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牛刀割鶏 3 (多項式の合同式)

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導入

 今回は,合同式というものについて考えてみたいと思います.合同式といえば,整数の話題として知っている人が多いでしょう.2つの整数abをある整数pで割った余りが等しいなら,abと書いて合同とする(等しいとみなす)というアレです.
 しかし多項式にも余りがあるので,多項式にも合同式というものが定義されます.本稿では,整数の合同式からはじめて多項式の合同式を導入し,これを使って大学入試の問題を解いていきます.いつもの通り,大学数学すげえ!となりたいだけ

牛刀の準備

整数の割り算と合同式

整数の商と余り

 2つの整数ab (b0)に対してa=bq+rとなる整数qr(ただし0r<b)の組がただ一つ存在する.このqabで割った商と呼び,rabで割った余りと呼ぶ.

小学校でもやりましたよね,割り算の商と余りの話です.これは今さら書くまでもないことかもしれません.

商と余りの一意性

 「商と余りがただ一つ存在する」ということが少々気になる人もいるかと思います.そこで以下に証明を書いておきます.

証明

 まず商と余りが存在することを証明する.b>0としても一般性を失わないので以下この下で考える.数abは実数ゆえ,qab<q+1となる整数qが存在する.よってr=abqとおけばa=bq+rが得られる.そしてab1<qabより0r<bを得る.よって商と余りの存在が示せた.
 次に一意性を証明する.そこで相異なる商と余りのペアが2個以上存在すると仮定し,そのうちの2つを(q1, r1)(q2, r2)としてとる.すると
a=bq1+r1=bq2+r2,b(q1q2)=r2r1
左辺はbの倍数ゆえ右辺もbの倍数.そして0r1, r2<bであることよりb<r2r1<bとなるのでr2r1=0,つまりr1=r2と分かる.これを用いるとb(q1q2)=0となりb0ゆえq1=q2と分かる.以上より(q1, r1)=(q2, r2)となってしまうが,これは仮定に矛盾する.背理法より示された.

ここから(整数に対する)合同式が定義できます.

整数の合同

 2つの整数abを自然数pで割った余りが等しいことを
ab(mod p)
と書き,abpを法として合同であるという.

合同式の別定義

 ab (mod p)を「abpの倍数となる」と定義する流派もあるようです.

また,以下の性質が成り立ちます.証明は容易なのでやってみてください.

整数の合同式における性質

 以下,pを法とする.abかつcdが成り立つとき
a±cb±d,acbd,anbn (nN)
も成り立つ.

多項式の割り算と合同式

 多項式にも,整数と同様に割り算が定義できます.

多項式の割り算

 多項式A(x)B(x)に対して
A(x)=B(x)Q(x)+R(x),0degR(x)<degB(x)
となる多項式Q(x)R(x)がただ一つ存在する.このQ(x)A(x)B(x)で割った商と呼び,R(x)A(x)B(x)で割った余りと呼ぶ.

記号degについて

 記号degは多項式の次数を表す.つまりm次多項式P(x)に対してdegP(x)=m

ここから,整数と同様に,多項式にも合同式が定義できます.

多項式の合同

 2つの多項式A(x)B(x)を多項式P(x)で割った余りが等しいことを
A(x)B(x)(mod P(x))
と書き,A(x)B(x)P(x)を法として合同であるという.

また,整数の合同式と同様の性質が成り立ちます.

多項式の合同式における性質

 以下,P(x)を法とする.A(x)B(x)かつC(x)D(x)が成り立つとき
A(x)±C(x)B(x)±D(x),A(x)C(x)B(x)D(x),{A(x)}n{B(x)}n(nN)
も成り立つ.

大学入試問題で牛刀割鶏

2021 早稲田大

2021 早稲田大学 基幹・創造・先進理工学部 第2問

 整式f(x)=x4x2+1について,以下の問いに答えよ.
(1) x6f(x)で割ったときの余りを求めよ.
(2) x2021f(x)で割ったときの余りを求めよ.
(3) 自然数n3の倍数であるとき,(x21)n1f(x)で割り切れることを示せ.

解答

 以下,f(x)を法とする.するとx4x2+10よりx4x21が成り立つ.
(1) x4x21x2x2より,x6x4x2(x21)x2=1.よって求める余りは1
(2) 前問の結果よりx61で,これとx4x21を用いると,x2021xx4(x6)336x(x21).よって求める余りはx(x21)=x3x
(3) n=3k (kN)とおける.x61およびx4x21を用いると(x21)n1x12k1=(x6)2k1(1)2k1=0.よって示された.

2019 京都大

2019 京都大学 文系 第1問 (1)

 aは実数とする.xに関する整式x5+2x4+ax3+3x2+3x+2を整式x3+x2+x+1で割ったときの商をQ(x),余りをR(x)とする.R(x)x1次の項の係数が1のとき,aの値を定め,さらにQ(x)R(x)を求めよ.

解答

 以下,P(x):=x3+x2+x+1を法とする.このときx3+x2+x+10であり
(x1)(x3+x2+x+1)0,x41
となる.このとき
x5+2x4+ax3+3x2+3x+2x+2+a(x2x1)+3x2+3x+2(3a)x2+(4a)x+4a.
これがR(x)となる.これの1次の係数が1ゆえ4a=1,よってa=3.このとき
R(x)=x+1.
そして
(x5+2x4+ax3+3x2+3x+2)R(x)=x5+2x4+3x3+3x2+2x+1=(x2+x+1)P(x)
ゆえQ(x)=x2+x+1

2018 東京慈恵会医科大

2018 東京慈恵会医科大 医学部 第3問

 自然数nに対して,整式fn(x)を次のように定める.
f1(x)=x2+x14,fn(x)=f1(fn1(x))(n2)
fn(x)x2で割った余りをanx+bnとするとき,次の問いに答えよ.
(1) a2b2を求めよ.
(2) 極限値limnanを求めよ.

解答

 以下,x2を法とする.このとき
fn+1(x)={fn(x)}2+fn(x)14(anx+bn)2+(anx+bn)14(2bn+1)anx+bn2+bn14
を得るので
an+1=(2bn+1)an,bn+1=bn2+bn14
を得る.
(1) a1=1b1=1/4なので,調べることによりa2=1/2b2=7/16
(2) 漸化式よりbn+1+12=(bn+12)2ゆえ
bn+12=(b1+12)2n1=22n,bn=22n12.
よってan+1=212nanなので,k=1n1ak+1ak=ana1を考えると
ana1=2k=1n1(12k)=2(n1)2(2n11)=2n+12n,an=2n+12n.
ここでn+12n=2n(n+12n1) (n)であるから
limnan=0.

投稿日:2024228
更新日:2024317
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