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未解決問題解説
文献あり

「くどー問題」の解決に向けて 第2部:族の理論

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$$\newcommand{Hom}[0]{\mathrm{Hom}} \newcommand{id}[0]{\mathrm{id}} \newcommand{ilim}[1]{\displaystyle \lim_{\stackrel{\longrightarrow}{#1}}} \newcommand{qinteg}[0]{\displaystyle \:\cancel{^{}}\!\!\!\:\:\:\llap{\int}} \newcommand{spec}[0]{\mathrm{spec}} $$

初めに

有限集合 $B\subset\mathbb Z_{>0}$ で $S=\sum b$ が $C=\sum b^3$ を割るものを状態と呼ぶ.
「くどー問題」とは ku_do_ 氏が提唱し, bisaitama 氏によって名付けられた問であり,状態$N_n=\{1,2,\dots,n\}$から状態だけを通って1つずつ数を除去し,$\{1,n\}$ に至れるかを問う問題である.
第1部の J-λ 理論は,1つの状態についての理論であった.第2部では,$N_n$ のように状態がパラメータ $t$ に多項式で依存する族(多項式族)を考え,どの $t$ でも同じ形で現れる手(多項式の手)がどのように決まるかを調べる.多項式の手は,$E=S^3-C$ の $\mathbb Q[t]$ における約数から有限個に列挙でき,族が基点をもつときは $E$ の3つの因子の「混ぜ合わせ」から生じる.また,族の手の全体は1つの曲面の整数点としてまとまり,その上で無限個の手を含む曲線は,多項式で表されるものと Pell 方程式で表されるものの2種類に限られる.これにより,族の手は「多項式型」「Pell 型」「散発的」の3つの層に分けられる.
なお,本記事の作成の過程で,証明方針の探索および途中段階の議論の補助としてGemini 3.1 Pro(Google)および Claude Opus 5.5(Anthropic)を利用した.また,本記事に記載したすべての証明と計算は著者自身が独立に検証した.

くどー問題

くどー問題を形式化しますが,記号の定義はまた載せますので, ku_do_ 氏の記事「 そろそろ誰かに解いてほしい自作問題(未解決) 」「 そろそろ誰かに解いてほしい自作問題【続】(未解決)(5年振り) 」を見てもらえれば,この節は飛ばしても良いです.

くどー問題

$n$ を $3$ 以上の整数とし,$N_n=\{1,2,\dots,n\}$ とする.空でない有限な整数集合 $X$ に対して $$S(X)=\sum_{x\in X}x,\qquad C(X)=\sum_{x\in X}x^3$$ と定義する. $N_n$ の部分集合の列 $B_0,B_1,\dots,B_{n-2}$ であって,次の2条件 (i), (ii) を満たすものを除去列と呼ぶ.

  1. $B_0=N_n$,$B_{n-2}=\{1,n\}$ であり,各 $j\in\{0,1,\dots,n-3\}$ について,ある $y_j\in B_j$ により $B_{j+1}=B_j\setminus\{y_j\}$ と書ける.
  2. 任意の $j\in\{0,1,\dots,n-2\}$ に対して,$S(B_j)\mid C(B_j)$ である.

このとき,除去列が存在するような整数 $n\geq3$ は $n=3,6$ のみである.

(i) より $\{1,n\}=B_{n-2}\subset B_j$ がすべての $j$ で成り立つので,$1$ と $n$ は除去されない.したがって除去列は,$\{2,\dots,n-1\}$ の並べ替え $(y_0,\dots,y_{n-3})$ と1対1に対応する.また,$j=0$ と $j=n-2$ では (ii) が常に成り立つ($C(N_n)=S(N_n)^2$,$C(\{1,n\})=(n+1)(n^2-n+1)$).よって (ii) で実際に条件となるのは $1\le j\le n-3$ の場合だけである.

$n=6$ では,$3,4,5,2$ の順に除去する列 $$\{1,\dots,6\}\supset\{1,2,4,5,6\}\supset\{1,2,5,6\}\supset\{1,2,6\}\supset\{1,6\}$$ が除去列であり,$C/S$ の値は順に $21,23,25,25,31$ となる.

多項式族の理論

多項式族

多項式族

$I\subset\mathbb Z$ を無限集合とし,各 $t\in I$ に状態 $B(t)$ が与えられているとする.$\mathcal B=\{B(t)\}_{t\in I}$ が多項式族であるとは,$\hat S,\hat C\in\mathbb Q[t]$ が存在して,すべての $t\in I$ について $\hat S(t)=S(B(t))$,$\hat C(t)=C(B(t))$ が成り立つことをいう.$I$ は無限集合なので $\hat S,\hat C$ は一意に定まる.以下,これらを $S(t),C(t)$ と書く.

整数値有理関数

$\varphi\in\mathbb Q(t)$ が無限個の整数 $t$ で整数値をとるならば,$\varphi\in\mathbb Q[t]$ である.

多項式族の基本量

多項式族では,$k(t)=C(t)/S(t)$,$F(t)=S(t)^2-k(t)$,$E(t)=S(t)^3-C(t)=S(t)F(t)$ はすべて $\mathbb Q[t]$ の元である.

$\ell$ 次の多項式族

多項式族で $S(t),k(t)$ の次数がともに $\ell$ 以下のものを $\ell$ 次の多項式族と呼び,$\mathcal B^{(\ell)}$と書く.$I$ が等差数列のとき等差型と呼ぶ.

引き戻し

多項式族 $\mathcal B=\{B(t)\}_{t\in I}$ と定数でない $\tau\in\mathbb Q[u]$ について,$I_\tau=\{u\in\mathbb Z:\tau(u)\in I\}$ が無限集合であるとする.このとき $\{B(\tau(u))\}_{u\in I_\tau}$ は,$S(\tau(u))$,$C(\tau(u))$ を与える多項式族である.これを $\mathcal B$ の $\tau$ による引き戻しと呼び,$\tau^*\mathcal B$ と書く.

多項式の値の gcd

多項式の値の gcd

$f,g\in\mathbb Z[t]$ をともに $0$ でない多項式とし,$\mathbb Q[t]$ での最大公約元を原始的な $d\in\mathbb Z[t]$ で表す.Gauss の補題より $f=df_1$,$g=dg_1$($f_1,g_1\in\mathbb Z[t]$)と書け,$f_1,g_1$ は $\mathbb Q[t]$ で互いに素である.このとき,ある $0$ でない整数 $r$ と $U,V\in\mathbb Z[t]$ で $Uf_1+Vg_1=r$ となるものがあり($f_1,g_1$ がともに定数でなければ $r$ は終結式 $\mathrm{Res}(f_1,g_1)$ にとれる),すべての整数 $t$ について
$$\gcd\bigl(f(t),g(t)\bigr)=\lvert d(t)\rvert\cdot h(t),\qquad h(t)=\gcd\bigl(f_1(t),g_1(t)\bigr)\ \Big|\ r$$
が成り立つ.さらに $h(t)$ は $t\bmod\lvert r\rvert$ だけで決まる.

$r$ と $U,V$ の存在は,互いに素な整数係数多項式の終結式が $(f_1,g_1)\cap\mathbb Z$ に属することによる(一方が $0$ でない定数なら,$r$ としてその定数がとれる).整数 $t$ で $\gcd(d(t)x,d(t)y)=\lvert d(t)\rvert\gcd(x,y)$ なので等式が成り立つ.$U(t)f_1(t)+V(t)g_1(t)=r$ より $h(t)\mid r$.したがって $h(t)=\gcd\bigl(f_1(t),g_1(t),r\bigr)$ であり,$f_1(t),g_1(t)$ の $r$ を法とする剰余は $t\bmod\lvert r\rvert$ だけで決まる.

等差数列の上の gcd

有理係数で,等差数列 $\{t\equiv t_0\pmod m\}$ の上で整数値をとる多項式 $f,g$ には,$t=t_0+mu$ と置き換え,分母を払う正の整数 $M$ をかけて $Mf,Mg\in\mathbb Z[u]$ としてから「補題3:多項式の値の gcd」を用いる($\gcd(f,g)=\gcd(Mf,Mg)/M$).こうして,$\gcd\bigl(f(t),g(t)\bigr)$ は「多項式の gcd の値」×「$t$ の剰余類だけで決まる有界な正の有理数」と書ける.

多項式の手

多項式の手

多項式族 $\{B(t)\}_{t\in I}$ と $b\in\mathbb Q[t]$ について,無限集合 $I'\subset I$ の各点で $b(t)\in B(t)$ かつ $\lvert B(t)\rvert\ge2$ であるとき,$b$ を $B$ の多項式の除去候補と呼ぶ.$b(t)$ を $B(t)$ から除去できる $t\in I'$ が無限個あるとき,$b$ を $B$ の多項式の手と呼ぶ.同様に,$a\in\mathbb Q[t]$ で $I'$ の各点で $a(t)\ge1$,$a(t)\notin B(t)$ を満たすものを多項式の追加候補と呼ぶ.

多項式の約数定理

多項式族 $\{B(t)\}_{t\in I}$ と多項式の除去候補 $b$($t\in I'$)について,$D=S-b$ とおく.

  1. $D\nmid E$($\mathbb Q[t]$ で)ならば,$b(t)$ を $B(t)$ から除去できる $t\in I'$ は有限個であり,明示的に上から抑えられる.
  2. したがって,$b$ が多項式の手ならば $D\mid E$ である.これは $\mu_{B(t)}(b(t))=\dfrac{b\,(k-b^2)}{S-b}$ が $\mathbb Q[t]$ の元であることと同値である.
  3. $D\mid E$,$E=DW$ とすると,$t\in I'$ について,$b(t)$ を除去できることは $W(t)\in\mathbb Z$ と同値である.$I'$ が等差数列なら,この条件は $t$ のある法での剰余類だけで決まる.

追加候補 $a$ についても,$S+a$ を $D$ の代わりにして (1)〜(3) が成り立つ(「除去できる」を「$B(t)\cup\{a(t)\}$ が状態」に置き換える).

