位相空間における「点の近さ」の指標として最も基本的なものとして距離関数がある。しかし、一般に位相構造と両立するような距離関数が存在するとは限らない。位相空間がある距離空間と同相となるような十分条件を与える定理は距離化定理(metrization theorem)と呼ばれている。
よく知られたものとしては、Urysohnの距離化定理(Urysohn's metrization theorem)と呼ばれるものがある。これは最初、Urysohnによって示された定理であり、1926年にTikhonovによって現在の形で主張がまとめられた。
本記事では、より一般の準擬距離空間や準一様空間の圏論的特徴付けを紹介する。
距離空間(metric space)とは、台集合と呼ばれる集合$X$とその上で定義された距離函数$d$の組$(X,d)$のことである。
ここで、$X$上の距離函数(metric function)とは、以下の条件を満たす写像$d\colon X\times X\to\mathbb{R}_{\geq0}$のことである:
特に、距離函数$d$が三角不等式より強い条件
$$
\forall x,y,z\in X,d(x,z)\leq\max\{d(x,y),d(y,z)\}
$$
を満たすとき、$d$は非アルキメデス的(non-Archimedean)あるいは超距離(ultrametric)であるという。
また、三角不等式に加えて非退化性より弱い条件
$$
\forall x\in X,d(x,x)=0
$$
を満たす写像$d\colon X\times X\to\mathbb{R}_{\geq0}$を$X$上の準擬距離函数(quasi-pseudometric function)といい、準擬距離函数が対称性を満たすとき擬距離函数(pseudometric function)という。
距離空間と同様に、(準)擬距離函数を備える集合を(準)擬距離空間((quasi-)pseudometric space)という。
以後、集合$X$に対して部分集合$R\subseteq X\times X$を$X$上の二項関係(binary relation over $X$)といい、$a,b\in X$が$(a,b)\in R$を満たすとき$x$は$y$と$R$-関係にある($x$ is $R$-related to $y$)といい、$xRy$と表す。
集合$X$上の(準擬,擬)距離函数$d$は、各点$x\in X$に対して$\varepsilon>0$による$\varepsilon$-近傍($\varepsilon$-neighbourhood)$B_\varepsilon(x)\coloneqq\{p\in X\colon d(x,p)<\varepsilon\}$による近傍基$\{B_\varepsilon(x)\colon\varepsilon>0\}$により、位相を生成する。これを、$d$の誘導する(準擬,擬)距離位相((quasi-pseudo, pseudo)metric topology)といい、この意味で(準擬,擬)距離空間は位相空間とみなすとする。
位相空間$X$に対して、$X$と同相な(準擬,擬)距離空間が存在するとき、$X$は(準擬,擬)距離化可能((quasi-pseudo, pseudo)metrizable)であるといい、そのような空間を(準擬,擬)距離化可能空間((quasi-pseudo, pseudo)metrizable space)という。
位相空間が距離化可能であるメリットとして、
距離化可能空間の易しい例として、Euclid直線(Euclid line)がある。これは開区間のなす部分集合族$\{(a,b)\colon a< b\}$を開基として生成される位相を備える空間であり、距離函数$d$として$d(x,y)=\abs{y-x}$と取れる。
他方、距離化可能でない位相空間の例として、Sorgenfrey直線(Sorgenfrey line)がある。
Sorgenfrey直線とは、実数全体$\mathbb{R}$の半開区間のなす部分集合族$\{[a,b)\colon a< b\}$を開基として生成される位相を備える空間である。
ちなみに、Sorgenfrey直線は、コンパクト性、局所コンパクト性、第二可算性のいずれも満たさないが、パラコンパクトハウスドルフであるため、1の分割を持つ。
以後、特に断りがない限り$\mathbb{R}$はEuclid直線とする。
以下に距離化定理として代表的なものを述べる。(証明は省略)
第二可算的なすべてのハウスドルフ正則空間は距離化可能である。
