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大学数学基礎解説
文献あり

確率論小ゼミ第1回 〜集合体, σ-集合体, 可測空間

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更新履歴

  • (2023-05-05 01:05) 公開
  • (2023-05-05 20:30) 大部分修正
  • (2023-05-08 01:30) 表現一部変更
  • (2023-12-28 16:52) 定理2(3)解答一部変更

目次

  1. 確率論のモチベ
  2. 集合体
  3. $\sigma$-集合体
  4. 可測空間
  5. 演習問題
  6. おわりに

確率論のモチベ

高校で学ぶ確率の曖昧さ

 高校で学ぶ確率はかなり曖昧のものである.その曖昧さのせいで,確率に苦手意識を持っている人は多いのではないだろうか.しかし,確率論を学ぶことによって,その曖昧さを払拭できるかもしれない.事実私も高校の頃,確率は大の苦手で,確率の問題を見た瞬間に逃げていたが,確率論を学んだ今では,大抵の問題はラクラク解くことができている.

 例えば,次の例題を見てもらいたい.

1から6までの数字が書かれている6面体サイコロを3つ同時に振る.但し,どの出目も同様に確からしいとする.このとき,3つの出目の和が5となる確率はいくらか.

大抵は,次のように解くだろう.

3つの出目の和が5となる事象を$A$とする.すると,
$$~~~~~~~~ A = \{(1, 1, 3), (1, 3, 1), (3, 1, 1), (1, 2, 2), (2, 1, 2), (2, 2, 1)\} $$
であるから,求める確率は,
$$~~~~~~~~ P(A) = \frac{6}{6^3} = \frac{1}{36} $$

この答えは別に間違っているわけではないが,このような答えを書く際,もしくはそれ以前に,次のような疑問を感じた人はいないだろうか.

  • $P(\cdot)$って関数? だとすると,$P$の定義域と値域って何?
  • 全事象(標本空間)を$\Omega$(有限)としたとき,何で$P(A) = \frac{|A|}{|\Omega|}$で定義されてるん?
  • $\Omega$の要素数が無限にあるとき,$P(A)$ってどうなるん?

ってか,これに疑問を持った人ははっきり言って数学科に向いてますw


この確率論小ゼミとは

この確率論小ゼミでは,確率の概念を1から丁寧にわかりやすく解説していくつもりである.但し,ある程度集合論(大学教養レベル)の知識を有しているのが望ましい.今回は,集合体, $\sigma$-集合体, 可測空間について解説していく.


集合体

集合体とは

集合体

標本空間$\Omega$上の集合体とは,次の[1], [2], [3]を満たす集合族$\mathscr{A}$のことである.
[1] $\Omega \in \mathscr{A}$
[2] $A \in \mathscr{A} ~ \Longrightarrow ~ A^c \in \mathscr{A}$
[3] $A, B \in \mathscr{A} ~ \Longrightarrow ~ A \cup B \in \mathscr{A}$

この定義を言葉で書くと,次のようになる.

  1. 全体集合(標本空間)は$\mathscr{A}$に入っている.
  2. $\mathscr{A}$から1つの要素を取り出したとき,その補集合も$\mathscr{A}$に入っている.
  3. $\mathscr{A}$から2つの要素を取り出したとき,その和集合も$\mathscr{A}$に入っている.

$\mathscr{A}$(\mathscr{A})はAの花文字よ.集合族であることを強調するために花文字が使われてるんよ.文献によっては,$\mathcal{A}$(\mathcal{A})だったり,$\mathfrak{A}$(\mathfrak{A})だったりするから,そこら辺は臨機応変に対応してねw

  1. $\mathscr{A}$は集合族,つまり集合の集合である.
  2. $A^c$$A$の補集合であり,$\Omega$上であれば,$A^c = \Omega \backslash A$ と書ける.

集合体の例

さて,次の例で集合体について理解を深めよう.

