本記事では,少ない基礎知識でもわかるように可換環論について解説して行く予定ですが,例ではやや難しい対象を扱います。なるべく多くの具体例に触れながら解説していきます。そのため,やや冗長になってしまうかもしれません。
2024/5/20,21 指摘をうけ評価ミスと論理的ミスを訂正
まず,最も基本的な環は有理整数環$\mathbb{Z}$です。これは,整数全体の集合です。有理とついているのは後述する代数的整数との違いに気をつけるためです。とりあえずは気にしなくても良いです。
この有理整数環$\mathbb{Z}$では,足し算と引き算と掛け算をすることができます。鋭い方は,割り算は?と思われたかもしれません。実は,割り算は有理整数環$\mathbb{Z}$の範囲では,できないのです。例えば1÷2は整数じゃありません。つまり整数の割り算は整数になっておらず,有理整数環$\mathbb{Z}$に含まれないのです。整数同士の足し算,引き算,掛け算はちゃんと整数になることに注意してください。
さて,このような足し算と引き算と掛け算ができるようなものの集まりを環といいます。
これを,まとめると以下のようになります。
集合$A$が環であるとは,以下の条件を全て満たすことである。
(A1)Aにおいて二つの演算($+,×$)が定義されている。
(A2)演算$+$は次を満たす。
全ての$A$の元$a,b,c$について以下が成り立つ。
(結合法則)a+(b+c)=(a+b)+c
(単位元の存在)ある$A$の元0が存在して
a+0=0+a=a
(逆元の存在)全ての$A$の元aに対してある$A$の元bが存在して
a+b=b+a=0
(可換性)全ての$A$の元aに対してすべての$A$の元bに対して
a+b=b+a
(A3)演算×は次を満たす。
全ての$A$の元$a,b,c$について以下が成り立つ。
(結合法則)a×(b×c)=(a×b)×c
(単位元の存在)ある$A$の元1が存在して
a×1=1×a=a
(A4)
(分配法則)全ての$A$の元$a,b,c$について以下が成り立つ。
a×(b+c)=a×b+a×c
(a+b)×c=a×c+b×c
(A5)1と0は等しくない
有理整数環はこれらの性質を満たしています。確認してみてください。
$A=\{0,1\}$として1+1=0+0=0,0+1=1+0=1と定めるとこれは環になる.
また,実数全体などの体は環になる.(環にさらに条件を付け加えたものが体だからである)
実は,$p$を素数とした時に,有利整数環をmod pで考えた集合は環になる.
次に,部分環の概念について解説する.部分環は大切な考察対象ではあるが,群における部分群ほど性質がよくないため,環論の初歩ではあまり扱わない.
$A$:環,$B\subset A$:部分集合 が$A$の部分環であるとは,$B$が$A$と同じ演算で閉じており,かつ単位元1,0を含むことである.
いかなる環も自分自身を部分環として待つことに注意せよ.
実は有理整数環は部分環を自分自身以外に持たない.