標準的な整数の構成では,整数集合の定義およびその加法・乗法の定義において、自然数上の加法および乗法が既に与えられているものとして用いられる.
しかし,Peanoの公理において与えられるのは自然数,零元,後者関数,およびそれらが満たすべき公理のみであり,自然数の加法や乗法はそれとは別に定義されるものである.
この点を踏まえ,整数およびその演算は,自然数の加法・乗法を前提とすることなく,Peanoの公理において与えられるもののみに基づいて構成される方が自然であると考える.
本記事ではそのような立場から,整数集合およびその加法・乗法を,自然数,零元,後者関数および対などの集合論的な概念のみを用いて定義する方法を提案する.
提案する構成は,標準的な整数の定義と同型であり,計算上の利便性においては劣るものの,標準的な定義よりも自然であると考える.
1章,2章では標準的な自然数,整数の定義を見ていく.
3章では提案する整数の定義を示し,4章でそれらが標準的な整数の定義と同型であることを示す.
(提案する定義から見たい方は3章から)
自然数の定義として,以下のようなペアノの公理による定義がある.
ここでは,所謂我々が普通に使う「自然数」は以下のように定義される.
$1 = S(0)$
$2 = S(1)$
$3 = S(2)$
$...$
また,この$\mathbb{N}$上で加法・乗法は次のように定義される.
(以下では $\ n,m\in \mathbb{N}$ とする)
これによって,例えば1+1=2のような式を証明できる.
$$ \begin{flalign*} 1+1 &= 1+S(0)\\ &= S(1+0) \\ &= S(1) \\ &= 2 \end{flalign*} $$
ここまでは良い.
特に加法,乗法などは過不足なく綺麗に定義されている.
それでは次に整数を見ていこう.
一般に整数は自然数を用いて以下のように定義される.
$\mathbb{N}^2$上の同値関係~を次のように定義する.
$(a,b)\sim(c,d) :⇔ a+d=b+c$
また、$(a,b)\in\mathbb{N}^2$の~による同値類を$[a,b]$とする.
このとき、整数$\mathbb{Z}$を
$\mathbb{Z} := \mathbb{N}^2/\sim = \{[a,b]|\ a,b\in\mathbb{N}\}$
と定義する.
また,この$\mathbb{Z}$上で加法・減法・乗法は次のように定義される.
(以下では $a,b,c,d\in \mathbb{N},\ n,m\in \mathbb{Z}$ とする)
$[a,b]+[c,d] := [a+c,b+d]$
$-[a,b] := [b,a]$ (加法の逆元)
$n-m := n+(-m)$ (減法の定義)
$[a,b]\cdot [c,d] := [ac + bd, ad + bc]$
ここで一つ,違和感がある.
整数を$\mathbb{N}^2$の商集合として定義するのは良い.
自然数を利用することで新たな概念を導入せず,かつ自然数のもとで示した様々な定理をそのまま使い回せる.
うまいやり方だ.
しかし,同値関係,加法,乗法の定義.
これがいただけない.
これらの定義には,自然数の加法,乗法が利用されている.
だが,この2つの演算を定義せずとも,整数における同値関係,加法,乗法を定義することは可能であるはずだ.
確かに,自然数の加法も乗法も自然数の定義に付随するものではあるかもしれない.
論理としては整数の定義として完璧であるし,このような定義の方が「使う」際に便利であるというのにも異論はない.
それでもやはり,この定義には一定の違和感を感じる.
従って以降は,自然数の加法,乗法を一切用いずに整数,および整数の加法,乗法を定義していく.
(ここまでで定義した「同値関係」「整数の加法」「整数の減法」「整数の乗法」は一旦忘れ,新たに定義していく)
まず定義を列挙する.
それぞれの存在・一意性などは下で証明する.
(以下では $a,b,c,d\in \mathbb{N},\ n,m\in \mathbb{Z}$ とする)
$\mathbb{N}^2$上の同値関係~は以下を満たすとする.
(このような同値関係~がただ一つ存在する)
また,$(a,b)\in\mathbb{N}^2$の~による同値類を$[a,b]$とする.
このとき,整数$\mathbb{Z}$を
$\mathbb{Z} := \mathbb{N}^2/\sim = \{[a,b]|\ a,b\in\mathbb{N}\}$
と定義する.
2は,~が1を満たす同値関係の中で最小のものであることを言っている.
