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三角関数類似によるディリクレベータ関数の特殊値の初等的計算

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はじめに

この記事ではディリクレのベータ関数
β(s)=l=0(1)l(2l+1)s
の特殊値β(2m+1)を初等的に計算することを目指す。
そのために次のようなβ(2m+1)の有限三角関数類似を考える
l=0n1(1)ltan2m+1((2l+1)π4n)
前提知識としては高校の理系数学が分かれば大丈夫な範囲を目標とする。

道具立て

xπZのとき
k=nnexp((2kx1)=sin((2n+1)x)sin(x)=sin(2nx)tan(x)+cos(2nx)
k=nn1exp((2k+1)x1)=sin(2nx)sin(x)

いきなり複素指数関数で「何が高校理系数学か」なのだが
ここでは単にexp(x1)=cos(x)+1sin(x)
という右辺の略記以上では用いない。これに施す計算は
ド・モアブルの定理と呼ばれる範囲となる。

補題の一つ目の式について、公比exp((2x1)の等比数列の計算なので和の計算なので
xπZより公比は1でない
k=nnexp((2kx1)=exp((2(n+1)x1)exp(2nx1)exp(2x1)1
            =exp(x1)(exp((2n+1)x1)exp((2n+1)x1))exp(x1)(exp(x1)exp(x1))
            =exp((2n+1)x1)exp((2n+1)x1)(exp(x1)exp(x1))
            =sin((2n+1)x)sin(x)
また、分子を加法定理で分ければ
sin((2n+1)x)sin(x)=sin(2nx)cos(x)+cos(2nx)sin(x)sin(x)=sin(2nx)tan(x)+cos(2nx)
補題の二つ目の式についても同様に、公比exp((2x1)の等比数列の和の計算なので
k=nn1exp(((2k+1)x1)=exp(((2n+1)x1)exp((2n+1)x1)exp(2x1)1
              =exp(x1)(exp(2nx1)exp(2nx1))exp(x1)(exp(x1)exp(x1))
              =sin(2nx)sin(x)

1つめの式にx=(2l+1)π4nを代入すると
k=nnexp(2k(2l+1)π14n)=sin((2l+1)π2)tan((2l+1)π4n)+cos((2l+1)π2)=(1)ltan((2l+1)π4n)
これの両辺をmNm乗すると、
[k=nnexp(2k(2l+1)π14n)]m=(1)mltanm((2l+1)π4n)
となる。左辺は指数法則から
[k=nnexp(2k(2l+1)π14n)]m=k1,k2,,km=nnexp(2(k1+k2++km)(2l+1)π14n)
となる。この右辺の状況をもう少し整理する。
ki(i=1,2,,m)nkinなので
k1+k2++kmがとりえる値の範囲は
mnk1+k2++kmmn
mnjmnについてk1+k2++km=jとなる
(k1,k2,,km)の組み合わせの個数をCm,jnと書くことにすると
k1,k2,,km=nnexp(2(k1+k2++km)(2l+1)π14n)=j=mnmnCm,jnexp(2j(2l+1)π14n)
と書ける。(長々と書いたが要はCm,jnは多項係数のある種の和を表している)
結局次の等式を得る

(1)mltanm((2l+1)π4n)=j=mnmnCm,jnexp(2j(2l+1)π14n)
ここでCm,jnnkin(i=1,2,,m)mnjmnについてk1+k2++km=jとなる(k1,k2,,km)の組み合わせの個数

