どうも、色数です。
今回は代数周辺の定義やそれに関連した定理を紹介してみます。僕自身代数は抽象的であまり得意な方ではないので復習もかねて書いていきます。
$X$は空でない集合とする
$x,y\in X$に対し$x\;〜\;y$という関係が成り立つ、もしくは成り立たないかが考えられ以下を満たすときこの関係を$\textcolor{blue}{\textup{同値関係}}$であるという
(1)任意の$x\in X$に対し$x\;〜\;x$が成り立つ
(2)$x,y\in X$に対し$x\;〜\; y$ならば$y\;〜\;x$が成り立つ
(3)$x,y,z\in X$に対し$x\;〜\;y$かつ$y\;〜\;z$ならば$x\;〜\;z$が成り立つ
(1)〜(3)はそれぞれ$\textcolor{red}{\textup{反射律、対称律、推移律}}$という。
例)$\mathbb Z$において自然数$m$を法とする合同関係$\equiv$は同値関係である。
証明は定義に沿うだけなので読者に任せる。
空でない集合$X$に同値関係$〜$が与えられているとする
そのとき$X$の元$x$に対して$X$の部分集合$C(x)$を$C(x):=\{y\in X|y〜x\}$と定めこの部分集合を$\textcolor{blue}{\textup{同値類}}$と呼ぶ
$\mathbb Z$を例として考えてみる。
先程言ったように$\mathbb Z$において自然数$m$を法とする合同関係$\equiv$は同値関係であるため
$C(0)=\{0,m,2m…\}…C(m-1)=\{m-1,2m-1,3m-1,…\}$
となる。
また上の$C(i)$は単に$m$を法とする$\textcolor{blue}{\textup{剰余類}}$とも呼ぶ。
集合$X$に同値関係が定まっているとき$X$は互いに素な同値類に分割できる。
上の例で言うと$\mathbb Z=C(0)\cup C(1)\cup\cdots\cup C(m-1)$となる。
ここまでは同値類をそれぞれ別で考えていたがその同値類を一つの集合とみなし考えてみる。
空でない集合$X$に同値関係$〜$が定まっているとき、同値類全体の集合を$X/〜$と表し、同値関係$〜$による$X$の$\textcolor{blue}{\textup{商集合}}$という
$X/〜=\{Y|Y\subset Xかつあるx\in Xに対しY=C(x)\}$
同値類を$C(x)$でなく$\bar x$と表すこともある。
もう一度$\mathbb Z$において自然数$m$を法とする合同関係を考えてみよう。
その商集合は$m$個の元からなり、特に$\mathbb Z/m\mathbb Z$と表す。
$\mathbb Z/m\mathbb Z=\{C(0),…,C(m-1)\}=\{\bar0,…,\overline{m-1}\}$
$m$を$2$以上の自然数として集合$\mathbb Z/m\mathbb Z$に演算を定めよう。
$\mathbb Z/m\mathbb Z$の元は$\bar x$と表される($x\in\mathbb Z$)
定義より$\bar x=\bar y\iff x\equiv y(\mod\;m)$であった。
$\mathbb Z/m\mathbb Z$の元$x,y$に対し$x=\bar a,y=\bar b$となる$a,b\in\mathbb Z$を考える。
このとき和$x+y$、積$xy$を$x+y=\overline{a+b},xy=\overline{ab}$と定める。
すぐにわかるように$a,b$の選び方は無数にあるため注意が必要
上の定義がwell-definedとなっていることは$a\equiv a’(\mod m),b\equiv b’(\mod m)$において$a+b\equiv a’+b’(\mod m),a-b\equiv a’-b’(\mod m),ab\equiv a’b’(\mod m)$を示せば良い。
この証明は容易であるため読者に委ねる。
次に初学者が群論をやっていると必ずぶつかるであろう「置換」について紹介します。
ここは僕もあまり得意ではないがガロア理論など高度な対象を扱う際にも登場するのできちんとやってみよう。
$n$を自然数とし$X=\{1,2,…,n\}$とする
全単射写像$\sigma:X\to X$を$n$文字の$\textcolor{blue}{\textup{置換}}$という
置換を表す記号としてよく$\sigma,\tau,\rho$を使うらしい
$\sigma(1)=i_1,…,\sigma(n)=i_n$であるとき次のように表す
\begin{align}
\sigma=\left(\begin{gathered}1\;2\cdots n\\i_1i_2\cdots i_n\end{gathered}\right)
\end{align}
空でない集合$G$の任意の$2$つの元$a,b$の組み合わせ$(a,b)$に対し$a\circ b\in G$が対応しているとき$S$上の二項演算$\circ$が定まっているという
