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ε-δ論法から有向点列(ネット)の極限へ

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イントロ

特定の位相空間,例えば距離空間などでは,「点列」を用いることで空間の局所的な性質を綺麗に記述することができます.

  • 関数の極限:点列の極限として言い換えられる.
  • 集合 $A$ の閉包:$A$ 内の点列の収束先をすべて集めたものに一致する.
  • 第一可算空間におけるコンパクト性:コンパクト $\iff$ 点列コンパクト が成り立つ.
  • ハウスドルフ空間における一意性:点列の極限が(収束するならば)一意に定まる.

しかし,これらはあくまで「特定の」位相空間でしか成り立ちません.なぜ一般の位相空間では点列が通用しなくなってしまうのでしょうか.
その原因の一つには,点列の添字セットが $\mathbb{N}$ という高々可算な集合である点にあるのですが,詳しくは一度おいておきましょう.
まずは,一番上の「関数の極限と点列の極限の関係」から考えることにします.

有向点列を導入するモチベーション

周知の通り,実数上(あるいは一般の距離空間上)では,$\epsilon-\delta$ 論法による関数の極限を,点列の極限に言い換えることができます.(命題2)
一方で,関数の極限は,位相空間に広げて位相の言葉で再定義されていました.
それならば,一般の位相空間における関数の極限も,同じように点列の極限で言い換えることができるのでしょうか?

結論から言うと,通常の点列$\{a_n\}_{n\in\mathbb N}$では不十分です.しかし,添字を「有向集合」へと一般化した点列,有向点列(ネット)$\{x_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda}$を導入することで,この言い換えが可能になることが知られています.(命題3)

有向集合はどんな定義にしたいか?

$\epsilon-N$論法と同様に次のように定義し,この極限において,$\mathbb N$と同じように振る舞う$\Lambda$について考えたいわけです.

$$\forall U \in \mathcal N(x), \exists \lambda_0 \in \Lambda,\ \lambda \ge \lambda_0 \implies x_\lambda \in U $$

(ここでの$\mathcal N (x)$$x$の近傍系)

一般化をする上で,有向集合$\Lambda$にはどんな要請をしましょうか.簡単に考えると次の2つが思いつきます.

  • $\le$を使うために,前順序は最低限ほしい.
  • できるだけ極限は一意であってほしい.

(ここで,「できるだけ」とは$\{x_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} \subset \mathbb R$(あるいは一般のハウスドルフ空間上の点列)だったらぐらいの意味)

ところが前順序や半順序は図1のようなものを許してしまいます.
前順序,半順序の例 前順序,半順序の例
これでは2方向に極限が行ってしまいます.
有向集合の例 有向集合の例
図2のように最終的に1つに集まってほしいということを要請したものが有向集合の(3)有向性になってきます.

定義

有向集合

$(\Lambda, \le)$が有向集合であるとは,有向な前順序集合であること.つまり次の(1)-(3)が成立すること.
(1) 反射律: $x\le x$
(2) 推移律: $x\le y \land y \le z \implies x \le z$
(3) 有向性: $\forall x, y,\exists z, x\le z \land y\le z$

半順序集合
前順序集合全順序集合
有向集合

の包含関係です.全順序集合は一般に有向半順序ですが,有向半順序なのに全順序でないものも存在します.(例3)

近傍系

$x$の近傍系$\mathcal N(x)$$\supset$の順序によって有向集合になる.
一般に集合系はこの順序で半順序集合になるので(1),(2)は成立.
(3)については,近傍$U,V$があったらそのどちらもが包含する$U \cap V$も近傍なので成立.

イメージとしては有向集合には極大元が存在せず無限に続くと考えて良いです.
正確には極大元が存在すればただ一つになるのですがこのとき,極限はこの極大元のみで決まるので面白くありません.

有向点列(ネット)

有向集合$\Lambda$,位相空間$X$に対し,有向点列(またはネット)とは,
関数$x:\Lambda \ni \lambda \mapsto x_\lambda \in X$のことであり,これを$\{x_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda}$と書く.

点列

$\mathbb N$は全順序,特に有向集合なので,点列$\{a_n\}_{n\in\mathbb N}$は有向点列の自明な例.

近傍系

先ほどと同様にして$x$の近傍系$\mathcal N(x)$は有向集合になる.
なので例えば,任意の近傍$U \in \mathcal N(x)$に対して$x_U \in U$となるようにとってきた$\{x_U\}_{U \in \mathcal N (x)}$は有向点列になる.