有限三角関数類似の計算

l=0n1(1)ltan2m+1((2l+1)π4n)
を定理2を利用して計算していく。計算するうえで奇数乗である必要はないので、
改めて以下の和を考える
l=0n1(1)mltanm((2l+1)π4n)
これを計算するために、まず少し和の範囲を変えた
l=nn1(1)mltanm((2l+1)π4n)
を考えると、l<0の範囲について
l=n1(1)mltanm((2l+1)π4n)=l=1n(1)mltanm((2l+1)π4n)=l=1n(1)m(l1)tanm((2l1)π4n)=l=0n1(1)mltanm((2l+1)π4n)
より
l=nn1(1)mltanm((2l+1)π4n)l=n1(1)mltanm((2l+1)π4n)+l=0n1(1)mltanm((2l+1)π4n)=2l=0n1(1)mltanm((2l+1)π4n)
これと、定理2
から
l=0n1(1)mltanm((2l+1)π4n)=12l=nn1j=mnmnCm,jnexp(2j(2l+1)π14n)
と書けることがわかる。右辺の(有限)二重和はそれぞれの和に依存関係がないので和の順序を入れ替えると
l=0n1(1)mltanm((2l+1)π4n)=12j=mnmnCm,jnl=nn1exp(2j(2l+1)π14n)
右辺の内側の和について、2jπ4nπZすなわち、j2nZのとき
補題1の2つ目の式より
l=nn1exp(2j(2l+1)π14n)=sin(2n2jπ4n)sin(2jπ4n)=sin(jπ)sin(2jπ4n)=0
j2nZのときj=2ni iZとすると
l=nn1exp(4ni(2l+1)π14n)=l=nn1(1)i=2n(1)i
よって
l=0n1(1)mltanm((2l+1)π4n)=12i=[m/2][m/2]Cm,2nin2n(1)i=ni=[m/2][m/2]Cm,2nin(1)i
と計算できる。まとめると以下のようになる。

l=0n1(1)mltanm((2l+1)π4n)=ni=[m/2][m/2]Cm,2nin(1)i
ここでCm,jnnkin(i=1,2,,m)と整数jについてk1+k2++km=jとなる(k1,k2,,km)の組み合わせの個数

具体例の計算

計算はできたものの、定理3は一見での具体性に乏しいため
小さなmについてより具体的に計算をしてみる。

m=1の場合

l=0n1(1)ltan((2l+1)π4n)
がどのようになるのかを考える。定理3より
l=0n1(1)ltan((2l+1)π4n)=nC1,0n
となる。C1,0nは定義からk=0となるnknなるkの個数なので、当然k=0の一つのみとなる。ゆえ
l=0n1(1)ltan((2l+1)π4n)=nC1,0n=n
とわかる。

m=2の場合

定理3より
l=0n11tan2((2l+1)π4n)=n(C2,2nn+C2,0nC2,2nn)
となる。Cm,jnは定義からCm,jn=Cm,jnなので
l=0n11tan2((2l+1)π4n)=n(C2,0n2C2,2nn)
となる。C2,0nk1+k2=0となるnk1,k2nなるkの個数なので、k1=k2となればよい。
nk1,k2nなのでこれは2n+1個ある。
C2,2nnk1+k2=2nとなるnk1,k2nなるkの個数なので、これはk1=k2=nの一つしかない。
ゆえ
l=0n11tan2((2l+1)π4n)=n(2n+121)=n(2n1)

m=3の場合

定理3より
l=0n1(1)ltan3((2l+1)π4n)=n(C3,2nn+C3,0nC3,2nn)
となる。Cm,jn=Cm,jnなので
l=0n1(1)ltan3((2l+1)π4n)=n(C3,0n2C3,2nn)
C3,0nk1+k2+k3=0となるnk1,k2,k3nなるkの個数なので、k1+k2=k3となればよい。
k3を一つ固定するとk1+k2=k3となるk1,k2の組は
nk1,k2nなのでこれは2n+1|k3|個ある。(|k3|k3の絶対値)
これより
C3,0n=k3=nn(2n+1|k3|)=(2n+1)2n(n+1)
同様にC3,2nnk1+k2+k3=2nとなるnk1,k2,k3nなるkの個数なので、k1+k2=k3+2nとなればよい。
k3を一つ固定するとk1+k2=k3+2nとなるk1,k2の組は
nk1,k2nなのでこれは2n+1min(k3+2n,2n+1)個ある。
C3,2nn=k3=0n(2n+1(2nk3))=k3=0n(k3+1)=(n+1)(n+2)2
C3,0n2C3,2nn=(2n+1)2n(n+1)(n+1)(n+2)=(2n+1)22(n+1)2=2n21
ゆえ
l=0n1(1)ltan3((2l+1)π4n)=n(2n21)

有限三角関数類似とβ(2m+1)の関係

ここからはこれまでと毛色を変えて有限三角関数類似とディリクレベータ関数の特殊値β(2m+1)の関係について確認する。
次を示す。

β(2m+1)=limn(π4n)2m+1l=0n1(1)ltan2m+1((2l+1)π4n)

