次の複素解析からの二つの問題を扱います。
ここでは、閉曲線といえば、区分的閉曲線のこととします。
一点穴あき平面内のループと回転数
とする。このとき、内のを始点とする閉曲線に対して、次の同値性が成り立つ。
が内で一点とホモトピック
ただし、に対し、のまわりの回転数をとする。
一方で、の場合では、まわりのループの回転数がであっても、一点とホモトピックとは限らないです。次のような例が考えられます。
二点穴あき平面内のループと回転数
二つの領域をとする。
とする。を内の閉曲線でをみたす適当なの字曲線とし、次の順に沿って、内の閉曲線であってだが一点とホモトピックでないものを作れ。
- とおくと、これは内の閉曲線で、を満たすことを示す。
- が内で一点とホモトピックと仮定すると、は内で一点とホモトピックとなることを示す。
- 実際にはが内で一点とホモトピックでないことを示し、を用いて、が内で一点とホモトピックでないことを示す。
上の二つの問題の背景には、次の被覆空間の理論があります。
以下、を位相空間とします。
被覆空間、被覆写像
を連続写像とする。
- の開集合が、に均一に被覆される(evenly covered)とは、 となることをいう。
- が上の被覆写像(covering map)であるとは、次の二つの条件を満たすことをいう。
- は全射である。
- 任意のに対し、ある内のの開近傍が存在し、はに均一に被覆される。
- が被覆写像であるとき、はの被覆空間(covering space)、はの底空間(base space)という。
最初に挙げた問題のが被覆写像になっていることを確かめてみましょう。位相空間論と複素解析の結果を使います。
連続全射であることはok。とする。ただし、偏角はの整数倍足したものも同一視する。の原点に関して反対側にに切れ込みを入れた集合を、とすると、これはの内の開近傍である。なので、とおけば、これらは内の開集合であり、である。(このことは、下の図を見ると分かりやすい。横長の帯がである。)
色相を偏角、絶対値を輝度に対応させて描いたの図(この図は以下のリンクを用いた:
https://samuelj.li/complex-function-plotter/)
あとは、が同相写像であることを示す。連続全単射であることは定義からok。
また、複素解析における開写像定理より、領域上の定数でない正則関数は開写像であるから、これは開写像である。よって、同相である。
したがって、は被覆写像である。(証明終)
さて、被覆写像の理論で重要な定理を二つ紹介します。まず、連続写像の持ち上げを定義します。
連続写像の持ち上げ
を被覆写像とする。また、を位相空間、を連続写像とする。このとき、連続写像がの持ち上げ(lift)であるとは、を満たすことをいう。
連続写像がに持ち上がっている
一つ目の定理として、道の持ち上げ定理という重要な定理を紹介します。
道の持ち上げ定理(Path Lifting Theorem)
を被覆写像、を内の曲線とする。
また、とする。
このとき、内の曲線がただ一つ存在し、かつはの持ち上げである。
道の持ち上げ定理の様子。ただし、が閉曲線でも、上の図のようにその持ち上げも閉曲線になるとは限らない。
証明は、参考文献や代数トポロジーの本に任せます。上の定理の具体例を、問題1を通して見ていきましょう。
道の持ち上げ定理の例(問題1)
内のを始点とする閉曲線に対して、
が内で一点とホモトピック
被覆写像で持ち上げて、被覆空間の方でホモトピーを作る!
はホモトピー型のコーシーの積分定理から直ちに従うので、を示す。既に示したように、は被覆写像である。よって、によるの持ち上げが存在することが道の持ち上げ定理から分かるが、具体的にを作ってみよう。ここで、より、となるようにすることにする。という感じで構成したいので、とし、と定めると、は内の曲線で、を満たす。
さらに、となることを示す。微積分学の基本定理より、であるから、
となる。よって、
なので、である。
今、仮定よりであるから、となり、が閉曲線になることが分かる。(つまり、底空間でののまわりの回転数がなら、持ち上げの終点が、始点の階層から別の階層に移動してしまうことがない!(※図3))
さて今、被覆空間は単連結領域であるから、は内で一点にホモトピックである。そのホモトピーをとする。このとき、とおくと、これは内の連続写像である。
より、は、内でを一点に縮めるホモトピーである。(証明終)
次で紹介する定理により、ホモトピーも被覆写像によって持ち上げることができます。
以下、単位閉区間をとします。
ホモトピーの持ち上げ定理(Homotopy Lifting Theorem)
を被覆写像、を連続写像、を内の曲線とする。任意のに対し、とする。このとき、連続写像がただ一つ存在し、を満たす。
この定理の複素解析版は、モノドロミー定理と呼ばれ、正則関数の解析接続で重要な定理です。証明は代数トポロジーの本に任せることにし、問題2を通して具体的な例を見ていくことにします。
ホモトピーの持ち上げ定理の例(問題2)
二つの領域をとする。
とする。を内の閉曲線でをみたす適当なの字曲線とし、次の順に沿って、内の閉曲線であってだが一点とホモトピックでないものを作れ。
- とおくと、これは内の閉曲線で、を満たすことを示す。
- が内で一点とホモトピックと仮定すると、は内で一点とホモトピックとなることを示す。
- 実際にはが内で一点とホモトピックでないことを示し、を用いて、が内で一点とホモトピックでないことを示す。
は被覆写像である。
を、内の曲線で以下の図のようなを始点とする四角いの字曲線とする。
は青線で左回りの閉曲線、は赤線で右回りの閉曲線、はそれらの和でできるの字曲線とする
このとき、上図よりであることが分かる。
1.とおくと、これは大体下図のような、を始点とする内の閉曲線になることが確かめられる。(実際の曲線の形は各自確かめよ。)
上の図では、は分かりやすいように丸めて書いている。
も分かりやすいように大げさに書いている。
上の図から回転数を計算すると、であることが分かる。例えば、まわりの回転数は、の右側の非有界領域からに向かう線に沿って考えれば、図の青線でされ、赤線でされるので、となる。
2.が内で一点とホモトピックと仮定し、そのを一点に縮めるホモトピーをとする。例1と同様にして、各を固定するごとに、と定めれば、これは内の連続写像となる。これが、を満たすことは、例1と同様に微分して分かる。まず、である。はを一点に縮めるホモトピーなので、は一点にホモトピックであり、よって、コーシーの積分定理より、である。また、であるが、これは例1と同様に微分することで、 が分かる。であるから、道の持ち上げ定理の一意性の部分より、となる。
以上より、は内でを一点に縮めるホモトピーである。
3.一方で、は内で一点とホモトピックでない。
実際、なので、例1の結果より従う。\
したがってこれは、2.の結果と矛盾するので、は内で一点とホモトピックでない。(証明終)
このように、二点穴あき平面の場合では、まわりの回転数がであっても、一点とホモトピックではないようなループが存在します。
穴が一個から二個に増えるだけで、状況が複雑になってしまうわけです。
今回はこれで終わりたいと思います。お疲れ様でした。