「J-λ理論:定理6:除去判定」(d) より,$b(t)$ を除去できることは $D(t)\mid E(t)$ と同値である.$\lvert B(t)\rvert\ge2$ より $D(t)=S(t)-b(t)>0$ である.
(1) $E=DW+R_0$($R_0\neq0$,$\deg R_0<\deg D$)と割り算し,正の整数 $N$ を $NW\in\mathbb Z[t]$ となるようにとる.$D(t)\mid E(t)$ なら $N\frac{R_0(t)}{D(t)}=N\frac{E(t)}{D(t)}-NW(t)\in\mathbb Z$ なので,$R_0(t)=0$ であるか $\lvert NR_0(t)\rvert\ge D(t)$ である.前者は高々 $\deg R_0$ 個の $t$ でしか起こらず,後者は $\deg R_0<\deg D$ より $\lvert t\rvert$ が十分大きいと起こらない.
(2) (1) の対偶.同値性は,$D$ を法として $S\equiv b$ なので $E=S(S^2-k)\equiv b\,(b^2-k)$ となることによる.
(3) $E(t)/D(t)=W(t)$ による.$W$ の係数の分母を $N'$ とすると,$t=t_0+mu$ のとき $W(t)\bmod1$ は $u\bmod N'$ だけで決まる.
追加候補については,$B(t)\cup\{a(t)\}$ が状態であることが $(S(t)+a(t))\mid E(t)$ と同値であること($S+a$ を法として $a\equiv-S$ なので $C+a^3\equiv-E$;「J-λ理論:命題15:3つの連続する和」の証明)を用いて,同じ議論をすればよい.

多項式族と整数 $e<\deg S$ を固定する.$\deg b\le e$ を満たす多項式の手 $b$ は,
「$E$ の $\mathbb Q[t]$ における約数 $D$ で,$\deg D=\deg S$ かつ $t^j$($j>e$)の係数が $S$ と一致するもの」
に対して $b=S-D$ とおいたものに限る.このような $D$ は有限個であり,$E$ の既約分解から列挙できる.

「定理4:多項式の約数定理」(2) より $D=S-b$ は $E$ の約数で,$\deg b\le e<\deg S$ より $D$ の次数と上位の係数は $S$ と一致する.$E$ の約数は既約因子のべきの積と定数倍で尽くされ,最高次の係数を $S$ に合わせると定数倍も決まるので有限個.

パラメータの取り替え

定理4 の系はパラメータ $t$ を固定したときの列挙である.$t=\tau(u)$($\deg\tau\ge2$)と取り替えると,$E(\tau(u))$ の既約分解が細かくなり,新しい約数(新しい族)が現れうる.これは引き戻し $\tau^*\mathcal B$ に定理4 の系を適用することにあたる.次の多項式の部分族の定義は,この取り替えを含めたものである.

多項式の部分族

多項式族 $\mathcal B$ について,定数でない $\tau\in\mathbb Q[u]$ と,引き戻し $\tau^*\mathcal B$ の多項式の手 $\zeta\in\mathbb Q[u]$ の組 $(\tau,\zeta)$ を,$B$ の次の手の多項式の部分族と呼ぶ.$\tau(u)=u$ のときは,$\zeta$ は $\mathcal B$ 自身の多項式の手である.
このとき $S(\tau)-\zeta$ は無限個の $u$ で正なので,$0$ でない多項式である.
$$c(u)=\frac{k(\tau(u))-\zeta(u)^2}{S(\tau(u))-\zeta(u)}\in\mathbb Q(u)$$
を部分族の公差関数と呼ぶ.$\zeta(u)$ を $B(\tau(u))$ から除去できる $u$ では $c(u)=c_{B(\tau(u))}(\zeta(u))$ である.

公差関数の形

多項式の部分族 $(\tau,\zeta)$ について,
$$\mu(u)=\zeta(u)\,c(u),\qquad \kappa(u)=\zeta(u)-\mu(u)$$
はともに $\mathbb Q[u]$ の元であり,$S(\tau)-\zeta$ は $\mathbb Q[u]$ で $E(\tau(u))$ を割る.特に,公差関数は $c=\mu/\zeta$ の形をしており,その分母は $\zeta$ を割る.

$\zeta(u)$ を $B(\tau(u))$ から除去できる $u$ では,「J-λ理論:定理6:除去判定」(b) より $\mu(u)=\mu_{B(\tau(u))}(\zeta(u))\in\mathbb Z$ である.$\mu\in\mathbb Q(u)$ が無限個の整数で整数値をとるので,「補題1:整数値有理関数」より $\mu\in\mathbb Q[u]$.$\kappa=\zeta-\mu$ も多項式である.後半は,「定理4:多項式の約数定理」(2) を $\tau^*B$ と $\zeta$ に適用すればよい.

手の曲面

手の曲面

多項式族 $\mathcal B$ に対して,$(t,z,m)$ 空間の曲面
$$\mathcal M:\ m\,\bigl(S(t)-z\bigr)=z\,\bigl(k(t)-z^2\bigr)$$
を考える.

  1. $t\in I$ と $z\in B(t)$($\lvert B(t)\rvert\ge2$)について,$z$ を $B(t)$ から除去できることは,$(t,z,m)\in\mathcal M$ となる整数 $m$ が存在することと同値である.このとき $m=\mu_{B(t)}(z)$ に限る.したがって
    $$z\longmapsto\bigl(t,\,z,\,\mu_{B(t)}(z)\bigr)$$
    は,除去できる組 $(t,z)$ の全体から,$\mathcal M$ の整数点 $(t,z,m)$ で $t\in I$,$z\in B(t)$ を満たすものの全体への全単射である.
  2. $\rho\in\mathbb Q$ に対して,平面 $m=\rho z$ による $\mathcal M$ の切り口は,直線 $\{z=m=0\}$ と,ファイバー曲線 $\{(t,z,\rho z):\ z^2-\rho z=k(t)-\rho S(t)\}$ の和である.
  3. $z\neq0$,$z\neq S(t)$ を満たす $\mathcal M$ の点 $(t,z,m)$ は,ちょうど1つの平面 $m=\rho z$ に乗り,その公差は $\rho=\frac mz=\frac{k(t)-z^2}{S(t)-z}$($t\in I$ なら $c_{B(t)}(z)$)である.したがって,そのような点の全体は,公差 $\rho\in\mathbb Q$ ごとのファイバー曲線の互いに素な和に分かれる.
  4. 多項式の部分族 $(\tau,\zeta)$ は,$\mathcal M$ 上の多項式曲線 $u\mapsto\bigl(\tau(u),\zeta(u),\mu(u)\bigr)$ を与える.公差関数が定数 $\rho_0$ であることは,この曲線が平面 $m=\rho_0z$ に含まれることと同値である.
  1. $z\in B(t)$ かつ $\lvert B(t)\rvert\ge2$ なので $S(t)-z>0$ であり,$\mathcal M$ の式は $m=\frac{z(k(t)-z^2)}{S(t)-z}=z\,c_{B(t)}(z)=\mu_{B(t)}(z)$ と同値である.よって $m$ は $z$ からただ1つに決まり,「J-λ理論:定理3:除去の公式」より,$z$ を除去できることは $\mu_{B(t)}(z)\in\mathbb Z$ と同値である.
  2. $m=\rho z$ を代入すると $z\bigl(\rho(S(t)-z)-(k(t)-z^2)\bigr)=0$ となる.よって $z=0$(このとき $m=0$)であるか,$z^2-\rho z=k(t)-\rho S(t)$ である.後者は $t\in I$ のとき,$z$ が $B(t)$ の公差 $\rho$ の候補点であるという条件である.
  3. $z\neq0$ なので,点が平面 $m=\rho z$ に乗るのは $\rho=m/z$ のときに限る.$z\neq S(t)$ なので,$\mathcal M$ の式を $z(S(t)-z)$ で割ると $\frac mz=\frac{k(t)-z^2}{S(t)-z}$ となる.公差が異なる平面どうしは直線 $\{z=m=0\}$ でしか交わらないので,ファイバー曲線どうしは互いに素である.
  4. 「命題5:公差関数の形」より $\mu\in\mathbb Q[u]$ であり,公差関数の定義から $\mu\,(S(\tau)-\zeta)=\zeta\,(k(\tau)-\zeta^2)$ が $\mathbb Q[u]$ で成り立つ.$\zeta(u)$ は無限個の $u$ で正なので $\zeta\neq0$ であり,曲線が平面 $m=\rho_0z$ に含まれること,すなわち $\mu=\rho_0\zeta$ は,$c=\mu/\zeta=\rho_0$ と同値である.
散発的な手

命題6 により,族の除去できる手の全体は曲面 $\mathcal M$ の整数点として1つにまとまり,公差 $\rho$ ごとのファイバー曲線に分かれる.

  • 公差が整数の点は,「J-λ理論:定理8:整数公差の連鎖」とその系,「J-λ理論:定理10:ファイバーの方程式」,「J-λ理論:命題11」で扱える.
  • 公差が整数でない点は,各状態の各ファイバーに高々1個である(「J-λ理論:命題9:同じ公差の手の個数」).また,その手から始まる連鎖は1手で終わる(「J-λ理論:定理8:整数公差の連鎖」の系 (2)).
  • 2次の多項式族では,各ファイバー曲線は「定理8:三分法」で扱える.しかし整数でない公差は無数にあるので,ファイバーごとの結果から,公差が整数でない点の全体の有限性は従わない.
    なお,$t$ を固定した切り口 $m(S-z)=z(k-z^2)$ は1つの状態 $B(t)$ の曲線であり,$z\in B(t)$ を満たすその整数点は自明に有限個である.命題6 は族で考えて初めて意味をもつ.

2次の多項式族のファイバー

ファイバー曲線の係数

2次の多項式族について $S(t)=S_2t^2+S_1t+S_0$,$k(t)=k_2t^2+k_1t+k_0$ と書き,公差 $\rho\in\mathbb Q$ に対して
$$q_i(\rho)=k_i-\rho S_i\quad(i=0,1,2),\qquad \delta(\rho)=q_1(\rho)^2-q_2(\rho)\bigl(4q_0(\rho)+\rho^2\bigr)$$
とおく.$k(t)-\rho S(t)=q_2(\rho)t^2+q_1(\rho)t+q_0(\rho)$ であり,$q_0,q_1,q_2$ は $\rho$ の高々1次式である.