$\Omega = \{1, 2, 3\}$とする.このとき,次の集合族$\mathscr{A}_1, \mathscr{A}_2, \mathscr{A}_3$$\Omega$上の集合体である.
\begin{align}~~~~~~~~ \mathscr{A}_1 &= \{\varnothing, \Omega\}\\ \mathscr{A}_2 &= \{\varnothing, \{1\}, \{2, 3\}, \Omega\}\\ \mathscr{A}_3 &= 2^\Omega = \{\varnothing, \{1\}, \{2\}, \{3\}, \{1, 2\}, \{1, 3\}, \{2, 3\}, \Omega\} \end{align}


$\mathscr{A}_1$について
  1. $\Omega \in \mathscr{A}$よりok.
  2. $\varnothing^c = \Omega \in \mathscr{A}$よりok.
  3. $\varnothing, \Omega \in \mathscr{A} ~ \Longrightarrow ~ \varnothing \cup \Omega = \Omega \in \mathscr{A}$よりok.

$\mathscr{A}_2$について
  1. $\Omega \in \mathscr{A}$よりok.
  2. $\{1\}^c = \{2, 3\} \in \mathscr{A}$よりok.
  3. $\{1\}, \{2, 3\} \in \mathscr{A} ~ \Longrightarrow ~ \{1\} \cup \{2, 3\} = \Omega \in \mathscr{A}$よりok.

$\mathscr{A}_3$について
  1. $\Omega \in \mathscr{A}$よりok.
  2. $\{1\}^c = \{2, 3\} \in \mathscr{A}$$\{2\}^c = \{1, 3\} \in \mathscr{A}$$\{3\}^c = \{1, 2\} \in \mathscr{A}$よりok.
  3. $A, B \in \mathscr{A}$とする.このとき,$A, B \subset \Omega$より,$A \cup B \subset \Omega$である.よって,$A \cup B \in 2^\Omega = \mathscr{A}$

集合体の性質

$n$をある自然数とし,$\mathscr{A}$$\Omega$上の集合体とする.このとき,次が成り立つ.
$$~~~~~~~~ A_1, \ldots, A_n \in \mathscr{A} ~ \Longrightarrow ~ \bigcup_{i=1}^n A_i \in \mathscr{A} $$

    証明を見る$n=1$のとき,$A_1 \in \mathscr{A}$であるから,$\bigcup_{i=1}^1 A_i \in \mathscr{A}$を得る.
    一方,$n$まで成り立つと仮定すると,$n+1$のとき,
    $$~~~~~~~~ A_1, \ldots, A_n, A_{n+1} \in \mathscr{A} ~ \Longrightarrow ~ \bigcup_{i=1}^{n+1} A_i = \underbrace{\left(\bigcup_{i=1}^{n} A_i\right)}_{\in\mathscr{A} ~ (\because ~ \textrm{仮定})} \cup A_{n+1} \in \mathscr{A} $$
    故に,全ての$n$に対して,
    $$~~~~~~~~ A_1, \ldots, A_n \in \mathscr{A} ~ \Longrightarrow ~ \bigcup_{i=1}^{n} A_i \in \mathscr{A} $$
    が成り立つ.$_{\blacksquare}$

この定理より,任意の$n$に対して,
$$~~~~~~~~\tag{1}\label{eq:1} A_1, \ldots, A_n \in \mathscr{A} ~ \Longrightarrow ~ \bigcup_{i=1}^{n} A_i \in \mathscr{A} $$
が成り立つことがわかったが,$n \to \infty$にしたとき,(\ref{eq:1})式は成り立つだろうか.即ち,次が成り立つか考えよう.

$\mathscr{A}$$\Omega$上の集合体とする.このとき,次は成り立つだろうか.
$$~~~~~~~~\tag{2}\label{eq:2} A_1, A_2, \cdots \in \mathscr{A} ~ \Longrightarrow ~ \bigcup_{i=1}^{\infty} A_i \in \mathscr{A} $$

答え

模範解答を見る(\ref{eq:2})式は常に成り立たない.

