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大学数学基礎解説
文献あり

じゃんけんの期待回数について

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はじめに

はじめまして、shiroppuです。
今回は私が研究しているじゃんけんについて書いていこうと思います。
間違った点もあるかもしれませんが、温かい目で見てもらえると嬉しいです。

じゃんけんを研究するわけ

私達は普段、大人数でじゃんけんをするとき、無意識の内に人数を分けたり、王様じゃんけん(下記参照)をしたりします。そのほうがじゃんけんの回数が少なくて済む、と感覚で判断しているためですが、本当にそうでしょうか?
しっかりとした証明を与えたい、そしてじゃんけんのさらなる効率化を考えたい。
数学徒の皆さんならウズウズしてきたのではないでしょうか。
ということで以下の問題を考えます。

n,a,bN,a>bとする。初期のじゃんけんの人数をn人とし、一度のじゃんけんで人数がa人からb人に推移する確率をp(a,b)、たった1人の勝者が決まるまでのじゃんけんの回数の期待値をE(n)とする。各種じゃんけんの推移確率pによって、E(n)の増加速度はどのように変わるだろうか。

今回はこのようなマルコフ性のあるアルゴリズムを取り扱います。

今回は私達が一番一般的にするじゃんけんのことを「通常じゃんけん」と呼び、他のじゃんけんとは区別します。

準備

まずはいくつか下準備をします。

E(n)の漸化式

nNに対しE(n)は存在し以下を満たす。
E(n)={0if n=0,11p(n,n)(1+i=1n1p(n,i)E(i)) if n>1,p(n,n)1

n>1のとき、マルコフ性より、
E(n)=i=1np(n,i)(E(i)+1)(1p(n,n))E(n)=1+i=1n1p(n,i)E(i)(i=1np(n,i)=1)
p(n,n)1 として
E(n)=11p(n,n)(1+i=1n1p(n,i)E(i))を得る。

通常じゃんけんの期待値

通常のじゃんけんでは推移確率pは以下のように設定される。

p(a,b)={13a1(ab)if a > b ,12a23a1if a = b
また、
E(n)=13n12n+2(3n1+i=1n1(ni)E(i)),E(1)=0

a>bのときは略
a=bのとき、p(a,b)はつまりあいこになる確率。
p(a,a)=1i=1a1p(a,i)=1i=0a13a1(ai)+23a1=12a23a1
よって、補題1より、E(n)の漸化式を得る。

またE(n)については、次のような事実が知られています。

通常じゃんけんの期待値E(n)について、次が成り立つ。
E(n)=Θ(32)n

https://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1205-9.pdf
をご参照ください。
補題2で得られた漸化式を用いて帰納的に証明できます。
具体的な形は
13(32)nE(n) (32)n
です。

とりあえずE(n)が指数関数的に増加する、ということが分かればOKです。
人数が増えるとじゃんけんの回数も莫大に増えるという感覚とマッチしていますね。

じゃんけんの工夫

それでは、冒頭でも述べたように、今回は日常生活でもよく使うであろう
①王様じゃんけん(王様に勝った人だけ残るじゃんけん。王様は参加者とは別に存在し、あいこの人も以降のじゃんけんには参加しません。)
②人数の分割
の2つについて、期待値のオーダーを調べていきます。

①王様じゃんけん

王様じゃんけんの推移確率と期待値

王様じゃんけんでは推移確率は以下のように設定される。
p(a,b)={2ab3a(ab)if a > b ,2a+13aif a = b
またn人でじゃんけんしたときの王様じゃんけんの期待回数をK(n)とすると、
K(n)=13n2n1(3n+i=1n12ni(ni)K(i)),K(1)=0

a>bのとき 略
a=bのとき、つまりあいこになる確率は、参加者が全員王様に勝利するか、全員あいこor負けとなる確率なので、
p(a,a)=(23)a+(13)a
よって、補題1よりK(n)の漸化式を得る。

ポイントはあいこになる確率で、補題2より通常のじゃんけんはa∞で1に収束しますが、王様じゃんけんの場合は0に収束することが分かります。当然ですがあいことなる確率は0に近い方が期待値も小さいことが補題1の漸化式からも分かります。

