まず初めに筆者は初心者なのでミスや誤植等あるかと思われます. なのでそれらを見つけた際はご指摘願います.
さて, タイトルにもある通り, 本稿では次の定理1を証明することを目標とします:
$X$を位相空間とすると以下の$(1)$と$(2)$は同値:
$\!(1)\ X$がパラコンパクトハウスドルフ.
$\!(2)\ X$が族正規メタコンパクト.
この定理はtwitterではよく見かけますが, そもそも族正規やメタコンパクトに関しては日本語の文献が極めて少ないですから, 調べようと思っても大変です. なので私が記事を書くことにしました.
では早速, 諸々の定義と注意から始めます. 以下$X$を位相空間とします.
${\mathcal{U}}$を$X$の部分集合族とする.
${\cdot}$ 任意の$x\in X$に対して${\mathcal{U}}$の高々有限個の要素としか交わらない$x$の近傍が存在するとき${\mathcal{U}}$は局所有限(locally finite)であるという.
${\cdot}$ ${\mathcal{U}}$が可算個の局所有限な族の和集合となっているとき${\mathcal{U}}$は$\sigma$局所有限(σ-locally finite)であるという.
${\cdot}$ 任意の$x\in X$に対して$x$を含む${\mathcal{U}}$の要素が高々有限個であるとき${\mathcal{U}}$は点有限(point finite)であるという.
${\cdot}$ $\mathcal{U},\mathcal{V
}$を$X$の被覆とする. このとき任意の$V\in\mathcal{V}$に対して$V\subset U$なる$U\in\mathcal{U}$が存在するとき$\mathcal{V}$は$\mathcal{U}$の細分(refinement)であるという. 特に$\mathcal{V}$が$X$の開被覆であるとき$\mathcal{V}$を$\mathcal{U}$の開細分(open-refinement)という.
${\cdot}$ Xの任意の開被覆が局所有限な開細分を持つときXはパラコンパクト(paracompact)であるという.
${\cdot}$ Xの任意の開被覆が点有限な開細分を持つときXはメタコンパクト(metacompact)であるという.
上の定義については[1]を参照しました. 以下注意として,
${\cdot}$ 正規, 正則空間は$T_{1}$であるとします.
${\cdot}$ 集合$A$に対して$|A|$をAの濃度とします.
明らかにパラコンパクトならばメタコンパクトです. 細分というのは部分被覆とは別物ですから注意してください. (部分被覆は細分だが、逆は不成立)
基本的な概念の定義が終わったところで, 族正規という正規よりも強い分離公理を定義します. 以下定義する概念や定理の証明は概ね[2]に従っています.
${\cdot}$ $\mathcal{U}$を$X$の部分集合族とする. このとき任意の$x\in X$に対して${\mathcal{U}}$の高々1個の要素としか交わらない$x$の近傍が存在するとき${\mathcal{U}}$は疎(discrete)であるという.
${\cdot}$ $X$が$T_{1}$であって任意の疎なXの閉集合族$\lbrace F_{s}\rbrace_{s\in S}$に対して疎なXの開集合族$\lbrace U_{s}\rbrace_{s\in S}$が存在して$F_s\subset U_s(s\in S)$となるときXは族正規(collectionwise-normal)であるという.
任意の2つの交わらない閉集合の族は疎ですから, 族正規ならば正規になります. ちなみに正規であるが族正規でない空間が存在します[3,Example G].
それでは, 定理1の証明に向けていろいろ示していきましょう. 次の定理2が定理1における$(1)\Rightarrow (2)$を示しています.
パラコンパクトハウスドルフならば族正規である.
$X$をパラコンパクトかつハウスドルフな空間, $\lbrace F_{s}\rbrace_{s\in S}$を疎な$X$の閉集合族とする. このとき$X$は正則だから任意の$x\in X$に対して$x$の近傍$H_{x}$で$\overline{H_{x}}\cap F_{s}\ne\emptyset$なる$F_{s}$が高々1個となるものが存在する. ここで${\mathcal{W}}$を$\lbrace H_{x}\rbrace_{x\in X}$の局所有限な開細分とし, 各$s\in S$に対して$V_{s}$を$$V_{s}=X\setminus\bigcup\bigl\lbrace\overline{W}:W\in\mathcal{W}\land\overline{W}\cap F_{s}=\emptyset\bigr\rbrace$$
と定める. このとき$F_s\subset V_s(s\in S)$であるから$\lbrace V_{s}\rbrace_{s\in S}$が疎ならよい. つまり任意の$W\in\mathcal{W}$に対して交わる$\lbrace V_{s}\rbrace_{s\in S}$の要素が高々1個ならよいが, それは$\overline{W}$が$F_{s}$と高々1個としか交わらないことからすぐにわかる. //
この定理はパラコンパクトハウスドルフならば正規というよく知られた結果を強めた結果になっていますね. では、定理1の$(2)\Rightarrow (1)$を示す前に次の補題を用意します(証明略).
$X$を正則空間とすると以下の$(1)$と$(2)$は同値:
$\!(1)\ X$がパラコンパクト.
