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級数のweight減少に関するヒューリスティックな話

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こんにちは、受験勉強を終えたitouです。ようやく好き放題数学ができるようになってMZVを勉強し始めました。
で、ネットを漁って数式を探してたらこんなのを見つけました。
Ozonumさんのポスト
数式1 数式1

Ozonumさんも言っていますが、左辺の級数のweightは3なのに、右辺は2です。つまりweightが下がってるわけですが、これはなぜでしょうか?

weightの概念の整理

そもそもweightとはMZVに対して定義される概念で、

ζ(k):=0<ma<ma1<<m11m1k1m2k2maka
(この記事ではインデックスは左向き)
におけるwt=k1+k2++kaのことを指します。しかし、多くの場合MZV以外にもこの概念が通用するわけです。感覚的ですが、次のようなルールに則っているように思います。

ルール①log(x)xwt=1πnwt=n
ルール②級数表示の中で、二項係数(2nn)(3nn)、指数関数22nなどはwt=0
ルール③級数表示の中で、分数次数がnならwt=n。複数のローカル変数について和を取る場合は、全次数nとしてwt=n
ルール④指数法則同様、wt=a,wt=bの2つの数の積のweightはa+b

これらルールは多くの場合について成立します。たとえば アカデミック後進国ニッポンさんの記事 を見てください。

本題

唐突ですが、ある級数に対し、その有限和を考えます。まずMZVに対しては多重調和和を
ζN(k):=0<ma<ma1<<m1<N1m1k1m2k2maka
とし、
Δan:=an+1an
とします。

ΔζN(k:k)=1NkζN(k)
がすぐに分かります。特に、
ΔζN(k)=1Nk
です。ここで、NkΔζN(k)=1より自明な漸化式、
(N+1)kΔζN+1(k)=NkΔζN(k)
が従います。これよりΔζN(k1,k2)
(N+1)k2{(N+2)k1ΔζN+2(k1)(N+1)k1ΔζN+1(k1)}=Nk2{(N+1)k1ΔζN+1(k1)Nk1ΔζN(k1)}

という3項間漸化式を満たします。つまり、ζN(k1,k2)は4項間漸化式を満たします。同様に帰納的に、ζN(k1,k2,kn)(n+2)項間漸化式を満たします。また、各項には(k1+k2+kn)次の多項式がかけられています。

~~~~~ここからヒューリスティックな話~~~~~

wt=k,dep=nの多重調和和が(n+2)項間、各項に(k1+k2+kn)次の多項式が乗じられた漸化式を満たすなら、これを逆に、一般の級数に対してweightとdepthの定義とするのはどうでしょうか?つまり、

weightとdepthの定義(不完全)

級数Sについて、それをN未満までの和で打ち切った部分和をSNとする.
SNが斉次漸化式

i=0n+1fiSN+i=0
(fik次のNについての多項式)を満たすとき、Sweightkdepthnとする.

N未満までで打ち切るとは、たとえば0<m1m2<m3を渡る級数なら、0<m1m2<m3<Nでの部分和を取ることです。

0<n1n3βn=π2log(2)72ζ(3)
左辺の部分和をSNとして、

ΔSN=22N(N!)2N3(2N)!
より、自明な漸化式N3ΔSN+1=(N+1)2(N+12)ΔSN
が従うので、この級数のweightは3、depthは1

0<n1(2nn)=13+2327
左辺の部分和をSNとして、

ΔSN=(N!)2(2N)!
より、自明な漸化式(N+12)ΔSN+1=14(N+1)ΔSN
が従うので、この級数のweightは1、depthは1

(例2は らららさん に教えてもらいました。weightの概念の整理の項で述べたルールではこの級数のweightは0ですが、この定義では1となります。)

weight減少のルール

この定義でうまくいくぞ!と思って冒頭の級数にも同じことをします。

0<mn1n2mβm=4ζ(2)
左辺の部分和をSNとして、
ΔSN=1N20<mN1mβmΔN2ΔSN=1(N+1)βN+1
より、自明な漸化式(N+32)Δ(N+1)2ΔSN+1=(N+1)ΔN2ΔSN
が従う。ΔN2ΔSN=(N+1)2(SN+2SN+1)N2(SN+1SN)なので、weightは3、depthは2

うまくいってない!

wt=2となってほしいのに、3になってしまいました。これを解消するために天下りですが、次のルールを導入します。

weight減少のルール

部分和SNΔNの多項式を交互に乗じてシグマが取り外された式SNが満たす自明な漸化式が

(N+a+b)SN+1=(N+b)SN(a,bR,a1)
の形であるならば、SNSNにするためにかけたNについての多項式の次数の総和をweightとする.

これがどこから出てきたのか説明します。

m>01(m)a=1(a1)(a1)!(a1)を用意します。
部分和SNは自明な漸化式(N+a)ΔSN+1=NΔSNを満たします。この級数の右辺は有理数なので、これのweightは0としたいのです。また、多項式中のNΔSNNはずれていてもいいので、(N+a+b)ΔSN+1=(N+b)ΔSN(a,bR,a1)に対応する級数のweightを0と定めます。そして、Δはweightには関係せず、Nk次多項式をかけるとweightがk下がる(これはMZVの例で確かめた)ことを適応したのです。

実際、このルールを導入すると、
冒頭の級数について
(N+32)Δ(N+1)2ΔSN+1=(N+1)ΔN2ΔSNよりa=1/2,b=1ΔN2ΔSNのweightが0で、N2がかけられているので、wt=2となり、右辺のweightと一致します。

考察

漸化式を使ってweightの一般的定義を導入してみました。厳密な議論は全然ですが…今回導入したルール以外にもweightが減少する場合があるかもしれないので、今後はそのあたりが課題ですね。そもそも有限級数に漸化式を使おうという発想は、(もともとこういうタイプの漸化式に興味があったのですが)便利さんの例の論文をみて私も有限和関連の面白いことをしたいなあと思った所からです。

謝辞

ここまで読んで下さりありがとうございました。誤植誤り等指摘お願いします。

追記(2024/3/26)
・例1の級数が間違っていたので訂正
・以下の式(k2)についてはweight0とならない(weight減少は起こる)ので、成果が得られるまで削除
(N+a+b)kSN+1=(N+b)kSN(a,bR,a1)

投稿日:202435
更新日:202436
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