また,$\sim \subseteq R \iff (\forall n,m\in\mathbb{N}^2,\ n\sim m\Rightarrow nRm) $ に注意.
整数の零 $0_\mathbb Z$ を
$0_\mathbb Z := [0,0]$
と定義する.
整数の後者関数 $S_\mathbb{Z}$ を
$S_\mathbb{Z}([a,b]) := [S(a),b]$
と定義する.
$n+0_\mathbb Z = n$
$n+S_\mathbb{Z}(m) = S_\mathbb{Z}(n+m)$
$\forall n\in\mathbb{Z}\ \exists!m\in\mathbb{Z},\ n+m=0_\mathbb Z$
より、これを $-n:=m$ と書き、「$n$の(加法の)逆元」と呼ぶ.
$n-0_\mathbb Z = n$
$S_\mathbb{Z}(n-S_\mathbb{Z}(m)) = n-m$
$n\cdot 0_\mathbb Z = 0_\mathbb Z$
$n\cdot S_\mathbb{Z}(m) = n\cdot m + n$
見てわかる通り,$S$以外に自然数上での演算を使用していない.
さらに,加法・乗法は自然数とほぼ同じ($S→S_\mathbb{Z},0→0_\mathbb Z$)である.
そしてそうでありながら,これらは矛盾なく定義でき,標準的な整数,および整数の演算と等価である.
以下では,そのことを示していく.
先に,自然数に関する定理をいくつか提示しておく.
(証明略)
$a+0=0+a=a$
$S(a+b)=a+S(b)=S(a)+b$
$a+b = b+a$
$a_1+b=a_2+b\ \Rightarrow\ a_1=a_2$
$(a+b)+c = a+(b+c)$
$a\cdot 0=0\cdot a=0$
$a\cdot 1=1\cdot a=a$
$a\cdot b = b\cdot a$
$(a\cdot b)\cdot c = a\cdot (b\cdot c)$
$(a+b)\cdot c = a\cdot c + b\cdot c$
集合$X$と,$x\in X$,写像$g:X\rightarrow X$に対して,
以下を満たすような写像$\ f:\mathbb N\rightarrow X$がただ一つ存在する.
$f(0)=x,\ f\circ S=g\circ f$
同値関係について示していく.
$\mathbb{N}^2$上の同値関係~は以下を満たすとする.
(このような同値関係~がただ一つ存在する)
また、$(a,b)\in\mathbb{N}^2$の~による同値類を$[a,b]$とする.
このとき、整数$\mathbb{Z}$を
$\mathbb{Z} := \mathbb{N}^2/\sim = \{[a,b]|\ a,b\in\mathbb{N}\}$
と定義する.
定義9を満たす同値関係はただ一つ存在し、
$(a,b)\sim(c,d) ⇔ a+d=b+c$
$(a,b)\sim'(c,d) :⇔ a+d=b+c$とする.
$\therefore\ \sim'$は同値関係
$\therefore \forall a,b,c\in\mathbb{N},\ (a,b)R(a+c,b+c)$
$(a,b)\sim'(c,d)$と仮定すると、
$a+d = b+c$
☆より,
$(a,b)R(a+d,b+d)$
$(c,d)R(c+b,d+b)$
また,$(a+d,b+d)=(c+b,d+b)$
よって推移律により,$(a,b)R(c,d)$が言えるので,
$\sim'\subseteq R$
従って,$\sim'$は定義9.2を満たす.
以上より、定義9を満たす同値関係はただ一つ存在し,$\sim=\sim'$
即ち,$(a,b)\sim(c,d) ⇔ a+d=b+c$
$[a,b]=[S(a),S(b)]$
(定義より明らか)
整数の零を $0_\mathbb Z$ を
$0_\mathbb Z := [0,0]$
と定義する.
$0_\mathbb Z = [a,a]$
\begin{align}
0+a=0+a &⇔ [0,0]=[a,a] \\
&⇔ 0_\mathbb Z = [a,a]
\end{align}
$\therefore 0_\mathbb Z := [a,a]$
整数の後者関数 $S_\mathbb{Z}$ を
$S_\mathbb{Z}([a,b]) := [S(a),b]$
と定義する.
$[a,b]=[c,d]$とする.
