いらっしゃいませ,にんとぅくです.突然ですが皆さん,微分形式って難しいですよね.実際のところ,私も完璧にはわかっていません.私が思うに,微分形式のとっつきにくさ・難しさの要因は,慣れ親しんだ記号が突然別人のように現れることにあると思っています.”$dx$” という記号を見ると,高校のときから親しみのある「$\int$の後に書くおまじない
」というイメージを持つと思いますが,微分形式で登場するものはどうも様子が違うようです.
そこで,今回の目標はそのギャップを可能な限り埋めることで微分形式に納得することです.そして最後に$\text{Stokes}$の定理の紹介まで行けたら良いなと思います.
この記事は筆者が自分なりに学習しながらその都度書いたものなので,もしかしたら本来の数学的な定義の手順とは異なるかもしれませんが,その反面初学者ならではの自然な疑問とともに進んでいくのが特徴です.
復習と言っていますが,軽く目を通すだけで結構です.わからなくなったら戻ってくるというのでも良いでしょう.ただ,存在くらいはここで知っておくと良いかもです♪
ここでは、後で登場する微分形式との対応を意識しながら、微積分の基本事項を簡単に振り返ります。
懐かしく感じますが,微分とは次のようなものでした.
$f(x)$が開区間$I \subset \mathbb{R}$において定義されているとする.このとき,$a \in I$に対し,極限
$$\lim_{h \to 0} \frac{f(a + h) - f(a)}{h}$$
が存在するとき,$f$は$x = a$で微分可能であるといい,上記の極限を$x = a$における$f(x)$の微分係数といい,$f'(a)$と書く.
この定義に基づくと,$f(x+h) = f(x)+f'(x)h + o(h)$という近似ができます.この式からもわかる通り,微分とは誤解を恐れずに言えば,局所的に関数を線形化することです.もっと大げさに言うと,微分係数とは「微小量の一次の項を取り出す操作」です.このことを少し頭の片隅に入れておくと,今後の内容により納得できるかもしれません.
次に,全微分を紹介程度に載せておきます.先ほどの大げさな解釈に基づけば,$dx$が微小量であると思えば微分係数が一次の微小量を取り出す演算子のように機能して見えますね.
$U \subset \mathbb{R}^n$を開集合とし,$f:U \to \mathbb{R}$を連続微分可能な関数とする.
$$
df = \sum_{i = 1}^{n} \frac{\partial f}{\partial x_{i}} dx_{i}
$$
と書かれる$df$を,$f$の全微分という.
これまた懐かしいですが,微積分学の基本定理とは次のようなものでした.
区間上の連続関数$f(x)$に対し,定積分が原始関数の一つを与える:
$$\frac{d}{dx} \int_{a}^{x} f(t) dt = f(x)$$
または,微分が連続であるような関数$F$を用いて
$$\int_{a}^{b} \frac{dF}{dx}(t) dt = F(b) - F(a)$$
と書かれる.
多変数の場合の微積分学の基本定理は,線積分により表されます.
$\text{Euclid}$空間$\mathbb{R}^n$の開集合$U$上で定義された関数を$f$とし,$\boldsymbol{y}, \boldsymbol{z} \in \mathbb{R}^n$に対して$\boldsymbol{y}$から$\boldsymbol{z}$への$U$内の曲線を$\gamma:[a, b] \to U,$ $(\gamma(a) = \boldsymbol{y}, \gamma(b) = \boldsymbol{z})$とする.$f, \gamma$がともに連続微分可能ならば,次のような式が成り立つ.
$$
\begin{align*}
&\int_{\gamma}
\left(
\frac{\partial f}{\partial x_{1}}dx_{1}
+ \cdots +
\frac{\partial f}{\partial x_{n}}dx_{n}
\right) \\
= &\int_{a}^{b}
\left(
\frac{\partial f}{\partial x_{1}}(\gamma(t))
\frac{d\gamma_{1}}{dt}(t)
+ \cdots +
\frac{\partial f}{\partial x_{n}}(\gamma(t))
\frac{d\gamma_{n}}{dt}(t)
\right)
dt
\end{align*}
$$
線積分と全微分を用いて,次のように書けます.
開集合$U \subset \mathbb{R}^n$上の連続微分可能な関数$f$,$U$内の$C^1$級曲線$\gamma:[a, b] \to U$に対し,
$$\int_{\gamma} df = f(\gamma(b)) - f(\gamma(a))$$
が成立する.