位相空間に対して、それが可分かつ距離化可能であることと、第二可算で正則ハウスドルフ空間であることが同値である。
この同値命題を、非可分な距離空間にまで拡張したものが、以下の定理である。
位相空間に対して、それが距離化可能であることと、可算局所有限(countably locally finite)な開基を持つような正則ハウスドルフ空間であることが同値である。
また、可算局所有限性を可算局所離散性に強めても同値となる。
位相空間に対して、それが距離化可能であることと、可算局所離散(countably locally discrete)な開基を持つような正則ハウスドルフ空間であることが同値である。
距離函数の条件は、圏論におけるいくつかの条件と対応する。
| 距離空間の条件 | 圏論的な対応 | 解説 |
|---|---|---|
| 点$x,y,\ldots$ | 対象(objects) $A,B,\ldots$ | 空間の各点が圏の対象に対応する。 |
| 距離$d(x,y)$ | Hom対象(Hom-objects) $\operatorname{Hom}(A,B)$ | 2対象間の「射の集まり」が、ここでは単一の値(距離)になる。 |
| 非負性$d(x,y)\geq0$ | Hom対象の値域(豊穣圏におけるベース) | 距離が拡張正実数全体$[0,\infty]$の値をとることに対応する。 |
| 同一性$d(x,x)=0$ | 恒等射(identity) $\mathrm{id}_A\in\operatorname{Hom}(A,A)$ | 「自分から自分への距離は0」は、対象が恒等射を持つことに対応する。 |
| 三角不等式$d(x,y)+d(y,z)\geq d(x,z)$ | 射の合成(composition) $\operatorname{Hom}(B,C)\times\operatorname{Hom}(A,B)\to\operatorname{Hom}(A,C)$ | 2つの射$x\to y$, $y\to z$の「合成」として射$x\to z$を得る操作が、三角不等式そのものになる。 |
| 非退化性$d(x,y)=0$かつ$d(y,x)=0\Rightarrow x=y$ | 骨格的(skeletal) | 2対象間に距離0の射が双方向にあれば、それらは同一の対象である、という性質に対応する。 |
| 対称性$d(x,y)=d(y,x)$ | 自己双対性(self-dual) | 圏$C$とその反対圏$C^{\mathrm{op}}$の間に圏同値$C\simeq C^{\mathrm{op}}$が存在する |
この視点から距離空間を一般化したものが、以下になる。
拡張正実数$[0,\infty]$を、$x\to y:\!\iff x\geq y$として圏とみなし、実数の加法$+$により対称モノイダル圏(symmetric monoidal catergory)とする。
このとき、$[0,\infty]$による豊穣圏を一般化された距離空間(generalized metric space)という。
この概念は、ウィリアム・ローヴェア(Lawvere, F. William)によって1973年に導入された。
準擬距離空間は、先に述べた対応により一般化された距離空間とみなせる。
この対応は、準擬距離空間のなす圏$\mathrm{QPMet}$から$[0,\infty]$上の豊穣圏のなす圏$[0,\infty]\text{-}\mathrm{CAT}$への函手$\mathcal{L}$を定める。
擬距離空間$(X,d)$に対して、$X$上の擬距離函数であって擬距離$d$により一様連続であるようなもの全体を$D_d$とする。
このとき、$(X,d)$の位相はすべての$d^\prime\in D_d$による位相を上限の位相と一致する。
集合$X$上の擬距離函数$d$による位相を$\mathcal{O}_d$とする。
$d^\prime\in D_d$を任意に取り固定する。このとき、擬距離$d^\prime$は、$d$に関して一様連続なため、$\mathcal{O}_{d^\prime}\subseteq\mathcal{O}_d$となる。
他方、$d$は自分自身が定める一様構造について常に一様連続なため、$d\in D_d$となる。
したがって、$\sup_{d^\prime\in D_d}\mathcal{O}_{d^\prime}=\mathcal{O}_d$となる。
集合$X$上の(準)擬距離函数の集合$D$を(準)ゲージ((quasi-)gauge)といい、組$(X,D)$を(準)ゲージ空間((quasi-)gauge space)という。