例えば,無限集合$\Omega$に対して,集合族$\mathscr{A}$
$$~~~~~~~~ \mathscr{A} = \{A \subset \Omega\,;\,|A| < +\infty ~~ \textrm{or} ~~ |A^c| < +\infty\} $$
で定義する.このとき,$\underline{\mathscr{A}~\textrm{は}~\Omega~\textrm{上の集合体となる}}$

  • 下線部の証明を見る
    1. $|\Omega| = +\infty$であるが,$|\Omega^c| = |\varnothing| = 0 < +\infty$より,$\Omega \in \mathscr{A}$
    2. $A \in \mathscr{A}$とする.このとき,$A$もしくは$A^c$が有限集合となるため,対称性により$A^c \in \mathscr{A}$
    3. $A, B \in \mathscr{A}$とする.$A, B$が有限集合であるとき,$A \cup B$も有限集合である.従って,$A \cup B \in \mathscr{A}$.一方,$A$もしくは$B$が無限集合であるとき,仮定により,その補集合は有限集合であるから,$(A \cup B)^c = A^c \cap B^c$も有限集合となる.従って,$A \cup B \in \mathscr{A}$$_{\blacksquare}$

今,$\Omega = \mathbb{N} = \{1, 2, \cdots\}$とし,$i=1,2, \cdots$に対して,$A_i = \{2i\}$とする.このとき,
$$~~~~~~~~ \bigcup_{i=1}^{\infty} A_i = \{2, 4, \cdots\}, ~~~~ \left(\bigcup_{i=1}^{\infty} A_i\right)^c = \{1, 3, \cdots\} $$
であるから,$|\bigcup_{i=1}^{\infty} A_i| = +\infty$$|\left(\bigcup_{i=1}^{\infty} A_i\right)^c| = +\infty$より,
$$~~~~~~~~ \bigcup_{i=1}^{\infty} A_i \notin \mathscr{A} $$
が分かる.

つまり,集合体は無限和の演算$(\bigcup_{i=1}^\infty A_i)$には対応していないことから扱いづらいものとなっている.例えば,先ほどの問題の模範解答を見てもらいたい.
$\Omega = \{1, 2, \cdots\}$と定義したわけだが,これを「『表が出るまでコインを投げ続ける』という試行の標本空間」とし,$A_i$を「ちょうど$2i$回目で表が出る事象」とすれば,$\bigcup_{i=1}^\infty A_i$は「偶数回目で表が出る事象」とみなせるが,これは集合体$\mathscr{A}$に入っていないことから,この事象の確率が定義できなくなってしまう(確率の定義は小ゼミ第2回で説明).
この問題点を解決するために,$\sigma$-集合体というものを次に導入する.

ネタバレすると,確率$P$の定義域が$\sigma$-集合体なんよ.


$\sigma$-集合体

$\sigma$-集合体とは

$\sigma$-集合体($\sigma$-field)

標本空間$\Omega$上の$\sigma$-集合体$\sigma$-field)とは,次の[1], [2], [3']を満たす集合族$\mathscr{F}$のことである.
[1] $\Omega \in \mathscr{F}$
[2] $A \in \mathscr{F} ~ \Longrightarrow ~ A^c \in \mathscr{F}$
[3'] $A_1, A_2, \cdots \in \mathscr{F} ~ \Longrightarrow ~ \bigcup_{i=1}^\infty A_i \in \mathscr{F}$

この$\sigma$-集合体は,集合体の定義[3]:$A, B \in \mathscr{A} ~ \Longrightarrow ~ A \cup B \in \mathscr{A}$を[3']:$A_1, A_2, \cdots \in \mathscr{F} ~ \Longrightarrow ~ \bigcup_{i=1}^\infty A_i \in \mathscr{F}$に変えたものである.


$\sigma$-集合体の性質

$\mathscr{F}, \mathscr{F}_1, \mathscr{F}_2, \cdots$$\Omega$上の$\sigma$-集合体とする.このとき,以下が成り立つ.

  1. $\mathscr{F}$は集合体である.
  2. $\displaystyle \mathscr{G} = \bigcap_{n=1}^{\infty}\mathscr{F}_n$$\Omega$上の$\sigma$-集合体である.
  3. $\mathcal{A} \subset 2^{\Omega}$とする.このとき,$\mathcal{A}$を含む最小な$\Omega$上の$\sigma$-集合体が存在する.

