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∫[0,π]log(t+cos(x))dxとチェビシェフ多項式

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本記事について

本記事は
$$ \int_{0}^{\pi}\log(t+\cos(x))dx $$
と、その類似
$$ \int_{0}^{\pi}\log(t^2+\cos^2(x))dx $$
の計算結果を代数的な計算の帰結として初等的に得ること。
およびそれを以て 級数・積分bot の次の2題
$$ \int_{0}^{\pi}\log{\left(\frac{5}{4}+\cos(x)\right)}dx=0 $$
$$ \int_{0}^{\frac{\pi}2}\log{\left(\frac{9}{16}+\cos^2(x)\right)}dx=0 $$

を初等的に倒すことを目的としている。

ログサイン積分

とっかかりとして、次の有名な積分
$$ \int _{0}^{\frac {\pi }2}\log( \sin \theta )d\theta =-\frac {1}2\pi \log 2 $$
が、次の三角関数の積の公式
$$ \prod_{k=1}^{n-1} \sin(\frac{k\pi}{n})=\frac{n}{2^{n-1}} $$
の系として得られるということに気づいたということがある。これは
積の公式の両辺の対数を取ってnで割ると
$$ \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n-1} \log(\sin(\frac{k\pi}{n}))=\frac{1}{n}\log(n)-\frac{n-1}{n}\log(2) $$
が得られるので、$n\rightarrow\infty$とすると
$$ \int_{0}^{1} \log(\sin(\pi x))dx=-\log(2) $$
が得られることから従う。極限を取る際に消えている情報も見て取れ
積の公式のほうがより精密であることがわかる。