これにより、ローヴェアが提唱した一般化された距離空間の考え方を、(準)ゲージ空間に対して次のように一般化することができる。
拡張正実数のなすモノイダル圏$[0,\infty]$と基数$\kappa$に対して、$[0,\infty]$の$\kappa$個のコピーの直積$[0,\infty]^{\kappa}$による豊穣圏を一般化されたゲージ空間(generalized gauge space)とする。
準ゲージ空間$(X,D)$は、列$(d(x,y))_{d\in D}$をHom対象として一般化されたゲージ空間となる。
この対応は、$\abs{D}=\kappa$を満たす準ゲージ空間のなす圏$\mathrm{QGau}_{\kappa}$から$[0,\infty]^{\kappa}$上の豊穣圏のなす圏$[0,\infty]^{\kappa}\text{-}\mathrm{CAT}$への函手$\mathcal{L}_{\kappa}$を定める。
準ゲージ空間では、空間内の「近さ」の概念を、各2点における「距離」により数値化し、それが一致するときに「同程度の近さにある」として空間を捉えている。
しかし、準ゲージ空間における完備性や全有界性などは具体的な準ゲージの取り方と直接的な依存関係にない。これは、空間内の「近さ」の概念を捉える際に、「距離」による数値化という「フィルター」が具体的な故に、「同程度の近さにある」かを判定する際には不要な性質まで持っていることになる。
これらのデメリットを解消するため、「一様構造」という概念を用意する。これにより、空間内の2点が「同程度の近さにある」かどうかを表現するに当たり、二項関係を用いることで、空間をより抽象的に捉えることができる。
集合$X$とし、$X$上の二項関係の族$\mathcal{U}$であって、以下の条件を満たすとする。
このとき、$\mathcal{U}$を$X$上の準一様構造(quasiuniform structure)といい、準一様構造がさらに条件
を満たすとき、$\mathcal{U}$を$X$上の一様構造(uniform structure, uniformity)という。
また、(準)一様構造$\mathcal{U}$の各要素を近縁(entourage, vicinity)という。
$X$と$X$上の(準)一様構造$\mathcal{U}$の組$(X,\mathcal{U})$を(準)一様空間((quasi)uniform space)という。
$X$を集合とする。
集合$X$上の(準)一様構造$\mathcal{U}$に対し、各点$x\in X$の近傍基$\{U(x)\colon U\in\mathcal{U}\}$の定める位相を、$\mathcal{U}$が$X$に定める位相(topology of uniformity $\mathcal{U}$)、あるいは(準)一様位相((quasi)uniform topology)という。
ここで、$U(x)=\{y\in X\colon xUy\}$である。
$x\in X$を任意に取り固定し、$\mathcal{B}(x)=\{U(x)\colon U\in\mathcal{U}\}$する。
一様構造を生成するような二項関係の族について次のような定理がある。
集合$X$とし、$X$上の二項関係の族$\mathcal{B}$であって、以下の条件を満たすとする。
このとき、$\mathcal{B}$を含む最小の準一様構造$\mathcal{U}$は必ず存在し、任意の$U\subseteq X\times X$に対して以下同値である。
このことから、$\mathcal{B}$を準一様構造の準基(quasiuniform subbase)という。
特に準基$\mathcal{B}$が条件
を満たすとき、上記の$\mathcal{U}$は一様構造となるため、$\mathcal{B}$を一様構造の準基(uniform subbase)という。
また、(準)一様構造の準基$\mathcal{B}$が条件
を満たすとき、$\mathcal{B}$を(準)一様構造の基((quasi)uniform base)という。
$\mathcal{B}$を準一様構造の準基とし、$\mathcal{U}$を
$$
\mathcal{U}=\left\{U\subseteq X\times X\mathrel{}\middle|\mathrel{}\text{有限個の$B_0,\ldots,B_{n-1}\in\mathcal{B}$が存在し、$\bigcap_{j=0}^{n-1}B_j\subseteq U$}\right\}
$$
とする。