ファイバー曲線

2次の多項式族と公差 $\rho$ について,$z$ が $B(t)$ の公差 $\rho$ の候補点である条件は
$$(2z-\rho)^2=4\bigl(q_2t^2+q_1t+q_0\bigr)+\rho^2\qquad(q_i=q_i(\rho))$$
であり,これは $(t,z)$ 平面の2次曲線を定める.
(1) $q_2=0$,$q_1\neq0$ のとき,曲線は放物線である.
(2) $q_2\neq0$ のとき,
$$(2q_2t+q_1)^2-q_2\,(2z-\rho)^2=\delta(\rho).$$
$\delta(\rho)=0$ のとき(退化),曲線は2直線 $2q_2t+q_1=\pm\sqrt{q_2}\,(2z-\rho)$ に分かれる.
(3) $\delta(\rho)$ は $\rho$ の高々3次式である.したがって,$\delta$ が恒等的に $0$ でなければ,退化する公差は高々3個である.

候補点の条件 $z^2-\rho z=k(t)-\rho S(t)$(「J-λ理論:命題2:候補点の構造」(2))を平方完成すると主張の式になる.(2) は両辺に $q_2$ を掛けて,$t$ について平方完成すればよい.(3) は $q_0,q_1,q_2$ が $\rho$ の高々1次式であることから従う.

三分法

2次の多項式族と公差 $\rho\in\mathbb Q$ について,$q_2=q_2(\rho)\neq0$,$\delta(\rho)\neq0$ とする.$(t,z)$ には,ある法 $N_1$ の剰余類の和集合で表される合同条件(例えば $s\mid z$)を課す($I$ が等差数列なら,$t\in I$ もこの形の条件である).$q_2=\alpha/\beta$($\alpha,\beta\in\mathbb Z$,$\beta>0$)と書く.

  1. $q_2<0$ であるか,$\alpha\beta$ が平方数であれば,ファイバー曲線上の整数点は有限個である.
  2. $q_2>0$ で $\alpha\beta$ が平方数でなければ,合同条件を満たす整数点の集合は空か無限集合である.無限集合のときは,有限個の軌道 $\{g^{jK}P_0\}_{j\in\mathbb Z}$ の和である.ここで $g$ は Pell 方程式の単数による自己同型,$K$ はその合同条件に対応する法での位数である.軌道の上で,$\lvert j\rvert\to\infty$ のとき $\lvert t\rvert$ は指数関数的に増大する.

分母を払う正の整数 $\nu$ をとり,$U=\nu\beta\,(2q_2t+q_1)$,$V=\nu\,(2z-\rho)$ とおくと
$$U^2-\alpha\beta\,V^2=\nu^2\beta^2\,\delta(\rho)\neq0$$
となる.$(t,z)\mapsto(U,V)$ は有理係数のアフィン写像なので,$(t,z)$ の整数性と合同条件は,$(U,V)$ についてのある法 $N_2$ の合同条件になる.

  1. $q_2<0$ なら左辺は正定値なので,解は有限個である.$\alpha\beta=s_0^2$ なら $(U-s_0V)(U+s_0V)=\nu^2\beta^2\delta(\rho)$ と分解でき,右辺の約数の組は有限個である.
  2. $N_0=\alpha\beta$ を平方数でない正の整数,$M_0=\nu^2\beta^2\delta(\rho)\neq0$ とすると,$U^2-N_0V^2=M_0$ の整数解は,有限個の解に $x_1+y_1\sqrt{N_0}$($x_1^2-N_0y_1^2=1$)の整数べき(負のべきを含む)を掛けたものに限る.自己同型 $g=\begin{pmatrix}x_1&N_0y_1\\ y_1&x_1\end{pmatrix}$ は行列式が $1$ なので,法 $N_2$ で有限の位数 $K$ をもち,$g^K$ は法 $N_2$ の合同条件を保つ.したがって条件を満たす点 $P_0$ が1つあれば,$g^{jK}P_0$($j\ge0$)はすべて条件を満たし,点は無限個ある.
範囲の条件

実際の族では,$z$ が $B(t)$ の元であるという範囲の条件(例えば $B(t)\subset[1,n(t)]$ のとき $2\le z\le n(t)-1$)が加わる.これは合同条件ではないので,定理8 (2) の軌道で保たれるとは限らない.ただし軌道の上では $\lvert z\rvert/\lvert t\rvert\to\sqrt{q_2(\rho)}$ となる.したがって多くの場合,$\sqrt{q_2(\rho)}$ と範囲の端の傾きを比べることで,「有限個を除いて満たされる」か「有限個しか満たされない」かが決まる.

公差 $\frac12$ の退化

2次の多項式族で,$\Phi(t)=2k(t)-S(t)$ について $8\Phi(t)+1$ が $t$ の1次式の平方 $(\gamma t+\eta)^2$ であるとする.このとき,公差 $\frac12$ のファイバー曲線は2直線 $4z-1=\pm(\gamma t+\eta)$ に分かれる.特に $\Phi(t)=T_{\sigma(t)}$($\sigma(t)$ は $t$ の1次式)のとき,候補点は $z=\frac{\sigma(t)+1}2$ と $z=-\frac{\sigma(t)}2$ である.

「J-λ理論:命題11」(1) より,公差 $\frac12$ の候補点の条件 $2z^2-z=\Phi$ は $(4z-1)^2=8\Phi+1$ と同値である.また $8T_\sigma+1=(2\sigma+1)^2$.

多項式の部分族の分類

多項式の部分族の分類

2次の多項式族 $\mathcal B^{(2)}$ の次の手の多項式の部分族 $(\tau,\zeta)$ は,次のどれか1つに当てはまる.
(a)(放物線型)公差関数が定数 $\rho_0$ で,$q_2(\rho_0)=0$.
(b)(退化型)公差関数が定数 $\rho_0$ で,$q_2(\rho_0)\neq0$ かつ $\delta(\rho_0)=0$.
(c)(動く公差型)公差関数 $c(u)$ が定数でない.
特に,公差を固定した双曲線のファイバー($q_2(\rho_0)\neq0$ かつ $\delta(\rho_0)\neq0$)は,多項式の部分族を含まない.

(a)(b)(c) が互いに排反であることは定義から明らか.残る場合,すなわち公差関数が定数 $\rho_0$ で $q_2=q_2(\rho_0)\neq0$,$\delta=\delta(\rho_0)\neq0$ の場合が起こらないことを示す.
$\zeta(u)$ を $B(\tau(u))$ から除去できる無限個の $u$ では,$\zeta(u)$ は $B(\tau(u))$ の公差 $\rho_0$ の候補点である(「J-λ理論:命題2:候補点の構造」(1)).よって
$$\zeta(u)^2-\rho_0\,\zeta(u)=k(\tau(u))-\rho_0\,S(\tau(u))$$
が成り立つ.両辺は $u$ の多項式で,無限個の $u$ で一致するから,恒等式である.したがって「定理7:ファイバー曲線」(2) の計算により,多項式
$$U(u)=2q_2\,\tau(u)+q_1,\qquad V(u)=2\zeta(u)-\rho_0\qquad(q_1=q_1(\rho_0))$$
は $U^2-q_2V^2=\delta$ を恒等的に満たす.$\sqrt{q_2}\in\overline{\mathbb Q}$ をとると,$\overline{\mathbb Q}[u]$ において
$$(U-\sqrt{q_2}\,V)(U+\sqrt{q_2}\,V)=\delta\neq0$$
である.積が $0$ でない定数となる2つの多項式は,ともに定数である.よって $U=\frac12\bigl((U-\sqrt{q_2}\,V)+(U+\sqrt{q_2}\,V)\bigr)$ は定数であり,$q_2\neq0$ より $\tau$ も定数となって,多項式の部分族の定義に反する.

  1. $S_2\neq0$ で,$\delta$ が恒等的に $0$ でなければ,公差関数が定数の多項式の部分族((a) と (b))が乗る公差は高々4個である.内訳は,(a) が $\rho=k_2/S_2$ の1個,(b) が高々3個である.
  2. さらに $P(t)=k(t)-S(t)$ が $t$ の高々1次式なら,$k_2=S_2$ なので $q_2(\rho)=S_2(1-\rho)$ である.したがって (a) は公差 $1$ に限る.
  1. $q_2(\rho)=k_2-\rho S_2$ は $S_2\neq0$ より $\rho$ の1次式で,その根は $\rho=k_2/S_2$ だけである.(b) の個数は「定理7:ファイバー曲線」(3) による.
  2. $k=S+P$ の $t^2$ の係数が $S_2$ であることによる.
3つの型
  • (a):$q_1(\rho_0)\neq0$ なら,ファイバー曲線は放物線であり,
    $$t=\frac{(2z-\rho_0)^2-4q_0-\rho_0^2}{4q_1}\qquad(q_i=q_i(\rho_0))$$
    と $z$ で書ける.したがって,$z$ をパラメータとする部分族が合同条件のもとで存在する.公差が $1$ のときは,これは公差 $1$ の連鎖の始まり(トリガー)の族である.$q_1(\rho_0)=0$ なら,$z$ は $t$ によらない定数である.
  • (b):部分族は2直線のどちらかに乗る.例えば「定理9:公差 $\frac12$ の退化」の状況では,公差 $\frac12$ の直線 $4z-1=\pm(\gamma t+\eta)$ である.
  • (c):部分族は,曲面 $\mathcal M$ 上の多項式曲線 $u\mapsto\bigl(\tau(u),\zeta(u),\mu(u)\bigr)$ で,どの平面 $m=\rho z$ にも含まれないものである(「命題6:手の曲面」(4)).「命題5:公差関数の形」より,公差関数は $\mu/\zeta$ の形をしている.どれだけあるかは $\mathcal M$ の幾何(例えば楕円曲面としての構造)で決まり,本記事の議論だけからは決まらない.
  • 公差を固定した双曲線のファイバー上の点は,「定理8:三分法」(2) の軌道として指数関数的に並び,命題10 により多項式の部分族にはならない.

