筆者は教科書や講義などで正式に射影幾何学を学んだことはありません。
論証・論理が不十分・不正確である可能性があるのでご留意ください。
メネラウスの定理とチェバの定理の双対性について書かれているwebサイトや書き込みを以前にいくつか見たことがあります。その中には二つの定理が双対であると書かれているものもありましたがそれは正確ではないと思います。それぞれの定理に現れる図形が双対の関係(に近い)というだけで、メネラウスの定理とチェバの定理が双対というわけではないということです。
双対は射影幾何で取り扱われるものです。メネラウスの定理やチェバの定理はユークリッド幾何を含むアフィン幾何の定理なのでそのままでは双対定理を考えることはできません。
そこで、この記事では、メネラウスの定理とチェバの定理を射影幾何の範疇へ一般化したうえで、それらの双対定理を考えてみようと思います。
最初にこの記事で紹介する定理の簡略版を図でおいておきます。複比を角括弧で表します。
定理1
定理2の系1
定理3
定理4の系2
実際のところ、以上の図がこの記事のほぼすべてです。
これらは通常のメネラウスの定理とチェバの定理を使えばユークリッド平面(あるいはアフィン平面)ではほぼ明らかですが、射影平面でも成り立つところにこの一般化の意味があると私は思います。
以下の本文では逆も成り立つことを示すためにわざと回りくどく書いています。
この記事では、「複比」「斉次座標」「共線条件・共点条件」などの平面の射影幾何の基本事項は既知のものとして特に説明せず使います。
この記事は原則として射影平面で考えます。
(ユークリッド平面は無限遠点の集合[無限遠直線]を付け加えて射影平面になるようにすることができます。)
1直線上にある4点
1点を通る4直線
基準となる三角形を
この記事においてユークリッド平面における符号付き長さの比は
メネラウスの定理を射影平面で使える形に一般化することを考えます。
まず、射影平面では長さは定義されないため複比に置き換えます。ユークリッド平面において、一直線上にある3点が作る2つの有向線分の符号付きの長さの比は、その直線上にある無限遠点を含めた4点の複比に一致することを利用します。
また、純粋な射影幾何では無限遠直線を特別視する必要もないため、一般の直線で考えます。
すると、次のような一般化が考えられます。
射影平面上に
直線
直線
このとき、次の[i],[ii]は同値である。
定理1
ユークリッド平面の場合、tmにおける直線
ユークリッド平面においては、[ii]の式が2つのメネラウスの定理の式を辺々割ったものになっているので証明は容易です。
以下では射影平面における証明を(2通りの方法で)行います。
直線
以下、直線
◇直線
このとき
また、
ここで複比の性質より
①,②'より、条件[ii]は次のようになる。
◇直線
直線
また、一直線上にある5点が作る3つの複比に関する恒等式により、
③,④,⑤より、条件[ii]は次のようになる。
◇◇よって、直線
基準点が
直線
直線
直線
このとき、
点
点
点
斉次座標による複比の計算により、
となる。
ここで[i][ii]の条件を考えると次のようになる。
よって[i]と[ii]は同値である。
射影平面で成り立つ定理が得られたので、その双対定理も成り立ちます。
射影平面上に
点
このとき、次の[i],[ii]は同値である。
定理2
tmの双対なので、双対原理により真である。
注:双対であることがわかりにくいという方は次の囲みに書いたdtmの別表現とtmを比べてみてください。
射影平面上に3直線
直線
直線
このとき、次の[i],[ii]は同値である。
また、dtmがいえると次の系が簡単に示せます。
射影平面上に
直線
直線
このとき、次の[i],[ii],[iii]は同値である。
定理2 系1
ユークリッド平面においては、[iii]の式が2つのチェバの定理の式を辺々割ったものになっています。
dtmにおける直線
また、
であり、同様に
であるので、[ii]の式の両辺の逆数を取ることにより[iii]と同値であることがわかる。
ユークリッド平面の場合、定理2系1における点
チェバの定理を射影平面で使える形に一般化することを考えます。
まず、射影平面では長さは定義されないため複比に置き換えます。ユークリッド平面において、一直線上にある3点が作る2つの有向線分の符号付きの長さの比は、その直線上にある無限遠点を含めた4点の複比に一致することを利用します。
また、純粋な射影幾何では無限遠直線を特別視する必要もないため、一般の直線で考えます。
すると、次のような一般化が考えられます。
射影平面上に
直線
直線
このとき、次の[i],[ii]は同値である。
定理3
ユークリッド平面の場合、tcにおける直線
ユークリッド平面においては、[ii]の式がチェバの定理の式とメネラウスの定理の式を辺々割ったものになっているので証明は容易です。
以下では射影平面における証明を(2通りの方法で)行います。
直線
また、直線
複比の性質より
ここで、
次に、一直線上にある5点が作る3つの複比に関する恒等式により
また、複比の性質より
Ⅲ,Ⅳ,Ⅴより、
Ⅵより、条件[i]は次のようになる。
以下、直線
◇直線
このとき
また、
ここで複比の性質より
①,②'より、条件[ii]は次のようになる。
◇直線
直線
また、一直線上にある5点が作る3つの複比に関する恒等式により、
③,④,⑤より、条件[ii]は次のようになる。
◇◇よって、直線
基準点が
直線
直線
直線
このとき、
点
点
点
直線
斉次座標による複比の計算により、
となる。
ここで[i][ii]の条件を考えると次のようになる。
よって[i]と[ii]は同値である。
射影平面で成り立つ定理が得られたので、その双対定理も成り立ちます。
射影平面上に
点
このとき、次の[i],[ii]は同値である。
定理4
tcの双対なので、双対原理により真である。
注:双対であることがわかりにくいという方は次の囲みに書いたdtcの別表現とtcを比べてみてください。
射影平面上に3直線
直線
直線
このとき、次の[i],[ii]は同値である。
また、dtcがいえると次の系が簡単に示せます。
射影平面上に
直線
直線
このとき、次の[i],[ii],[iii]は同値である。
定理4 系2
ユークリッド平面においては、[iii]の式がメネラウスの定理の式とチェバの定理の式を辺々割ったものになっています。
dtcにおける直線
また、
であり、同様に
であるので、[ii]の式の両辺の逆数を取ることにより[iii]と同値であることがわかる。
ユークリッド平面の場合、定理4系2における点
冒頭に置いた簡単なまとめの図はそれぞれの定理や系の[i]
その内容を言葉で簡単にまとめると次のようになります。
この二つの間は、「三線極線・三線極点」の関係や「調和点列・調和線束」と複比に関する性質によって密接に関係しているのですが、私は簡潔に説明する自信がないので書くことはやめておきます。
(ただ、tcの証明その1の前半部分に二つの定理の関係性が多分に現れているので、そこを見れば何となくはつかめると思います。)