定理12より $a+d=b+c$
よって,
\begin{align}
S(a)+d&= S(a+d) \\
&= S(b+c) \\
&= b+S(c)
\end{align}
より,$[S(a),b]=[S(c),d]$から,
\begin{align}
S_\mathbb{Z}([a,b])&=[S(a),b] \\
&= [S(c),d] \\
&= S_\mathbb{Z}([c,d])
\end{align}
$\therefore S_\mathbb{Z}$は$\text{well-defined}$
$S_\mathbb{Z}$は全単射であり,
${S_\mathbb{Z}}^{-1}([a,b]) = [a,S(b)]$
$P([a,b]) := [a,S(b)]$ とする.
($Pが\text{well-defined}$であることは$S_\mathbb{Z}$と同様に証明できる)
\begin{align}
S_\mathbb{Z}(P([a,b])) &= S_\mathbb{Z}([a,S(b)]) \\
&= [S(a),S(b)] \\
&= [a,b]
\end{align}
\begin{align}
P(S_\mathbb{Z}([a,b])) &= P([S(a),b]) \\
&= [S(a),S(b)] \\
&= [a,b]
\end{align}
よって$S_\mathbb{Z}$は全単射で ${S_\mathbb{Z}}^{-1}=P$
即ち, ${S_\mathbb{Z}}^{-1}([a,b]) = [a,S(b)]$
集合$X$と,$x\in X$,全単射の写像$g:X\rightarrow X$に対して,
以下を満たすような写像$\ f:\mathbb Z\rightarrow X$がただ一つ存在する.
$f(0_\mathbb Z)=x,\ f\circ S_\mathbb Z=g\circ f$
$\therefore f$は一意に存在する
$n+0_\mathbb Z = n$
$n+S_\mathbb{Z}(m) = S_\mathbb{Z}(n+m)$
定義12を満たす二項演算はただ一つ存在し,
$[a,b]+[c,d]=[a+c,b+d]$
二項演算$+':\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}→\mathbb{Z}$を
$[a,b]+'[c,d]:=[a+c,b+d]$
とする.
$+'$が$\text{well-defined}$であることを示す.
$[a,b]=[a',b'],[c,d]=[c',d']$とすると,
$a+b'=b+a',c+d'=d+c'$
よって,
\begin{align}
&(a+b')+(c+d')=(b+a')+(d+c') \\
⇔\ &(a+c)+(b'+d')=(b+d)+(a'+c') \\
⇔\ &[a+c,b+d]=[a'+c',b'+d']
\end{align}
から,
\begin{align}
[a,b]+[c,d] &= [a+c,b+d] \\
&= [a'+c',b'+d'] \\
&= [a',b']+[c',d']
\end{align}
より,$+'$は$\text{well-defined}$
$n+'0_\mathbb Z = n$を示す.
$n=[a,b]$とすると,
\begin{align}
n+'0_\mathbb Z &= [a,b]+'[0,0] \\
&= [a+0,b+0] \\
&= [a,b] \\
&= n
\end{align}
$n+'S_\mathbb{Z}(m) = S_\mathbb{Z}(n+'m)$を示す.
$n=[a,b],\ m=[c,d]$とすると,
\begin{align}
n+'S_\mathbb{Z}(m) &= [a,b]+'S_\mathbb{Z}([c,d]) \\
&= [a,b]+'[S(c),d] \\
&= [a+S(c),b+d] \\
&= [S(a+c),b+d] \\
&= S_\mathbb{Z}([a+c,b+d]) \\
&= S_\mathbb{Z}([a,b]+'[c,d]) \\
&= S_\mathbb{Z}(n+'m)
\end{align}
よって$+'$は定義12の条件を満たす.
以上より、定義12を満たす二項演算はただ一つ存在し,$+=+'$
即ち,$[a,b]+[c,d]=[a+c,b+d]$
このことから、以下の3つの定理が示せる(証明略).
$n+0_\mathbb Z=0_\mathbb Z+n=n$
$n+m=m+n$
$(n+m)+k=n+(m+k)$
$ $
$\forall n\in\mathbb{Z}\ \exists!m\in\mathbb{Z},\ n+m=0_\mathbb Z$
より、これを $-n:=m$ と書き、「$n$の(加法の)逆元」と呼ぶ.
$\forall n\in\mathbb{Z}\ \exists!m\in\mathbb{Z},\ n+m=0_\mathbb Z$
$n=[a,b]$とし,$m'=[b,a]$とする.
\begin{align}
n+m'&=[a,b]+[b,a] \\
&=[a+b,b+a] \\
&=[a+b,a+b]\\
&=0_\mathbb Z
\end{align}
よって$m'$は$n$の逆元.
ここで、逆元が一意であることを示す.
