Legendre多項式は区間$(-1,1)$における直交性
\begin{align*}
\int_{-1}^1P_n(x)P_m(x)\,dx=\frac 2{2n+1}\delta_{n,m}
\end{align*}
を満たす. これを区間$(0,1)$にして考えると, $p_n(x)=P_n(2x-1)$として, 直交性
\begin{align*}
\int_0^1p_n(x)p_m(x)\,dx&=\frac 1{2n+1}\delta_{n,m}
\end{align*}
を得る. また, $\rho_n(x):=P_{2n}(\sqrt x)$とすると, 直交性は
\begin{align*}
\int_0^1\rho_n(x)\rho_m(x)\frac{dx}{\sqrt x}&=\frac 1{2n+\frac 12}\delta_{n,m}
\end{align*}
となる. これらは前の記事(
Legendre多項式の変数付きの拡張について
)で導入した$a$-Legendre多項式$\rho^{(a)}(x)$を用いることによって, $p_n(x)=\rho_n^{(1)}(x)$ $\rho_n(x)=\rho_n^{\left(\frac 12\right)}(x)$と同時に一般化することができる. この$q$類似を考えていきたい. まず, $(0,1)$区間における$q$積分が
\begin{align*}
\int_0^1f(x)\,d_qx:=\sum_{0\leq n}q^nf(q^n)
\end{align*}
によって定義される. $q^{\alpha}=a$として, 重み関数$x^{\alpha-1}\frac{(xq;q)_{\infty}}{(bx;q)_{\infty}}$で直交する多項式, つまり,
\begin{align*}
\int_0^1\rho_n^{(a,b)}(x;q)\rho_m^{(a,b)}(x;q)x^{\alpha-1}\frac{(xq;q)_{\infty}}{(bx;q)_{\infty}}\,d_qx&=C_n\delta_{n,m}
\end{align*}
を満たす多項式として$q$-(little)Jacobi多項式が
\begin{align*}
\rho_n^{(a,b)}(x;q)&=(-1)^n\frac{(a;q)_n}{(q;q)_n}\sum_{k=0}^n\frac{(q^{-n},abq^{n-1};q)_k}{(a,q;q)_k}(xq)^k
\end{align*}
によって定義でき, $C_n$は具体的に
\begin{align*}
C_n=\frac{(q^{n+1},abq^{n-1};q)_{\infty}}{(aq^n,bq^n;q)_{\infty}}\frac{a^n}{1-abq^{2n-1}}
\end{align*}
で与えられる. これを元に, $a$-Legendre多項式の$q$類似として, $(a,q)$-Legendre多項式を, $\rho_n^{(a)}(x;q):=\rho_n^{(a,q)}(x;q)$と定義することができる. その直交性は,
\begin{align*}
\int_0^1\rho_n^{(a)}(x;q)\rho_m^{(a)}(x;q) x^{\alpha -1}\,d_qx=\frac{a^n}{1-aq^{2n}}\delta_{n,m}
\end{align*}
となる.
$a$に関するBailey対とは, 関係式
\begin{align*}
b_n=\sum_{k=0}^n\frac{a_k}{(q;q)_{n-k}(aq;q)_{n+k}}
\end{align*}
を満たす数列の組$(a_n,b_n)$のことをいう. 以下略して$a$-Bailey対ということにする. $(a_n,b_n)$が$a$-Bailey対であることは,
\begin{align*}
a_n=(1-aq^{2n})\sum_{k=0}^n\frac{(aq;q)_{n+k-1}(-1)^{n-k}q^{\binom{n-k}2}}{(q;q)_{n-k}}b_k
\end{align*}
が成り立つことと同値であることが知られている. 先ほど導入した$(a,q)$-Legendre多項式は
\begin{align*}
\rho_n^{(a)}(x;q)&=(-1)^n\frac{(a;q)_n}{(q;q)_n}\sum_{k=0}^n\frac{(q^{-n},aq^{n};q)_k}{(a,q;q)_k}(xq)^k\\
&=(-1)^n\sum_{k=0}^n\frac{(a;q)_{n+k}}{(q;q)_{n-k}(a,q;q)_k}(-1)^kq^{\binom k2 -nk}(xq)^k\\
&=q^{-\binom n2}\sum_{k=0}^n\frac{(a;q)_{n+k}(-1)^{n-k}q^{\binom{n-k}2}}{(q;q)_{n-k}}\frac{x^k}{(a,q;q)_k}
\end{align*}
と書くことができるので,
\begin{align*}
a_n&:=\frac{1-aq^{2n}}{1-a}q^{\binom n2}\rho_n^{(a)}(x;q)\\
b_n&:=\frac{x^n}{(a,q;q)_n}
\end{align*}
とすると, $(a_n,b_n)$は$a$-Bailey対である. Bailey対に関しては, 以下の定理が知られている.
$(a_n,b_n)$が$a$-Bailey対のとき,
\begin{align*}
a_n'&:=\frac{(b,c;q)_n}{(aq/b,aq/c;q)_n}\left(\frac{aq}{bc}\right)^na_n\\
b_n'&:=\frac 1{(aq/b,aq/c;q)_n}\sum_{k=0}^n\frac{(b,c;q)_k(aq/bc;q)_{n-k}}{(q;q)_{n-k}}\left(\frac{aq}{bc}\right)^kb_k
\end{align*}
とすると, $(a_n',b_n')$は$a$-Bailey対である.
これを用いると, 一つのBailey対$(a_n,b_n)$から新たなBailey対$(a_n',b_n')$を得ることができ, $(a_n',b_n')$からさらに$(a_n'',b_n'')$を得ることができる. これを繰り返して得られるBailey対の無限系列をBailey鎖という. これを先ほどの,
\begin{align*}
a_n&:=\frac{1-aq^{2n}}{1-a}q^{\binom n2}\rho_n^{(a)}(x;q)\\
b_n&:=\frac{x^n}{(a,q;q)_n}
\end{align*}
に適用すると以下を得る.
$x$の多項式に対する線形作用素を
\begin{align*}
\phi \frac{x^n}{(a,q;q)_n}:=\frac 1{(aq/b,aq/c;q)_n}\sum_{k=0}^n\frac{(b,c;q)_k(aq/bc;q)_{n-k}}{(q;q)_{n-k}}\left(\frac{aq}{bc}\right)^k\frac{x^k}{(a,q;q)_k}
\end{align*}
とすると,
\begin{align*}
\phi\rho_n^{(a)}(x;q)=\frac{(b,c;q)_n}{(aq/b,aq/c;q)_n}\left(\frac{aq}{bc}\right)^n\rho_n^{(a)}(x;q)
\end{align*}
が成り立つ.
逆にこれを直接に示すことによって, Baileyの補題の証明を与えることもできる. Bailey対の一般化として, WP-Bailey対というものも知られており, それを直交多項式を用いて解釈できるかどうかについても考えてみたいと思う.