次の極限を目標に有向集合,有向点列を定めたわけですが,正確にもう一度述べてみることにしましょう.

有向点列の極限

有向点列$\{x_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} \subset X$$x_\lambda \to x$となるとは,次を満たすことである.
$$\forall U \in \mathcal N(x), \exists \lambda_0 \in \Lambda,\ \lambda \ge \lambda_0 \implies x_\lambda \in U $$

数列

$B_{\dfrac1 n}(x_0):=\left\{x: |x-x_0|<\dfrac1 n\right\}$のそれぞれから$x_n \in B_{\dfrac1 n}(x)$をとると,これは可算な添字なので数列であり,明らかに$x$に収束する.

近傍系

先ほどと同様に任意の近傍$U \in \mathcal N(x)$に対して$x_U \in U$となるようにとってきた有向点列$\{x_U\}_{U \in \mathcal N (x)}$$x_U \to x$に収束する.
なぜなら,任意にとってきた$U_0$に対して,$\lambda_0 = U_0$とすれば$x_U \in U \subset U_0 \ (U \subset U_0)$となるから.

極限の一意性はどういう空間にある?

有向集合の定義を考えていたときから目指していた,極限の一意性が満たされていることは次の命題で明らかになります.
しかも,「ハウスドルフならば,収束する点列の極限は一意」は言えてもその逆は言えませんでしたが,嬉しいことに,ネットの概念によって同値にすることができたようです.
これによって晴れて,「ハウスドルフってなに?」という問いに,「極限の一意性を確保するための空間」と答えることができるようになるわけです.

ハウスドルフの極限による特徴づけ
  1. 位相空間$X$がハウスドルフ
  2. 有向点列$\{x_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} \subset X$の極限は存在すれば一意

$\implies$を示す.
$\{x_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda}$$x,y\ (x\neq y)$のどちらもに収束したと仮定する.
ハウスドルフ性から$U_x \in \mathcal N(x),U_y \in \mathcal N(y)$$U_x\cap U_y = \emptyset$となるように取れるが,収束性から,
$$ \exists \lambda_x, \lambda_y \in \Lambda,(\lambda \ge \lambda_x \implies x_\lambda \in U_x) \land (\lambda \ge \lambda_y \implies x_\lambda \in U_y) $$
ここで有向性から$\{\lambda_x, \lambda_y\}$の上界$\lambda_0$を取れば,
$$ \lambda \ge \lambda_0 \implies x_\lambda \in U_x \cap U_y $$
となるが,$U_x \cap U_y= \emptyset$なので矛盾.よって$x=y$となり,極限は一意.

$\impliedby$の対偶を示す.
ハウスドルフでないとき,ある$x,y\ (x\neq y)$$\forall U \in \mathcal N(x),\forall V \in \mathcal N(y)$に対して$U \cap V \neq \emptyset$.

ところで$(U,V) \in \mathcal N(x) \times \mathcal N(y)$の順序を$(U,V)\le(U',V') \iff U \supset U' \land V \supset V' $で定めるとこれは有向集合になっているので,
ネット$\{x_{(U,V)}\}_{(U,V) \in \mathcal N(x) \times \mathcal N(y)}$$x_{(U,V)} \in U \cap V$となるようにとると,
$\forall U_0 \in \mathcal N(x),\forall V_0 \in \mathcal N(y)$に対して,
$$(U,V) \ge (U_0,V_0) \implies x_{(U,V)} \in U \cap V \subset U, V$$
つまり$x_{(U,V)} \to x,y\ (x\neq y )$となり,$\text{(2)}$の否定が導かれた.$\square$

関数の極限と数列の極限

最初に話していた,「一般の位相空間における関数の極限も,同じようにネットの極限で言い換えることができる」という話になります.
まずは実数上の関数で示しておきましょう(命題2).その後,全く同じ流れでネットの場合も示すことができるということを見ましょう(命題3).
これによって,極限の概念はネットだけで言い尽くせることがわかるのです.

数列と関数の収束の同値性

関数$f:\mathbb R \to \mathbb R$について,次の命題は同値.
(1) 関数$f$$f(x) \xrightarrow{x \to a} b$.
(2) 任意の数列$\{x_n\}_{n \in \mathbb N}\;(x_n \to a;\ \forall n,\ x_n \neq a)$に対し,数列$\{f(x_n)\}$$f(x_n)\to b$.

