad\sum^\infty_{n=0}\frac{(-1)^n}{2n+1}$$
のような級数は$\log2$$\pi/4$という値に収束することが知られていますが、これらは絶対収束しません。実際例えば
$$\sum^\infty_{n=1}\frac1n>\int^\infty_1\frac{dx}x=[\log x]^\infty_1=\infty$$
と発散することがわかります。
 これらの級数を扱う上で気を付けなければならないのはその変形の仕方によっては収束先が変わってしまうことにあります。

リーマンの再配列定理

 実数列$a_n$について級数$\sum^\infty_{n=0}a_n$が条件収束するとき、任意の$r\in\R\cup\{\pm\infty\}$に対してある全単射$\s:\Z_{\geq0}\to\Z_{\geq0}$が存在して
$$\sum^\infty_{n=0}a_{\s(n)}=r$$
が成り立つ。

 逆に絶対収束級数はどのように並べ替えてもその収束先は変わりません。

 数列$a_n$について級数$\sum^\infty_{n=0}a_n$が絶対収束するとき、任意の全単射$\s:\Z_{\geq0}\to\Z_{\geq0}$に対して
$$\sum^\infty_{n=0}a_{\s(n)}=\sum^\infty_{n=0}a_n$$
が成り立つ。

 これらの証明については INTEGERSの記事 にてよく解説されているのでよければそちらを参照してください。
 しかし級数が絶対収束するからと言って好き勝手変形していいわけではなく、例えば
$$\sum^\infty_{n=1}\frac1{2n(2n-1)},\quad\sum^\infty_{n=0}\frac2{(4n+1)(4n+3)}$$
といった級数は絶対収束しますがこれらは
\begin{align} \sum^\infty_{n=1}\frac1{2n(2n-1)} &=\sum^\infty_{n=1}\l(\frac1{2n-1}-\frac1{2n}\r) =\sum^\infty_{n=1}\frac{(-1)^{n-1}}{n}\\ \sum^\infty_{n=0}\frac2{(4n+1)(4n+3)} &=\sum^\infty_{n=0}\l(\frac1{4n+1}-\frac1{4n+3}\r) =\sum^\infty_{n=0}\frac{(-1)^n}{2n+1} \end{align}
のように変形すると条件収束級数に成り代わってしまいます。逆にこの右辺から左辺に向かって考えると条件収束級数も時に絶対収束級数に書き直すこともできます。
 これらの操作は全単射$\s:\Z_{\geq0}\to\Z_{\geq0}$による並べ替えとは異なるタイプの変形となるのでその時々に応じてその正当性を確認しなければならないことに注意しましょう。

おまけ:部分和分

 ちなみに上のような変形は一般に部分和分と言い、級数を扱う上ではそれなりに重要な手法の一つとなっています。

部分和分

 数列$a_n,b_n$に対し$A_n=\sum^n_{k=0}a_k$とおくと
$$\sum^n_{k=0}a_kb_k=A_nb_n+\sum^{n-1}_{k=0}A_k(b_k-b_{k+1})$$
が成り立つ。

\begin{align} \sum^n_{k=0}a_kb_k &=\sum^n_{k=0}(A_k-A_{k-1})b_k\\ &=\sum^n_{k=0}A_kb_k-\sum^{n-1}_{k=0}A_kb_{k+1}\\ &=A_nb_n+\sum^{n-1}_{k=0}A_k(b_k-b_{k+1}) \end{align}
とわかる。

 いま$A_nb_n\to0$が成り立つような数列$a_n,b_n$に対しては
$$\sum^\infty_{n=0}a_nb_n=\sum^\infty_{n=0}A_n(b_n-b_{n+1})$$
という級数変換公式が得られることとなります。
 特にある種の級数はこのようにして必ず絶対収束級数に書き換えられることがわかります。

ディリクレの収束判定法

 $0$に収束する単調減少な正数列$b_n$と、ある$C>0$が存在して任意の$n$に対して$|A_n|< C$が成り立つような複素数列$a_n$に対して
$$\sum^\infty_{n=0}a_nb_n=\sum^\infty_{n=0}A_n(b_n-b_{n+1})$$
は収束し、特にこの右辺は絶対収束する。

$$|A_nb_n|\leq Cb_n\to0$$
に注意すると
\begin{align} \l|\sum^\infty_{n=0}a_nb_n\r| &=\l|\sum^\infty_{n=0}A_n(b_n-b_{n+1})\r|\\ &\leq C\lim_{N\to\infty}\sum^N_{n=0}(b_n-b_{n+1})&&(\because b_n-b_{n+1}\geq0)\\ &=C\lim_{N\to\infty}(b_0-b_{N+1})=Cb_0 \end{align}
と評価できることからわかる。

 例えば$a_n=(-1)^n$のときは
$$\sum^\infty_{n=0}(-1)^nb_n=\sum^\infty_{n=0}(b_{2n}-b_{2n+1})$$
と絶対収束級数に書き直せたというわけでした。

投稿日:120
更新日:120

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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