線形代数の行列および行列式の計算、定義、定理を一通り押え、連立方程式の基本的な性質、(rankなど)を押さえている人。
また、ベクトル空間初学者、苦手と感じた方。
行列の和とスカラー倍の満たす性質を一般化してベクトル空間を定義する。
●和やスカラー倍の定められている集合をベクトル空間と呼ぶ。
●ベクトル空間には、行列のなす集合、数ベクトル空間、零空間、一変数多項式のなす集合などがあげることができる。
●ベクトル空間には零ベクトルが存在して、ただ一つに定めることができる。
●ベクトル空間内の任意の元に対して、その逆ベクトルが一意的に存在する。
実数全体の集合を$\mathbb{R}$とする
Vを集合とし、$\boldsymbol{x},\boldsymbol{y},\boldsymbol{z}$$\in{V},$ c,d$\in$$\boldsymbol{R}$とする。
Vに和という演算 $\boldsymbol{x}$$+$$\boldsymbol{y}$$\in{V}$
およびスカラー倍という演算 $c\boldsymbol{x}$$\in{V}$
が定められ、次の(1)~(8)を満たすときVをベクトル空間または線形空間という。またVの元をベクトルともいう。
(1) $\boldsymbol{x}$+$\boldsymbol{y}$=$\boldsymbol{y}$+$\boldsymbol{x}$ (和の交換律)
(2) $(\boldsymbol{x}$+$\boldsymbol{y})$+$\boldsymbol{z}$=$\boldsymbol{x}$+$(\boldsymbol{y}$+$\boldsymbol{z})$ (和の結合律)
(3) 零ベクトルと呼ばれるVの元$\boldsymbol{0}$が存在して、任意の$\boldsymbol{x}$に対して、$\boldsymbol{x}$+$\boldsymbol{0}$=$\boldsymbol{0}$+$\boldsymbol{x}$=$\boldsymbol{x}$ が成り立つ。
(4) $c(d\boldsymbol{x})$=$(cd)\boldsymbol{x}$ (和のスカラー倍の結合律)
(5) $(c+d)\boldsymbol{x}$=$c\boldsymbol{x}$+$d\boldsymbol{x}$ (分配律Ⅰ)
(6) $c(\boldsymbol{x}$+$\boldsymbol{y})$=$c\boldsymbol{x}$+$c\boldsymbol{y}$ (分配律Ⅱ)
(7) $1\boldsymbol{x}$=$\boldsymbol{x}$
(8) $0\boldsymbol{x}$=$\boldsymbol{0}$
零ベクトルのみからなる集合{$\boldsymbol{0}$}はどのような演算を行うにしてもすべて零ベクトルとなると定めることにする。よって上記の定義(1)~(8)を満たす。よって{$\boldsymbol{0}$}はベクトル空間となり、これを零空間と呼ぶ。
「和」という演算:$\boldsymbol{x}$+$\boldsymbol{y}$$\in{V}$
「スカラー倍」という演算:$c\boldsymbol{x}$$\in{V}$
「ベクトル空間」、「線形空間」:定義の(1)~(8)の演算を満たすときのVの総称
「ベクトル」:集合Vに属する一つ一つの要素(元)の総称
Vは集合、$\boldsymbol{x}、\boldsymbol{y}、\boldsymbol{z}$$\in{V}$, c,d$\in$$\mathbb{R}$
(3)の零ベクトル「$\boldsymbol{0}$」はVに属する元(ベクトル)の一つ。
今回c,d$\in$$\mathbb{R}$であるから、厳密にはVを「$\mathbb{R}$上のベクトル空間」と呼ぶが、$\mathbb{C}$上のベクトル空間などは考えないので単にベクトル空間と呼ぶことにする。またここで$\mathbb{C}$は複素数全体の集合である。($\mathbb{R}$$\subset$$\mathbb{C}$)
これらの条件を満たすようなVを「ベクトル空間」、「線形空間」と呼ぶ。
例1.1(行列のなす集合)