∫[0,π]log(t+cos(x))dxの精密化

ログサイン積分での方法論から言えば
$$ \int_{0}^{\pi}\log(t+\cos(x))dx $$

$$ \prod_{k=1}^{n-1} \left(t+\cos(\frac{k\pi}{n})\right) $$
が計算できれば元の積分より精密な結果が得られ
以て積分の計算もできるであろうと予想できる。
上式と大差のない($t$$-t$と置き換えて正負を変えた)
$$ \prod_{k=1}^{n-1} \left(t-\cos(\frac{k\pi}{n})\right) $$
を考えると、これは$\cos(\frac{k\pi}{n})$を根に持つ多項式だから
三角方程式$\sin(n\theta)=0$の解が$\theta=\frac{k\pi}{n} , k=0,1,\cdots,n-1$
であることを踏まえて考えればよさそうだとわかる。
分かる人であれば第2種チェビシェフ多項式で通じるところだが
極力記事を自己完結的に済ませたいので計算をすると
ド・モアブルの定理から
$$ (\cos(x)+\sqrt{-1}\sin(x))^n=\cos(nx)+\sqrt{-1}\sin(nx) $$
左辺を二項定理で展開すると
$$ (\cos(x)+\sqrt{-1}\sin(x))^n=\sum_{k=0}^{n}\sqrt{-1}^k \dbinom{n}{k}\cos^{n-k}(x)\sin^k(x) $$
一つ目の式と二つ目の式の虚部を比較することで
$$ \sin(nx)=\sum_{k=0}^{[(n-1)/2]}(-1)^{k} \dbinom{n}{2k+1 }\cos^{n-2k-1}(x)\sin^{2k+1}(x) $$
両辺$\sin(x)$で割ると
$$ \frac{\sin(nx)}{\sin(x)}=\sum_{k=0}^{[(n-1)/2]}(-1)^{k} \dbinom{n}{2k+1 }\cos^{n-2k-1}(x)\sin^{2k}(x)=\sum_{k=0}^{[(n-1)/2]}(-1)^{k} \dbinom{n}{2k+1 }\cos^{n-2k-1}(x)(1-\cos^2(x))^{k} $$
$$ \frac{\sin(nx)}{\sin(x)}=\sum_{k=0}^{[(n-1)/2]} \dbinom{n}{2k+1 }\cos^{n-2k-1}(x)(\cos^2(x)-1)^{k} $$
右辺は$\cos(x)=t$として$t$の多項式と見なせ
左辺=0は$x=\frac{k\pi}{n} , k=1,\cdots,n-1$を解にもつから、因数定理より$C$を定数として
$$ \frac{\sin(nx)}{\sin(x)}=C\prod_{k=1}^{n-1} \left(t-\cos(\frac{k\pi}{n})\right) $$
と書けることがわかる。
右辺のtの最高次の係数がCであるのに対し
$$ \frac{\sin(nx)}{\sin(x)}=\sum_{k=0}^{[(n-1)/2]} \dbinom{n}{2k+1 }t^{n-2k-1}(t^2-1)^{k} $$
の右辺のtの最高次の係数は
$$ \sum_{k=0}^{[(n-1)/2]} \dbinom{n}{2k+1 }=2^{n-1} $$
より
$$ \sum_{k=0}^{[(n-1)/2]} \dbinom{n}{2k+1 }t^{n-2k-1}(t^2-1)^{k}=2^{n-1}\prod_{k=1}^{n-1} \left(t-\cos(\frac{k\pi}{n})\right) $$
また$t$$-1$倍すると
$$ \sum_{k=0}^{[(n-1)/2]} \dbinom{n}{2k+1 }t^{n-2k-1}(t^2-1)^{k}=2^{n-1}\prod_{k=1}^{n-1} \left(t+\cos(\frac{k\pi}{n})\right) $$
これはもともと$t=\cos(x)$だったことを離れ$t$についての多項式の等式と見なせる。
よって$t>1$としてもよく、その時
$$ 2^{n-1}\prod_{k=1}^{n-1} \left(t+\cos(\frac{k\pi}{n})\right)=\frac{1}{2\sqrt{t^2-1}} \left\{\left(t+\sqrt{t^2-1}\right)^{n} -\left(t-\sqrt{t^2-1}\right)^{n}\right\} $$
$$ \prod_{k=1}^{n-1} \left(t+\cos(\frac{k\pi}{n})\right)=\frac{\left(t+\sqrt{t^2-1}\right)^{n}}{2^n\sqrt{t^2-1}} \left\{1-\left(\frac{1}{t+\sqrt{t^2-1}}\right)^{2 n}\right\} $$
よって
$$ \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n-1}\log\left(t+\cos(\frac{k\pi}{n})\right)=\log(t+\sqrt{t^2-1})-\log(2)-\frac{1}{n}\log(\sqrt{t^2-1})+\frac{1}{n}\log(1-\left(\frac{1}{t+\sqrt{t^2-1}}\right)^{2 n}) $$
$n\rightarrow\infty$で右辺第3項、第4項は0に収束するので
$$ \int_{0}^{1}\log(t+\cos(\pi x))dx=\log(t+\sqrt{t^2-1})-\log(2) (t>1) $$
$\pi x=y$の変数変換から
$$ \int_{0}^{\pi}\log(t+\cos(y))dy=\pi(\log(t+\sqrt{t^2-1})-\log(2)) (t>1) $$
$t=5/4$とすれば
$$ \int_{0}^{\pi}\log(\frac{5}{4}+\cos(y))dy=\pi(\log(\frac{5}{4}+\sqrt{\frac{25}{16}-1})-\log(2))=\pi(\log(\frac{5}{4}+\frac{3}{4})-\log(2))=0 $$

