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ここでは科学大数学系の修士課程の院試の2024午後02の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
午後02
多項式$X^5-2$の$\mathbb{Q}$上の最小分解体を$L$とおく。
- ガロア群$\mathrm{Gal}(L/\mathbb{Q})$の構造を生成元と関係式によって表しなさい。
- $5$次の可換$\mathbb{Q}$代数$A$で、$L\otimes_\mathbb{Q}A$が直積代数$L^5$と$L$代数として同型であるようなものを同型を除いて全て挙げなさい。
- まず$X^5-2$の根の一つを$a$とおき、$X^5-1$の原始根の一つを$b$とおく。このとき$L=\mathbb{Q}(a,b)$である。このとき$G=\mathrm{Gal}(L/\mathbb{Q})$は集合としては
$$
\sigma_{ij}(a)=ab^i
$$
$$
\sigma_{ij}(b)=b^j
$$
表される$\sigma_{ij}$たち全体である(但し$i$は$\mathbb{Z}/5\mathbb{Z}$を、$j$は$\left(\mathbb{Z}/5\mathbb{Z}\right)^\times$を走る)。よって
$$
{\color{red}\left\langle\sigma_{10},\sigma_{02}\middle|\sigma_{10}^5=1,\sigma_{02}^4=1,\sigma_{02}\sigma_{10}\sigma_{02}^{-1}=\sigma_{10}^2\right\rangle}
$$
と表される。 - まず$A$はアルティン$\mathbb{Q}$代数である。アルティン$\mathbb{Q}$代数はアルティン局所$\mathbb{Q}$代数の有限直積$A_1\times\cdots\times A_n$で表される。$L$線型空間の包含$A_i\otimes_\mathbb{Q} L\subseteq A\otimes_\mathbb{Q} L\simeq L^5$は(環準同型ではないが)環の積を保存する。よって$a_i\in A_i$が$a_i^n=0$を満たすとすると、$L^5$の被約性により$a_i=0$が従う。よって$A_i$たちは体である。ここで$x_i\in A_i$で、$A_i=\mathbb{Q}(x)$を満たすものをとり、$x$の$\mathbb{Q}$上の最小多項式を$f_i$とおく。このとき
$$
A_i=\mathbb{Q}[X]/(f_i)
$$
であるから、
$$
A\otimes_\mathbb{Q}L=L[X]/(f_1)\times\cdots\times L[X]/(f_n)
$$
と表される。これは$L$の拡大体$L_j$たちの直積になっている。ここで自然な全射環準同型$L^5\to L_j$が取れることと有限直積環のイデアルは各直積成分のイデアルの直積であることを考慮すると、$L_j=L$が従う。よって各$f_i$は$L$に於いて完全可約である必要がある。よって各$A_i$は$L$の部分体である。いま$L$は$\mathbb{Q}$上の$20$次拡大である。$L/\mathbb{Q}$の$4$次部分拡大はシローの定理から$M=\mathbb{Q}(b)$のみであり、$2$次部分拡大は$N=\mathbb{Q}\left(b+\frac{1}{b}\right)$のみである。一方$L/\mathbb{Q}$の$5$次部分拡大はシローの定理より$5$個でありこれらは全て共役である。以上から所望の$A$は同型を除いて
$$
{\color{red}\mathbb{Q}(a)}
$$
$$
{\color{red}\mathbb{Q}(b)\times \mathbb{Q}}
$$
$$
{\color{red}\mathbb{Q}\left(b+\frac{1}{b}\right)^2\times \mathbb{Q}}
$$
$$
{\color{red}\mathbb{Q}\left(b+\frac{1}{b}\right)\times \mathbb{Q}^3}
$$
$$
{\color{red}\mathbb{Q}^5}
$$
で尽くされている。これらの$\mathbb{Q}$代数が互いに同型でないことは、それぞれの環の極大イデアルの個数が上から$1,2,3,4,5$であることから従う。