$\implies$を示す
任意に数列$\{x_n\}_{n \in \mathbb N}\;(x_n \to a;\ \forall n,\ x_n \neq a)$をとる.
任意に$\epsilon > 0$をとると,$\text{(1)}\ f(x) \xrightarrow{x \to a} b$より,ある$\delta > 0$があって
$$ \begin{equation} 0 < |x_n-a|<\delta \implies |f(x_n)-b|<\epsilon \tag{i} \end{equation} $$
$x_n \to a$より,ある$n_0 \in \Lambda$があって,
$$ |x_n-a|<\delta \ (n \ge n_0) \tag{ii} $$
$\text {(i),(ii)}$より,この$n_0$を用いて,$|f(x_n)-b|<\epsilon \ (n \ge n_0)$
つまり$f(x_n) \to b$が導けた.

$\impliedby$ を対偶で示す.
$f(x) \xrightarrow{x \to a}b$とならない($\text{(1)}$の否定)とき,ある$\epsilon > 0$ をとると,
任意の$\delta = \dfrac 1 n $に対して,ある$ x_n$
$$|x_n-a|<\dfrac 1 n \tag{iii}$$
なのに
$$|f(x_n)-b| \ge \epsilon \tag{iv}$$
となるものを取れる.

つまり数列$\{x_n\}_{n \in \mathbb N}$を構成する事ができる.($\mathbb R$は第一可算公理を満たす.特にここでは可算な基本近傍系として半径$\dfrac 1 n $のボールを取れるため,添字が可算である数列を考えることができた.)

この数列は$\text{(iii)}$ より$x_n \to a$となる.
しかし$\text{(iv)} $より$f(x_n) \not\to b$
これで$\text{(2)}$の否定が導けた. $\square$

明らかですが,$\{f(x_\lambda)\}_{\lambda \in \Lambda}$がネットになることに注意しましょう.

ネットと写像の収束の同値性

位相空間$X, Y$,写像$f:X \to Y$について,次の命題は同値.
(1) 写像$f$$f(x) \xrightarrow{x \to a} b$.
(2) 任意のネット$\{x_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda}\;(x_\lambda \to a;\ \forall \lambda,\ x_\lambda \neq a)$に対し,ネット$\{f(x_n)\}$$f(x_n)\to b$.

$\implies$を示す
任意にネット$\{x_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda}\;(x_\lambda \to a;\ \forall \lambda,\ x_\lambda \neq a)$をとる.
任意に$V \in \mathcal N (b)$をとると,$\text{(1)}\ f(x) \xrightarrow{x \to a} b$より,ある$U \in \mathcal N (a)$があって
$$ \begin{equation} f(U-\{a\}) \subset V \tag{i}\label{i} \end{equation} $$
$x_\lambda \to a$より,ある$\lambda_0 \in \Lambda$があって,
$$ x_\lambda \in U-\{a\}\ (\lambda \ge \lambda_0) \tag{ii} $$
$\text {(i),(ii)}$より,この$\lambda_0$を用いて,$f(x_\lambda) \in f(U-\{a\}) \subset V \ (\lambda \ge \lambda_0)$
つまり$f(x_\lambda) \to b$が導けた.

$\impliedby$ を対偶で示す.
$f(x) \xrightarrow{x \to a}b$とならない($\text{(1)}$の否定)とき,ある$V \in \mathcal N (b)$ をとると,
任意の$U\in \mathcal N (a)$に対して,ある$ x_U$
$$x_U \in U-\{a\} \tag{iii}$$
なのに
$$f(x_U) \not\in V \tag{iv}$$
となるものを取れる.($f(U)\subset V$の否定)

つまりネット$\{x_U\}_{U \in \mathcal N (a)}$を構成する事ができる.(近傍系は$\supset$による順序で有向集合になることに注意)

このネットは$\text{(iii)}$ より
$$\forall U \in \mathcal N(a), \exists U_0 \in \mathcal N (a) \ s.t. \ x_U \in U \subset U_0 \quad (U \subset U_0)$$
つまり,$x_U \to a$となる.
しかし$\text{(iv)} $より$f(x_U) \not\to b$
これで$\text{(2)}$の否定が導けた. $\square$

第一可算公理があれば,結局ネットではなく点列で考えれば良いということもわかりますね.

おわりに

位相空間をちゃんとやろう
パワーがあればつづく

投稿日:1日前
更新日:22時間前
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