この記事では、同値類という用語を初めて見る人向けに同値類とは何かを端的にイメージ重視で解説します。その関連として群の準同型定理についても、線型写像を少し知っている人向けに解説します。
本題
集合があって、はかつ、各について という風に、お互いに交わらない部分集合達に分割されているとする(これを直和分割と言う)。
直和分割
この時、
イメージ的には何か集まりSがあった時に、その集まりS内でさらにという風に分類する時の、同じ分類に分けられた物同士の集まりが同値類です。同じ値を持つ類(たぐい)の者達です。
例1 学校の全校生徒を学年別にクラス分けする時の各クラス、例えば2年Aや3年B組などはそれぞれ同値類2年A組、同値類3年B組と言う。学年別で分けた時には同値類は1年と2年と3年の3つ(ただし3学年あるとする)。
例2 所属するサークルで分類する場合は、兼部が可能であれば同値類は無い。改めて兼部不可能な部活達(例えばAとBとC)とその他の部に所属する人で分類し直せば、同値類はAとBとCとその他の人達の4つ。
例3 を正の整数、を何か自然数とする。の中からで割り算した時の余りが等しくなる様な数を集めた時、これは直和分割出来ていて同値類は個ある(あまりが0~n-1のn個)。
同値類の性質
ここでは同値類に含まれる元同士の関係について考えます。それは一言に同じ分割に属する点同士の関係と言えて(上の例では同じクラスメート・同級生・差がの倍数同士等)、その、同じ分割に属するという事を定式化します。
手順(i)
各の元を書き下すと、(条件式の後半部分は仮に元々例2の様な分類がされている状況も考えて書いていますがあまり気にしなくても大丈夫です)こう書ける。
もしもあるが両方共にあるに属していて() 、なおかつがとする。
この時、は異なる同値類に属する事は無いためという事になる。よって
手順(ii)
(i)の流れを数学の記号を使って整理する。
「が同じ同値類に属する事」をと書く。したがって「が同じ同値類に属する事」はと書かれる。この記法では、(i)の論理は
かつならば
と整理される。ちなみにこの事を推移律を満たすと言う。
また次の事が成り立つ。
(反射律)
ならば(対称律)
つまり
同値類の元同士の関係
各同値類の元は全て、~(同じ同値類に属する事)に関して反射律・対称律・推移律を満たす関係にある。
~を同じ同値類に属する事ではなく、もっと一般的に、何らかの評価基準で同じ分類に振り分けられる時に等と書く事にする。
1の逆命題
Sの点を分類する時に、分類された各部分集合の中で反射律・対称律・推移律を満たす様にSの点を分類したら、つまりそのようにSの部分集合を定義したら、分類された部分集合達は直和分割(交わらない分割)をなす。したがって各部分集合は同値類。
実際には、Sの点が反射律・対称律・推移律を満たす様に分類可能かどうかは別問題。
同値関係について
同値関係
反射律・対称律・推移律を満たす様に分類された時、同値類内の点同士はお互いに同値関係にあると言う。そういう関係性や分類の基準の事を同値関係と言う。
つまり、同値関係は直和分割を作り、直和分割は同値関係を作るという事。
例4 例1と例3は同値関係で分類している。例2の改めた方の分け方は同値関係をなしている。
例5 実数空間(等)において点とが原点対称な位置関係にある時にと書くとすると、~の意味する関係性は同値関係ではない。
証明 の原点対称な点はなので。▯
ちなみにとなる点は原点0に限るため、ならば、原点0なため、で対称律を満たし、同様に推移律も満たす。
例6(大小関係)実数の集合において、とがな時にと書くとすると、~の意味する関係性は同値関係ではない。
証明 として、(等号成立)なためで反射律はOK。ならばになるのはな場合に限る為、一般的には成り立たないので対称律を満たさない。推移律に関してはかつならばなため成り立つ。▯
ちなみに、の部分集合を各実数1つだけを元に持つ集合で定義して、とすると、各同値類内にてこの大小関係は同値関係になる。しかし、この同値分割はの元を大小関係によって分類した結果作られる分割ではなく、に関して反射律・対称律・推移律を満たす様に分類したら出来る分割。この時の同値関係とはを同値関係にする様な元同士の関係。
群の準同型定理について
ここでの目的は次の
群の準同型定理
群の全射な準同型写像の核による商群と、のによるファイバー(原像)による直和分割は一致して、商群からG'への群の同型写像を誘導する。
これを順を追って説明する事です。
まずはベクトル空間の線型写像の場合の計算をして、そのまま同じ計算方法で群の準同型の場合に当てはめる様に進めます。
ベクトル空間の線型写像の場合
を実ベクトル空間、、とする。
線型写像
がAとRの任意の元に関してを満たす時には線型写像と言う。
全単射な線型写像を線型同型写像と言う。
例7 1次函数の比例式や多変数函数は線型写像。後者は多重線型関数と言われ、各に関して線型性を持っている。各変数をスカラー倍する事は、ベクトル空間の点をスカラー倍する事とは別物なので注意。同様にベクトル空間の2点の和ベクトルをで計算する事と、その2点でのの2つの値の和を計算する事は別物であり等しくないので注意(実際に分配法則で計算してみると計算結果が等しくない)。
をの単位元(ゼロベクトル)とする。
例8 Aの単位元(ゼロベクトル)は。が全射な時は。
証明 ※群の場合との計算に対応付けるため、少し遠回りな計算手順を踏みます。
、とする。
・まずは和とスカラー倍について閉じている事、つまりとを示す。
よって和とスカラー倍で閉じている。
・単位元はのゼロベクトル。実際、よりなためであって、が成り立っている。