多項式版の二分法

多項式版の二分法

多項式族 $\{B(t)\}$,多項式の追加候補 $a$,多項式の除去候補 $b$ について,無限集合 $I'$ の各点で $B(t)\cup\{a(t)\}$ と $B(t)\setminus\{b(t)\}$ がともに状態であるとする.$\mathbb Q[t]$ で
$$g_1^*=\gcd(S,a),\quad g_2^*=\gcd(S,b),\quad g_3^*=\gcd\Bigl(\frac{S+a}{g_1^*},\frac{S-b}{g_2^*}\Bigr),\quad G^*=g_1^*g_2^*g_3^*$$
とおき(それぞれ $0$ でない定数倍を除いて定まる),
$$c_b=\frac{k-b^2}{S-b}\in\mathbb Q(t)$$
とする(各 $t\in I'$ で $c_b(t)=c_{B(t)}(b(t))$).このとき
$$R^*=\frac{F\,G^*}{(S+a)(S-b)}\in\mathbb Q[t],\qquad \frac{R^*}{G^*}=1-\frac{a-b+c_b}{S+a}$$
であり,次のどちらか一方が成り立つ.

  1. (連鎖の1歩)$c_b=b-a$(有理関数として).このとき,$I'$ の各点で $a(t),b(t)$ は公差 $b(t)-a(t)$ の連鎖の連続する2手である(「J-λ理論:定理16:連鎖か gcd か」(i)).
  2. (代数的な継ぎ目)$c_b\neq b-a$.このとき $G^*-R^*=\dfrac{G^*(a-b+c_b)}{S+a}$ は $0$ でない多項式であり,特に
    $$\deg G^*\ \ge\ \deg(S+a)-\deg(a-b+c_b).$$

「定理4:多項式の約数定理」(2) とその追加版より,$\mathbb Q[t]$ で $(S-b)\mid E$,$(S+a)\mid E$ である.$E=SF$ で,$\gcd(S+a,S)=\gcd(a,S)=g_1^*$ なので $\frac{S+a}{g_1^*}\mid\frac{S}{g_1^*}F$,かつ $\frac{S+a}{g_1^*}$ と $\frac{S}{g_1^*}$ は互いに素だから $\frac{S+a}{g_1^*}\mid F$.同様に $\frac{S-b}{g_2^*}\mid F$.両者の最小公倍元 $L^*=\frac{(S+a)(S-b)}{G^*}$ も $F$ を割るので,$R^*=F/L^*\in\mathbb Q[t]$.「J-λ理論:定理5:基点の公式」(2) の恒等式 $F=(S-b)(S+b-c_b)$(有理関数として)から
$$\frac{R^*}{G^*}=\frac{F}{(S+a)(S-b)}=\frac{S+b-c_b}{S+a}=1-\frac{a-b+c_b}{S+a}.$$
$c_b=b-a$ なら,各 $t\in I'$ で「J-λ理論:定理16:連鎖か gcd か」の (i) の場合になる.そうでなければ $G^*-R^*=\frac{G^*(a-b+c_b)}{S+a}$ は $0$ でない多項式なので,次数は $0$ 以上である.

数値の gcd との関係

定理11 の状況で $I'$ が等差数列に含まれるとする.$I'$ を有限個の剰余類に分けると,各剰余類の上では(有限個の $t$ を除いて)
$$G(t)=\theta\cdot\lvert G^*(t)\rvert$$
となる.ここで $G(t)$ は「J-λ理論:命題15:3つの連続する和」の系の $g_1g_2g_3$ を $B(t)$,$a(t)$,$b(t)$ で計算したもの,$\theta$ は剰余類ごとに定まる正の有理数である.

まず $S,a,b$ の係数の分母を法とする剰余類に $I'$ を分け,各類の上で $S,a,b$ が整数値をとるようにしておく.注意「等差数列の上の gcd」を $g_1(t)=\gcd(S(t),a(t))$ に用いると,$g_1(t)=\lvert d_1(t)\rvert h_1(t)$($d_1$ は $g_1^*$ の定数倍,$h_1$ は剰余類で決まる).$h_1$ が一定の剰余類の上では $\frac{S(t)+a(t)}{g_1(t)}$ は $t$ の多項式の値になる.$g_2$ も同様.この2つの多項式に再び同じ注意を用いると,$g_3(t)$ は $g_3^*$ の定数倍の値と剰余類で決まる因子の積になる.剰余類を細かくとり直せば,3つの因子がすべて一定になる.

(ii) の不等式は,族が続くためには多項式として大きな gcd が必要であることを述べている.数値の gcd の偶然(「J-λ理論:定理16:連鎖か gcd か」(R2) が多項式の gcd なしに成り立つこと)は,命題12 により有限個の剰余類の定数倍の範囲でしか起こらないので,族の中では次数の不等式に吸収される.

基点つき多項式族

基点つき多項式族,穴の族

多項式族 $\mathcal B=\{B(t)\}_{t\in I}$ と $\rho_0,x_0\in\mathbb Q[t]$ について,すべての $t\in I$ で $(\rho_0(t),x_0(t))$ が $B(t)$ の基点であるとき,すなわち
$$x_0^2-\rho_0x_0+\rho_0S-k=0\qquad(\mathbb Q[t]\text{ の等式})$$
が成り立つとき,$(\rho_0,x_0)$ を $\mathcal B$ の多項式の基点と呼び,$(\mathcal B;\rho_0,x_0)$ を基点つき多項式族と呼ぶ.
さらに,$\rho_0$ が $0$ でない整数の定数であり,$a=x_0-\rho_0$ とおくとき,すべての $t\in I$ で
$$x_0(t)\notin B(t),\qquad a(t)\ge1,\qquad a(t)\notin B(t)$$
が成り立つものを穴の族と呼ぶ.$x_0$ を穴,$a$ を直前の手と呼ぶ.

穴の族は,「J-λ理論:定理8:整数公差の連鎖」の系 (1) のように,公差 $\rho_0$ の連鎖が $a\to x_0$ で止まった状態の族である.実際,「J-λ理論:定理14:共役と逆の手」より,$B(t)\cup\{a(t)\}$ は状態であり($a\rho_0\in\mathbb Z$),そこから $a(t)$ を除去すると候補点は穴 $x_0(t)$ に輸送される.

$F$ の分解

基点つき多項式族 $(\mathcal B;\rho_0,x_0)$ では,$\mathbb Q[t]$ において
$$F=(S-x_0)(S+x_0-\rho_0),\qquad E=S\,(S-x_0)(S+x_0-\rho_0)$$
が成り立つ.

$k=x_0^2-\rho_0x_0+\rho_0S$ を $F=S^2-k$ に代入すると $F=S^2-\rho_0S-x_0^2+\rho_0x_0=(S-x_0)(S+x_0-\rho_0)$.$E=SF$ は「補題2:多項式族の基本量」による.

因子の混ぜ合わせ

基点つき多項式族 $(\mathcal B;\rho_0,x_0)$ で $\deg x_0<\deg S$,$\deg\rho_0<\deg S$ とし,$b$ を $\deg b<\deg S$ を満たす多項式の手とする.
(1) $D=S-b$ は,$S$,$S-x_0$,$S+x_0-\rho_0$ の既約因子(重複を込めて)のいくつかの積の定数倍であり,$\deg D=\deg S$,かつ最高次の係数は $S$ と一致する.
(2) $S-x_0$ と $S+x_0-\rho_0$ がともに $\mathbb Q[t]$ で既約ならば,$b\in\{x_0,\ \rho_0-x_0\}$ である.
したがって,$b\notin\{x_0,\rho_0-x_0\}$ となる多項式の手は,$S-x_0$ または $S+x_0-\rho_0$ が可約であり,$D$ が3つの多項式の因子を混ぜ合わせた積になっている場合にしか現れない.

  1. 「定理4:多項式の約数定理」(2) と補題13 より $D\mid E=S(S-x_0)(S+x_0-\rho_0)$.$\deg b<\deg S$ より,$D$ の次数と最高次の係数は $S$ と一致する.
  2. $f_1=S-x_0$,$f_2=S+x_0-\rho_0$ とおく.$\deg x_0,\deg\rho_0<\deg S$ より,$f_1,f_2$ の次数と最高次の係数は $S$ と一致する.$f_1\mid D$ なら,次数と最高次の係数が等しいので $D=f_1$,すなわち $b=x_0$ である.$f_2\mid D$ なら同様に $b=\rho_0-x_0$ である.どちらでもなければ,$f_1,f_2$ は既約なので $D$ と互いに素であり,$D\mid S\,f_1f_2$ から $D\mid S$ を得る.次数と最高次の係数を比べて $D=S$,すなわち $b=0$ となるが,$b(t)\in B(t)\subset\mathbb Z_{>0}$ となる $t$ が無限個あるので $b\neq0$ であり,矛盾する.

穴の族で $\deg x_0<\deg S$ とし,$S-x_0$ と $S+x_0-\rho_0$ がともに $\mathbb Q[t]$ で既約であるとする.このとき,$\deg b<\deg S$ を満たす多項式の手 $b$ は存在しない.

命題14 (2) より $b\in\{x_0,\rho_0-x_0\}$ である.しかし $x_0(t)\notin B(t)$ であり,$\rho_0-x_0=-a$ は $I$ 上で負なので,どちらも $B(t)$ の元にならない.

$N_t$ の初手

$I=\{t\in\mathbb Z:t\ge3\}$,$B(t)=N_t$ とすると $S=k=\frac{t(t+1)}2$ であり,$(\rho_0,x_0)=\bigl(\frac12,\frac{t+1}2\bigr)$ は多項式の基点である.補題13 より
$$S-x_0=\frac{(t-1)(t+1)}2,\qquad S+x_0-\rho_0=\frac{t(t+2)}2,\qquad E=\frac{t^2(t-1)(t+1)^2(t+2)}8$$
となり,3つとも可約である.$E$ の約数 $D$ で $D$ の次数が $2$,最高次の係数が $\frac12$ のものを調べると,$\deg b\le1$ かつ $b>0$ となる $b=S-D$ は次の4つである.