直積を用いることで次のようにも書ける。
$\circ : G\times G\ni (a,b)\longmapsto a\circ b\in G$
$p\in\mathbb P$とし、$a$は$p$の倍数でない整数とする
このとき$a^{p-1}\equiv 1(\mod p)$が成り立つ
二項定理を用いた証明は読者に任せる
$m\in\mathbb N,m\ge2$ とし$1\le k\le m-1$であり$m$と互いに素である$k$の個数を$\phi(m)$と表す
これを$\textcolor{blue}{\textup{オイラーの}\phi\textup{関数}}$とよぶ
$m$を$2$以上の自然数とし$a$は$m$と互いに素な整数とする
このとき次が成り立つ
$a^{\phi(m)}\equiv 1(\mod m)$
ここではフェルマーの小定理やオイラーの定理が使える問題などを紹介してみます。
$p\in\mathbb P$とするとき次が成り立つ
$(p-1)!\equiv -1(\mod p)$
$p\ge 3,p\in\mathbb P$のときフェルマーの小定理より$x\in\mathbb Z$、$1\le x\le p-1$に対し$x^{p-1}\equiv 1(\mod p)$
$f(x)=x^{p-1}-1$とおく
$f(x)=(x-1)a_1(x)+b_1$とすると$f(1)\equiv 0(\mod p),b_1\equiv 0(\mod p)$
したがって$f(x)\equiv (x-1)a_1(x)(\mod p)$
同様にして$(x-2),(x-3)…,(x-(p-1))$でも同じく成り立つ
剰余の定理より
$\displaystyle f(x)\equiv (x-1)(x-2)\cdots(x-(p-1))(\mod p)$
$x=0$を代入すれば示せた($p=2$では自明)
上の問題たちよりは簡単かもしれませんが背景にフェルマーの小定理がある有名な問題として京大1995年の後期 文系 第4問なんかもありますね。僕が個人的にかなり好きな問題です。
あとは下$n$桁を求める系の問題ならオイラーの定理を使えるときがあります。
空でない集合$G$に二項演算$\circ$が定まり次のすべての条件を満たすとき$G$を二項演算(または単に演算)$\circ$に関して$\textcolor{blue}{\textup{群}}$をなすという
1.任意の$a,b,c\in G$に対し$(a\circ b)\circ c=a\circ (b\circ c)$が成り立つ
2.ある$e\in G$が存在して任意の$a\in G$に対して$a\circ e=e\circ a=a$を満たす
3.任意の$a\in G$に対し$a\circ a^{-1}=a^{-1}\circ a=e$を満たす元$a^{-1}\in G$が存在する
4.$\textcolor{green}{\textup{任意の}a,b\in G\textup{に対し}a\circ b=b\circ a\textup{が成り立つ}}$
1.のことを$\textcolor{red}{\textup{結合法則}}$、2.を満たす元$e$のことを$\textcolor{red}{\textup{単位元}}、$3.を満たす元$a^{-1}$を元$a$の$\textcolor{red}{\textup{逆元}}$という
また、特に4.を満たすとき$G$を$\textcolor{blue}{\textup{可換群}}$(もしくはアーベル群という)
4.を満たさない$G$を$\textcolor{blue}{\textup{非可換群}}$(もしくは非アーベル群という)
特に集合$G$が二項演算$\circ$によって群をなすとき$(G,\circ)$と表します。
次に環などを導入しておきます。
組$(R,\circ_1,\circ_2)$を考える
1.組$(R,\circ_1)$は可換群である
2.任意の$a,b,c\in R$に対し$(a\circ_2b)\circ_2 c=a\circ_2 (b\circ_2 c)$が成り立つ
3.任意の$a\in R$に対し$a\circ_2 1_R=1_R\circ a=a$を満たす$1_R\in R$が存在する
4.任意の$a,b,c\in R$に対し$a\circ_2(b\circ_1 c)=(a\circ_2 b)\circ_1 (a\circ_2 c)$,$(a\circ_1 b)\circ c=(a\circ_2c)+(b\circ_2c)$が成り立つ
5.$\textcolor{green}{\circ_2\textup{が可換である}}$
1~4を満たす組$(R,\circ_1,\circ_2)$を$\textcolor{blue}{\textup{環}}$とよぶ
特に5を満たす環を$\textcolor{blue}{\textup{可換環}}$とよぶ
$R$を環とする