長らくお待たせしました。準備完了です。

王様じゃんけんの期待値

王様じゃんけんの期待値K(n)について、以下が成り立つ。
K(n)=Θ(log3n)

ブートストラッピング法

K(n)=O(log3n) の証明

nNについてK(n)an+b と仮定する。(a,b=const.)
このとき補題4より、1より大きい自然数nに対し
K(n)=13n2n1(3n+i=1n12ni(ni)K(i))13n2n1(3n+i=2n12ni(ni)(ai+b))=13n2n1(3n+i=0n2ni(ni)(ai+b)(an+b)2n1(a+b)n2nb)=13n2n1(3n+3n1an+3nb(an+b)2n1(a+b)n2nb)=13n2n1(3n+an(3n12n11)+b(3n2n1)2n1bn)=13n2n1(3n+an3(3n2n1)+b(3n2n1)2n6an23an2n1b)13an+b+1
これを繰り返すことで、tN に対し
K(n)(13)tan+t+bが成り立つ。
よって t=log3n とおくと、
K(n)(13)log3nan+log3n+b(13)log3nan+log3n+1+b=log3n+a+b+1
K(n)2nであることは帰納法で簡単に示せるので、
K(n)log3n+3
したがって K(n)=O(log3n)を得る。

K(n)=Ω(log3n)の証明
本筋は①と同じです。
nNに対して、
K(n)an+1+bが成り立つと仮定する。このとき、1より大きいnについて
K(n)=13n2n1(3n+i=1n12ni(ni)K(i))13n2n1(3n+i=0n2ni(ni)(an+1+b)2n(a+b)(an+1+b))13n2n1(3n+3n+1an+1+3nb2n(a+b)(an+1+b))=13n2n1(3n+3an+1(3n2n1)+b(3n2n1)+3a×2nn+1+3an+1)=3an+1+b+(n+1)3n+3a×2n+3a(n+1)(3n2n1)3an+1+b+1
よって帰納的にtNに対して
K(n)a3tn+1+t+b を得る。
t=log3nとおくと、]
K(n)log3(n+1)+a+b
nN について
K(n)1n+11が成り立つことは簡単に示せるので、a=1, b=1 として
K(n)log3(n+1)log3n
したがって、 K(n)=Ω(log3n) を得る。
①、②より、
log3(n+1)K(n)log3n+3 (n2)
すなわちK(n)=Θ(log3n)      (証明終)

王様じゃんけんの期待値の評価 王様じゃんけんの期待値の評価
このように何度も繰り返して不等式の精度を上げていく方法をブートストラッピング法というそうです。証明方法が面白いので気に入っています。
また、この定理より次のことが分かります。

K(n)について、以下が成り立つ。
limnK(n)log3n=1

nは1より大きい自然数とする。
log3(n+1)K(n)log3n+3log3(n+1)log3nK(n)log3n1+3log3n
nで右辺と左辺は共に1に収束する。
よってハサミウチの原理より
limnK(n)log3n=1

nを4以上の正整数とするとき、以下が成り立つ。
E(n)>K(n)

n7のとき
K(n)<log3n+3<13(32)n<E(n)
なので、あとは6以下のnについて調べることで系2を得る。

下図を見るのがわかりやすいです。
通常じゃんけんと王様じゃんけんの比較 通常じゃんけんと王様じゃんけんの比較

おわりに

王様じゃんけんだけで長くなってしまったので、②分割じゃんけんについては別の機会に触れようと思います。乞うご期待。
質問、改善案等あれば  https://x.com/shiroppuuuu  までご一報ください。
普段の研究発表では時間が短すぎて概要しか紹介できないので、こうしてじっくり見ていただけるのはとても嬉しいことだなと書いていて思いました。
それでは良いMathLifeを!

参考文献

[1]
伊藤暁 (Akira ITO), 井上克司 (Katsushi INOUE), 王躍 (Yue WANG), ジャンケンの計算量, 数理解析研究所講究録 1205 巻 2001 年 47-52, https://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/~kyodo/kokyuroku/contents/pdf/1205-9.pdf
投稿日:124
更新日:28日前
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投稿者

数学勉強中の高校生です

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  1. はじめに
  2. じゃんけんを研究するわけ
  3. 準備
  4. じゃんけんの工夫
  5. ①王様じゃんけん
  6. おわりに
  7. 参考文献