$D$$b$由来
$\frac{(t-1)(t+1)}2$$\frac{t+1}2$$S-x_0$ そのもの(輸送)
$\frac{t^2}2$$\frac t2$$S$ の因子 $t$ と $S+x_0-\rho_0$ の因子 $t$ の混ぜ合わせ
$\frac{t(t-1)}2$$t$$S$ の因子 $t$ と $S-x_0$ の因子 $t-1$ の混ぜ合わせ
$\frac{(t-1)(t+2)}2$$1$$S-x_0$ の因子 $t-1$ と $S+x_0-\rho_0$ の因子 $t+2$ の混ぜ合わせ

「定理4:多項式の約数定理」(3) により,例えば $b=\frac{t+1}2$ は $t\equiv3\pmod4$ で,$b=\frac t2$ は $t\equiv2\pmod4$ で除去できる.

多項式族 $\mathcal B$ の多項式の手 $y$ で,公差 $c_{B(t)}(y(t))$ が $t$ によらない定数 $\rho$ であるものを除去すると,「J-λ理論:定理7:輸送と前進」より,$y+\rho$ は除去後の状態の公差 $\rho$ の候補点である.したがって,除去後の族は多項式の基点 $(\rho,\,y+\rho)$ をもち,「補題13:$F$ の分解」により $F$ は多項式として分解する.
族の手を1手ずつ進めると,このようにして基点が次々に供給される.さらに基点が2つになると,次の命題のように $F$ はより細かく分解する.

2つの基点

多項式族 $\mathcal B$ が2つの多項式の基点 $(\rho_1,x_1)$,$(\rho_2,x_2)$ をもつとする.$\deg x_i<\deg S$,$\deg\rho_i<\deg S$($i=1,2$)とし,$(\rho_2,x_2)$ は $(\rho_1,x_1)$ とも,その共役 $(\rho_1,\rho_1-x_1)$ とも異なるとする.
$$f_1=S-x_1,\qquad f_1'=S+x_1-\rho_1,\qquad f_2=S-x_2,\qquad f_2'=S+x_2-\rho_2$$
とおく.このとき次が成り立つ.

  1. $f_1f_1'=f_2f_2'=F$.
  2. 多項式 $A,B,C,D\in\mathbb Q[t]$ があって
    $$f_1=AB,\qquad f_1'=CD,\qquad f_2=AC,\qquad f_2'=BD.$$
  3. $A,B,C,D$ はどれも定数でない.したがって $f_1,f_1',f_2,f_2'$ はどれも $\mathbb Q[t]$ で可約である.また $\deg A=\deg D$,$\deg B=\deg C$.
  4. $E=S\cdot ABCD$ である.したがって,$\deg b<\deg S$ を満たす多項式の手 $b$ について,$S-b$ は $S,A,B,C,D$ の既約因子のいくつかの積の定数倍である.特に $\deg A=\deg B$ のとき,$AD$ と $BC$ はそれぞれ(定数倍すれば)「定理4:多項式の約数定理」の系の列挙に現れる.
  1. 「補題13:$F$ の分解」を2つの基点に適用する.
  2. $A=\gcd(f_1,f_2)$ とし,$f_1=AB$,$f_2=AC$($B,C$ は互いに素)と書く.(1) より $ABf_1'=ACf_2'$,すなわち $Bf_1'=Cf_2'$.$B$ と $C$ は互いに素なので $C\mid f_1'$ であり,$f_1'=CD$ と書くと $f_2'=BD$ を得る.
  3. $\deg x_i,\deg\rho_i<\deg S$ より,$f_1,f_1',f_2,f_2'$ の次数と最高次の係数はすべて $S$ と一致する.
    $B$ が定数なら $f_1$ は $f_2$ を割り,次数と最高次の係数が等しいので $f_1=f_2$,すなわち $x_1=x_2$.このとき (1) から $f_1'=f_2'$ で $\rho_1=\rho_2$ となり,仮定に反する.
    $A$ が定数なら $f_1$ は $f_2'$ を割るので $f_1=f_2'$,すなわち $x_1=\rho_2-x_2$.(1) から $f_1'=f_2$ で $\rho_1=x_1+x_2=\rho_2$ となり,$(\rho_2,x_2)=(\rho_1,\rho_1-x_1)$ が共役の基点になって仮定に反する.
    $C$ が定数の場合は $f_2$ が $f_1$ を割り,$D$ が定数の場合は $f_2'$ が $f_1$ を割るので,それぞれ上の2つの場合と同じ矛盾になる.
    次数については,$\deg A+\deg B=\deg A+\deg C=\deg C+\deg D=\deg S$ による.
  4. $E=SF=S\,f_1f_1'=S\cdot ABCD$.後半は「定理4:多項式の約数定理」(2) と系による.$\deg A=\deg B=\frac12\deg S$ なら $\deg(AD)=\deg(BC)=\deg S$ である.
2つの基点の例
  1. $N_t$(例「$N_t$ の初手」)は,基点 $\bigl(\frac12,\frac{t+1}2\bigr)$ と $(1,1)$ をもつ.このとき定数倍を除いて
    $$A=t-1,\qquad B=t+1,\qquad C=t+2,\qquad D=t$$
    であり,$AD=t(t-1)$ から $b=t$,$BC=(t+1)(t+2)$ から $b=-t-1$ が出る.例の表の $b=t$($S$ の因子 $t$ と $S-x_0$ の因子 $t-1$ の混ぜ合わせ)は,この $AD$ にあたる.
  2. $k$ を奇数,$n=2k$ とし,$N_n$ から $k$ を除去した状態の族を考える.$z\equiv2\pmod3$ として $k=\frac{2z^2-2z-1}3$ と引き戻すと,この族は $z$ の多項式族で($\deg S=4$),2つの多項式の基点
    $$\bigl(\tfrac12,\ k+1\bigr),\qquad(1,\ z)$$
    をもつ.前者は公差 $\frac12$ の候補点 $k+1$,後者は公差 $1$ の候補点($\lambda=0$)$z$ である.記号計算により,定数倍を除いて
    $$A=(z-2)(2z-1),\quad B=(z+1)(2z-1),\quad C=4z^2+2z+1,\quad D=4z^2-10z+7$$
    であり,
    $$S-(k+1)=AB\propto(z-2)(z+1)(2z-1)^2,\qquad S-z=AC\propto(z-2)(2z-1)(4z^2+2z+1)$$
    となる.この族の $E$ の細かい既約分解は,2つの基点から来ている.
穴の族の切断

$(\mathcal B;\rho_0,x_0)$ を穴の族とし,$a=x_0-\rho_0$ を直前の手とする.

  1. $t\in I$ と,$B(t)$($\lvert B(t)\rvert\ge2$)から除去できる $b\in B(t)$ について,$a(t),b$ は公差 $b-a(t)$ の連鎖の1歩ではない.したがって,「J-λ理論:定理16:連鎖か gcd か」の記号($B=B(t)$,$a=a(t)$)で
    $$G\,\bigl\lvert a-b+c_{B}(b)\bigr\rvert\ \ge\ S+a$$
    が成り立つ.
  2. さらに $S$ と $a$ が $\mathbb Q[t]$ で互いに素ならば,$t$ によらない $0$ でない整数 $r$ があり,すべての $t\in I$ で $g_1=\gcd(S(t),a(t))$ は $r$ を割る.したがって (1) の不等式は
    $$g_2\,g_3\,\bigl\lvert a-b+c_{B}(b)\bigr\rvert\ \ge\ \frac{S+a}{\lvert r\rvert}$$
    となる.
  3. $b$ が多項式の手で,無限集合 $I'\subset I$ の各点で $b(t)$ を除去できるとき,「定理11:多項式版の二分法」は (ii) の場合になる.特に $S$ と $a$ が $\mathbb Q[t]$ で互いに素ならば
    $$\deg\,(g_2^*g_3^*)\ \ge\ \deg(S+a)-\deg(a-b+c_b).$$
  1. 穴の族の定義の後に述べたとおり $B(t)\cup\{a(t)\}$ は状態なので,「J-λ理論:定理16:連鎖か gcd か」の状況にある.(i) が成り立つと仮定すると $c_{B\cup\{a\}}(a)=b-a$ である.一方,「J-λ理論:定理14:共役と逆の手」(2) より $a$ は $B\cup\{a\}$ の公差 $\rho_0$ の候補点で,$a< S+a$ なので「J-λ理論:命題2:候補点の構造」(1) より $c_{B\cup\{a\}}(a)=\rho_0$ である.よって $b=a+\rho_0=x_0$ となるが,$x_0(t)\notin B(t)$ に反する.したがって (ii) が成り立つ.
  2. 正の整数 $M$ を $MS,Ma\in\mathbb Z[t]$ となるようにとる.$MS$ と $Ma$ は $\mathbb Q[t]$ で互いに素なので,「補題3:多項式の値の gcd」より,$0$ でない整数 $r$ があって,すべての整数 $t$ で $\gcd\bigl(MS(t),Ma(t)\bigr)\mid r$ となる.$t\in I$ では $S(t),a(t)$ は整数なので,$g_1=\gcd(S(t),a(t))$ は $\gcd\bigl(MS(t),Ma(t)\bigr)$ を割り,したがって $r$ を割る.(1) の $G=g_1g_2g_3$ に $g_1\le\lvert r\rvert$ を用いればよい.
  3. 「定理11:多項式版の二分法」の (R1),すなわち $c_b=b-a$ が有理関数として成り立つとすると,各 $t\in I'$ で (1) の (R1) が成り立ち,(1) に反する.よって (R2) であり,$S$ と $a$ が互いに素なら $g_1^*$ は定数なので,$\deg G^*=\deg(g_2^*g_3^*)$ である.

命題16 は,穴の族では連鎖が続かず,次の手 $b$ に必要な gcd を直前の手 $a$ の側から供給できないことを述べている.族が穴を越えて続くには,$\gcd(S,b)$ と $g_3$,すなわち次の手 $b$ の側の gcd が,多項式として(命題16 (3))あるいは数値の偶然として(命題16 (2))大きくなる必要がある.さらに命題14 の系により,$S-x_0$ と $S+x_0-\rho_0$ が既約なら,$\deg b<\deg S$ の多項式の手はそもそも存在しない.