実数を成分とするm$\times$n行列全体の集合を$M_{m,n}( \mathbb{R} )$と書くことにする。m=nの時は、簡単に$M_{n}( \mathbb{R} )$とも書く。$M_{m,n}( \mathbb{R} )$は行列としての和およびスカラー倍によりベクトル空間になる。
行列のなす集合をベクトル空間としてとらえなおせることについての例。
ベクトル空間は必ずしも幾何学的なアプローチだけでなく、行列という代数的対象の集合にも、適切な演算を定義することでベクトル空間の構造を与えることができる。
同じサイズの行列全体の集合に、通常の行列の和とスカラー倍を定義するとベクトル空間の定義をすべて満たす。したがって、その集合はベクトル空間である。
例1.2(数ベクトル空間)
実数$x_{1}$,$x_{2}$,...,$x_{n}$を成分とするn次の列ベクトル全体の集合を $\mathbb{R}^{n}$ と書く。すなわち
$\mathbb{R}^{n}$ = $\lbrace\begin{eqnarray} \left( \begin{array}{cc} x_{1} \\ x_{2} \\ \vdots \\ x_{n} \end{array} \right) \end{eqnarray} \vert x_{1},x_{2}, \cdots,x_{n}\in \mathbb{R} \rbrace$
である。例1より$\mathbb{R}^{n}$は行列としての和およびスカラー倍を用いることによりベクトル空間になる。零ベクトルはすべての成分が0の数ベクトル$\boldsymbol{0}$である。$\mathbb{R}^{n}$を数ベクトル空間と呼ぶ。
先ほどの行列をなす集合からさらに列ベクトル、行ベクトルからなるベクトル空間についての例。
m$\times$n行列ではなく、さらに限定的な列ベクトルを考えた際に、(微積分では行ベクトルが用いられることもある)それらからなる集合$\mathbb{R}^{n}$は数ベクトル空間と呼ぶ。
主に用語の定義なので詳しくは省略する。列ベクトルとはいえ例1と同様に和、スカラー倍を考えることができるのでこれもベクトル空間であるから。
ベクトル空間を表現していく際、行列からなる集合を考えることができればわかりやすくてよいのだが、これ以外にも表現方法はある故、毎回行列からなる集合のベクトル空間ばかりではない。その例を一つ挙げておく。
例(多項式全体の集合)
実数係数のtからなる多項式全体の集合を$\mathbb{R}_{[t]}$とする。このとき$\mathbb{R}_{[t]}$は多項式の和、スカラー倍を行うことによりベクトル空間となる。
ベクトル空間を考える際、行列からなる集合以外の集合がベクトル空間となる例。
行列からなる集合だけでなく、多項式全体からなる集合もベクトル空間の定義を満たすこと。
今回$\mathbb{R}_{[t]}$はtについての多項式全体からなる集合なので、多項式どうしの和の結果も多項式、多項式どうしの積の結果も多項式であることに注目すると、$\mathbb{R}_{[t]}$はベクトル空間の定義を満たすから。
tについての多項式を考えていく際に、係数をすべて0としてしまえば、多項式の結果は$\boldsymbol{0}$となるので、多項式全体からなる集合の中に$\boldsymbol{0}$は含まれる。
$\Longrightarrow\boldsymbol{0}\in\mathbb{R}_{[t]}$
定理 ベクトル空間の零ベクトルは一意的(ただ一つに定まる)。
Vをベクトル空間として、$\boldsymbol{0}$,$\boldsymbol{0}'$をともにVの零ベクトルとすると-(1)
$\boldsymbol{0}'$=$\boldsymbol{0}'$+$\boldsymbol{0}$-(2)
=$\boldsymbol{0}$-(3)
よって$\boldsymbol{0}'$=$\boldsymbol{0}$-(4)
すなわち零ベクトルは一意的である。-(5)
一意的であることを示すためには以下の二つのことから導かれる。
$$
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
そもそも\boldsymbol{0}が存在する\\
その存在するものがただ一つに定まる
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