これらより、$\mathcal{U}$は準一様構造となる。また、$\mathcal{B}$を一様構造の準基とすると、$U\in\mathcal{U}$に対して、$\bigcap_{j=0}^{n-1}B_j\subseteq U$として有限個の$B_0,\ldots,B_{n-1}\in\mathcal{B}$をとると、$B_j^{-1}\in\mathcal{B}$で$\bigcap_{j=0}^{n-1}B_j^{-1}\subseteq U^{-1}$より$U^{-1}\in\mathcal{U}$となる。したがって、$\mathcal{U}$は一様構造となる。
また、$\mathcal{B}$を含む準一様構造$\mathcal{V}$を任意にとり固定すると、任意の$U\in\mathcal{U}$に対して、$\bigcap_{j=0}^{n-1}B_j\subseteq U$として有限個の$B_0,\ldots,B_{n-1}\in\mathcal{B}$がとれるため、$B_j\in\mathcal{V}$より$U\in\mathcal{V}$となるため、$U$の任意性より$\mathcal{U}\subseteq\mathcal{V}$となる。したがって、$\mathcal{U}$は$\mathcal{B}$を含む準一様構造のうち最小のものである。
準一様構造は全ての位相空間に対して定まる。
すべての位相空間は準一様化可能である。
位相空間$X$を任意にとり固定する。
$X$の開集合$G$に対して、$U_G\coloneqq((X\setminus G)\times X)\cup(G\times G)$として、$U_G$の全体を$\mathcal{B}$とすると$\mathcal{B}$は準一様構造の準基となる。
また、$\mathcal{B}$による位相と$X$の位相が一致する。
位相空間$X$に対して、$X$と同相な一様空間が存在するとき、$X$は一様化可能(uniformizable)であるといい、そのような空間を一様化可能空間(uniformizable space)という。
位相空間の一様化可能性は次のように述べられる。(証明は省略)
位相空間$X$に対して、以下同値である。
ゲージ空間の持つ「表現の非標準性」というデメリットを解消するために一様空間を用意したが、ゲージ空間と一様空間はそれぞれ読み替え可能である。
具体的には、準擬距離函数$d$に対して
$$
U_{d,r}=\{(x,y)\in X\times X\colon d(x,y)< r\},\quad r>0
$$
とすると、擬距離函数と一様構造には次のような関係にある。
集合$X$とし、$X$上の(準)一様構造$\mathcal{U}$と$X$上の(準)擬距離$d\colon X\times X\to\mathbb{R}_{\geq0}$に対して、以下同値。
$\mathcal{U}$を$X$上の準一様構造、$d$を$X$上の準擬距離とする。
この補題により、ゲージから一様構造を定めることができる。
$D$を集合$X$上の(準)ゲージとする。このとき、$X$上の(準)一様構造$\mathcal{U}$であって、任意の$d\in D$が($X\times X$に直積一様構造を入れるとして)一様連続となるもののうち最も弱いものが存在する。これを、(準)ゲージ$D$によって定まる$X$上の(準)一様構造((quasi)uniformity determined by $D$)という。
$D$を$X$上の準ゲージとし、$U_{d,r}=\{(x,y)\in X\times X\colon d(x,y)< r\}$($d\in D$,$r>0$)により$\mathcal{B}=\{U_{d,r}\colon d\in D,r>0\}$とする。$\mathcal{B}$が準一様構造の準基であることを示せば十分である。
$d\in D$,$r>0$を任意に取り固定する。$x\in X$に対して$d(x,x)=0< r$なため$(x,x)\in U_{d,r}$より$x$の任意性から$\Delta(X)\subseteq U_{d,r}$。また、$(x,y),(y,z)\in U_{d,r/2}$に対して$d(x,y)< r/2$かつ$d(y,z)< r/2$より$d(x,z)\leq d(x,y)+d(y,z)< r$なため$(x,z)\in U_{d,r}$となり、$x,y,z$の任意性から$U_{d,r/2}\circ U_{d,r/2}\subseteq U_{d,r}$となる。
特に、$D$がゲージであるとき、任意の$d\in D$,$r>0$に対して$U_{d,r}^{-1}=U_{d,r}$なため$\mathcal{B}$は一様構造の準基となる。