またまた話が一気に発展しますが,$\text{Green}$の定理とは次のようなものでした.
$D \subset \mathbb{R}^2$を有界な領域とし,その境界を$\partial D$とする.このとき,$D$を含む開集合$U$上で定義された$C^1$級関数$f, g:U \to \mathbb{R}$に対して
$$
\iint_{D}
\left(
\frac{\partial g}{\partial x} -
\frac{\partial f}{\partial y}
\right)
\; dxdy \;
= \oint_{\partial D} f \; dx + g \; dy
$$
が成立する.
「微積分学の基本定理」と「$\text{Green}$の定理」に共通していることは,その領域全体$(\;[a, b]$や$D\;)$での積分が,端点や境界$(\;a, b$や$\partial D\;)$という「端っこ」についての計算だけに等しいということです.先にネタバレしておきますが,$\text{Stokes}$の定理とはまさにこれらの一般化になります.
チラ見せ:$\text{Stokes}$の定理
$$\int_{D} d\omega = \int_{\partial D} \omega $$
・$\omega$:微分形式
・$d\,$:微分形式の次数を一つ上げる演算(外微分)
線積分と$\text{Green}$の定理がこの形になっていることを確認してください.
微分形式では線形代数の事柄も現れるため、ここで必要最低限だけ確認しておきます。
体$\mathbb{F}\;(\mathbb{R}$もしくは$\mathbb{C)}$上のベクトル空間$V$の部分空間$W_1, W_2, \dots, W_r$に対して集合
$$
W =
\{
\boldsymbol{a}_{1} + \boldsymbol{a}_{2} + \cdots + \boldsymbol{a}_{r}
\;|\; \boldsymbol{a}_{1} \in W_1, \dots, \boldsymbol{a}_{r} \in W_r
\}
$$
を$W_1, W_2, \dots, W_r$の和空間といい,$W = W_1 + W_2 + \cdots + W_r$と表す.さらに$\boldsymbol{x}_{1} \in W_1, \dots, \boldsymbol{x}_{r} \in W_r$として,
$$
\boldsymbol{x}_{1} + \boldsymbol{x}_{2} + \cdots + \boldsymbol{x}_{r} = \boldsymbol{0}
\Longrightarrow
\boldsymbol{x}_{1} = \boldsymbol{x}_{2} = \cdots = \boldsymbol{x}_{r} = \boldsymbol{0}
$$
に限るとき,$W$は$W_1, W_2, \dots, W_r$の直和であるといい,$W = W_1 \oplus W_2 \oplus \dots \oplus W_r$と表す.逆にこれを,$W$の直和分解ともいう.
つまり直和とは,各ベクトルを各部分空間のベクトルの和として一意的に表せるような分解です。
双対空間とは次のような概念です.
ベクトル空間$V$から基礎体$\mathbb{F}$への線形写像$(f:V \to \mathbb{F}:\text{lin})$全体の集合を$V$の双対空間といい,$V^{*}$と表す.また,双対空間の元を双対ベクトルまたはコベクトルとよぶ.ここで,$f, g \in V^{*}$および$a, b \in \mathbb{F}$に対して,和とスカラー倍を
$$
(af + bg)(\boldsymbol{v}) =
af(\boldsymbol{v}) + bg(\boldsymbol{v})
\quad (^{\forall}\boldsymbol{v} \in V)
$$
と定めることで,$V^{*}$も$\mathbb{F}$上のベクトル空間となる.
また,$V$が有限次元$(\dim V = n)$であり,その基底を$\{ \boldsymbol{e}_{1}, \cdots, \boldsymbol{e}_{n} \}$とするとき,$V^{*}$の基底は
$$
\boldsymbol{e}^{i}(\boldsymbol{e}_{j}) = \delta^{i}_{j} =
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
1 \quad (i = j) \\
0 \quad (i \neq j)
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
$$
を満たす線形写像$\{ \boldsymbol{e}^{1}, \cdots, \boldsymbol{e}^{n} \}$と一意に定まる.$(\therefore \dim V^{*} = n)$
先に言っておきますが,微分形式は「双対空間の元」を使って作られます。ただ現時点では「ベクトルを実数へ送る写像を集めた空間」とだけ理解していただければ十分です。
追記:使わなかったけど一応書いたから残しておきます.
