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大学数学基礎解説
文献あり

第一種完全楕円積分の関係式

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こんにちは。参考書に以下の関係式を示す問題があったので示していきます。

問題

\begin{equation} K(k)=\frac{1}{1+k}K\biggl(\frac{2\sqrt{k}}{1+k}\biggr)=\frac{2}{1+k'}K\biggl(\frac{1-k'}{1+k'}\biggr) \end{equation}

以下は解くのに必要な定義です。

第一種完全楕円積分

\begin{equation} K(k)=\int_{0}^{1}\frac{dz}{\sqrt{(1-z^2)(1-k^2z^2)}} \end{equation}

ここで$k=\sin\theta$とすると別の表現が出来ます。

第一種完全楕円積分その2

\begin{equation} K(k)=\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\frac{d\theta}{\sqrt{1-k^2\sin^2\theta}} \end{equation}

また$k$はモジュラス(母数)といいます。そして$k'=\sqrt{1-k^2}$を補モジュラス(補母数)と言います。
以下$K(k)=K$$K(k')=K'$とします。

続いて必要な定義は算術幾何平均です

算術幾何平均

$a,b>0\quad a,b\in\mathbb{R}$とする。以下の漸化式で定められる数列${a_n},{b_n}$は同じ値に収束する。
\begin{equation} a_0=a,b_0=b \quad a_{n+1}=\frac{a_n+b_n}{2}\quad b_{n+1}=\sqrt{a_nb_n} \end{equation}
この時、収束先の値を算術幾何平均といい、$M(a,b)$で表す。

定義より、以下の性質が成り立ちます。

$M(a,b)=M(b,a)$
$M(\lambda a,\lambda b)=\lambda M(a,b)$
$M(a,a)=a$
$M(a,b)=M(a_n,b_n)$
ただし$\lambda>0$

次に、算術幾何平均と第一種完全楕円積分を結びつける以下の等式を示します。

$0< k<1$について
\begin{equation} M(1,k)=\frac{\pi}{2}\frac{1}{K'} \end{equation}

まず初めに以下の補題を示します。

$a,b>0$に対して
\begin{equation} I(a,b)\equiv\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\frac{d\theta}{\sqrt{a^2\cos^2\theta+b^2\sin^2\theta}} \end{equation}
とすると
\begin{equation} I(a,b)=\frac{\pi}{2}\frac{1}{M(a,b)} \end{equation}

\begin{equation} I(a,b)=\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\frac{d\theta}{\sqrt{a^2\cos^2\theta+b^2\sin^2\theta}} \end{equation}
$t=b\tan\theta$として
\begin{equation} I(a,b)=\int_{0}^{\infty}\frac{dt}{\sqrt{(a^2+t^2)(b^2+t^2)}} \end{equation}
つぎに$u=\frac{1}{2}\bigl(t-\frac{ab}{t}\bigr)$とすると
\begin{eqnarray} dt=\frac{t}{\sqrt{ab+u^2}}du\\ (a^2+t^2)(b^2+t^2) &=&t^2(t^2+a^2+b^2+a^2b^2)\\ &=&t^2(4u^2+a^2+b^2+2ab)\\ &=&t^2\bigl((a+b)^2+4u^2\bigr) \end{eqnarray}
なので
\begin{eqnarray} I(a,b) &=&2\int_{0}^{\infty}\frac{du}{\sqrt{\bigl((a+b)^2+4u^2\bigr)(ab+u^2)}}\\ &=&\int_{0}^{\infty}\frac{du}{\sqrt{\biggl(\bigl(\frac{a+b}{2}\bigr)^2+u^2\biggr)(\sqrt{ab}^2+u^2)}}\\ \end{eqnarray}
これと最初の式を比べて
\begin{equation} I(a,b)=I\biggl(\frac{a+b}{2},\sqrt{ab}\biggr) \end{equation}
これを繰り返すことで
$I(a,b)=\cdots =I(M(a,b),M(a,b))$
よって
\begin{eqnarray} I(M(a,b),M(a,b)) &=&\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\frac{d\theta}{\sqrt{M^2(a,b)}}\\ &=&\frac{\pi}{2M(a,b)} \end{eqnarray}
よって示された。$\blacksquare$

この補題を使えば定理1は簡単に示せます。

\begin{equation} I(1,k)=\frac{\pi}{2M(1,k)} \end{equation}
また
\begin{eqnarray} I(1,k) &=&\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\frac{d\theta}{\sqrt{\cos^2\theta+k^2\sin^2\theta}}\\ &=&\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\frac{d\theta}{\sqrt{1-(1-k^2)\sin^2\theta}}\\ &=&K' \end{eqnarray}
よって
\begin{equation} M(1,k)=\frac{\pi}{2}\frac{1}{K'} \end{equation}
となって示された。$\blacksquare$

定理2について$k$の条件を$0< k<1$としましたが、$k>1$でも$k'\notin \mathbb{R}$ではありますが$k'^2\in\mathbb{R}$なので$k>0$としても大丈夫です

では問題を解いていきましょう中辺と右辺が左辺に等しいことをそれぞれ示します。
\begin{equation} K=\frac{\pi}{2}\frac{1}{M(1,\sqrt{1-k^2}} \end{equation}
であり、中辺については
\begin{eqnarray} \frac{1}{1+k}K\biggl(\frac{2\sqrt{k}}{1+k}\biggr) &=&\frac{\pi}{2}\frac{1}{M\biggl(1,\frac{1-k}{k+1}\biggr)}\\ &=&\frac{\pi}{2}\frac{1}{M(1+k, 1-k)}\\ &=&\frac{\pi}{2}\frac{1}{M(1,\sqrt{1-k^2})}\\ &=&K \end{eqnarray}
つづいて右辺は
\begin{eqnarray} \frac{2}{1+k'}K\biggl(\frac{1-k'}{1+k'}\biggr) &=&\frac{\pi}{1+k'}\frac{1}{M\biggl(1,\frac{2\sqrt{k'}}{1+k'}\biggr)}\\ &=&\frac{\pi}{2}\frac{1}{\frac{1}{2}}\frac{1}{M(1+k',2\sqrt{k'})}\\ &=&\frac{\pi}{2}\frac{1}{M\biggl(\frac{1+k'}{2},\sqrt{k'}\biggr)}\\ &=&\frac{\pi}{2}\frac{1}{M(1,k')}\\ &=&K \end{eqnarray}
これで示せました。以上です。最後まで読んでくれてありがとうございました。

参考文献

[1]
武部尚志, 楕円積分と楕円関数, 日本評論社, 2019, 46
投稿日:218
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木立
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