こんにちは,itouです.今回は以下の定理,強化版ハイパーグラフ除去補題を理解していきましょう.強化版ハイパーグラフ除去補題はハイパーグラフ除去補題を前回用意した道具を使って書き直したものです.
まずは定理のステートメントを見てみます.
$(H;(V_j)_{j\in J})$を$r$グラフ型とする.$J$の部分集合$e\subset J$に対して,以下の記法を用いる.$V_e=\prod_{j\in e}V_j$と略記し,とくに$V_J=\prod_{j\in J}V_j$とする.$\pi_e:V_J\twoheadrightarrow V_e$を標準射影とする.また,$\mathcal A_e=\{\pi_e^{-1}(E_e)\in \mathfrak(V_J):E_e\in\mathfrak(V_e)\}$とする.
正整数$k$と正の実数$\varepsilon>0$に対して,$\delta=\delta_{SHRL}(k,\varepsilon)$および$C=C_{SHRL}(k,\varepsilon)>0$が存在して,以下が成立する.$((J,E);(V_j)_{j\in J})$を$\sharp J=k$であるような$r$グラフ型$(r\in [k])$とし,各$e\in E$ごとに$E_e\in \mathcal A_e$を考える.
\begin{align}
\mathbb E \left( \prod_{e\in E}\mathbf 1_{E_e}\Bigg|V_J \right)\leq \delta
\end{align}
が満たされるならば,ある$(E'_e)_{e\in E}\in \prod_{e\in E}\mathcal A_e$が存在して
\begin{align}
\bigcap_{e\in E}E'_e=\varnothing
\end{align}
かつ任意の$\varepsilon\in E$に対して
\begin{align}
\mathbb E(\mathbf 1_{E_e\backslash E'_e}|V_J)\leq \varepsilon
\end{align}
が成立.さらに以下の複雑度条件を満たすように$(E'_e)_{e\in E}$をとることができる.各$f\in R=\{f\in \mathfrak B(J):\sharp f\in [0,r-1]\}$に対して$\mathcal B_f$が$\mathcal A_f$の部分加法族であるような族$(\mathcal B_f)_{f\in R}$が存在して,任意の$f\in R$に対して
\begin{align}
\rm{cpx}(\mathcal B_f)\leq C
\end{align}
が成り立ち,任意の$e\in E$に対して
\begin{align}
E'_e\in \bigvee_{f\subsetneq e}\mathcal B_f
\end{align}
が成り立つ.
情報量が濃すぎて何を言っているのかよくわかりません.少しずつ解剖していきます.まずは記号を確認しておきます.かなり丁寧にやるので,わかってる方は飛ばしてください.
定理中の$J$は$\sharp J=k$なので,$[k]$と考えてもよいです.
$(V_j)_{j\in[k]}=\{V_1,\cdots,V_k\}$である.各頂点小集合$V_j$は頂点の有限個の集合.
頂点小集合$V_j$たちのうち,$r$個を指定するのが$e\subset J$です.$\sharp e=r$個の頂点小集合$V_j$に対し,その直積を考えます.
\begin{align}
V_e=\prod_{j\in e}V_{j}=\{(v_{j})_{j\in e}:(v_{j}\in V_{j}),\forall j\in e\}
\end{align}
である.$V_j$は頂点小集合で,$V_e$は指定した$\sharp e$個の頂点小集合から1つずつ元(頂点)をとってきた組のこと.
直積$V_e$頂点小集合$V_j$は全然違うので混同しないよう注意してください.なお,$\sharp V_e=\Pi_{j\in e}\sharp V_j$です.(この$\Pi$は総積記号)
標準射影の話をします.(本書では説明がない)
$e\subset J$とし,全射写像$\pi_e$を
\begin{align}
\pi_e:\prod_{j\in J}V_{j}
\rightarrow \prod_{j\in e}V_{j}\\
(v_j)_{j\in J}\mapsto (v_j)_{j\in e}
\end{align}
と定義する.
$V_e$の元のうち,$e$で指定した頂点小集合からとった頂点だけを取り出すのが$\pi_e$です.裏を返せば,その逆像が$\pi^{-1}_e(X)=X\times V_{J\backslash e},(X\subset V_e)$と表現できます.逆像$\pi^{-1}_e(X)$は$V_J$の部分集合です.
さて,加法族$\mathcal A_e$を構成します.
$\mathcal A_e=\{\pi_e^{-1}(E_e)\in \mathfrak P(V_J):E_e\in\mathfrak P(V_e)\}$と定義する.