ゲージから定めた一様構造は、次の意味で自然であるといえる。
$\mathcal{U}$を集合$X$上の(準)一様構造とする。このとき、$X$上の(準)擬距離函数$d\colon X\times X\to\mathbb{R}_{\geq0}$であって、 $d$が($X\times X$に直積一様構造を入れるとして)一様連続であるものの全体を$D$とすると、$D$は$X$上の(準)ゲージであって、$D$によって定まる(準)一様構造が$\mathcal{U}$と一致する。
このとき、$D$を$\mathcal{U}$の生成する(準)ゲージ((quasi)gauge generated by $\mathcal{U}$)という。
$\mathcal{U}$を集合$X$上の準一様構造とし、一様連続な準擬距離函数$d\colon X\times X\to\mathbb{R}_{\geq0}$の全体を$D$として、$D$によって定まる準一様構造を$\mathcal{V}$とする。
$\mathcal{V}$は$\mathcal{B}=\{U_{d,r}\colon d\in D,r>0\}$を準基として生成されており、先の補題より$\mathcal{B}\subseteq\mathcal{U}$なため、$\mathcal{V}$の最小性より$\mathcal{V}\subseteq\mathcal{U}$となる。
他方、$U\in\mathcal{U}$に対して、$\mathcal{U}$の要素の列$(U_n)_{n\geq 0}$を以下の漸化式により定める。
$$
U_0=X\times X,\quad U_1=U,\quad U_{n+1}\circ U_{n+1}\subseteq U_n,(n\geq1)
$$
ここで、写像$d\colon X\times X\to\mathbb{R}_{\geq0}$を$d_0(x,y)=\inf\{2^{-n}\colon(x,y)\in U_n,n\geq0\}$と$S(x,y)=\{(t_i)_{i=0}^{m}\in X^{m+1}\colon t_0=x,t_m=y\}$により、
$$
d(x,y)\coloneqq\inf\left\{L(t)\coloneqq\sum_{i=0}^{m-1}d_0(t_i,t_{i+1})\mathrel{}\middle|\mathrel{}t=(t_i)_{i=0}^{m}\in S(x,y)\right\}
$$
とすると、$d\in D$となる。
この$d$について$U_{d,1/2}\subseteq U$より$U\in\mathcal{V}$となるため、$U$の任意性より$\mathcal{U}\subseteq\mathcal{V}$となる。
以上で示したように、この定理は一様構造に対して一様連続となるような擬距離函数をすべて集めれば元の一様構造を復元できると述べている。
すなわち、一様構造$\mathcal{U}$に対して$\mathcal{U}$の生成するゲージ$D$を得る対応$\mathcal{U}\mapsto D$は単射であることを示している。
しかし逆に、ゲージ$D$に対して$D$によって定まる一様構造$\mathcal{U}$を得る対応$D\mapsto\mathcal{U}$は単射ではない。
$\mathcal{U}$を集合$X$上の(準)一様構造とし、$D_{\mathcal{U}}$を$\mathcal{U}$により一様連続となる(準)擬距離函数全体とする。
このとき、$X$上の(準)ゲージ$E$に対して、$E$の定める(準)一様構造が$\mathcal{U}$と一致するならば、部分集合$E\subseteq D_{\mathcal{U}}$となる。
この系により、$E\subseteq D_{\mathcal{U}}$となる$E$は$\mathcal{U}$を「生成する」と言えるため、$E$として「最小」なものがあれば「基底」と捉えることができる。
集合$X$上の2つの(準)ゲージ$D,D^\prime$が同値(equivalent)であるとは、それらが定める一様構造が一致するとして定義する。
このとき、集合$X$上の(準)ゲージ$D$の重み(weight)$w(D)$を、$D$と同値なゲージのうち、その濃度が最小となる値として定義する。
また、集合$X$上の(準)一様構造$\mathcal{U}$の重み$w(\mathcal{U})$を、$\mathcal{U}$の生成する(準)ゲージ$D$により$w(\mathcal{U})\coloneqq w(D)$とし、(準)ゲージ$B$として$w(\mathcal{U})=\abs{B}$を満たすものを$\mathcal{U}$のゲージ基底という。