基点からの傾き

状態 $B$ が基点 $(\rho_0,x_0)$ をもつとき,$z\neq S$ に対して
$$\sigma_B(z)=\frac{\rho_0S-z(z+x_0)}{S-z}$$
とおき,基点 $(\rho_0,x_0)$ からの傾きと呼ぶ.基点つき多項式族 $(\mathcal B;\rho_0,x_0)$ では,各 $t$ で $B=B(t)$ に対して考える.

基点からの射影

状態 $B$ が基点 $(\rho_0,x_0)$ をもつとし,$z\neq S$ とする.

  1. $\mu_B(z)=\rho_0x_0+\sigma_B(z)\,(z-x_0)$.したがって $z\ne x_0$ なら $\sigma_B(z)=\dfrac{\mu_B(z)-\mu_B(x_0)}{z-x_0}$ である.特に $\rho_0x_0\in\mathbb Z$ のとき,$z\in B$ を除去できることは $(z-x_0)\,\sigma_B(z)\in\mathbb Z$ と同値である.
  2. $\sigma\in\mathbb Q$ に対して,$\sigma_B(z)=\sigma$ であることは
    $$z^2+(x_0-\sigma)\,z+(\sigma-\rho_0)\,S=0$$
    と同値である.$\sigma$ を固定すると,この式を満たす $z$ は高々2個で,2つの根の和は $\sigma-x_0$,積は $(\sigma-\rho_0)S$ である.
  3. 基点が原点 $x_0=0$ のとき(このとき $\rho_0=k/S$),$\sigma_B=c_B$ である.
  4. 基点つき多項式族 $(\mathcal B;\rho_0,x_0)$ の手の曲面 $\mathcal M$(命題6)と,$\sigma\in\mathbb Q$ ごとの曲面 $m-\rho_0x_0=\sigma(z-x_0)$ の交わりは,基点の曲線 $\{(t,x_0(t),\rho_0(t)x_0(t))\}$ と,曲線
    $$\bigl\{(t,z,m):\ z^2+(x_0-\sigma)z+(\sigma-\rho_0)S(t)=0,\ m=\rho_0x_0+\sigma(z-x_0)\bigr\}$$
    の和である.$z\ne x_0$,$z\ne S$ を満たす $\mathcal M$ の点は,ちょうど1つの $\sigma$ の曲線に乗る.したがって $\mathcal M$ は,公差 $\rho$ による分解(命題6 (3))とは別に,傾き $\sigma$ ごとの分解をもつ.$\mathcal B$ が2次の多項式族で $\deg x_0\le1$,$\deg\rho_0=0$ なら,各 $\sigma$ の曲線は $(t,z)$ 平面の2次曲線である.

$(\rho_0,x_0)$ が基点なので $k=x_0^2-\rho_0x_0+\rho_0S$ である.これを代入して展開すると,任意の $\sigma$ について次の恒等式を得る.
$$z(k-z^2)-\bigl(\rho_0x_0+\sigma(z-x_0)\bigr)(S-z)=-(z-x_0)\bigl(z^2+(x_0-\sigma)z+(\sigma-\rho_0)S\bigr).$$
(2) 右辺の第2因子は $z^2+x_0z-\rho_0S+\sigma(S-z)$ であり,$z\ne S$ では,これが $0$ であることは $\sigma=\sigma_B(z)$ と同値である.根と係数の関係は明らか.
(1) $\sigma=\sigma_B(z)$ とすると (2) より右辺は $0$ なので,$z(k-z^2)=\bigl(\rho_0x_0+\sigma_B(z)(z-x_0)\bigr)(S-z)$.両辺を $S-z$ で割ると,左辺は $\mu_B(z)$ である.$\mu_B(x_0)=x_0c_B(x_0)=\rho_0x_0$(「J-λ理論:命題2:候補点の構造」(1)).除去の判定は「J-λ理論:定理6:除去判定」(b) による.
(3) $x_0=0$ なら基点の条件は $\rho_0S=k$ で,$\sigma_B(z)=\frac{k-z^2}{S-z}=c_B(z)$.
(4) 恒等式で $(t,z,m)\in\mathcal M$ とすると,左辺は $m=\rho_0x_0+\sigma(z-x_0)$ の上で $0$ になる.よって交わりは $z=x_0$(このとき $m=\rho_0x_0$)か第2因子が $0$ の部分である.$z\ne x_0$ の点は,$\sigma=\frac{m-\rho_0x_0}{z-x_0}$ のときに限り $\sigma$ の曲面に乗る.2次の多項式族で $\deg x_0\le1$,$\rho_0$ が定数なら,第2因子は $t,z$ について2次である.

2つの分解の関係

命題6 の公差 $\rho$ による分解は,各 $t$ で3次曲線 $m(S-z)=z(k-z^2)$ を原点 $(z,m)=(0,0)$ から射影したものであり,命題17 の傾き $\sigma$ による分解は,同じ3次曲線を基点 $(x_0,\rho_0x_0)$ から射影したものである.どちらの中心も3次曲線の上にあるので,中心を通る直線は残り2点で3次曲線と交わり,各ファイバーは2点(族では2次曲線)になる.命題17 (2) の2根は,公差の場合の共役(「J-λ理論:命題2:候補点の構造」(2))にあたる.
穴の族($\rho_0=1$,$x_0=h$)では,(1) から $\kappa_B(b)=(1-\sigma_B(b))(b-h)$ である.添字集合が等差型でない族(例えば1次式の値が平方数となる $t$ の全体を添字集合とする族)では,各 $\sigma$ の曲線にその平方の条件を課すと,一般に種数1の曲線になる.

特殊曲線と手の階層

特殊曲線

多項式族 $\mathcal B=\{B(t)\}_{t\in I}$ は等差型とし,
$$\mathfrak M(\mathcal B)=\bigl\{(t,z,m)\in\mathbb Z^3:\ t\in I,\ z\in B(t),\ \lvert B(t)\rvert\ge2,\ (t,z,m)\in\mathcal M\bigr\}$$
とおく.「命題6:手の曲面」(1) により,$\mathfrak M(\mathcal B)$ は除去できる組 $(t,z)$ の全体と1対1に対応する.手の曲面 $\mathcal M$ に含まれる $\mathbb Q$ 上既約な曲線 $\Gamma$ で,$\Gamma\cap\mathfrak M(\mathcal B)$ が無限集合となるものを,$\mathcal B$ の特殊曲線と呼ぶ.
また,$\Gamma$ の非特異射影モデル $\tilde\Gamma$ の $\overline{\mathbb Q}$ 上の点で,座標 $t,z,m$ のどれかが極をもつものを,$\Gamma$ の無限遠点と呼ぶ.

整数点の分母

$\Gamma\subset\mathbb A^3$ を $\mathbb Q$ 上の既約なアフィン曲線,$A=\mathbb Q[\Gamma]$ をその座標環($t,z,m$ で生成される),$\nu:\Gamma^\nu\to\Gamma$ を正規化とする.$\Gamma^\nu$ 上の正則関数 $f$ に対して,正の整数 $N_f$ が存在して,$\nu(P)$ が $\Gamma$ の整数点であるようなすべての $P\in\Gamma^\nu(\mathbb Q)$ について $N_f\,f(P)\in\mathbb Z$ が成り立つ.
数体 $K$ 上で定義された $f\in\mathcal O(\Gamma^\nu_K)$ についても,$N_f\in\mathbb Z_{>0}$ があって,$\nu(P)$ が整数点であるようなすべての $P\in\Gamma^\nu(K)$ について $N_f\,f(P)$ は $K$ の整数環 $\mathcal O_K$ に属する.

$\Gamma^\nu$ の座標環は $A$ の(関数体の中での)整閉包なので,$f$ は $A$ 上整であり,
$$f^e+a_1f^{e-1}+\dots+a_e=0\qquad(a_i\in A)$$
を満たす.各 $a_i$ は $t,z,m$ の有理係数($K$ 上なら $K$ 係数)の多項式で表せるので,それらの係数の分母を払う正の整数 $N$ をとる.$\nu(P)$ が整数点なら $N a_i(P)\in\mathbb Z$($K$ 上なら $\mathcal O_K$)であり,$g=Nf(P)$ は
$$g^e+\bigl(Na_1(P)\bigr)g^{e-1}+\bigl(N^2a_2(P)\bigr)g^{e-2}+\dots+N^ea_e(P)=0$$
を満たす.係数はすべて代数的整数なので $g$ は代数的整数である.$\mathbb Q$ 上なら $g\in\mathbb Q$ なので $g\in\mathbb Z$.$N_f=N$ とすればよい.

特殊曲線上の $t$

$\Gamma$ を等差型の多項式族 $\mathcal B$ の特殊曲線とする.
(1) $\Gamma\cap\mathfrak M$ は $\Gamma$ の整数点の無限集合である.
(2) $t$ は $\Gamma$ 上で定数でない.