$\alpha\in R$に対し$\alpha\alpha^{-1}=\alpha^{-1}\alpha=1_R$となる$\alpha^{-1}$が存在するとき$\alpha$を$\textcolor{blue}{\textup{可逆元}}$、$\alpha^{-1}$を$\textcolor{blue}{\textup{逆元}}$という
可換環$Rの\textcolor{blue}{\textup{零元}}$以外の元が全て可逆元となるとき$R$を$\textcolor{blue}{\textup{体}}$とよぶ
ここで零元といったものは上で考えた組$(R,\circ_1)$の単位元を指す。($0_R$と表すことが多い)
それに対して$3$の$1_R$を環$R$の単位元とよぶ
可換環$R$が次を満たすとき$R$を$\textcolor{blue}{\textup{整域}}$とよぶ
$a,b\in R,ab=0$を満たすなら$a=0$または$b=0$を満たす
可換群$G$を特に$\textcolor{blue}{\textup{加法群}}$といいそこに定まる二項演算を$+$(和とよぶ)その単位元を$0_G$$a\in G$の逆元を$-a$と表し、そうでないときは(すなわち非可換群)$\textcolor{blue}{\textup{乗法群}}$とよびその二項演算を積とよび($ab$のような形で書く)単位元を$1_G$(または$e$)$a$の逆元を$a^{-1}$と表す
群$G$の元の個数を$\textcolor{blue}{\textup{群の位数}}$といい$|G|$と表す
$G$の無限群のときは$|G|=\infty$と定める
$G$は群とし$H$は空でない$G$の部分集合とする
$G$に定まっている二項演算$\circ$に対し$a,b\in H\implies a\circ b\in H$が成り立ちこの演算に対し$H$が群をなすとき$H$は$G$の$\textcolor{blue}{\textup{部分群}}$であるという
上のように$G$に定まっている二項演算$\circ$に対し$a,b\in H\implies a\circ b\in H$を満たすことを$H$は$G$の演算について閉じているという
$G$は群とし$a\in G$とする
\begin{align}
a^n=\left\{\begin{split}&\overbrace{a\circ\cdots\circ a}^n…(n>0)\\&e…(n=0)\\&(\overbrace{a\circ\cdots\circ a}^{-n})^{-1}…(n<0)\end{split}\right.
\end{align}
$X,\Lambda$は空でない集合とする
$\Lambda$の各元$\lambda$に対し$X$の部分集合$X_\lambda$が与えられているとき、$X$の部分集合の族$(X_\lambda)_{\lambda\in \Lambda}$が与えられているという
$G$は群とし$S$は空でない$G$の部分集合とする$S$を含むような$G$のすべての部分群の族を$(H_\mu)_{\mu\in M}$とする
この部分群の族の共通部分を$S$で$\textcolor{blue}{\textup{生成された$G$の部分群}}$とよび$\langle S\rangle$と書く
$\displaystyle \langle S\rangle:=\bigcap_{\mu\in M}H_\mu$
$G$は群とし$x\in G$とし$x^n=e$となる自然数$n$が存在するときそのような最小の$n$を$\textcolor{blue}{x\textup{の位数}}$とよぶ
そのような$n$が存在しないとき$x$の位数を$\infty$と定める
例として加法群$\mathbb Z/3\mathbb Z$の各元の位数を考えてみる
上でやったように$\mathbb Z/3\mathbb Z=\{\bar0,\bar1,\bar2\}$である
単位元は$\bar0$であるため$\bar0$の位数は$1$
$\bar1$の位数は$3$、$\bar2$の位数は$3$である
$G$は群とし$H$はその部分群とし$x,y\in G$とする
1.$x^{-1}y\in H$となるとき$x,y$は$H$に関して$\textcolor{blue}{\textup{左合同}}$であるといい$x\equiv_l y(H)$と書く
2.$xy^{-1}\in H$となるとき$x,y$は$H$に関して$\textcolor{blue}{\textup{右合同}}$であるといい$x\equiv_r y(H)$と書く
これらは同値関係である
$H$に関する左合同関係による同値類を$G$の$H$に関する$\textcolor{blue}{\textup{左剰余類}}$とよび右合同関係による同値類を$\textcolor{blue}{\textup{右剰余類}}$とよぶ
$G$が加法群なら単に$\textcolor{blue}{\textup{剰余類}}$とよぶ
群$G$と$G$の部分群$H$、任意の$g\in G$に対し
