フォンノイマン環の分類については、和書で記述されていることが多い。しかしながら、$C^*$環の特殊な場合とも言えるフォンノイマン環の分類より$C^*$環の方が、初歩的なことに限れば入門しやすいかも知れない。今日は、そのことについて基本的な事実をメモすることを本稿の目的とする。
$C^*$環が$I$ 型だった時の同値な言い換えを取ってみても、フォンノイマン環の分類の場合の証明手法とは異なるなど面白さが感じられるから、どうぞごゆっくり。
以下、$A$を$C^*$環とする。$H$は無限次元ヒルベルト空間とする。
$A$の正元$x$がabelianであるとは、$x$によって生成されるhereditary $C^*$部分環すなわち$\overline{xAx}^{\|\cdot\|}$が可換であることを言う。
$$AはI型:\Leftrightarrow Aの非零の任意の剰余環がabelianな元\neq 0を持つ$$
$$AはI_0型:\Leftrightarrow Aはabelianな元たちによって生成されている$$
$$Aは\mathrm{antiliminary}:\Leftrightarrow Aはabelianな元\neq 0を含まない$$
I型von Neumann環は一般に$C^*$環としてI型とは限らないことに注意。これは、von Neumann環$B(H)$の剰余環であるカルキン環$B(H)/K(H)$は可換な元を持たないことから明らかである。このことは、カルキン環は単純だったことから。
$x\in A^+$がAbelian $\Leftrightarrow A$の任意の既約表現$(\pi,H)$に対して$\dim\pi(x)\le 1$
$x$がabelianで$(\pi,H)$が既約表現とすると、$\pi(x)$は$\pi(A)$においてabelianである。$\pi$が既約表現のとき$B(H)=\pi(A)''$であるから$\pi(x)B(H)\pi(x)$は可換となり$\dim\pi(x)\le 1$を満たす(任意の$\xi\in H_\pi\backslash\{0\}$に対し$\xi$は$\pi$の巡回ベクトルなので$H_\pi=\overline{\pi(A)\xi}=\mathbb{C}\xi$より)。
逆に$x\in A^+$とし、任意の既約表現$\pi$に対して$\dim\pi\le 1$とすると、$xAx$をuniversal representation $(H,\varphi)$で送った先の$\varphi(xAx)$は可換であることが確かめられる。$\varphi$は忠実だから$x$はabelianとなる。
$A$がHilbert空間$H$にacting irreduciblyする作用素がなす$C^*$環であって、$A\cap K(H)\neq 0$ならば、$K(H)\subset A$が成り立つ。
$A$の任意の忠実な既約表現$\neq 0$は恒等表現とユニタリー同値である。
$A\cap K(H)\neq 0$なので、有限階の射影$p\in A\cap K(H)$が存在する。MurphyのTheorem 2.4.9を参照する。後半の主張は$(\pi_\psi,H_\psi)$が忠実な表現となる$A$の任意の純粋状態$\psi\in A$が、$H$のあるベクトル$\xi$を用いて一意的に決定できることを示せば良い。$(\pi_\psi,H_\psi)$が忠実だから$\psi|_{K(H)}\neq 0$であり、よって$K(H)$上の純粋状態は0ではない。これは、ある単位ベクトル$\xi\in H$が存在し、任意の$x\in K(H)$に対し$\psi(x)=(x\xi|\xi)$を意味する($*$)。イデアル上の状態の定義域を$A$とする拡張は一意的だから、任意の$x\in A$で$\psi(x)=(x\xi|\xi)$である。($*$)と実際にユニタリー同値となることはMurphy p.146を参照する。次の事実を使えばいい。
巡回ベクトル$\xi_1,\xi_2$をそれぞれに持つ$C^*$環$A$の部分表現$(\pi_1,H_1),(\pi_2,H_2)$がequivalent with isometry $u$ s.t. $u\xi_1=\xi_2と、(\pi_1(x)\xi_1|\xi_1)=(\pi_2(x)\xi_2|\xi_2)\quad\forall x\in A$
であることとは同値である。実際、
$u:\pi_1(A)\xi_1\to \pi_2(A)\xi_2をu\pi_1(x)\xi_1=\pi_2(x)\xi_2$と定めると、確かに$u$はisometryである。実際
$$(\pi_1(A)\xi_1|\pi_1(B)\xi_1)=(\pi(B^*A)\xi_1|\xi_1)=(\pi_2(B^*A)\xi_2|\xi_2)=(\pi_2(A)\xi_2|\pi_2(B)\xi_2)$$
であり、この$u$を巡回ベクトルの性質を用いて$u:H_1\to H_2$と拡張できる。
$AをI型C^*環とするとき Aの任意の既約表現(\pi,H)に対してK(H)\subset\pi(A)$である。もし$A$が$I_0$型なら$\pi(A)=K(H)$が成り立つ。
$x\in\pi(A)を\|x\|=1$を満たすabelianとするとき$x$は$H$上のrank 1の射影となる。前定理より$K(H)\subset\pi(A)$である。$\pi(A)$はabelianな元つまりrank 1の有限階作用素で生成され最小性から$\pi(A)\subset K(H)$が成り立つ。
abelianな元によって生成される$C^*部分環A_0\subset AはA$の$I_0$型-極大イデアルである。
$J$をabelianな元を含む、$A^+$における最小のhereditaryな凸錐とする。$x\in J$と、有限集合$(x_i)$で$x\le\sum{x_i}$かつ$x_i$はabelianを満たすものが存在することは同値である。正元和での表示にすることを考え、任意の$x\in J$に対して$x=\sum_iy^*_iy_i,y_iy^*_i\le x_iとなる(y_i)\subset A$が取れる。
abelianな元$b$が存在して$a\le b$と書ける任意の正元$a$はabelianで、$yy^*$がabelianなることから$y^*y$もabelianとなる。
よって$x$はabelianな正元の和だから$J\subset A_0$である。任意のユニタリー$u\in A$に対して$u^*Ju=J$が成り立つ(Murphy 3.3.2より$u^*Ju=\overline{uA^+u}$で上から$J$が$A_0$で閉である)。$\overline{J}\subset (A_0)^+$で$\overline{J}$は$A$の全てのabelianな元を含むため、$\overline{J}=(A_0)^+$を満たす。すなわち凸錐の定義から$A_0$は$A$のイデアルである。$A$のイデアル内でabelianな元は$A$においてもabelianなので、$A_0$は$A$の極大$I_0$型-イデアルである。
$I_0型C^*$環の任意の元は、abelianな元の和として書ける近似単位元をもつ。$\{\sum_ix_i\ |\ x_i:\mathrm{abelian}\}はA^+$でhereditaryな稠密凸錐であるため、$A$の近似単位元を含む。つまり、$C^*$環$A$には近似単位元$(u_\lambda)$が存在するが$A$が$I_0$型の場合それが常にabelianな$x_i$を用いて$u_\lambda=\sum_ix_i$と書ける。
ここから、色んなことが導かれる。例えば、
任意の$C^*$環$A$は$I$型の極大イデアル$I$をもち、$A/I$は antiliminary