  1. $\mathfrak M\subset\mathbb Z^3$ であり,$\Gamma\cap\mathfrak M$ は特殊曲線の定義により無限集合である.
  2. $t$ が $\Gamma$ 上で定数 $t_0$ だとする.$\Gamma\cap\mathfrak M$ の点 $(t_0,z,m)$ は $z\in B(t_0)$ を満たし,「命題6:手の曲面」(1) より $m=\mu_{B(t_0)}(z)$ は $z$ で決まる.$B(t_0)$ は有限集合なので $\Gamma\cap\mathfrak M$ は有限となり,(1) に反する.
特殊曲線の正規化

$\Gamma$ を等差型の多項式族 $\mathcal B$ の特殊曲線とする.$\tilde\Gamma$ を非特異射影モデルとし,$\Sigma\subset\tilde\Gamma(\overline{\mathbb Q})$ を無限遠点($t,z,m$ のどれかが極をもつ点)の集合とし,$\Gamma^\circ=\tilde\Gamma\setminus\Sigma$ とおく.すると,$\Sigma$ は有限集合で,Galois 群の作用で保たれる.さらに,

  1. $\Gamma$ は幾何的に既約である.したがって $\Gamma$ は,整数点を無限個もつ幾何的に既約なアフィン曲線である.
  2. $\Gamma^\circ$ は $\Gamma$ の正規化 $\Gamma^\nu$ に一致する.
  3. $\Gamma$ の特異点は有限個である.特異点でない $R\in\Gamma(\mathbb Q)$ には,$\nu(P)=R$ となる $P\in\Gamma^\circ(\mathbb Q)$ がただ1つある.特に,$\nu(P)$ が整数点であるような $P\in\Gamma^\circ(\mathbb Q)$ は無限個ある.
  1. $\Gamma$ が $\overline{\mathbb Q}$ 上で $r\ge2$ 個の既約成分 $\Gamma_1,\dots,\Gamma_r$ に分かれるとする.これらは Galois 群で推移的に入れ替わる.$P\in\Gamma(\mathbb Q)$ が $\Gamma_1$ に乗れば,$\sigma(P)=P$ より $P$ はすべての $\Gamma_i$ に乗る.よって $\Gamma(\mathbb Q)\subset\Gamma_1\cap\Gamma_2$ は有限集合となり,「補題19:特殊曲線上の $t$」(1) に反する.後半は同じ補題の (1) による.
  2. $\Gamma^\nu$ の上では $t,z,m$ は正則なので,$\Gamma^\nu\subset\Gamma^\circ$ である.逆に,$t,z,m$ がすべて正則な点 $P\in\tilde\Gamma$ の局所環は $A$ を含む離散付値環なので,$A$ の整閉包を含み,$P$ は $\Gamma^\nu$ に属する.
  3. 被約な曲線の特異点は有限個である(標数 $0$).曲線では正規と非特異は同値なので,正規化 $\nu$ は $\Gamma$ の非特異な部分 $\Gamma_{\rm sm}$ の上で $\mathbb Q$ 上の同型 $\nu^{-1}(\Gamma_{\rm sm})\cong\Gamma_{\rm sm}$ を与える.同型は $\mathbb Q$ 有理点どうしの全単射を与えるので,前半を得る.「補題19:特殊曲線上の $t$」(1) より $\Gamma\cap\mathfrak M$ は無限集合で,そのうち特異点は有限個なので,後半を得る.
特殊曲線の種数と無限遠点

$\Gamma$ を等差型の多項式族 $\mathcal B$ の特殊曲線とし,記号は補題18のものを使う.このとき次が成り立つ.
(1) $\tilde\Gamma$ の種数は $0$ で,$\#\Sigma\in\{1,2\}$ である.
(2) $\tilde\Gamma\cong\mathbb P^1_{\mathbb Q}$ である.
(3) $t$ は $\Sigma$ のある点で極をもつ.

  1. 「補題20:特殊曲線の正規化」(1) より,$\Gamma$ は整数点を無限個もつ幾何的に既約なアフィン曲線なので,Siegel の定理より,$\tilde\Gamma$ の種数は $0$ で $\#\Sigma\le2$ である(下の注意も参照).$\#\Sigma=0$ なら $\Gamma^\circ=\tilde\Gamma$ は射影曲線となり,その上の正則関数 $t$ は定数となって,「補題19:特殊曲線上の $t$」(2) に反する.
  2. $\tilde\Gamma$ は種数 $0$ で,「補題20:特殊曲線の正規化」(3) より $\mathbb Q$ 有理点を無限個もつので,$\mathbb P^1_{\mathbb Q}$ に同型である.
  3. $t$ が $\Sigma$ のどの点でも正則なら,$t$ は射影曲線 $\tilde\Gamma$ 全体で正則となり定数になり,「補題19:特殊曲線上の $t$」(2) に反する.
特殊曲線の型

$\Gamma$ を等差型の多項式族 $\mathcal B$ の特殊曲線とする.このとき $\Gamma$ は幾何的に既約で,種数は $0$,無限遠点は $1$ 個または $2$ 個であり,次のどちらかが成り立つ.

(1)(多項式型)無限遠点が $1$ 個のとき,$\mathbb Z$ 上で整数値をとる多項式の組 $(\tau_j,\zeta_j,\mu_j)\in\mathbb Q[v]^3$($j=1,\dots,r$)があって,次が成り立つ.

  • 有限個の点を除き,$\Gamma\cap\mathfrak M\subset\bigcup_{j}\bigl\{(\tau_j(v),\zeta_j(v),\mu_j(v)):v\in\mathbb Z\bigr\}$.
  • 各 $j$ と $v\in\mathbb Z$ について,点 $(\tau_j(v),\zeta_j(v),\mu_j(v))$ が $\mathfrak M$ に属することは,$\tau_j(v)\in I$,$\zeta_j(v)\in B(\tau_j(v))$,$\lvert B(\tau_j(v))\rvert\ge2$ が成り立つことと同値である.
  • $\mathfrak M$ の点を無限個含む $j$ について,$(\tau_j,\zeta_j)$ は多項式の部分族であり,$\mu_j$ はその $\mu$ である.

(2)(Pell 型)無限遠点が $2$ 個のとき,2点は実2次体 $K$ 上で定義されて互いに共役である.さらに,整数係数で既約な不定値の2元2次形式 $Q$ と,$Q$ の判別式で決まる $K$ の整環 $\mathcal O$ のノルム $1$ の単数群 $U$(無限群)の有限指数の部分群 $U'$ があって,次が成り立つ.

  • 有限個の点を除き,$\Gamma\cap\mathfrak M$ は $U'$ の有限個の軌道の和に含まれる.
  • 各 $U'$ 軌道の上で,「$t,z,m$ が整数であり,$t$ が $I$ の剰余条件を満たす」ことは,軌道のすべての点で成り立つか,どの点でも成り立たないかのどちらかである.
  • 各軌道 $\{\gamma^kP_0\}_{k\in\mathbb Z}$ の上で,ある $c>0$,$\rho>1$ について $\lvert t(\gamma^kP_0)\rvert\ge c\,\rho^{\lvert k\rvert}$($\lvert k\rvert$ が十分大きいとき)である.

