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大学数学基礎解説
文献あり

Commutative hyperoperationsの性質

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前書き

Commutative hyperoperationsという概念がある。
(長いので以降CHと呼ぶ。)
和訳すると「可換ハイパー演算」であり、
1915年Albert A. Bennettの論文[1]において考案された。
加算+と乗算×
x×y=elog(x)+log(y)
という関係を持つことを一般化し、
μ0(x,y)=x+y,μn+1(x,y)=eμ(log(x),log(y))
という漸化式で定義される2項演算μnの列がCHである。
(この式は元の論文とは違う表記をしている。)
似たような概念として、
x[0]y=x+y,x[n+1]y=x[n]x[n][n]xy copies of x
のような式で定義される2項演算の列、the hyperoperationsがある。
"Commutative hyperoperations"という命名は恐らくこれと比較してのものだと思う。
CHを定義する式から明らかに全ての項が可換である。
最近、 Tetration Forum のとあるスレッドを閲覧していた際にこの概念を知ったのだけど、
"CHの一般項はμn(x,y)=expn(logn(x)+logn(y))で、
さらに全ての隣接する2項は分配法則をもつ"という書き込み[2]があったが、
調べてもその証明が出てこなかったので自分で証明しようと思う。

表記の整理

前書きでexpという関数が出てきたがこれは指数関数でexp(x)=exである。
定義域などの細かいことを気にしないならexp1(x)=log(x)となる。
また関数の右上にnが乗っているがこれは関数の反復を表し
fn(x)=fffn copies of f(x)=f(f((fn copies of f(x)))),ただしf0(x)=x
である。
CHの一般項の式でlogの反復logloglog(x)が出現するがそもそもこのときxの定義域はどうすれば良いのだろうか。
力学系の相図を知っているのならxy平面上にy=xy=log(x)を描いて試して見てほしいが、
どんな実数xでもlogを重ねがけするごとにどんどん値は小さくなっていき、
最終的に負になり値を(実数の範囲で)定義できなくなる。

ここでlogは狭義単調増加だから
任意のnNについて、lognは狭義単調増加。
よって任意のnN, aRについて
x>expn(a)logn(x)>logn(expn(a))=a.
となる。

自然数nについて、実数の部分集合Sn
Sn:={Rif n=0{xRx>expn1(0)}otherwise
と定める。
{μn}n=0を漸化式
μ0(x,y)=x+y,μn+1(x,y)=exp(μ(log(x),log(y)))
によって定義される2項演算
μn:Sn2R
の無限列とする。

種々の性質

{μn}n=0の一般項は
μn(x,y)=expn(logn(x)+logn(y)).

μ0(x,y)=x+y=exp0(log0(x)+log0(y))
でありn=0のとき与式は成り立つ。
次にあるnNについて
μn(x,y)=expn(logn(x)+logn(y))
を仮定する。
このとき
μn+1(x,y)=exp(μn(log(x),log(y)))=exp(expn(logn(log(x))+logn(log(y))))=expn+1(logn+1(x)+logn+1(y))
数学的帰納法から題意は示された。

演算の閉性

任意のmnなるm,nNに対して、
任意のx,ySmについて
μn(x,y)Sm

定義1からSnSmであり、μn(x,y)が定義される。

m=n=0のとき:
加法+=μ0は実数R=S0について閉じている。

m=n1のとき:
命題1から
μn(x,y)=expn(logn(x)+logn(y)).
ここでlogn(x)+logn(y)Rよりexp(logn(x)+logn(y))>0.
ゆえに
expn(logn(x)+logn(y))=expn1(exp(logn(x)+logn(y)))>expn1(0).

m>nのとき:
x,y>expm1(0)より
logn(x),logn(y)>expmn1(0)0.
ゆえに
μn(x,y)=expn(logn(x)+logn(y))>expn(logn(x))>expn(expmn1(0))=expm1(0).

可換性

任意のnNに対して、
任意のx,ySnについて
μn(x,y)=μn(y,z).

自明である。

結合性

任意のnNに対して、
任意のx,y,zSnについて
μn(x,μn(y,z))=μn(μn(x,y),z).

μn(x,μn(y,z))=expn(logn(x)+logn(expn(logn(y)+logn(z))))命題1による=expn(logn(x)+logn(y)+logn(z))exp(log(x))=xによる=expn(logn(expn(logn(x)+logn(y)))+logn(z))=μn(μn(x,y),z)

分配性

任意のnNに対して、
任意のx,y,zSn+1について
μn+1(x,μn(y,z))=μn(μn+1(x,y),μn+1(x,z)).

μn+1(x,μn(y,z))=expn+1(logn+1(x)+logn+1(μn(y,z)))=expn(exp(logn+1(x)+logn+1(μn(y,z))))=expn(exp(logn+1(x))×exp(logn+1(μn(y,z))))=expn(logn(x)×logn(μn(y,z)))=expn(logn(x)×logn(expn(logn(y)+logn(z))))=expn(logn(x)×(logn(y)+logn(z)))=expn(logn(x)×logn(y)+logn(x)×logn(z))=expn(exp(logn+1(x))×exp(logn+1(y))+exp(logn+1(x))×exp(logn+1(z)))=expn(exp(logn+1(x)+logn+1(y))+exp(logn+1(x)+logn+1(z)))=expn(logn(expn+1(logn+1(x)+logn+1(y)))+logn(expn+1(logn+1(x)+logn+1(z))))=μn(μn+1(x,y),μn+1(x,z))
※指数法則による

単位元の存在

任意のnNに対して、
任意のxSnについて
あるenSnが存在して、
μn(x,en)=x.

n=0のとき:
加法+=μ0は単位元0R=S0をもつ。

n1のとき:
expn(0)>expn1(0).
ゆえに任意のnNに対して、
任意のxSnについて
あるen=expn(0)Snが存在して、
μn(x,en)=expn(logn(x)+logn(expn(0)))=expn(logn(x)+0)=expn(logn(x))=x.

逆元の存在

任意のnNに対して、
任意のxSnについて
あるxn1Snが存在して、
μn(x,xn1)=en

n=0のとき:
加法+=μ0は逆元xR=S0をもつ。

n1のとき:
logn(x)Rよりexp(logn(x))>0.
ゆえに
expn(logn(x))=expn1(exp(logn(x)))>expn1(0).
したがって
任意のnNに対して、
任意のxSnについて
あるxn1=expn(logn(x))Snが存在して、
μn(x,xn1)=expn(logn(x)+logn(xn1))=expn(logn(x)+logn(expn(logn(x))))=expn(logn(x)logn(x))=expn(0)=en

以上から任意のnNについて(Sn,μn)は可換群。
単位元en, 逆元xn1は一意に定まるが、
任意のnNについてen=expn(0)Sn+1より
(Sn+1,μn,μn+1)は環を成さない。

CHの一般項のexpn(logn(x)+logn(y))という形から、
拡張して両側無限列{μn}を構成できるかもしれない。
またCHのこれらの性質は加算と乗算とべき乗の代数的な構造をもとに成り立っているので、
同じ性質をもつ2項演算を用いて新たなCHを構成できるかもしれないが、
それゆえに書いててあまり面白くないと感じたのでこれ以上自分でCHについて書くことはないと思う。

参考文献

投稿日:2023428
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