$\!(2)\ X$の任意の開被覆が$\sigma$局所有限な開細分をもつ.
では, $(2)\Rightarrow(1)$を示していきましょう.
族正規かつメタコンパクトならばパラコンパクトである.
$X$を族正規かつメタコンパクトな空間, $\mathcal{U}=\lbrace U_{s}\rbrace_{s\in S}$を$X$の点有限な開被覆とする. 補題3から${\mathcal{U}}$が$\sigma$局所有限な開細分をもてばよい. これを示すために, 帰納的に疎な$X$の開集合の族$\mathcal{V}_{i}=\lbrace V_{T}\rbrace_{T\in\mathcal{T}_{i}}(i=0,1,\cdots$で$\mathcal{T}_{i}$は$S$の$i+1$個の元を持つ部分集合全体)で次の(1), (2)を満たすものを構成したい:
$$(1)\ \forall V_{T}\in\mathcal{V}_{i},\exists U_{s}\in\mathcal{U};V_{T}\subset U_{s}$$
$$(2)\ \lvert\lbrace s\in S:x\in U_{s}\rbrace\rvert\le i\Rightarrow x\in\bigcup_{j=0}^i W_{j}$$
(なお$W_{i}=\bigcup\mathcal{V}_{i}$とする)
まず$\mathcal{V}_{0}=\lbrace\emptyset\rbrace$とする. さらに$i\le k$なる範囲で(1), (2)をみたす$\mathcal{V}_{i}$が構成されているとして$\mathcal{V}_{k+1}$を構成する. まず各$T\in\mathcal{T}_{k+1}$に対して
$$(3)\ A_{T}=\biggl(X\setminus\bigcup_{j=0}^k W_{j}\biggr)\cap\biggl(X\setminus\bigcup_{s\notin T} U_{s}\biggr)$$
とする. このとき各$T\in\mathcal{T}_{k+1}$に対して$$(4)\ A_{T}\subset\bigcap_{s\in T} U_{s}$$
である. 実際, ある$x\in A_{T}$と$s_{0}\in T$が存在して$x\notin U_{s_{0}}$とすると, $x\in X\setminus\bigcup_{s\notin T} U_{s}$だから$x$を含む$\mathcal{U}$の要素は高々$k$個である. よって(2)から$x\in\bigcup_{j=0}^k W_{j}$となり矛盾する. 加えてここから$\lbrace A_{T}\rbrace_{T\in\mathcal{T}_{k+1}}$が疎であることを示していく. 以下$V(x)$は$x$の近傍を表す.
よって$\lbrace A_{T}\rbrace_{T\in\mathcal{T}_{k+1}}$は疎な閉集合の族であることがわかるから各$T\in\mathcal{T}_{k+1}$に対して$A_{T}\subset G_{T}$なる疎な開集合の族$\lbrace G_{T}\rbrace_{T\in\mathcal{T}_{k+1}}$が存在する. ここで$\mathcal{V}_{k+1}=\lbrace V_{T}\rbrace_{T\in\mathcal{T}_{k+1}}$を各$T\in\mathcal{T}_{k+1}$に対して$$(4)\ V_{T}=G_{T}\cap\bigcap_{s\in T} U_{s}$$
とする. このとき$\mathcal{V}_{k+1}$は疎な開集合の族であり, 任意の$s\in S$に対して$V_{T}\subset U_{s}$である. また高々$k$個の$\mathcal{U}$の要素に含まれる任意の$x\in X$をとるとある$T\in\mathcal{T}_{k+1}$が存在して$x\in X\setminus\bigcup_{s\notin T} U_{s}$であるから(3)より
\begin{align}
\quad\ x\in & \ X\setminus\bigcup_{s\notin T} U_{s}\\
=&\ \biggl\lbrace(X\setminus\bigcup_{j=0}^k W_{j})\cup\bigcup_{j=0}^k W_{j}\biggr\rbrace\cup\biggl(X\setminus\bigcup_{s\notin T} U_{s}\biggr)\\
\subset &\ A_{T}\cap\bigcup_{j=0}^k W_{j}
\end{align}
となる. このとき$A_{T}\subset G_{T}$かつ(3), (4)から$A_{T}\subset V_{T}\subset W_{k+1}.$ よって$x\in\bigcup_{j=0}^{k+1} W_{j}$となる. ここまでの議論により$\mathcal{V}_{k+1}$が構成できた. いま$\mathcal{U}$は点有限だったから(2)より$\bigcup_{i=1}^{\infty} \mathcal{V}_{i}$は$\mathcal{U}$の$\sigma$局所有限な開細分である. //
よって, 定理2と定理4から定理1の証明が終わります. お疲れ様でした.
${\cdot}$ 族正規という単語を調べると99%は正規族という別の数学用語がヒットする. このことが日本語の文献を探すのを格段と難しくしている. 何とかならないものか.
${\cdot}$ 位相空間論において疎集合(nowhere dense set)という別の概念もあり心底ややこしい. これもあって, 疎な閉(開)集合の族と日本語で書いたとき2通りの意味で解釈できるという問題が発生する.