前半は,「補題20:特殊曲線の正規化」(1) と「補題21:特殊曲線の種数と無限遠点」(1) による.以下,同じ補題 (2) により $\tilde\Gamma\cong\mathbb P^1_{\mathbb Q}$ とし,「補題20:特殊曲線の正規化」(2) により $\Gamma^\circ=\Gamma^\nu$ とする.
(1) 無限遠点が1個の場合
$\Sigma=\{P_\infty\}$ は Galois 群で保たれるので $P_\infty\in\tilde\Gamma(\mathbb Q)$ である.同型 $\tilde\Gamma\cong\mathbb P^1_{\mathbb Q}$ を $P_\infty\mapsto\infty$ となるようにとると,$\Gamma^\circ\cong\mathbb A^1_{\mathbb Q}$ である.その座標を $u$ とすると,$\Gamma^\circ$ 上の関数としての $t,z,m$(正確には $\nu^*t,\nu^*z,\nu^*m$)は $u$ の多項式 $T,Z,M\in\mathbb Q[u]$ であり,「補題19:特殊曲線上の $t$」(2) より $T$ は定数でない.
分母の評価:$D\,T(u)=a_du^d+\dots+a_0$($D,a_i\in\mathbb Z$,$D>0$,$a_d\neq0$)と書く.$\nu(P)$ が整数点となる $P\in\Gamma^\circ(\mathbb Q)$ について $u(P)=p/q$(既約分数,$q>0$)とすると,$T(p/q)\in\mathbb Z$ より
$$a_dp^d+a_{d-1}p^{d-1}q+\dots+a_0q^d=D\,T(p/q)\,q^d\equiv0\pmod q$$
なので $q\mid a_dp^d$,したがって $q\mid a_d$ である.よって $u(P)\in\frac1{a_d}\mathbb Z$ であり,$u(P)=\frac{u'}{a_d}$($u'\in\mathbb Z$)と書ける.
剰余類への分割:$\tilde T(u')=T(u'/a_d)$,$\tilde Z(u')=Z(u'/a_d)$,$\tilde M(u')=M(u'/a_d)$ は有理係数多項式である.有理係数多項式 $F$ について,係数の分母を払う正の整数を $L_F$ とすると,「$F(u')\in\mathbb Z$」は $L_FF(u')\equiv0\pmod{L_F}$ と同値なので,$u'\bmod L_F$ だけで決まる.また $I$ は等差数列なので,「$\tilde T(u')$ が $I$ の剰余条件を満たす」ことも $u'$ のある法での剰余類だけで決まる.したがって正の整数 $L$ があって,
$$\tilde T(u'),\ \tilde Z(u'),\ \tilde M(u')\in\mathbb Z\ \text{かつ}\ \tilde T(u')\ \text{が}\ I\ \text{の剰余条件を満たす}$$
ような $u'$ の全体は,法 $L$ の剰余類 $\rho_1,\dots,\rho_r$ の和である.$\tau_j(v)=\tilde T(\rho_j+Lv)$,$\zeta_j(v)=\tilde Z(\rho_j+Lv)$,$\mu_j(v)=\tilde M(\rho_j+Lv)$ とおけば,これらは $\mathbb Z$ 上で整数値をとる.
$\Gamma\cap\mathfrak M$ が乗ること:$R\in\Gamma\cap\mathfrak M$ が $\Gamma$ の特異点でなければ,「補題20:特殊曲線の正規化」(3) より $R=\nu(P)$ となる $P\in\Gamma^\circ(\mathbb Q)$ があり,$R=\bigl(T(u(P)),Z(u(P)),M(u(P))\bigr)$ である.$R$ の座標は整数で,$R\in\mathfrak M$ より $T(u(P))\in I$ なので,上の議論から $u(P)=(\rho_j+Lv)/a_d$($v\in\mathbb Z$)と書け,$R=(\tau_j(v),\zeta_j(v),\mu_j(v))$ である.$\Gamma$ の特異点は有限個なので,有限個の点を除いて $\Gamma\cap\mathfrak M$ の点はこれらの曲線の上にある.
$\mathfrak M$ に属する条件:各 $j$ と $v$ について,点 $(\tau_j(v),\zeta_j(v),\mu_j(v))$ は $\mathcal M$ の整数点である.「命題6:手の曲面」(1) より,これが $\mathfrak M$ に属することは,$\tau_j(v)\in I$,$\zeta_j(v)\in B(\tau_j(v))$,$\lvert B(\tau_j(v))\rvert\ge2$ と同値である.
部分族であること:$\mathfrak M$ の点を無限個含む $j$ について,$I'=\{v:\text{点が}\ \mathfrak M\ \text{に属する}\}$ は無限集合で,その各点で $\zeta_j(v)$ は $B(\tau_j(v))$ から除去できる.よって $\zeta_j$ は引き戻し $\tau_j^*\mathcal B$ の多項式の手であり,$(\tau_j,\zeta_j)$ は多項式の部分族である($\tau_j$ は定数でない).$\mu_j$ が部分族の $\mu$ と一致することは,無限個の $v$ で値が一致することから従う.
(2) 無限遠点が2個の場合
$\tilde\Gamma\cong\mathbb P^1_{\mathbb Q}$ の斉次座標 $[X:Y]$ を,$\infty=[1:0]$ が $\Sigma$ に属さないようにとる.$\Sigma$ は Galois 群で保たれる2点なので,整数係数の2元2次形式 $Q(X,Y)$ の零点集合として $\Sigma=\{Q=0\}$ と書ける.$Q$ は,$\Sigma$ の2点が $\mathbb Q$ 有理点なら有理係数の1次形式2つの積であり,そうでなければ $\mathbb Q$ 上既約である.
$Q$ の値の有界性:$\Gamma^\circ=\mathbb P^1\setminus\{Q=0\}$ の座標環は,$X^2/Q,\ XY/Q,\ Y^2/Q$ で生成される.$\nu(P)$ が整数点となる $P\in\Gamma^\circ(\mathbb Q)$ を,互いに素な整数で $P=[X:Y]$ と表す.「補題20:整数点の分母」をこの3つの関数に用いると,ある正の整数 $N$ について
$$\frac{NX^2}{Q(X,Y)},\ \frac{NXY}{Q(X,Y)},\ \frac{NY^2}{Q(X,Y)}\in\mathbb Z$$
となる.$\gcd(X^2,XY,Y^2)=1$ なので $Q(X,Y)\mid N$ である.また $P\notin\Sigma$ より $Q(X,Y)\neq0$.したがって $Q(X,Y)$ は $N$ の約数(有限個)の値しかとらない.「補題20:特殊曲線の正規化」(3) より,特異点を除く $\Gamma\cap\mathfrak M$ の点はこのような $P$ の像である.
(i) $Q=\ell_1\ell_2$(有理係数の1次形式の積)のとき,$\ell_1(X,Y)\ell_2(X,Y)=e$ となる $(X,Y)$ は,$\ell_1,\ell_2$ が1次独立なので,各 $e\neq0$ について有限個である. (ii) $Q$ が既約で定値(判別式が負,$K$ は虚2次体)のとき,$Q(X,Y)=e$ の整数解は有限個である. (i)(ii) では $\Gamma\cap\mathfrak M$ が有限となり,「補題19:特殊曲線上の $t$」(1) に反する.よって $Q$ は既約で不定値,つまり $\Sigma$ の2点は実2次体 $K$ 上で定義されて互いに共役である.
(iii) $Q$ が既約で不定値のとき,$Q$ の判別式(平方数でない正の整数)を $\Delta$ とする.$Q$ の固有自己同型群 $\mathrm{SO}(Q,\mathbb Z)=\{\gamma\in\mathrm{SL}_2(\mathbb Z):Q\circ\gamma=Q\}$ は,$\Delta$ で決まる $K$ の整環 $\mathcal O$ のノルム $1$ の単数群 $U$ と同型な無限群である.また,各 $e\neq0$ について,$Q(X,Y)=e$ の整数解の全体は,この群の有限個の軌道の和である.よって $\Gamma\cap\mathfrak M$ は,有限個の点を除き,$U$ の有限個の軌道の和に含まれる.
合同条件:$t,z,m$ は $\Gamma^\circ$ 上の正則関数なので,$F(X,Y)/Q(X,Y)^s$($F$ は $2s$ 次の整数係数形式)の形の有理係数結合で書ける.軌道の上では $Q(X,Y)=e$ は一定なので,「$t,z,m$ が整数で,$t$ が $I$ の剰余条件を満たす」ことは,$(X,Y)$ のある法 $L$ での剰余だけで決まる.法 $L$ の主合同部分群 $U'=\{\gamma\in\mathrm{SO}(Q,\mathbb Z):\gamma\equiv1\pmod L\}$ は,有限群への準同型 $\mathrm{SO}(Q,\mathbb Z)\to\mathrm{SL}_2(\mathbb Z/L\mathbb Z)$ の核なので有限指数である.$U'$ 軌道の上では $(X,Y)\bmod L$ が一定なので,上の条件は軌道全体で成り立つか,どの点でも成り立たない.$U$ の各軌道は $U'$ の有限個の軌道に分かれる.
指数関数的な増大:$Q=a\,\ell_1\ell_2$($\ell_1,\ell_2$ は $K$ 上の共役な1次形式で,$\Sigma=\{\ell_1=0\}\cup\{\ell_2=0\}$)と分解する.$\mathrm{SO}(Q,\mathbb Z)$ の元 $\gamma$ は $\Sigma$ の2点を固定するので,ある単数 $\eta\in U$ について $\ell_1\circ\gamma=\eta\,\ell_1$,$\ell_2\circ\gamma=\eta^{-1}\ell_2$ である.$\gamma$ が有限位数でないとき $\lvert\eta\rvert\neq1$. $t=F/Q^s$ を $\ell_1,\ell_2$ で展開して $F=\sum_{i+j=2s}f_{ij}\ell_1^i\ell_2^j$ とすると,
$$t(\gamma^kP_0)=\frac1{e^s}\sum_{i+j=2s}f_{ij}\,\eta^{k(i-j)}\,\ell_1(P_0)^i\ell_2(P_0)^j$$
である($Q(P_0)=e\neq0$ より $\ell_1(P_0),\ell_2(P_0)\neq0$).「補題21:特殊曲線の種数と無限遠点」(3) より $t$ は $\Sigma$ のある点で極をもち,$t$ は $\mathbb Q$ 上定義されているので,共役なもう1点でも同じ位数 $p>0$ の極をもつ.これは $f_{ij}\neq0$ となる $j$ の最小値が $s-p$ であること,すなわち $i-j$ の最大値が $2p>0$ であることを意味する($\ell_1$ と $\ell_2$ の役割を入れ替えても同様).よって $k\to\pm\infty$ で $\lvert t(\gamma^kP_0)\rvert\asymp\lvert\eta\rvert^{2p\lvert k\rvert}$ となり,$\rho=\lvert\eta\rvert^{2p}$($\lvert\eta\rvert>1$ となる向きにとる)で主張が成り立つ.

手の階層

$\mathfrak M(\mathcal B)$ の点のうち,多項式型の特殊曲線に乗るものの全体を $\mathfrak M_{\rm poly}$,Pell 型の特殊曲線に乗るものの全体を $\mathfrak M_{\rm Pell}$,どの特殊曲線にも乗らないものの全体を $\mathfrak M_{\rm sp}$ とおくと
$$\mathfrak M(\mathcal B)=\mathfrak M_{\rm poly}\cup\mathfrak M_{\rm Pell}\cup\mathfrak M_{\rm sp}$$
である.$\mathfrak M_{\rm sp}$ の点を散発的な手と呼ぶ.定義より,どの曲線も $\mathfrak M_{\rm sp}$ の点を有限個しか含まない.しかし,無限個の曲線に有限個ずつ散らばることで $\mathfrak M_{\rm sp}$ が無限集合になる可能性は,定理22 からは排除できない.

まとめ

第2部では,J-λ 理論を多項式族の上で読み直した.

  • 多項式の手は $E$ の多項式としての約数に対応し(「定理4:多項式の約数定理」),パラメータを取り替えた部分族では,公差関数は $\mu/\zeta$ の形をもつ(「命題5:公差関数の形」).
  • 2次の多項式族では,公差を固定したファイバーは2次曲線であり,その整数点は有限個か Pell 方程式の軌道になる(「定理8:三分法」).
  • これに応じて,多項式の部分族は放物線型・退化型・動く公差型の3つに分類される(「命題10:多項式の部分族の分類」).
  • 連続する2手の二分法は次数の不等式になり(「定理11:多項式版の二分法」),基点をもつ族では,自明でない多項式の手は $E$ の因子の混ぜ合わせからしか生じず,連鎖が止まった族は直前の手の側から gcd を供給できない(「命題14:因子の混ぜ合わせ」,「命題16:穴の族の切断」).
  • 最後に,Siegel の定理によって,族の手が無限個並ぶ曲線は多項式型か Pell 型に限ることを示し,手を3つの層に分けた(「定理22:特殊曲線の型」).

今後の課題として,次の3つが挙げられる.

  1. 公差が動く特殊曲線の分類  公差を固定したファイバーの中の特殊曲線は完全に分類されたが,どの平面 $m=\rho z$ にも含まれない特殊曲線はまだ分類されていない.手の曲面は公差のほかにも自然な円錐束や楕円曲面の構造をもちうるので,それらを使って特殊曲線を探すことが考えられる.連鎖が止まった族のように多項式の手をもたない族でも,Pell 型の特殊曲線は現れうる.
  2. 散発的な手の有限性  どの特殊曲線にも乗らない手が有限個であることは,曲面の整数点についての Lang–Vojta 予想の形の問題である.数値の gcd の偶然を制御するという観点からは,Bugeaud–Corvaja–Zannier に始まる $\gcd(a^n-1,b^n-1)$ 型の上界の研究と,その一般化が手がかりになると期待される.
  3. 関数体との類似  多項式族の上では,大きさの議論が次数の議論になり,手を完全に列挙・分類できた.これは,整数論における整数と多項式の古典的な類似の一例とみなせる.多項式の側で成り立つ主張が,整数の側でどこまで成り立つかを調べることが,散発的な手を理解する鍵になると考えられる.

参考文献

投稿日:12日前
更新日:12日前
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