第$1$回では位相空間,連続写像および同相しか扱っていないので,いくつか基本的な事柄を掻い摘んで導入しましょう.
$X$を位相空間とする.集合$A \subset X$に対して,連続写像$f:[0, 1] \to A$を$A$上の道という.そして,任意の$a, b \in A$に対して$f(0) = a, f(1) = b$となる$A$上の道が存在するとき,$A$は弧状連結であるという.
つまり弧状連結とは,任意に選んだ$2$点を曲線で結べることを言います.
次に示す開被覆は,元の空間$X$をより簡単なものたちに分解できるイメージです.
$X$を位相空間とする.開集合の族$(U_{i})_{i \in I}$が
$$X = \bigcup_{i \in I} U_{i}$$
を満たすとき,$(U_{i})_{i \in I}$を$X$の開被覆という.
次に定義する位相空間のコンパクト性は,どんな被覆で覆ったとしても,有限個の開集合で覆えることを意味します.このことから,空間が「ぎっしり詰まっている」や「欠落がない」などのニュアンスが生まれるようです.
$X$を位相空間とする.$X$の任意の開被覆$\mathcal{U} = (U_{i})_{i \in I}$に対して,添字集合$I$の有限部分集合$\{ i_{1}, \cdots , i_{n} \}$で
$$X = \bigcup_{k = 1}^{n} U_{i_{k}}$$
が成立するとき,言い換えれば,任意の開被覆に対して有限部分被覆が存在するとき,$X$はコンパクトであるという.
復習はこの辺にしておきましょう.
少し寄り道ですが、「$dx$」という記号がどのような経緯を辿ったのかを眺めてみましょう。
$17$世紀,$\text{Newton}$と$\text{Leibniz}$によって微積分学が築かれた際,「無限小」という考え方とともに$dx$は表舞台に姿を現しました.無限小とは,ざっくり言えば「$0$ではないが,どんな数よりも小さい数」のような,かなり直感的な概念として捉えられていました.しかし,当時から「そんな数は本当に存在するのか?」という疑問も持たれていました.
$18$世紀までの数学は,$\text{Euler}$をはじめとした名だたる天才たちの直感を頼りに発展していきました.そのおかげで確かに数学は大きく発展した一方で,$19$世紀に入ると,それまでの直感では扱いづらい例も次々と現れ,数学者たちの間で,今までの数学を一度見直して,より厳密に再構築しようという動きが強まりました.
$dx$もその例外ではなく,定式化の対象となりました.$\text{Cauchy}$や$\text{Weierstrass}$らによって極限論が整備され,微積分学は無限小を用いずに厳密化されていきました.その過程で,古典的な意味での無限小としての$dx$は,いったん表舞台から姿を消すことになります.
再び息を吹き返すきっかけとなったのが,その後発展していった微分形式です.前もって言っておきますが,微分と積分はもともと別々の概念として発展し,後になって「微分積分学の基本定理」という形で結びつきました.
数学の発展に伴い,「積分をより統一的に理解したい」という思いも強くなっていきました.「曲がった空間上での積分を,座標に依存せず記述し,さまざまな積分定理を統一的に扱いたい」という願望のもと,$19$世紀から$20$世紀にかけて発展した微分幾何や外微分法の流れの中で,現在のような微分形式の体系が整えられていきました.
この歴史を振り返ってみると,どうやら微分形式で登場する「$dx$」は,私たちがこれまで知ってきたそれとは「いったん」別物である,という意識を念頭に置いておくとよいでしょう.この意識のおかげで,少しは学びやすくなると思います.
さて,ここからは微分形式に関する事柄を扱っていきます.しばらくは形式的に見える記号操作が続くと思ってください.天下りな部分もあるかもしれません.
まず,ベクトル空間$\mathbb{R}^n$に対して,各点$\boldsymbol{p} = (p_1, \cdots, p_n)$の接空間を考えます.
点$\boldsymbol{p} \in \mathbb{R}^n$を通る曲線$\gamma:(-\varepsilon, \varepsilon) \to \mathbb{R}^n, \; \gamma(0) = \boldsymbol{p}$を考える.このとき,速度ベクトル$\boldsymbol{v} = \gamma'(0)$を点$\boldsymbol{p}$における接ベクトルと定義する.そして,点$\boldsymbol{p}$における接ベクトル全体の集合を接空間といい,$T_{\boldsymbol{p}} \mathbb{R}^n$と書く.