$$
まずベクトル空間には公理として零ベクトルが存在することが要求されているので、存在についての証明は今回不要。
次に一意的なことを証明するため、(1)ではベクトル空間V内に零ベクトルが$\boldsymbol{0}$と$\boldsymbol{0}'$の二つあることを仮定し、結果的にその二つは等しいことを示そうとする準備段階である。
零ベクトルもベクトル空間の元の一つなので、定義1の(3)の演算を使用可能(適宜参照)。$\boldsymbol{0}$は零ベクトルなので$\boldsymbol{0}'$に加えても等号は成立。
(2)と同様に、零ベクトルもベクトル空間の元の一つなので、定義1の(3)の演算を使用可能(適宜参照)。$\boldsymbol{0}'$は零ベクトルなので$\boldsymbol{0}$に加えても等号は成立。
この結論の根拠は(2),(3)より導かれる。
(4)の言い換え。はじめ異なるものとして自分で置いた二つの零ベクトルが等しいことを示せたので、この結論となる。
定理 $\boldsymbol{x}$に対して、$\boldsymbol{x}$の逆ベクトルは一意的に存在する。
まず$\boldsymbol{x}'$が存在することを示す。-(1)
$\boldsymbol{x}$+$(-1)\boldsymbol{x}$-(2)
=$1\boldsymbol{x}$+$(-1)\boldsymbol{x}$-(3)
=$(1+(-1))\boldsymbol{x}$-(4)
=$0\boldsymbol{x}$-(5)
=$\boldsymbol{0}$-(6)
なので、$\boldsymbol{x}$+$(-1)\boldsymbol{x}$=$\boldsymbol{0}$-(7)
よって、(-1)$\boldsymbol{x}$は$\boldsymbol{x}$の逆ベクトルである。-(8)
次に一意性を示す。$\boldsymbol{x}'$,$\boldsymbol{x}''$をともに$\boldsymbol{x}$の逆ベクトルとすると、-(9)
$\boldsymbol{x}''$
=$\boldsymbol{0}$+$\boldsymbol{x}''$-(10)
=($\boldsymbol{x}$+$\boldsymbol{x}'$)+$\boldsymbol{x}''$-(11)
=($\boldsymbol{x}'$+$\boldsymbol{x}$)+$\boldsymbol{x}''$-(12)
=$\boldsymbol{x}'$+($\boldsymbol{x}$+$\boldsymbol{x}''$)-(13)
=$\boldsymbol{x}'$+$\boldsymbol{0}$-(14)
=$\boldsymbol{x}'$-(15)
よって$\boldsymbol{x}'$=$\boldsymbol{x}''$-(16)
すなわち、逆ベクトルは一意的である。
先ほどの定理と同様に一意的であることを示すためには以下の二つのことから導かれる。
$$
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
そもそも\boldsymbol{x}'が存在する\\
その存在するものがただ一つに定まる
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}$$
今回$\boldsymbol{x}$の逆ベクトルを$\boldsymbol{x}'$として置いた。ちなみに$\boldsymbol{x}$の逆ベクトルとは($\boldsymbol{x}$+$\boldsymbol{x}'$)=$\boldsymbol{0}$を満たす$\boldsymbol{x}'\in{V}$のこと。
これらはベクトル空間の定義にある8つの演算から計算可能。
単に(2)~(6)までの計算結果をつなげたもの。
先ほど述べた逆ベクトルの定義の形と一致しているので、これは紛れもなく逆ベクトル。
単に(10)~(15)までの計算結果をつなげたもの。
$\boldsymbol{x}$逆ベクトルを表記する際、通常の演算と同様に$-\boldsymbol{x}$と書くことがある。(おそらく一般的にはそうなのかな)