$X$上の準ゲージ$D$に対して、$D$によって定まる準一様構造を$\mathcal{U}_D$とする。また、$X$上の準一様構造$\mathcal{U}$に対して、$\mathcal{U}$の生成する準ゲージを$D_{\mathcal{U}}$とする。
以後、$X$上の準ゲージ$D$を任意に取り固定し、$K=\{\abs{B}\colon\text{$B$は$X$上のゲージ},\mathcal{U}_B=\mathcal{U}_D\}$とする。
$\abs{D}\in K\neq\emptyset$より$K$は空でないため、最小値が存在すれば一意である。よって、存在性を示せば良い。
$X$上の準ゲージ$\overline{D}$を$\overline{D}\coloneqq D_{\mathcal{U}_D}$として、$\overline{D}$を生成する部分準ゲージ(i.e. 準ゲージ$B\subseteq\overline{D}$であって$B$と$\overline{D}$は同値)であって最小なものを構成する。
$\overline{D}$の部分集合$I$が独立であるとは、$I$のどの要素$p$も、それ自身を除いた集合$I\setminus\{p\}$から生成できないこととする。
$\Sigma$を$\overline{D}$の独立な部分集合全体とし、集合の包含関係により半順序集合とすると、$\Sigma$の任意の全順序部分集合の和集合は、再び独立となるため、$\Sigma$はツォルンの補題の条件を満たす。よって、極大独立集合$B$が$\Sigma$の中に存在する。
このとき、$B$の極大性から、$B$に属さない$\overline{D}$のどの要素も$B$によって生成できるため、$B$は$\overline{D}$を生成する。また、$B$の独立性から、$B$からは一つも要素を取り除くことができない。もし取り除けるなら、その要素は残りの要素で生成できてしまい、「独立」の定義に反する。
これらより、$\overline{D}$を生成する最小の部分準ゲージ$B$が存在することが示された。この$B$の濃度$\abs{B}$は、定義から$w(D)$と一致する。
したがって、重み$w(D)$は一意的に定まり、かつその重みを持つ準ゲージが実際に存在する。
特に、$D$がゲージであって、$\overline{D}$を生成する最小の部分ゲージ$B$も同様の議論により存在するため、$w(D)=\abs{B}$となる。
一般の準一様空間のローヴェアモデルによる圏論的特徴付けは2点$x,y$の関係を定量的な「数値のベクトル」で捉えるモデルになっているため、空間の「近さ」に具体的な座標系を与えて、定量的に分析したい場合に非常に強力である。また、数値による表現なため、加算$+$や最大値$\max$などの具体的な演算が可能なため、コーシー列や完備化といった具体的な構成を容易に行える。
一方で、準一様構造$\mathcal{U}$のゲージ基底$B$の選び方は一通りではない。異なる基底を選べば$x$と$y$を結びつけるベクトル$(b(x,y))_{b\in B}$の具体的な成分は全く違うものになってしまう。つまり、このベクトル表現は基底の選び方に依存し、一様構造そのものに内在する標準的な表現ではない。
このデメリットを解消するために「数値のベクトル」としての具体的な表示を捨て、より抽象的なモデルを構成する。
まず、豊穣圏のベースとなるモノイダル圏を構成する。
一様空間$X$に対して、モノイダル圏$\mathcal{V}_X$を次のデータにより構成する。
一様空間$X$に対し$\mathcal{U}_X$を$X$上の一様構造として、$\mathcal{V}_X$上の豊穣圏$\mathcal{P}(X)$を次のように定める。
準一様空間$X$に対して、$B$を$X$のゲージ基底として写像$\tau\colon\mathcal{V}_X\to[0,\infty]^{\abs{B}}$を
$$
\tau(\mathcal{A})_d\coloneqq\inf\{r>0\colon U_{d,r}\in\mathcal{A}\},\quad d\in B,\mathcal{A}\in\mathcal{V}_X
$$
とすると、次がそれぞれ成り立つ。
$\mathcal{U}_X$を$X$上の一様構造とする。
順序を保つ
$\mathcal{A}\to\mathcal{B}$とすると$\mathcal{A}\subseteq\mathcal{B}$より$\tau(\mathcal{A})_d\geq\tau(\mathcal{B})_d$となる。