導入
今回は,合同式というものについて考えてみたいと思います.合同式といえば,整数の話題として知っている人が多いでしょう.2つの整数,をある整数で割った余りが等しいなら,と書いて合同とする(等しいとみなす)というアレです.
しかし多項式にも余りがあるので,多項式にも合同式というものが定義されます.本稿では,整数の合同式からはじめて多項式の合同式を導入し,これを使って大学入試の問題を解いていきます.いつもの通り,大学数学すげえ!となりたいだけ.
牛刀の準備
整数の割り算と合同式
整数の商と余り
2つの整数,に対してとなる整数,(ただし)の組がただ一つ存在する.このををで割った商と呼び,ををで割った余りと呼ぶ.
小学校でもやりましたよね,割り算の商と余りの話です.これは今さら書くまでもないことかもしれません.
商と余りの一意性
「商と余りがただ一つ存在する」ということが少々気になる人もいるかと思います.そこで以下に証明を書いておきます.
証明
まず商と余りが存在することを証明する.としても一般性を失わないので以下この下で考える.数は実数ゆえ,となる整数が存在する.よってとおけばが得られる.そしてよりを得る.よって商と余りの存在が示せた.
次に一意性を証明する.そこで相異なる商と余りのペアが2個以上存在すると仮定し,そのうちの2つをととしてとる.すると
左辺はの倍数ゆえ右辺もの倍数.そしてであることよりとなるので,つまりと分かる.これを用いるととなりゆえと分かる.以上よりとなってしまうが,これは仮定に矛盾する.背理法より示された.
ここから(整数に対する)合同式が定義できます.
整数の合同
2つの整数,を自然数で割った余りが等しいことを
と書き,とはを法として合同であるという.
合同式の別定義
を「がの倍数となる」と定義する流派もあるようです.
また,以下の性質が成り立ちます.証明は容易なのでやってみてください.
多項式の割り算と合同式
多項式にも,整数と同様に割り算が定義できます.
多項式の割り算
多項式,に対して
となる多項式,がただ一つ存在する.このををで割った商と呼び,ををで割った余りと呼ぶ.
記号について
記号は多項式の次数を表す.つまり次多項式に対して.
ここから,整数と同様に,多項式にも合同式が定義できます.
多項式の合同
2つの多項式,を多項式で割った余りが等しいことを
と書き,とはを法として合同であるという.
また,整数の合同式と同様の性質が成り立ちます.
大学入試問題で牛刀割鶏
2021 早稲田大
2021 早稲田大学 基幹・創造・先進理工学部 第2問
整式について,以下の問いに答えよ.
(1) をで割ったときの余りを求めよ.
(2) をで割ったときの余りを求めよ.
(3) 自然数がの倍数であるとき,がで割り切れることを示せ.
解答
以下,を法とする.するとよりが成り立つ.
(1) とより,.よって求める余りは.
(2) 前問の結果よりで,これとを用いると,.よって求める余りは.
(3) とおける.およびを用いると.よって示された.
2019 京都大
2019 京都大学 文系 第1問 (1)
は実数とする.に関する整式を整式で割ったときの商を,余りをとする.のの次の項の係数がのとき,の値を定め,さらにとを求めよ.
解答
以下,を法とする.このときであり
となる.このとき
これがとなる.これの次の係数がゆえ,よって.このとき
そして
ゆえ.
2018 東京慈恵会医科大
2018 東京慈恵会医科大 医学部 第3問
自然数に対して,整式を次のように定める.
をで割った余りをとするとき,次の問いに答えよ.
(1) ,を求めよ.
(2) 極限値を求めよ.
解答
以下,を法とする.このとき
を得るので
を得る.
(1) ,なので,調べることにより,.
(2) 漸化式よりゆえ
よってなので,を考えると
ここでであるから