  1. 証明を見る集合体の定義[3]が成り立つことを示せば良い.$A, B \in \mathscr{F}$とする.今,$\varnothing = \Omega^c \in \mathscr{F}$が成り立つから,$A_1=A,~ A_2=B,~ A_3=A_4=\cdots=\varnothing$とすれば,$A_1, A_2, \cdots \in \mathscr{F}$である.よって,$$~~~~~~~~ A \cup B = \bigcup_{i=1}^{\infty}A_i \in \mathscr{F}._\blacksquare $$

  2. 証明を見る
    1. 全ての$n$に対して,$\Omega \in \mathscr{F}_{n}$であるから,$$~~~~~~~~ \Omega \in \bigcap_{n=1}^{\infty} \mathscr{F}_{n} = \mathscr{G}. $$
    2. $A \in \mathscr{G}$とする.このとき,全ての$n$に対して,$A \in \mathscr{F}_{n}$であり,$A^{c} \in \mathscr{F}_{n}$となるから,$$~~~~~~~~ A^{c} \in \bigcap_{n=1}^{\infty} \mathscr{F}_{n} = \mathscr{G}. $$
    3. $A_{1}, A_{2}, \cdots \in \mathscr{G}$とする.このとき,全ての$n$に対して,$A_{1}, A_{2}, \cdots \in \mathscr{F}_{n}$であり,$$~~~~~~~~ \bigcup_{i=1}^{\infty}A_{i} \in \mathscr{F}_{n} $$
      となるから,$$~~~~~~~~ \bigcup_{i=1}^{\infty}A_{i} \in \bigcap_{n=1}^{\infty} \mathscr{F}_{n} = \mathscr{G}. $$
    よって,$\mathscr{G}$$\Omega$上の$\sigma$-集合体である.$_{\blacksquare}$

  3. 証明を見る$\mathfrak{F}_{\mathcal{A}}$$\mathcal{A}$を含む$\Omega$上の$\sigma$-集合体の集合とする.即ち,
    $$~~~~~~~~ \mathfrak{F}_{\mathcal{A}} = \{\mathscr{F}\,|\,\mathcal{A} \subset \mathscr{F},~\mathscr{F}~\textrm{は}\sigma\textrm{-集合体}\} $$
    であるとする.今,$\mathscr{G}$
    $$~~~~~~~~ \mathscr{G} = \bigcap_{\mathscr{F} \in \mathfrak{F}_{\mathcal{A}}} \mathscr{F} $$
    により定義すると,(2)と同様に$\mathscr{G}$$\Omega$上の$\sigma$-集合体となることが示せる.よって,$\mathfrak{F}_\mathcal{A}$が空集合でないことに注意すると,任意の$\mathscr{F} \in \mathfrak{F}_\mathcal{A}$に対して,
    $$~~~~~~~~ \mathcal{A} \subset \mathscr{G} \subset \mathscr{F} $$
    が成り立つから,$\mathscr{G}$$\mathcal{A}$を含む最小な$\sigma$-集合体となる.$_\blacksquare$

この(3)の定理は特に重要で,例えば,サイコロを1回だけ投げたとき,我々が$\{\textrm{出目が5, 6}\}, \{\textrm{出目が4, 5, 6}\}$という情報だけに興味を持ったとき,これらが起こったか,起こらなかったかという情報をまとめることができて,それが最小な$\sigma$-集合体となる.


最小な$\sigma$-集合体の生成

最小な$\sigma$-集合体の生成

$\mathcal{A} \subset 2^{\Omega}$とする.このとき,$\mathcal{A}$を含む最小な$\Omega$上の$\sigma$-集合体を$\sigma(\mathcal{A})$で表す.

最小な$\Omega$上の$\sigma$-集合体の構成については,実際に次の問を解いて理解を深めて欲しい.

$A_1, A_2, A_3, A_4$$\Omega$の分割であるとする.つまり,
$$~~~~~~~~ \Omega = A_1 \cup A_2 \cup A_3 \cup A_4,~~~~ A_i \cap A_j = \varnothing ~~ (i \neq j;~ i,j = 1, 2, 3, 4) $$
である.このとき,$\mathcal{A} = \{A_1, A_2, A_3, A_4\}$を含む最小な$\Omega$上の$\sigma$-集合体$\sigma(\mathcal{A})$を構成せよ.