・のとしての逆元に関して。よりであり、この右辺は(e_Bはゼロベクトル)なため
・スカラー係数との結合法則や分配法則等もからそのまま引き継がれる。 ▯
つまりはの部分空間という事。例えばでは、部分空間とは無限に広がる平面や無限に伸びる直線の事。そのものやも部分空間。
~に同値関係を導入する。~
に関して、を満たす時にと書く。
例9(図を参照)例えばにの2次元平面が広がっているのをイメージすると、内で直交する2つの単位ベクトルを用意して、に直交する単位ベクトルを1つ用意した時のこの3つを基本ベクトルとする正規直交座標系を作った時(図の)、平面に直交する軸(図の)の方向の成分が等しい時にを書くという事。例えばある点xがあり、な全体(図の平面)は、を含み、に平行な2次元平面をなす。
例9の図
実際には手前にも横にも無限に広がっている。また、は原点を含み
この時、
証明
反射律・・・よって
対称律・・・ならばよって
推移律・・・、かつ、ならば、よってかつ ▯
例10(図を参照) 内において2次元部分空間Cがあるとして、Cの各点に直交する直線()が交わっているとすると、これはCの各点を通る達に直和分割されており、この時の同値関係は「Cの同じ点の延長線上にある時に~を書く」という事になる。言い換えれば、平面Cと、Cに直交する直線上のベクトルで正規直交座標系(図の)を作った時に、C平面の成分(2次元方向の成分)が等しければ~を書くという事で、数式で書けば。仮にが1次元の直線な場合はこういう直和分割になる。
例10の図
Cの垂線で原点を通るものが
~による同値分割の同値類で、あるを含むものをと書く。
証明 ()なため、各に対してが存在して、と書ける。
▯
証明 ととの和をで定義したい。その為には、内の他の点と、同様に別の点を使って和をで計算した時にこの2つが等しくなってが成り立つ様にしたい。何故なら、もしも等しくならなければそれは同じ2元との和に関して計算結果が2通り以上存在する事を意味するため。
実際にを示す。記号は補題6と同じにする。
より、
なため、系からが言える。
次に、この和に対してベクトル空間を成す事を示す。
単位元(ゼロベクトル)は。実際にが全てのについて成り立つ。
をで置き換えれば、の逆元(逆ベクトル)は、。
同様にベクトル空間Aと計算が同じなため、演算が閉じている事やスカラー係数との結合法則や分配法則についてはAの性質をそのまま引き継ぐ。
したがってこの和に対して同値類の集合はベクトル空間をなす。▯
例11例9の図では、同値類の集合とは軸の事とほぼ同じ。つまり1次元ベクトル空間。例10の図では同値類の集合とは平面Cの事とほぼ同じ。つまり2次元ベクトル空間。
例えば、同じ平面が直線的に積み重なっていて、その積み上がる方向が1次元的な事だとか(例9)、直線の分布が平面Cに沿って2次元的に存在している(例10)という様にイメージすると分かり易いかもしれません。
証明 単位元は。
より和とスカラー倍について閉じている。
スカラーとの結合法則や分配法則はBからそのまま受け継ぐ。
よってはの部分ベクトル空間。▯
を新たにBと置くか、もしくはは全射な線型写像とする。
線型代数の場合の準同型写像
ベクトル空間の全射な線型写像の核を用いた同値類の集合(これはベクトル空間だった)と、Bのによるファイバー(原像)による直和分割は一致して、同値類の集合からへの線型同型写像を誘導する。
証明 前半は系で書いた事なので、最後の線型同型を誘導する事を証明する。
同値類の集合のベクトル空間をA/~と記し、をで定義すると、が線型同型写像な事が次の様に示される。
の全単射性・・・は全射なための各点で原像が存在して、系によってそれらはそれぞれA/~の1点(1つの同値類)ずつに対応している。
の線型性・・・は線型写像なためよって線型写像。▯
群の場合
上のベクトル空間の場合と同じ論理で命題3が導けます。
最初は群の定義と準同型写像の定義から。
各とする。
群
集合が群であるとは、の任意の2元に対して写像(演算)が定義されていて、
①積について閉じている;
②結合法則を満たす;
③単位元の存在;任意のに対して
④逆元の存在;任意のに対してが存在してg・g'=e、
を満たす事を言う。逆元はと書く。どんな演算に対して群を成すのかを明記する時には、集合と演算の組を群と書く。
可換性は課していないので、足し算などに現れる足す順序の入れ替え等は一般の群に関してはしてはいけない。
また、群の場合はスカラー倍の概念が無く、の逆元がにならない。
上の定義は、ベクトル空間の様な演算法則をもう少し抽象化したものだと思ってもらいたいです。
一意性
単位元は1つしか存在しない。逆元もに対して1つしか存在しない。
証明 略。▯
GとG'を群とする。演算・は略記として、等と書く。
群の準同型写像
写像が群準同型写像であるとは、が成り立つ事を言う。
群準同型写像が全単射な時は群同型写像と言う。
線型写像との違いは、係数という概念が無い事と、演算を和+で行っていない事。例えば正則行列の全体は行列の積について群を成すけど、この積は積の順番が可換ではない。しかしこの記事で準同型定理を示すためには、計算的には係数を全て1にするだけで大丈夫。可換性も使っていない。
G'の単位元をと書く。
証明 略。▯
群に同値関係を入れる。
な時、と書く。これは同値関係。
この時の同値類の集合をと書く。
証明 略。核を使って上記の様な同値関係を定めるとは群を成す。▯
命題3の再掲
群の全射な準同型写像の核による商群と、のによるファイバー(原像)による直和分割は一致して、商群からG'への群の同型写像を誘導する。
証明 略。▯