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矩形波・のこぎり波のフーリエ展開の初等的計算

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前書き

矩形波、のこぎり波とは以下の図のような角ばった波だったり、
まさにのこぎりの刃のような波のことを言う。
矩形波 矩形波 のこぎり波 のこぎり波
名前自体はせいぜい概形を表してそう言うという水準で
具体的な数値を伴うものではないと思われるのでここではそれぞれ
次のような関数をそれとして取り扱う。

矩形波・のこぎり波

矩形波を表す関数
$$ f(x)=1 (0< x<1/2),f(x)=-1 (1/2< x<1),f(x+1)=f(x) $$
のこぎり波を表す関数
$$ g(x)=x (0< x<1),g(x+1)=g(x) $$

どちらも不連続となる点での値を定義していないが、そこはいろいろと流儀があったりで
今回そこにこだわった話はないので、一旦未定義としておく。
これらは区分的に連続な周期関数なのでフーリエ展開できる。

矩形波・のこぎり波のフーリエ展開

$$ f(x)= \frac{4}{\pi} \sum_{k=0}^{\infty} \frac{\sin((2k+1)2\pi x)}{2k+1} $$

$$ g(x)=\frac{1}{2}-\frac{2}{\pi}\sum_{k=1}^{\infty} \frac{\sin(2k\pi x)}{2k} $$

この記事では、これらのフーリエ展開について、極力初等的な範疇で証明することを目的とする。
なお、のこぎり波についての同趣旨の記事として
tyamada氏の Gauss関数のFourier級数表示の初等的証明 があるので
本記事のタイトルで興味をもって開いてくれた方は
こちらもご覧いただくことをお勧めする。
本記事は上記記事とは異なる方針となる。

方針

$f(x),g(x)$をなす級数の部分和である三角多項式は
そのままでは計算が難しいがそれを項別微分した物の
計算は難しくない。なのでここでは
(1)部分和を微分した物を計算し、
(2)それを積分して、
(3)極限を取る。
という直球勝負の作戦をとる。
(この直球勝負がしたかったというのが本記事の趣旨である)
ということで、和の計算を先に確認する

(1)cosの和の計算

$$ 2\sum_{k=0}^{n-1}\cos((2k+1)x)=\frac{\sin(2nx)}{\sin(x)} $$

$$ 2\sum_{k=1}^{n-1}\cos(2kx)=\frac{\sin((2n-1)x)}{\sin(x)}-1 $$
※和の取り方が上下で若干違う$(k=0とk=1)$ことに注意

いわゆる積和公式により
$2\sin(x)\cos((2k+1)x)=\sin(x+(2k+1)x)+\sin(x-(2k+1)x)=\sin(2(k+1)x)-\sin(2kx)$
ゆえ
$$ \frac{2}{\sin(x)}\sum_{k=0}^{n-1}\sin(x)\cos((2k+1)x)=\frac{1}{\sin(x)}\sum_{k=0}^{n-1}(\sin(2(k+1)x)-\sin(2kx))=\frac{\sin(2nx)}{\sin(x)} $$
同様に
$2\sin(x)\cos(2kx)=\sin(x+2kx)+\sin(x-2kx)=\sin((2k+1)x)-\sin((2k-1)x)$
ゆえ
$$ \frac{2}{\sin(x)}\sum_{k=1}^{n-1}\sin(x)\cos(2kx)=\frac{1}{\sin(x)}\sum_{k=1}^{n-1}(\sin((2k+1)x)-\sin((2k-1)x))=\frac{\sin((2n-1)x)-\sin(x)}{\sin(x)}=\frac{\sin((2n-1)x)}{\sin(x)}-1 $$

(2) 部分和の計算

得られた和を積分してやれば部分和の表示を得ることができる。
次のようになる。

$0< x<\pi$のとき
$$ 2\sum_{k=0}^{n-1} \frac{\sin((2k+1)x)}{2k+1}-2\sum_{k=0}^{n-1} \frac{(-1)^k}{2k+1}= \int_{\pi/2}^{x}\frac{\sin(2nt)}{\sin(t)}dt $$
$$ 2\sum_{k=1}^{n-1} \frac{\sin(2kx)}{2k}=\int_{\pi/2}^{x}\frac{\sin((2n-1)t)}{\sin(t)}dt-x+ \frac{\pi}{2} $$

証明はどちらも補題2の式を$\pi/2$から$x$までで定積分してやればよい。
($\sin(x)=0$とならないよう$x$の範囲を制限している)

(3) 極限の計算

ここまでの結果から$n \rightarrow\infty$の極限を考えるにあたって検討が必要となるのは次の形の極限である。

$m$を自然数として$m \rightarrow\infty$のとき
$$ \int_{\pi/2}^{x}\frac{\sin(mt)}{\sin(t)}dt\rightarrow0 (0< x<\pi) $$