上記の証明のため、次の補題を準備する。

fn(x)=1xn1tann(x) (0<x<π2)
n=1で単調増加、n3で単調減少

補題5の証明

fnを微分すると
fn(x)=n1tann1(x)1sin2(x)n1xn+1 =n(xn+1sin2(x)tann1(x))xn+1sin2(x)tann+1(x)
gn(x)=xn+1sin2(x)tann1(x)
と置くとgnの正負が分かればよい。
n=1のとき
g1(x)=x2sin2(x)>0 (0<x<π2)
より、fn(x)>0となり,n=1のときfnは単調増加
n=3のとき
g3(x)=x4sin2(x)tan2(x)=(x2+sin(x)tan(x))(x2sin(x)tan(x))
h(x)=x2sin(x)tan(x)=x2sin2(x)cos(x)=x21cos(x)+cos(x)
としてh(x)を3回微分すると
h(x)=2xsin(x)cos2(x)sin(x)
h(x)=2sin2(x)cos3(x)1cos3(x)cos(x)
h(x)=sin3(x)cos4(x)5sin(x)cos4(x)+sin(x)
これの後ろ2項について
5sin(x)cos4(x)+sin(x)=sin(x)(5cos4(x)1)<0 (0<x<π2)
よりh(x)<0 (0<x<π2)
ゆえh(x)は単調減少でh(0)=2011=0より
h(x)<0 (0<x<π2)
h(x)は単調減少でh(0)=000=0より
h(x)<0 (0<x<π2)
h(x)は単調減少でh(0)=000=0より
h(x)<0 (0<x<π2)
h(x)は単調減少でh(0)=00=0より
h(x)<0 (0<x<π2)
よってg3(x)<0 (0<x<π2)
以上からf3(x) (0<x<π2)は単調減少
n>3について0<x<π2
gn(x)=xn+1sin2(x)tann1(x)<x4tann3(x)sin2(x)tann1(x)=tann3(x)(x4sin2(x)tan2(x))=tann3(x)g3(x)<0
fn(x) (0<x<π2)は単調減少

定理4の証明

mを3以上の奇数とする。0<x1<x2<π2とした時、補題5から
1x1m1tanm(x1)>1x2m1tanm(x2)
より
1x1m1x2m>1tanm(x1)1tanm(x2) (1)
両辺1をかけると
1x1m+1x2m<1tanm(x1)+1tanm(x2) (2)
Sn=l=0n1(1)l(2l+1)m
と置き、nn1n2のうち奇数の方と置くと
Sn=l=0n1(1)l(2l+1)ml=0n(1)l(2l+1)m1(2n1)m=(π4n)ml=0n(1)l((2l+1)π4n)m1(2n1)m
(1)の不等式より
l=0n1(1)l(2l+1)m(π4n)ml=0n(1)ltanm((2l+1)π4n)1(2n1)m
nn1n2のうち偶数の方と置くと
Sn=l=0n1(1)l(2l+1)ml=0n(1)l(2l+1)m=1+(π4n)ml=1n(1)l((2l+1)π4n)m<1(π4n)m1tanm((20+1)π4n)+(π4n)ml=0n(1)ltanm((2l+1)π4n)
以上から
(π4n)ml=0n(1)ltanm((2l+1)π4n)1(2n1)mSn1(π4n)m1tanm(π4n)+(π4n)ml=0n(1)ltanm((2l+1)π4n)
各辺nとすると
limnSn=limn(π4n)ml=0n1(1)ltanm((2l+1)π4n)
m=1の場合は(1),(2)の不等式の向きが逆になるが
さほどやることは変わらないので省略する。

ディリクレベータ関数の特殊値β(2m+1)のいくつかの計算

m=1の場合

l=0n1(1)ltan((2l+1)π4n)=n
より
β(1)=limn(π4n)n=π4
これはライプニッツ級数としてもよく知られる結果の確認となっている。

m=3の場合

l=0n1(1)ltan3((2l+1)π4n)=n(2n21)
より
β(3)=limn(π4n)3n(2n21)=π3642=π332

Cm,jnの一般項とβ(m)