$V_e$から任意に部分集合$E_e$をとってきて$\pi_e^{-1}(E_e)$を考え,すべて集めて集合にしたのが$\mathcal A_e$です.これが実際に加法族であることを確認します.まず,$\varnothing\subset V_e$を取ってくると$\pi_e^{-1}(\varnothing)=\varnothing$です.(空集合と有限集合の直積は空集合なので)
$\mathcal A_e$の元とは$V_e$の部分集合$X$を選んだ直積$X\times V_{J\backslash e}$です.あるいは$V_J=V_e\times V_{J\backslash e}$から$V_e$の一部の元と
また,任意の$E_e,E'_e$を取ってきて,$\pi_e^{-1}(E_e)\cup\pi_e^{-1}(E'_e)$を考えると,$\pi_e^{-1}(E_e)\cup\pi_e^{-1}(E'_e)=(E_e\times V_{J\backslash e})\cup (E'_e\times V_{J\backslash e})=(E_e\cup E'_e)\times V_{J\backslash e}$となり,これは確かに$\mathcal A_e$に含まれています.
最後に$E_e$に対して$\pi_e^{-1}(V_e\backslash E_e)$を考えると,$V_e\backslash E_e\subset V_e$より,確かに$\mathcal A_e$に含まれています.
よって$\mathcal A_e$が加法族であることが分かりました.また,作り方より$V_e$と$\mathcal A_e$は1対1で対応していることも分かりました.
主張を追っていきます.前前回の$k$部ハイパーグラフ版ハイパーグラフ除去補題(以下$k$部版という)の主張と照らし合わせて見ていきます.
正整数$k$と正の実数$\varepsilon>0$に対して,$\delta=\delta_{PHRL}(k,\varepsilon)$が存在して,以下が成立する.$(H;(V_j)_{j\in J})$を$\sharp J=k$であるような$r$グラフ型$(r\in [k])$,$E$を$H$の辺集合とする.各$e\in E$ごとに集合$E_e \subset \Pi_{i \in J}V_j $
を考える.もし
\begin{align}
\sharp H((V_j)_{j \in J};(E_e)_{e\in E}) \leq \delta \Pi_{j \in J}\sharp V_j
\end{align}
が満たされるならば,各$e\in E$に対して$E'_e \subset \prod_{j\in J}V_j$であるような族$(E'_e)_{e\in E}$が存在して
\begin{align}
H((V_j)_{j \in J};(E'_e)_{e\in E})=\varnothing
\end{align}
かつ任意の$e\in E$に対して
\begin{align}
\sharp(E_e \backslash E'_e)\leq \varepsilon \Pi _{j \in J}\sharp V_j
\end{align}
が成り立つ.
まず
正整数$k$と正の実数$\varepsilon>0$に対して,$\delta=\delta_{SHRL}(k,\varepsilon)$および$C=C_{SHRL}(k,\varepsilon)>0$が存在して,以下が成立する.$((J,E);(V_j)_{j\in J})$を$\sharp J=k$であるような$r$グラフ型$(r\in [k])$とし,各$e\in E$ごとに$E_e\in \mathcal A_e$を考える.
$r$グラフ型を用意し,$e\in E\subset {J \choose r}$をとり,加法族$\mathcal A_e$を考えます.注意すべきは$E_e$を$\mathcal A_e$の元として取っていることです.つまり$E_e\subset V_J$です.先ほどは$V_e$の部分集合として取っていました.($E_e$の取り方は与えられる必要がある)
強化版に出てくる$E_e$は$r$個の各頂点小集合に頂点をもち,$k-r$個の残りの頂点小集合については頂点の選び方が自由であるようなグラフたちの頂点集合($V_J$の部分集合)です.
$k$部版に出てくる$E_e$は$V_e$の部分集合です.$k-r$個の残りの頂点小集合について考えているか否かの違いがあります.
$k$部版の$E_e$は強化版の$E_e$を用いて$\pi_e(E_e)$と表されます.
各$e\in E$ごとに$E_e\in \mathcal A_e$を考える.
\begin{align}
\mathbb E \left( \prod_{e\in E}\mathbf 1_{E_e}\Bigg|V_J \right)\leq \delta
\end{align}
が満たされるならば
これは$k$部版では
もし
\begin{align}
\sharp H((V_j)_{j \in J};(E_e)_{e\in E}) \leq \delta \Pi_{j \in J}\sharp V_j
\end{align}
が満たされるならば
に対応します.
$H=(J,E),D_H=((V_j)_{j \in J};(E_e)_{e\in E})$として
\begin{align}
H(D_H)&=\left\{ (v_j)_{j\in J}\in \prod_{i\in J}V_j:\forall e\in E ,(v_j)_{j\in e} \in E_e \subset V_e \right\}
\end{align}
でした.$\sharp H(D_H)$は
「グラフ$D_H$中に含まれる,各頂点小集合に頂点を1つずつもつような$H$と同型な部分グラフの個数」
を表していました.
