今回の記事では$p$は素数で$n$は正の整数であるとします。また$C_m$で位数$m$の巡回群を表します。
今回の目標は単位的可換環$\mathbb{Z}/p^n \mathbb{Z}$の単元群$(\mathbb{Z}/p^n \mathbb{Z})^\times$の群構造を求めることです。
整数$k$が$p^n$と互いに素であることの必要十分条件は$k$が$p$で割り切れないことなので、$(\mathbb{Z}/p^n \mathbb{Z})^\times$の位数は$p^n-p^{n-1}=p^{n-1}(p-1)$になります。
さて、以下が目標の定理です。
$p$を素数、$n \in \mathbb{N}$とする。このとき、$\mathbb{Z}/p^n \mathbb{Z}$の単元群$(\mathbb{Z}/p^n \mathbb{Z})^\times$の構造は以下のようになる。
$n \geq 3$のとき$(\mathbb{Z}/2^n \mathbb{Z})^\times$が巡回群にならないこと自体は簡単に分かります。実際、巡回群は位数$2$の元を高々1つしかもちませんが、$(\mathbb{Z}/2^n \mathbb{Z})^\times$は$2^{n-1} \pm 1, -1$と位数$2$の元を3つもつためです。
$p=2$における例外が有限群論に与える影響は非常に面白いです。例えばFrobenius補群の$\mathrm{Sylow}~ p$-部分群は巡回群であるか、あるいは$p=2$で一般化四元数群になります。
$(\mathbb{Z}/p^n \mathbb{Z})^\times$の位数は$p^n-p^{n-1}=p^{n-1}(p-1)$であり、$p \geq 3$のときこれは一般に複数の素因数をもちます。一方、$p=2$のときは$p^{n-1}(p-1)=2^{n-1}$ なので$(\mathbb{Z}/2^n \mathbb{Z})^\times$は$2$-群になります。
この事実は$\mathrm{Sylow}~ 2$-部分群が一般化四元数群であるような有限群は単純ではないというBrauer-鈴木の定理の証明でも用いられます。
また、$p$は$p^{n-1}(p-1)$を割り切る最大の素数です。実はこのことから、非可換有限単純群の位数はその最小素因数で2回以上割り切れるということが分かります。より詳しく書くと有限群$G$に対して、その位数の最小素因数に対応する$\mathrm{Sylow}$-部分群$P$が巡回群のとき、ある正規部分群$N$によって$G=P \ltimes N$と半直積でかけることが知られています。証明にはBurnsideの$p$-冪零定理が用いられます。
定理の証明に戻ります。まず、純群論的な簡単な命題を述べます。2通りで証明を述べます。
$G$を群、$x,y \in G$とし、それぞれの位数を$a,b < \infty$とする。また、$x$と$y$は可換であり$a,b$は互いに素であるとする。このとき、$xy$の位数は$ab$である。
$x$と$y$は可換なので$\langle xy\rangle $は2つの部分群$\langle x\rangle, \langle y\rangle$の積である。すなわち、$\langle xy\rangle=\langle x\rangle\langle y\rangle $である。$a,b$は互いに素なので$\langle x\rangle \cap \langle y\rangle = \{e\}$である。ゆえに$|\langle xy\rangle | = |\langle x\rangle\langle y\rangle| = |\langle x\rangle | \cdot|\langle y\rangle| / |\langle x\rangle \cap \langle y\rangle|=ab$である。ゆえに$xy$の位数は$ab$である。
$xy$の位数を$c$とする。$x^a=y^b=e$であり$x$と$y$は可換なので、$(xy)^{ab}=x^{ab}y^{ab}=(x^a)^b (y^b)^a=e$である。ゆえに$c$は$ab$の約数である。
一方、$e=(xy)^{ac}=x^{ac}y^{ac}=y^{ac}$なので$ac$は$b$の倍数である。$a,b$は互いに素なので$c$は$b$の倍数である。同様に$c$は$a$の倍数であることがわかる。よって$c$は$a,b$の公倍数であり、$a,b$は互いに素なので$c$は$ab$の倍数である。
したがって$c=ab$である。
次に定理の$n=1$の場合を改めて命題として述べておきます。証明の第1ステップとなる命題ですが、これ自身も重要です。
$F$を体とする。また、$H$を$F$の単元群$F^\times = F \setminus \{0\}$の有限部分群とする。このとき、$H$は巡回群である。とくに$(\mathbb{Z}/p \mathbb{Z})^\times \cong C_{p-1}$である。
アーベル群の構造定理から、$H$は$C_{n_1} \times \cdots \times C_{n_r} ~(r \in \mathbb{N}, n_1, \ldots ,n_r \in \mathbb{N} , n_1 | \cdots | n_r)$という形の群と同型です。このとき、任意の$g \in H$に対して$g^{n_r} = 1$が成り立ちます。ここで、$1$は体$F$の乗法単位元です。ところが$F$は体なので、方程式$x^{n_r}=1$は重解も込めて高々$n_r$個しか解をもちません。ゆえに、$|H| \leq n_r $を得ます。一方、$n_r \leq n_1\cdots n_r=|H|$なので$n_r = |H|$が従います。$|H|=n_1 \cdots n_r$より$n_i = 1(1 \leq i \leq r-1)$を得ます。ゆえに、$H \cong C_{n_r}$が成り立ちます。
準備ができたので、定理1を証明します。
概要としては位数$p-1$の元と位数$p^{n-1}$の元を見つけて命題2を使うというものです。位数$p-1$の元を見つけるときに帰納法を用いているのが他の文献との相違点です。
