2

α,βの少なくとも1つが無理数のとき、pα+qβ=1を満たす有理数p,qは

133
0
$$\newcommand{bm}[1]{\boldsymbol{#1}} \newcommand{disp}[0]{\displaystyle} \newcommand{Hom}[0]{\mathrm{Hom}} \newcommand{Im}[0]{\mathrm{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\mathrm{Ker}} \newcommand{matab}[2]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \end{pmatrix}} \newcommand{matac}[3]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \end{pmatrix}} \newcommand{matba}[2]{\begin{pmatrix} #1 \\ #2 \end{pmatrix}} \newcommand{matbb}[4]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \end{pmatrix}} \newcommand{matbc}[6]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \\ #4 & #5 & #6 \end{pmatrix}} \newcommand{matca}[3]{\begin{pmatrix} #1 \\ #2 \\ #3 \end{pmatrix}} \newcommand{matcb}[6]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \\ #5 & #6 \end{pmatrix}} \newcommand{matcc}[9]{\begin{pmatrix} #1 & #2 & #3 \\ #4 & #5 & #6 \\ #7 & #8 & #9 \end{pmatrix}} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb Z / #1 \mathbb Z} $$

日記です。


 最近、以下の事実に気がつきました。

$\alpha,\beta$が実数で、少なくとも1つが無理数であるとき、
$$ p\alpha+q\beta=1$$
を満たす有理数$p,q$の組は高々1組しか存在しない。

 直感的には$\alpha,\beta$をうまくとれば複数の組が作れるのではないかと思ったのですが、ちょっと意外な結果でした。

証明

 (無駄に)3通りの証明ができたので、1つずつ書いていきます。まずは計算のみで完結するもの。

$p\alpha+q\beta=1$を満たす有理数$p,q$の組が2組あるとし、
$$ p_1\alpha+q_1\beta=1, \qquad p_2\alpha+q_2\beta=1 \qquad (p_1,p_2,q_1,q_2 \in \mathbb Q)$$
とおく。第1式を$q_2$倍、第2式を$q_1$倍して差をとることにより、
$$ (p_1q_2-p_2q_1)\alpha=q_2-q_1$$
を得る。同様にして$\alpha$を消去することにより
$$ (p_1q_2-p_2q_1)\beta=p_1-p_2$$
を得る。ここで$p_1q_2-p_2q_1 \neq 0$と仮定すると、
$$ \alpha = \frac{q_2-q_1}{p_1q_2-p_2q_1}, \qquad \beta = \frac{q_2-q_1}{p_1q_2-p_2q_1}$$
より、$\alpha, \beta$が共に有理数となってしまい矛盾。よって$p_1q_2-p_2q_1 = 0$である。したがって$p_1-p_2=q_2-q_1=0$, すなわち$(p_1,q_1)=(p_2,q_2)$となるので、$p\alpha+q\beta=1$を満たす有理数$p,q$の組は高々1組である。

 少々天下り的でしょうか。最初に両辺の差をとって$(p_1-p_2)\alpha + (q_1-q_2)\beta=0$としたくなるかもしれませんが、これだとけっこう面倒になると思います。

 続いて、図形的な見方をするもの。

$p\alpha+q\beta=1$を満たす有理数$p,q$の組が2組あるとし、$$ p_1\alpha+q_1\beta=1, \qquad p_2\alpha+q_2\beta=1 \qquad (p_1,p_2,q_1,q_2 \in \mathbb Q)$$
とおく。これは、2直線
$$ p_1x+q_1y=1, \qquad p_2x+q_2y=1$$
が共に点$(\alpha,\beta)$を通ることを意味する。なお、明らかに$(p_1,q_1),(p_2,q_2)\neq(0,0)$であるので、2式は確かに直線を表す。2直線は共有点を持つので、1点で交わるか、一致するかのいずれかである。

 2直線が1点で交わると仮定する。一般に、$ax+by=c \ (a,b,c \in \mathbb Q)$ の形の異なる2つの直線の交点の座標は有理数となる(実際に確かめるには、1つ前の証明と同様に計算すればよい)。よって$\alpha,\beta$が共に有理数となってしまい矛盾。したがって、2直線は一致する。
 一般に、与えられた直線を$ax+by=c$の形の式で表すとき、表し方は定数倍を除いて一意である。今、
$$ p_1x+q_1y=1, \qquad p_2x+q_2y=1$$
の右辺が共に1なので、左辺も一致しなければならず、したがって$(p_1,q_1)=(p_2,q_2)$を得る。

 最初に思いついたのはこれです。というか、そもそも2直線の交点について考えていたときに今回の命題にたどり着いたのです。上の天下り的な計算も、この証明を元にして見つけました。最後までほぼ計算せずに済んでるのが良い感じですね(ちょっとごまかし気味ですが)。

 最後に、線形代数を用いる方法。

 $\{\alpha,\beta,1\}$の生成する$\mathbb Q$上のベクトル空間を$W$とおく。$\alpha,\beta$のうち少なくとも1つは無理数なので、$\{ \alpha,1 \}$, $\{ \beta,1 \}$のうち少なくとも1つは1次独立、したがって$W$は2次元以上である。

 $W$が3次元のとき、$\{\alpha,\beta,1\}$は1次独立である。よって、$p\alpha + q\beta + r=0 \ (p,q,r \in \mathbb Q)$を満たす$p,q,r$$p=q=r=0$しかない。特に、$p\alpha + q\beta -1=0$を満たす$p,q \in \mathbb Q$は存在しないことが分かる。

 $W$が2次元のとき、線形写像
$$ \varphi:\mathbb Q^3 \to W, \qquad \begin{bmatrix} p \\ q \\ r \end{bmatrix} \mapsto p\alpha + q\beta + r$$
は全射で、次元定理より$\Ker(\varphi)$は1次元である。よって、$\Ker(\varphi)$の元のうち$r=-1$であるものは高々1つしかないから、$p\alpha + q\beta -1=0$を満たす$p,q \in \mathbb Q$は高々1組しか存在しない。

 上2つの証明は「2組あるとすれば一致する」という論法でした。しかし、もっと直接的に1組しかないことを言う方法があるような気がして、考えてみたところこの証明にたどり着きました。最初は ハメル基底 でも使ってやろうかと考えていましたが、整理していった結果上の形に落ち着きました。
 このような見方をすれば、今回の問題は線形代数におけるありふれた問題の一種だったと思うことができますね。個人的には3つのうちで最も納得感のある証明です。

終わりに

 「計算だけではあんなに面倒だった証明が、見方を変えればあら不思議、簡単に証明できちゃいました!」……というのはよくある話ですが、今回の場合はどうでしょうか。あまり簡単になっていないような……。計算による証明が上手く行き過ぎました。やはり行列式は偉大。

 ではまた。

投稿日:88
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

koumei
koumei
29
5104
(2023/11/30)別名義を使ってましたが、OMCでの名義に揃えました。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中