天才置換を合理的に① を読んで を読んで
次の例を考えてみよう.
$$\int_{0}^{x} \frac{dx}{ \sqrt{1-x^2} } = 2\int_{0}^{t} \frac{dt}{ \sqrt{1-t^2} } $$
$x=2t^2-1$とおくと$dx= 4tdt$ , $1-x^2=4t^2-4t^4$より,この等式は成り立つ.また,$x=2t \sqrt{1-t^2} $ とおいても成り立つ.どうやって思いついたか考えてみよう.
$$ \int_{0}^{x} \frac{dx}{1+x^2} + \int_{0}^{t} \frac{dt}{1+t^2} = \frac{\pi}{4} $$
$$x= \frac{1-t}{1+t} $$とおいてみよう.左辺第1項は
$$ - \int_{1}^{t} \frac{dt}{1+t^2}$$
となるであろう.
$$ \int_{0}^{1} \frac{dt}{1+t^2} = \frac{\pi}{4} $$
である.したがって等号は成立することになる.
これは何を意味するのか?
この積分は$ \arctan x$ である.
$\arctan x=\theta_1$ , $\arctan t =\theta_2$ とおくと,
$$ \theta_1 + \theta_2 = \frac{\pi}{4} $$
$$\tan \theta_1 = \frac{1-\tan \theta_2}{1+ \tan \theta_2} $$
を得る.
この話題は「楕円積分」に通じている.
$$ \frac{dy}{ \sqrt{(1-y^2)(1-\lambda^2y^2)} } = \frac{dx}{M \sqrt{(1-x^2)(1-k^2 x^2)} }$$
を満たす代数的な関数 $F(x,y)=0$ を楕円関数の「変換」とよぶ.
Abelは1828年に楕円関数の変換を全て求めた.
Jacobiも1829年に同様の研究から独自に結果を得た.
Landenは1775年にLanden変換と呼ばれる変換およびそのときの母数の関係式を与えた.変換による母数の関係式をモジュラー方程式とよぶ(高瀬正仁氏による).
$\lambda = k$ の場合,楕円関数が代数的な関数による変換をもつとすれば,$a=M^{-1}$は有理数か虚2次無理数でなければならない.
Jacobiの楕円関数$sn(u)とsn(au)$が代数方程式を満たすとき,$sn(u)$は虚数乗法をもつという($a$が虚2次無理数の場合に限る).このとき$k^2$を特異母数とよぶ.特異母数の満たす関係式を特異モジュラー方程式とよぶ.