(1)$n$に関する帰納法で示します。$n=1$のときは命題2より成り立ちます。$n \geq 2$とします。帰納法の仮定から$(\mathbb{Z}/p^{n-1}\mathbb{Z})^\times$は巡回群なので、その生成元$g~ (\mathrm{mod} ~p^{n-1})$をとります。ここで$g \in \mathbb{Z}$です。$g~ (\mathrm{mod} ~p^n)$の$(\mathbb{Z}/p^n \mathbb{Z})^\times$における位数は$g~ (\mathrm{mod} ~p^{n-1})$の$(\mathbb{Z}/p^{n-1} \mathbb{Z})^\times$における位数の倍数になるため、とくに$g~ (\mathrm{mod} ~p^n)$の位数は$ p-1$の倍数になります。したがって、$g^a~ (\mathrm{mod} ~p^n)$の位数が$p-1$になるような$a\in \mathbb{Z}$がとれます。
以後$\mathrm{mod }$は$p^n$や$2^n$で考えるので表記の都合上省略します。
さて、位数$p^{n-1}$の元がとれれば、命題2と前段落で示したことから位数$p^{n-1}(p-1)$の元が得られるので証明が終わります。そこで以下では$1+p$の位数が$p^{n-1}$であることを示します。二項定理から、
$$ (1+p)^{p^{n-1}} = 1+ \sum_{i=1}^{p^{n-1}} \binom{p^{n-1}}{i} p^i$$
であり$\binom{p^{n-1}}{i} = \frac{p^{n-1}}{i}\binom{p^{n-1}-1}{i-1}$なので$\binom{p^{n-1}}{i} p^i$は$ p$で$n+i-1-v_p(i)$回以上割り切れます。ここで、$v_i(p)$は$i$が$p$で割り切れる回数です。簡単な考察により任意の$i \geq 1$に対して$n+i-1-v_p(i) \geq n$が分かり、$ (1+p)^{p^{n-1}} \equiv 1 $を得ます。ゆえに$1+p$の位数は$p^{n-1}$を割り切ります。
さて、$1+p$の位数が$p^{n-2}$で割り切れないことが分かれば証明完了です。
$$ (1+p)^{p^{n-2}}= 1+p^{n-1} + \sum_{i=2}^{p^{n-2}} \binom{p^{n-2}}{i} p^i$$
であり上と同様にして$\binom{p^{n-2}}{i} p^i$は$ p$で$n+i-2-v_p(i)$回以上割り切れます。 $p \geq 3$なので任意の$i \geq 2$に対して$n+i-2-v_p(i) \geq n $が分かり、$(1+p)^{p^{n-2}} \equiv 1 +p^{n-1} $を得ます。
よって$1+p$の位数は$p^{n-2}$では割り切りません。したがって、$1+p$の位数は$p^{n-1}$であり、命題2より$g^a(1+p) $の位数は$p^{n-1}(p-1)$になります。よって$p \geq 3$のとき、$(\mathbb{Z}/p^n \mathbb{Z})^\times$は巡回群であると分かります。
(2)は明らかです。
(3)$5$の位数が$2^{n-3}$を割り切らないことを(1)と同様の方法で示します。
$$5^{2^{n-3}}=(1+2^2)^{2^{n-3}}= 1+2^{n-1}+\sum_{i=2}^{2^{n-3}} \binom{2^{n-3}}{i} 2^{2i}$$であり、$\binom{2^{n-3}}{i} 2^{2i}$は$2$で$n+2i-3-v_2(i)$回割り切れます。任意の$i \geq 2$に対して$n+2i-3-v_2(i) \geq n$なので$5^{2^{n-3}} \equiv 1+2^{n-1}$を得ます。よって$5$の位数は$2^{n-3}$を割り切りません。$(\mathbb{Z}/2^n \mathbb{Z})^\times$の位数は$2^{n-1}$だったので$5$の位数は$2^{n-2},2^{n-1}$のいずれかです。ところが、余談で述べたことから$(\mathbb{Z}/2^n \mathbb{Z})^\times$は巡回群ではないので、$5$の位数は$2^{n-2}$であると分かります。
さて、実はこの時点で$-1 \notin \langle 5 \rangle$が
既に言えています。実際、巡回部分群$\langle 5 \rangle$には位数$2$の元がただ一つ存在し、それは$5^{2^{n-3}}$です。$5^{2^{n-3}} \equiv 1+ 2^{n-1} \not\equiv -1$なので$-1 \notin \langle 5 \rangle$です。よって、位数に関する考察から$(\mathbb{Z}/2^n \mathbb{Z})^\times = \langle 5\rangle \times \langle -1\rangle$と内部直積に分解できることが分かります。
(3)の証明で$2^{n-1}$の約数が$1,2,4,8,\ldots,2^{n-2},2^{n-1}$のように整除関係に関して1列に並んでいることを用いています。この性質は非常にありがたく、有限群論で$p$-群の作用について考えるとき等で役に立ちます。
$p=2$の場合だけ群構造が違うため、(1)の証明では$p \geq 3$が本質的に重要な箇所があります。それは$1+p$の位数が$p^{n-2}$で割り切れないことを示す際に用いた、任意の$i \geq 2$に対して$n+i-2-v_p(i) \geq n $であるという所です。$p=2$では$i=2$のとき、この値は$n-1$になり、その結果$(1+2)^{2^{n-2}} \equiv 1$となってしまうのです。
ところで(3)の証明では$3=1+2$ではなく、$5=1+2^2$を用いました。実は$3$を用いてもよいです。$3$を用いなかった理由は$(1+2)^{2^{n-3}}$を展開して$\mathrm{mod}$をとるときに$i=2,4$の項が消えてくれず、計算が重たくなるからです。$5$を用いると、展開して現れる項が$2$でたくさん割り切れてくれるため、計算が少なくて済みます。