$m_1,m_2$が$n+m_1=0_\mathbb Z,n+m_2=0_\mathbb Z$を満たすとする.
このとき,
\begin{align}
m_1 &= m_1+0_\mathbb Z \\
&= m_1+(n+m_2) \\
&= (m_1+n)+m_2 \\
&= (n+m_1)+m_2 \\
&= 0_\mathbb Z+m_2 \\
&= m_2
\end{align}
よって、逆元は一意
以上より、逆元はただ一つ存在し,$m=m'$
即ち,$m=[b,a]$
$n-0_\mathbb Z = n$
$S_\mathbb{Z}(n-S_\mathbb{Z}(m)) = n-m$
定義14を満たす二項演算はただ一つ存在し,
$n-m=n+(-m)$
二項演算$-':\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}→\mathbb{Z}$を
$n-'m:=n+(-m)$
とし,
$n:=[a,b],\ m:=[c,d]$とする.
\begin{align}
[a,b]-'[c,d]&=[a,b]+(-[c,d])\\
&=[a,b]+[d,c]\\
&=[a+d,b+c]
\end{align}
に注意して,
よって$-'$は定義14の条件を満たす.
以上より、定義14を満たす二項演算はただ一つ存在し,$-=-'$
即ち,$n-m=n+(-m)$
$n\cdot 0_\mathbb Z = 0_\mathbb Z$
$n\cdot S_\mathbb{Z}(m) = n\cdot m + n$
定義15を満たす二項演算はただ一つ存在し,
$[a,b]\cdot[c,d]=[ac+bd,ad+bc]$
二項演算$\cdot':\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}→\mathbb{Z}$を
$[a,b]\cdot'[c,d]:=[ac+bd,ad+bc]$
とし,
$n:=[a,b],\ m:=[c,d]$とする.
$n\cdot' 0_\mathbb Z = 0_\mathbb Z$を示す.
\begin{align}
n\cdot' 0_\mathbb Z &= [a,b]\cdot'[0,0] \\
&= [a\cdot 0+b\cdot 0,a\cdot 0+b\cdot 0] \\
&= [0,0] \\
&= 0_\mathbb Z
\end{align}
$n\cdot' S_\mathbb{Z}(m) = n\cdot' m + n$を示す.
\begin{align}
n\cdot' S_\mathbb{Z}(m) &= [a,b]\cdot'S_\mathbb{Z}([c,d]) \\
&= [a,b]\cdot'[S(c),d] \\
&= [a\cdot S(c)+bd,ad+b\cdot S(c)] \\
&= [ac+a+bd,ad+bc+b] \\
&= [(ac+bd)+a,(ad+bc)+b] \\
&= [ac+bd,ad+bc]+[a,b] \\
&= [a,b]\cdot'[c,d]+[a,b] \\
&= n\cdot' m+n
\end{align}
定義15を満たす二項演算は一意であることを示す.
定義15を満たす$\cdot $を一つとる.
写像$f_n:\mathbb Z\rightarrow\mathbb Z$を$f_n(m):=n\cdot m$とし,
写像$g_n(k):=k+n$とする.
また,$h_n(k):=k+(-n)$とすると,
\begin{align}
g_n(h_n(k)) &= h_n(k)+n \\
&= (k+(-n))+n \\
&= k+((-n)+n) \\
&= k+0_\mathbb Z \\
&= k
\end{align}
\begin{align}
h_n(g_n(k)) &= g_n(k)+(-n) \\
&= (k+n)+(-n) \\
&= k+(n+(-n)) \\
&= k+0_\mathbb Z \\
&= k
\end{align}
より,${g_n}^{-1}(k) = h_n(k)$から,$g_n$は全単射.
このとき,
\begin{align}
f_n(0_\mathbb Z) &= n\cdot 0_\mathbb Z \\
&= 0_\mathbb Z
\end{align}
\begin{align}
f_n(S_\mathbb{Z}(m)) &= n\cdot S_\mathbb{Z}(m) \\
&= n\cdot m+n \\
&= g_n(n\cdot m) \\
&= g_n(f_n(m))
\end{align}
より,整数の再帰定理から,$f_n$は一意.
よって,$\cdot$は一意.
以上より、定義15を満たす二項演算はただ一つ存在し,$\cdot=\cdot'$
即ち,$[a,b]\cdot[c,d]=[ac+bd,ad+bc]$
以上のことから,提案する定義が標準的な定義と等価であることが言える.