模範解答を見る$\mathscr{F} = \{\textcolor{red}{\varnothing}, \textcolor{red}{\Omega}\}$から始める.
  1. まず,$\mathcal{A}$の要素$A_1, A_2, A_3, A_4$が入っていないといけないので,これらを$\mathscr{F}$に入れる.すると,
    $$~~~~~~~~ \mathscr{F} = \{\varnothing, \textcolor{red}{A_1}, \textcolor{red}{A_2}, \textcolor{red}{A_3}, \textcolor{red}{A_4}, \Omega\} $$
  2. 次に$\Omega$上の$\sigma$-集合体の定義[2]:
    $$~~~~~~~~ A \in \mathscr{F} ~ \Longrightarrow ~ A^c \in \mathscr{F} $$
    を満たすように$\mathscr{F}$を更新する.すると,
    $$~~~~~~~~ \mathscr{F} = \{\varnothing, A_1, A_2, A_3, A_4, \textcolor{red}{A_1 \cup A_2 \cup A_3}, \textcolor{red}{A_1 \cup A_2 \cup A_4}, \textcolor{red}{A_1 \cup A_3 \cup A_4}, \textcolor{red}{A_2 \cup A_3 \cup A_4}, \Omega\} $$
  3. 続いて$\Omega$上の$\sigma$-集合体の定義[3']:
    $$~~~~~~~~ A_1, A_2, \cdots \in \mathscr{F} ~ \Longrightarrow ~ \bigcup_{i=1}^\infty A_i \in \mathscr{F} $$
    を満たすように$\mathscr{F}$を更新する(というよりも「$\sigma$-集合体は集合体なので,集合体の定義[3]:$A, B \in \mathscr{F} ~ \Rightarrow ~ A \cup B \in \mathscr{F}$を満たすように$\mathscr{F}$を更新する」と言ったほうがわかりやすいかもしれない).すると,
    $$~~~~~~~~ \mathscr{F} = \{\varnothing, A_1, A_2, A_3, A_4, \textcolor{red}{A_1 \cup A_2}, \textcolor{red}{A_1 \cup A_3}, \textcolor{red}{A_1 \cup A_4}, \textcolor{red}{A_2 \cup A_3}, \textcolor{red}{A_2 \cup A_4}, \textcolor{red}{A_3 \cup A_4}, A_1 \cup A_2 \cup A_3, A_1 \cup A_2 \cup A_4, A_1 \cup A_3 \cup A_4, A_2 \cup A_3 \cup A_4, \Omega\} $$
  4. 今度は,先ほど追加された要素に対して,$\sigma$-集合体の定義[2]を適用させ,$\mathscr{F}$を更新する.しかし,それらの要素は全て入っており,これ以上更新する要素もない.これで,$\mathcal{A}$を含む最小な$\sigma$-集合体が構成できた.
    よって,
    $$~~~~~~~~ \sigma(\mathcal{A}) = \{\varnothing, A_1, A_2, A_3, A_4, A_1 \cup A_2, A_1 \cup A_3, A_1 \cup A_4, A_2 \cup A_3, A_2 \cup A_4, A_3 \cup A_4, A_1 \cup A_2 \cup A_3, A_1 \cup A_2 \cup A_4, A_1 \cup A_3 \cup A_4, A_2 \cup A_3 \cup A_4, \Omega\} $$


可測空間

可測空間とは

可測空間

$\mathscr{F}$を標本空間$\Omega$上の$\sigma$-集合体とする.このとき,組$(\Omega, \mathscr{F})$可測空間という.また,$\mathscr{F}$の元$A$$\Omega$上の$\mathscr{F}$-可測集合という.

この可測集合が,高校数学(数A 確率)の授業で習った「事象」という言葉に当たる.


演習問題

$(\Omega, \mathscr{F})$を可測空間とする.このとき,以下が成り立つことを示せ.