これは「リーマン・ルベーグの補題」として知られる結果のごく特別な場合となるが、ここではそういったことを踏まえず計算によって示す。

分子を積分する形で部分積分を考えると
$$ \int_{\pi/2}^{x}\frac{\sin(mt)}{\sin(t)}dt=\left[\frac{-\cos(mt)}{m\sin(t)}\right]^x_{\pi/2}-\frac{1}{m}\int_{\pi/2}^{x}\cos(mt)\frac{\cos(t)}{\sin^2(t)}dt $$
$$         = \frac{1}{m}\left[\frac{-\cos(mt)}{\sin(t)}\right]^x_{\pi/2}-\frac{1}{m}\int_{\pi/2}^{x}\cos(mt)\frac{\cos(t)}{\sin^2(t)}dt $$
右辺の第1項および第2項はともに$1/m$を係数に持ち
$0< x<\pi$であることから$0<\sin(x)$であるので
発散しない有限の値を取る。
よって$m \rightarrow\infty$でともに$0$に収束する。すなわち
$$ \int_{\pi/2}^{x}\frac{\sin(mt)}{\sin(t)}dt\rightarrow0 $$
が言える。

この補題により計算を進めることができる

 定理1の証明

補題4より、まず
$$ 2\sum_{k=1}^{n-1} \frac{\sin(2kx)}{2k}=\int_{\pi/2}^{x}\frac{\sin((2n-1)t)}{\sin(t)}dt-x+ \frac{\pi}{2} $$
について$n \rightarrow\infty$とすると、積分の項が$0$となるので
$$ 2\sum_{k=1}^{\infty} \frac{\sin(2kx)}{2k}=-x+ \frac{\pi}{2} $$
$$ x=\frac{\pi}{2}-2\sum_{k=1}^{\infty} \frac{\sin(2kx)}{2k} $$
$x$$\pi x$と置き換えると
$$ \pi x=\frac{\pi}{2}-2\sum_{k=1}^{\infty} \frac{\sin(2k\pi x)}{2k} $$
$$ x=\frac{1}{2}-\frac{2}{\pi}\sum_{k=1}^{\infty} \frac{\sin(2k\pi x)}{2k} (0< x<1) $$
右辺の無限級数の項である$\sin(2k\pi x)$はいずれの自然数$k$についても周期$1$を持つ周期関数であるので
以上より定理1ののこぎり波$g(x)$の場合が示せた。

続いて
$$ 2\sum_{k=0}^{n-1} \frac{\sin((2k+1)x)}{2k+1}-2\sum_{k=0}^{n-1} \frac{(-1)^k}{2k+1}= \int_{\pi/2}^{x}\frac{\sin(2nt)}{\sin(t)}dt $$
について、$n \rightarrow\infty$とすると、積分の項が$0$となり
左辺第2項はいわゆるライプニッツ級数となるので
$$ 2\sum_{k=0}^{\infty} \frac{\sin((2k+1)x)}{2k+1}-2・ \frac{\pi}{4}= 0 $$
$$ \sum_{k=0}^{\infty} \frac{\sin((2k+1)x)}{2k+1}= \frac{\pi}{4} (0< x<\pi) $$
$x$$2\pi x$と置き換えると
$$ \sum_{k=0}^{\infty} \frac{\sin((2k+1)2\pi x)}{2k+1}= \frac{\pi}{4} (0< x<1/2) $$

さらに上記について$x$$x-1/2$に置き換えると
$$ \sum_{k=0}^{\infty} \frac{\sin((2k+1)2\pi(x-1/2))}{2k+1}= \frac{\pi}{4} (1/2< x<1) $$
$$  \sin((2k+1)2\pi(x-1/2)) $$
$$ =\sin((2k+1)2\pi x)\cos((2k+1)2\pi \cdot1/2)-\cos((2k+1)2\pi x)\sin((2k+1)2\pi \cdot1/2) $$
$$ =\sin((2k+1)2\pi x)\cos((2k+1)\pi )-\cos((2k+1)2\pi x)\sin((2k+1)\pi) $$
$$ =\sin((2k+1)2\pi x)\cdot(-1)-\cos((2k+1)2\pi x)\cdot0 $$
$$ =-\sin((2k+1)2\pi x) $$
ゆえ
$$ \sum_{k=0}^{\infty} \frac{-\sin((2k+1)2\pi x)}{2k+1}= \frac{\pi}{4} (1/2< x<1) $$
$$ \sum_{k=0}^{\infty} \frac{\sin((2k+1)2\pi x)}{2k+1}= -\frac{\pi}{4} (1/2< x<1) $$
ここまでの結果と$\sin((2k+1)2\pi x)$が周期$1$をもつ周期関数であることから
係数$\pi/4$を整理することで定理1の矩形波$f(x)$の場合が示せる。

終わりに

フーリエ級数展開を見たままの形からどういった関数になるのかという計算をできたので個人的な目的な十分に達せられ、ほぼほぼ満足した。
矩形波でライプニッツ級数が出てくるところは、うまいこと処理すれば
$\pi/4$を値にとる平易な積分になったりしないかと思わなくもないが
とはいえライプニッツ級数の計算自体もこの記事で現れるのと同程度の道具立てで計算できるので、まぁよかろう。

本記事で扱った関数はどちらも$\sin$の級数であるが、$\cos$の級数であっても
係数が同じであれば計算は同じようにできる。
関数としては$\log(\sin(x))$のようなやや見慣れない関数になるのだが
これを利用していろいろやることを考えており、これもいずれ記事にしたい。

投稿日:2023113
更新日:2023113

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