これまた難しそうなのが出てきましたが,次の命題のおかげで$\mathbb{R}^n$上では心配せずに済みそうです.それと,以下ではベクトルを表す太字は省略します.
接空間$T_{p}\mathbb{R}^n$は実ベクトル空間である.さらに,$\mathbb{R}^n$と同型である.
厳密には$T_{p} \mathbb{R}^n \cong \mathbb{R}^n$のようですが,"=" と考えた方がわかりやすいし,調べた感じそこまで問題なさそうなので,同じものだと思ってください.
$1.$ 和について閉じていることを示す.
$v, w \in T_{p} \mathbb{R}^n$とすると,$v = \gamma_{1}'(0), w = \gamma_{2}'(0)$となる曲線$\gamma_{1}, \gamma_{2}$が存在する.ここで,$\gamma(t) = \gamma_{1}(t) + \gamma_{2}(t) - p$とすると$\gamma(0) = p$であり,$\gamma'(0) = v + w$を満たす.したがって$v + w \in T_{p} \mathbb{R}^n$.
$2.$ 積について閉じていることを示す.
$a \in \mathbb{R}$とする.$v = \gamma'(0)$とすると,$\eta(t) = p + a(\gamma(t) - p)$と定めれば$\eta(0) = p$であり,$\eta'(0) = a\gamma'(0) = av$が成立する.よって$av \in T_{p} \mathbb{R}^n$
$3.$ ゼロ元の存在
定数曲線$\gamma(t) \equiv p$とすると,$\gamma'(0) = 0$より$0 \in T_{p} \mathbb{R}^n$.
$4.$ 逆元の存在
$v = \gamma'(0)$とする.$\eta(t) = \gamma(-t)$とすると,$\eta(0) = p$かつ$\eta'(0) = -\gamma'(0) = -v$が成り立つ.したがって$-v \in T_{p} \mathbb{R}^n$.
その他,交換律や分配律などは$\mathbb{R}^n$の演算から容易に従うことがわかるので,ベクトル空間であることがわかる.
次に$T_{p} \mathbb{R}^n \cong \mathbb{R}^n$を示す.任意のベクトル$v = (v_1, \dots, v_n) \in \mathbb{R}^n$に対し,
$$\gamma(t) = p + tv$$
という曲線を考える.このとき,$\gamma(0) = p, \gamma'(0) = v$を満たす.以上より,任意のベクトル$v$は接ベクトルになる.逆に,定義から接ベクトルは$\mathbb{R}^n$のベクトルなので,この対応から題意は示せると思う.$\blacksquare$
つまり先の命題から,接空間は全く新しい空間ではなく各点を中心として新しく$\mathbb{R}^n$を張り付けていることになります.しかも$\mathbb{R}^n$はきれいに等しく並んでいるおかげで,どの点で接空間を考えても同じ貼られ方をするというのがなんともありがたい話です.
では,「各点に貼られる接空間$T_{p} \mathbb{R}^n$の基底はどうなるんだろう?」というのは出てきて当然の疑問だと思います.
この疑問に答える前に,接ベクトルを異なった視点から見てみます.ベクトル空間から実数体への写像$f:\mathbb{R}^n \to \mathbb{R}$を考えます.$\gamma(t)\in \mathbb{R}^n$ですから,$f(\gamma(t))$を考えることができます.この関数の$t = 0$で微分することを考えると,$\gamma(t) = (\gamma_1(t), \dots, \gamma_n(t))$として,
$$
\begin{align*}
\frac{d}{dt} f(\gamma(t))\Bigg|_{t = 0}
&= \sum_{i = 1}^{n} \frac{\partial f}{\partial x_i}(\gamma(t)) \frac{d\gamma_{i}}{dt}(t) \Bigg|_{t = 0} \\
&= \sum_{i = 1}^{n} \frac{\partial f}{\partial x_i}(p) v_{i}
\end{align*}
$$
となります.ここで,$v_i$とは接ベクトルの第$i$成分のことです.
数学ではしばしば用いる考え方ですが,「事実を逆手にとってそれを定義としてしまう」ということを今からやります.知っている方は思い出してほしいですが,距離や微分の抽象的な定義をする際に,このような体験したことがあるのではないでしょうか.