$ghg^{-1}\in H$となるとき、$H$を$G$の$\textcolor{blue}{\textup{正規部分群}}$といい$H\triangleleft G$と書く
$G$は群とし$H$は$G$の部分群とする
$G$の$H$に関する相違なる左剰余類の個数を$\textcolor{blue}{G\textup{における}H\textup{の指数}}$とよび
$\lbrack G:H\rbrack$と表す
具体例としてよく登場する重要な群を紹介しておきます。
1.$G=\{e\}$とし演算を$ee=e$とすれば$G$は群である
2.$\mathbb Z,\mathbb Q,\mathbb R,\mathbb C$は加法に関して加法群をなす
3.$m$を$2$以上の自然数としたとき$\mathbb Z/m\mathbb Z$は加法に関して可換群をなす
4.$n$を自然数としたとき$n$次実正則行列全体の集合は乗法群となる。
5.4と同様に$n$次複素正則行列全体の集合も乗法群となる。
これらの群を特に$\textcolor{blue}{\textup{一般線形群}}$とよび$GL(n,\mathbb R),GL(n,\mathbb C)$と書く
6.$SL(n,\mathbb R):=\{A\in GL(n,\mathbb R)|\textup{det}A=1\}$とおくと$SL(n,\mathbb R)$は群をなす($\mathbb C$でも考えられる)特に$\textcolor{blue}{\textup{特殊線形群}}$という
7.$n$を自然数としたとき$n$次直交行列全体の集合$O(n):=\{A\in GL(n,\mathbb R)|A^{-1}=A^t\}$は群をなす
特に$\textcolor{blue}{n\textup{次の直交群}}$とよぶ
8.$SO(n):=\{A\in O(n)|\textup{det} A=1\}$は群をなす
特に$\textcolor{blue}{\textup{特殊直交群}}$とよぶ
9.$n$文字の置換全体の集合を$\textcolor{blue}{n\textup{次対称群}}$という
$\mathfrak S_n$で表す
$G$は有限群とし$H$は$G$の部分群とするとき次が成り立つ
$|G|=\lbrack G:H\rbrack|H|$
有限群$G$の部分群$H$を$\{h_1,…,h_m\}$とおく
ここで$H$から左剰余類$aH$に対応させる写像$f$を考える
このとき$f$は全単射となる
したがって$|H|=|aH|$を得る
このとき$G/H=\{a_1H,…,a_k H\}$であり$G=a_1H\cup\cdots\cup a_kH$
($a_iH,a_jH$は互いに素である)
以上より示せた
$a,b\in G$に対し$\lbrack a,b\rbrack=aba^{-1}b^{-1}$を$\textcolor{blue}{a,b\textup{の交換子}}$という
また、$G$の部分群$H,K$に対し$\{\lbrack a,b\rbrack|a\in H,b\in K\}$で生成される$G$の部分群を$\lbrack H,K\rbrack$と表すとき$D(G)=\lbrack G,G\rbrack$を$G$の$\textcolor{blue}{\textup{交換子群}}$という
$G$は有限生成アーベル群とする
このとき$G\cong(\mathbb Z/e_1 \mathbb Z)\times(\mathbb Z/e_2\mathbb Z)\times\cdots\times(\mathbb Z/e_r\mathbb Z)\times\overbrace{\mathbb Z\times\cdots\times\mathbb Z}^s$
が成り立つ
ただし$r,s$は非負整数であり$e_i$は自然数とする
またこのような$r,s,e_i$は一意に成り立つ
ここでは上記の定理が実際に使える場面を紹介します。
$p\in\mathbb P$とし、$a$は$p$の倍数でない整数とする
このとき$a^{p-1}\equiv 1(\mod p)$が成り立つ
群$G$の任意の元$g$に対し$g$で生成される巡回群$\langle g\rangle$を考えると$\langle g\rangle $は$G$の部分群となる
ラグランジュの定理より$|\langle g\rangle |$は$|G|$の約数となる
$(\mathbb Z/p\mathbb Z)^\times$の任意の元を$\bar a$とすると$\bar a^{p-1}=\bar1$が成り立つ
よって示せた
$m$を$2$以上の自然数とし$a$は$m$と互いに素な整数とする
このとき次が成り立つ
$a^{\phi(m)}\equiv 1(\mod m)$
上と同様に合成数$n$に対し$(\mathbb Z/n\mathbb Z)^\times$を考えれば示せる
次回はシローの定理、準同型定理、アーベル群の基本定理の証明を紹介します。
今回は定義だらけでしんどかったですね。