  1. $\varnothing \in \mathscr{F}$
  2. $A_1, \ldots, A_n \in \mathscr{F} ~ \Longrightarrow ~ \displaystyle \bigcup_{i=1}^n A_i \in \mathscr{F}$
  3. $A, B \in \mathscr{F} ~ \Longrightarrow ~ A \cap B \in \mathscr{F}$
  4. $A_{1}, A_{2}, \cdots \in \mathscr{F} ~ \Longrightarrow ~ \displaystyle \limsup_{n \to \infty}A_{n},~ \liminf_{n \to \infty}A_{n} \in \mathscr{F}$

解答

  1. 模範解答を見る$\varnothing = \Omega^c \in \mathscr{F}$$_\blacksquare$

  2. 模範解答を見る $A_{n+1} = A_{n+2} = \cdots = \varnothing$とすれば,(1)より$A_1, A_2, \cdots \in \mathscr{F}$であるから,
    \begin{equation}~~~~~~~~ \bigcup_{i=1}^n A_i = \bigcup_{i=1}^\infty A_i \in \mathscr{F}. ~~ _\blacksquare \end{equation}

  3. 模範解答を見る$A, B \in \mathscr{F}$より,$A^c, B^c \in \mathscr{F}$ であるから,(2)より$A^c \cup B^c \in \mathscr{F}$となる.よって,$A \cap B = (A^c \cup B^c)^c \in \mathscr{F}$$_\blacksquare$

  4. 模範解答を見る次の等式が成り立つことに注意する.
    $$~~~~~~~~ \limsup_{n \to \infty}A_{n} = \inf_{n \geq 1} \sup_{m \geq n}A_{m} = \bigcap_{n=1}^{\infty}\bigcup_{m=n}^{\infty}A_{m} $$
    任意の正の整数$n$に対して,$B_{n} = \bigcup_{m=n}^{\infty}A_{m}$ とする.これは,$C_{i} = A_{i} ~ (i \geq n)$$C_{i} = \varnothing ~ (i < n)$とすれば,$C_{i} \in \mathscr{F} ~ (i = 1, 2, \cdots)$であるから,
    $$~~~~~~~~ B_{n} = \bigcup_{m=n}^{\infty}A_{m} = \bigcup_{i=1}^{\infty}C_{i} \in \mathscr{F} $$
    が成り立つ.従って,$B_{1}, B_{2}, \cdots \in \mathscr{F}$より,$B_{1}^{c}, B_{2}^{c}, \cdots \in \mathscr{F}$であり,$\bigcup_{i=1}^{\infty}B_{i}^{c} \in \mathscr{F}$となり,$\bigcap_{i=1}^{\infty}B_{i} = \left(\bigcup_{i=1}^{\infty}B_{i}^{c}\right)^{c} \in \mathscr{F}$ を得る.よって,
    $$~~~~~~~~ \limsup_{n \to \infty}A_{n} = \bigcap_{n=1}^{\infty}\bigcup_{m=n}^{\infty}A_{m} = \bigcap_{n=1}^{\infty}B_{n} \in \mathscr{F}. $$
    一方,$A_{1}^c, A_{2}^c, \cdots \in \mathscr{F}$であるから,$\limsup_{n \to \infty}A_{n}^{c} \in \mathscr{F}$を得る.よって,
    $$~~~~~~~~ \liminf_{n \to \infty}A_{n} = \sup_{n \geq 1} \inf_{m \geq n}A_{m} = \bigcup_{n=1}^{\infty}\bigcap_{m=n}^{\infty}A_{m} = \left(\bigcap_{n=1}^{\infty}\bigcup_{m=n}^{\infty}A_{m}^{c}\right)^{c} = \left(\limsup_{n \to \infty}A_{n}^{c}\right)^{c} \in \mathscr{F}._{\blacksquare} $$

$A, B \subset \Omega$とする.このとき,$A, A \cup B$ を含む最小な$\Omega$上の$\sigma$-集合体を構成せよ.

解答

模範解答を見る$$~~~~~~~~ \sigma(\{A, A \cup B\}) = \{\varnothing, A, A^{c}, A \cup B, A^{c} \cap B^{c}, A \cup B^{c}, A^{c} \cap B, \Omega\} $$

おわりに

この記事で確率論に興味を持ってくだされば幸いですw
実は,この記事を作っている最中,不慮の事故で1回データが消えてしまったのですが,何とかめげずに1から作り,そして書き切ることができましたToT


参考文献

投稿日:202354
更新日:20231228
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マシロ
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