∫[0,π]log(a^2+cos^2(x))dxの精密化

こちらの主要な話はすでに前の段で終わっていて
前の段で得られた
$$ \sum_{k=0}^{[(n-1)/2]} \dbinom{n}{2k+1 }t^{n-2k-1}(t^2-1)^{k}=2^{n-1}\prod_{k=1}^{n-1} \left(t-\cos(\frac{k\pi}{n})\right) $$
$t$$-1$倍して得られる
$$ \sum_{k=0}^{[(n-1)/2]} \dbinom{n}{2k+1 }t^{n-2k-1}(t^2-1)^{k}=2^{n-1}\prod_{k=1}^{n-1} \left(t+\cos(\frac{k\pi}{n})\right) $$
の辺々をかけると
$$ \Bigg[\sum_{k=0}^{[(n-1)/2]} \dbinom{n}{2k+1 }t^{n-2k-1}(t^2-1)^{k}\Bigg]^2=2^{2n-2}\prod_{k=1}^{n-1} \left(t^2-\cos^2(\frac{k\pi}{n})\right) $$
となり、これの$t$$\sqrt{-1}$倍して得られる
$$ \Bigg[(\sqrt{-1})^{n-1}\sum_{k=0}^{[(n-1)/2]} \dbinom{n}{2k+1 }t^{n-2k-1}(t^2+1)^{k}\Bigg]^2=(-1)^{n-1}2^{2n-2}\prod_{k=1}^{n-1} \left(t^2+\cos^2(\frac{k\pi}{n})\right) $$
$$ \Bigg[\sum_{k=0}^{[(n-1)/2]} \dbinom{n}{2k+1 }t^{n-2k-1}(t^2+1)^{k}\Bigg]^2=2^{2n-2}\prod_{k=1}^{n-1} \left(t^2+\cos^2(\frac{k\pi}{n})\right) $$
ゆえ(こちらの場合はtの大小によらず)
$$ 2^{2n-2}\prod_{k=1}^{n-1} \left(t^2+\cos^2(\frac{k\pi}{n})\right)=\Bigg[\frac{1}{2\sqrt{t^2+1}} \left\{\left(t+\sqrt{t^2+1}\right)^{n} -\left(t-\sqrt{t^2+1}\right)^{n}\right\}\Bigg]^2 $$
$$ 2^{2n-2}\prod_{k=1}^{n-1} \left(t^2+\cos^2(\frac{k\pi}{n})\right)=\frac{1}{2^2(t^2+1)} \left\{\left(t+\sqrt{t^2+1}\right)^{n} -\left(t-\sqrt{t^2+1}\right)^{n}\right\}^2 $$
$$ \prod_{k=1}^{n-1} \left(t^2+\cos^2(\frac{k\pi}{n})\right)=\frac{\left(t+\sqrt{t^2+1}\right)^{2 n}}{2^{2n}(t^2+1)} \left\{1 -\left(\frac{1 }{t+\sqrt{t^2+1}}\right)^{2n}\right\}^2 $$
$$ \int_{0}^{1}\log(t^2+{\cos^2(\pi x)})dx=2( \log(t+\sqrt{t^2+1})-\log(2)) $$
$$ \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\log(t^2+{\cos^2(y)})dy=\pi(\log(t+\sqrt{t^2+1})-\log(2)) $$
$t=3/4$とすれば
$$ \int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\log( \frac{9}{16} +{\cos^2(y)})dy=\pi\Bigg(\log(\frac{3}{4}+\sqrt{\frac{9}{16}+1})-\log(2)\Bigg)=\pi\Bigg(\log(\frac{3}{4}+\frac{5}{4})-\log(2)\Bigg)=0 $$

終わりに

三角関数を含む積分について、適切に離散化すれば代数的な構造を
持ち込むことができ、計算の見通しがつけやすくなるという問題でした。
積分についてそういうことやったのが今回の記事で
級数についてやると 前回の記事 になります。
級数・積分bot にはこういう視点で倒してみたい問題が
まだいくつかあるので、ぼちぼちやっていきたい。

9/13追記
$$ \int_{0}^{\pi}\log{\left(\frac{5}{4}+\cos(x)\right)}dx=0 $$
について積分範囲を$\frac{\pi}{2}$までと勘違いしていたうえに、
それとつじつまを合わせるよう誤った計算をしていたため修正。

投稿日:98
更新日:913

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