ここからは当初に掲げた初等性と若干の厳密性を投げ捨てて
どこまでのことが一般的に言えそうかを眺める。
まず、Cm,jnについて、もともと等比数列の和のべき乗を
由来とすることからも明らかな通り
(xn+xn+1++x1+1+x++xn1+xn)m
を(通常型)母関数として持つ。等比数列の和を計算すると
(xnxn+11x)m=(xnxn+1)m(1x)m
分子と分母を分けて考えると
(xnxn+1)m=k=0m(1)k(mk)xnm+(2n+1)k
1(1x)m=l=0(l+m1m1)xl
より
(xnxn+1)m(1x)m=l=0k=0m(1)k(mk)(l+m1m1)xnm+(2n+1)k+l
Cm,2ninx2niの係数なので
Cm,2nin=k=0(1)k(mk)(nm(2n+1)k+2ni+m1m1)
Cm,2nin=k=0(1)k(mk)((m2k+2i)nk+m1m1)
ただし最後のkについての和は0km+2i2+1/nの範囲の整数を取る。
これより
l=0n1(1)mltanm((2l+1)π4n)=ni=[m/2][m/2]Cm,2nin(1)i=ni=[m/2][m/2]k=0(1)i+k(mk)((m2k+2i)nk+m1m1)
定理4を念頭にnを考えると
limn(π4n)ml=0n1(1)ltanm((2l+1)π4n)=limn(π4n)mni=[m/2][m/2]k=0(1)i+k(mk)((m2k+2i)nk+m1m1)
右辺を整理すると
 (π4n)mni=[m/2][m/2]k=0(1)i+k(mk)((m2k+2i)nk+m1m1)
=(π4)mi=[m/2][m/2]k=0(1)i+k(mk)((m2k+2i)nk+m1m1)n(m1)
nとして
 (π4)mi=[m/2][m/2]k=0[m/2]+i(1)i+k(mk)(m2k+2i)m1(m1)!
となるので結局次の表示が得られた。

l=0(1)ml(2l+1)m=πm4m(m1)!i=[m/2][m/2]k=0[m/2]+i(1)i+k(mk)(m2k+2i)m1

左辺の和は通常ベルヌイ数やオイラー数を用いて表示されるが、
そういった数列を用いていない表示という意味で右辺はそれなりにまとまっていると思われる。
(※左辺についてmが偶数の場合は本記事で示していないが証明は奇数の場合よりやさしい)

終わりに

今後の課題は
・最後の形式的冪級数を母関数として行った計算はもうちょっとスマートにならないのか
・定理6の右辺の二重和はベルヌイ多項式やオイラー多項式の明示公式としてwikipediaに記載があるものと類似性があるので
二重和より簡単になることはないと思うが二項係数の表れ方が異なっており
そこの関係性がどうなっているのか
・極限を取る前の三角関数類似のnの多項式としての表示は
 今のところ二項係数の二重和となっているがこれはもっと整理できるのか。
 (ベルヌイ数などを用いれば閉じた形にかけるのか)
最後のは単に私が知らないだけで既に世に知られているのかもしれない。

本記事は拙記事シリーズ「三角関数類似を有限和にばらして初等的に何とかしよう」の
第3弾となっているのでご興味があれば以前の記事もどうぞ
第1弾 ディリクレ積分の初等的証明
第2弾 矩形波・のこぎり波のフーリエ展開の初等的計算
第3弾三角関数類似によるディリクレベータ関数の特殊値の初等的計算(本記事)
何とやってることがだいたい全部一緒。
もう一つ二つ書けそうなことが残っているのでそのうち続きが出ますが
今回の記事は特に頑張った感があるので次はもっとこじんまりしていると思います。

投稿日:2024824
更新日:2024824
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  1. はじめに
  2. 道具立て
  3. 有限三角関数類似の計算
  4. 具体例の計算
  5. m=1の場合
  6. m=2の場合
  7. m=3の場合
  8. 有限三角関数類似とβ(2m+1)の関係
  9. ディリクレベータ関数の特殊値β(2m+1)のいくつかの計算
  10. m=1の場合
  11. m=3の場合
  12. $C_{m,j}^n$の一般項と$\beta(m)$
  13. 終わりに