ここでは東大数理の修士課程の院試の2022B03の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
整数$a,b$に対し、単射環準同型$\phi_{a,b}:\mathbb{Z}[X]\to\mathbb{Z}[Y,Z]$を
$$
\phi_{a,b}(X):=a(Y^5+Y^3Z^2)+bZ^6
$$
で定める。この準同型によって$\mathbb{Z}[Y,Z]$が自由$\mathbb{Z}[X]$加群になるためには、$\mathrm{gcd}(a,b)=1$であることが必要充分であることを示せ。
初めに充分性を示す。互いに素な$a,b$を取る。このとき単射
$$
\begin{split}
\mathbb{Z}[X]&\hookrightarrow A:=\mathbb{Z}[Y^5+Y^3Z^2,Z^6]
\end{split}
$$
を考えたとき、$at-bs=1$なる整数$s,t$に対して
$$
\begin{split}
\mathbb{Z}\left[Y^5+Y^3Z^2,Z^6\right]&=\mathbb{Z}\left[a(Y^5+Y^3Z^2)+bZ^6,s(Y^5+Y^3Z^2)+tZ^6\right]\\
&=\mathbb{Z}\left[a(Y^5+Y^3Z^2)+bZ^6\right]\left[s(Y^5+Y^3Z^2)+tZ^6\right]
\end{split}
$$
は自由$\mathbb{Z}[X]$加群であることがわかる。次に$\mathbb{Z}[Y^5+Y^3Z^2,Z]$は自由$\mathbb{Z}[Y^5+Y^3Z^2,Z^6]$加群である。次に$\mathbb{Z}[Y,Z]$は$\mathbb{Z}[Y^5+Y^3Z^2,Z]$上自由であるから、以上より$\mathbb{Z}[Y,Z]$は$\phi_{a,b}$によって自由$\mathbb{Z}[X]$加群になっている。
次に必要性を示す。$d=\mathrm{gcd}\{a,b\}$とおくと、$\phi_{a,b}$は
$$
\phi_{a,b}:\mathbb{Z}\qty[\frac{X}{d}]\to \mathbb{Z}[Y,Z]
$$
に拡張され、充分性の議論により$\mathbb{Z}\qty[\frac{X}{d}]$加群としての同型
$$
\mathbb{Z}[Y,Z]\simeq \mathbb{Z}\qty[\frac{X}{d}]^{\oplus \mathbb{N}}=:M
$$
が取れる。よって右辺が$\mathbb{Z}[X]$加群としては自由でないことを示せば良い。その為には$M':=\mathbb{Z}\qty[\frac{1}{d}]^{\oplus\mathbb{N}}$が$\mathbb{Z}$加群としては自由でないことを示せば充分である。自由であり、ある集合$I$及び$\{x_i\}_{i\in I}\subseteq M'$を適切に取ることで同型
$$
\mathbb{Z}\qty[\frac{1}{d}]^{\oplus \mathbb{N}}\simeq\bigoplus_{i\in I} x_i\mathbb{Z}
$$
が取れたとする。このとき$\frac{x_i}{d}$は$x_i\mathbb{Z}$の元でない一方、$x_i$は$x_i\mathbb{Z}$の元になり矛盾する。よって所望の結果が得られた。