定義より,
\begin{align}
\mathbb E \left( \prod_{e\in E}\mathbf 1_{E_e}\Bigg|V_J \right)&=\frac{1}{\sharp V_J}\sum_{v\in V_J}\prod_{e\in E}\mathbf 1_{E_e}(v)\\
\end{align}
$\sharp V_J=\Pi_{j \in J}\sharp V_j$です.
$\sum_{v\in V_J}\prod_{e\in E}\mathbf 1_{E_e}(v)=\sharp H(D_H)$であることを確認します.
$\prod_{e\in E}\mathbf 1_{E_e}(v)$は$v\in V_J$が各$E_e$すべてに含まれている場合のみ$1$,そうでないなら$0$を返す関数です.
つまり,$v$が$k$個の各頂点小集合に頂点を1つずつもつ$H$と同型な部分グラフの頂点集合である場合,$1$を返す(カウントする)ということです.
そして,すべての$v\in V_J$について数え上げるので,結局
$\sum_{v\in V_J}\prod_{e\in E}\mathbf 1_{E_e}(v)$は
「各頂点小集合に頂点を1つずつもつ$H$と同型な部分グラフの個数」
であるので
$\sum_{v\in V_J}\prod_{e\in E}\mathbf 1_{E_e}(v)=\sharp H(D_H)$が確かめられました.
ある$(E'_e)_{e\in E}\in \prod_{e\in E}\mathcal A_e$が存在して
\begin{align}
\bigcap_{e\in E}E'_e=\varnothing
\end{align}
かつ任意の$\varepsilon\in E$に対して
\begin{align}
\mathbb E(\mathbf 1_{E_e\backslash E'_e}|V_J)\leq \varepsilon
\end{align}
が成立.
各$e\in E$に対して$E'_e \subset \prod_{j\in J}V_j$であるような族$(E'_e)_{e\in E}$が存在して
\begin{align}
H((V_j)_{j \in J};(E'_e)_{e\in E})=\varnothing
\end{align}
かつ任意の$e\in E$に対して
\begin{align}
\sharp(E_e \backslash E'_e)\leq \varepsilon \Pi _{j \in J}\sharp V_j
\end{align}
が成り立つ.
この対応を見ていきます.
\begin{align} \bigcap_{e\in E}E'_e=\varnothing \end{align}
と
\begin{align} H((V_j)_{j \in J};(E'_e)_{e\in E})=\varnothing \end{align}
の対応はわかりやすいですね.$H$を除去した後,もう$H$が含まれていないことを表しています.$E_e$の取り方が違うので,強化版の方がすっきりと記述できています.
かつ任意の$\varepsilon\in E$に対して
\begin{align}
\mathbb E(\mathbf 1_{E_e\backslash E'_e}|V_J)\leq \varepsilon
\end{align}
が成立.
かつ任意の$e\in E$に対して
\begin{align}
\sharp(E_e \backslash E'_e)\leq \varepsilon \Pi _{j \in J}\sharp V_j
\end{align}
が成り立つ.
これも大丈夫でしょう.
$\mathbb E(\mathbf 1_{E_e\backslash E'_e}|V_J)=\mathbb E(\mathbf1_{\pi_e(E_e)\backslash\pi_e(E'_e)}|V_e)$より分かります.
最後に複雑度条件について考えます.
各$f\in R=\{f\in \mathfrak B(J):\sharp f\in [0,r-1]\}$に対して$\mathcal B_f$が$\mathcal A_f$の部分加法族であるような族$(\mathcal B_f)_{f\in R}$が存在して,任意の$f\in R$に対して
\begin{align}
\rm{cpx}(\mathcal B_f)\leq C
\end{align}
が成り立ち,任意の$e\in E$に対して
\begin{align}
E'_e\in \bigvee_{f \subsetneq e}\mathcal B_f
\end{align}
が成り立つ.
$f$は$e$同様に$J$の中からいくつか指定する働きを持っています.$f$ごとに加法族$\mathcal A_f$をとると,その「あまり複雑でない」部分加法族の集合$(\mathcal B_f)_{f\in R}$について
\begin{align}
E'_e\in \bigvee_{f \subsetneq e}\mathcal B_f
\end{align}
であるということです.イメージが付きづらいですが,多次元セメレディの定理の証明には不要だそうなので,とりあえず流しておきます.
正則化補題,数え上げ補題を先に示し,それらを用いてハイパーグラフ除去補題を証明します.
正則化補題+数え上げ補題
$\Longrightarrow$ハイパーグラフ除去補題
定理を理解するのにかなり時間がかかりましたが,次こそは証明に入ります.正則化補題をやります.
主張理解するだけでこんなにかかるとは...
ここまで読んで下さりありがとうございました.誤植等指摘よろしくお願いいたします.