さて,それはどういうことかというと,逆に$v$を微分演算子として
$$v(f) := \frac{d}{dt} f(\gamma(t)) \bigg|_{t=0}$$
と見做してみると,上での微分が
$$v(f) = \sum_{i = 1}^{n} v_i \frac{\partial f}{\partial x_i}(p)$$
というように偏微分の線形結合としてとらえることができます.となると,
$$
v = \sum_{i = 1}^{n} v_i
\left(\frac{\partial}{\partial x_i} \right)_p
$$
とするのはどうでしょうか.ここで,$p$においての微分であることを強調するために$()_p$を加えました.そして$v = (v_1, \dots, v_n)$であることを念頭において上の式を見てみると,先ほどの「接空間$T_{p} \mathbb{R}^n$の基底はどうなるんだろう?」という疑問の答えがわかりました.
接空間$T_{p} \mathbb{R}^n$の基底は
$$
\mathscr{B} =
\left\{
\left(\frac{\partial}{\partial x_1} \right)_p
, \cdots,
\left(\frac{\partial}{\partial x_n} \right)_p
\right\}
$$
である.
さて,接ベクトルについては理解できました.ここで,全微分の式を思い出してください.
$$
v(f) = \sum_{i = 1}^{n}
v_i \frac{\partial f}{\partial x_i}
, \quad
df = \sum_{i = 1}^{n}
\frac{\partial f}{\partial x_{i}} dx_{i}
$$
両者はかなり似ていますねぇ.今までずっと全微分の”$dx$”について,よくわかりませんでした.しかし,この類似を基に
$$dx^{i}:T_{p} \mathbb{R}^n \to \mathbb{R},\; dx^{i}(v) = v_{i}$$
と考えます(添字の上下はまぁ置いといて).つまり,接ベクトルの第$i$成分だけ($1$次元的な情報)を抜き取る写像として定義します.すると,$v(f) = df(v)$となり,接ベクトルの微分演算子としての側面を全微分という形でうまく繋ぐことができました.さらに嬉しいことに,基底が変わっても,関数やベクトルそのものは変わらないので,$df(v)$という微分に座標が出てこないことから当初の目標も達成されます.
ここでもう一つの気づきがあります.$dx^i$は定義から線形写像とわかります.すると,$dx^i$はベクトル空間$T_{p} \mathbb{R}^n$から基礎体$\mathbb{R}$への線形写像ということになります.これはまさしく,双対ベクトルそのものではありませんか!
接空間$T_{p}\mathbb{R}^n$の双対空間を余接空間といい,$T^{*}_{p} \mathbb{R}^n$と書く.また,定義から自然に余接空間の基底が$\{ dx^1, \dots, dx^n \}$となることがわかる.
どうやら,$dx$とは余接空間の基底のことだったのですね.厳密には各点$p$に対してそれぞれの基底が定まるので,各点$p$における基底ということで$dx^{i}_{p}$と書くべきですが,$\mathbb{R}^n$においては同じ貼られ方をするので特に区別は必要ないため添字$p$は省略します.
そして,次に定義する”$1$-形式”の一つが全微分になります.つまり$1$-形式は全微分の一般化にあたると言って良いでしょう.
開集合$U$上の各点$p \in U$に余接ベクトル$\omega_p:T_{p} \mathbb{R}^n \to \mathbb{R}$を割り当てる対応を1次微分形式または1-形式($\text{1-form}$)といい,座標を用いると
$$\omega = \sum_{i=1}^{n} f_{i} dx^{i}$$
と書ける.
最後に,$1$-形式によって,線積分ができることを見ておきます.
$$
\begin{align*}
&\int_{\gamma}
\left(
\frac{\partial f}{\partial x_{1}}dx_{1}
+ \cdots +
\frac{\partial f}{\partial x_{n}}dx_{n}
\right) \\
= &\int_{a}^{b}
\left(
\frac{\partial f}{\partial x_{1}}(\gamma(t))
\frac{d\gamma_{1}}{dt}(t)
+ \cdots +
\frac{\partial f}{\partial x_{n}}(\gamma(t))
\frac{d\gamma_{n}}{dt}(t)
\right)
dt
\end{align*}
$$
これを書き直すと,
$$
\int_{\gamma} df =
\int_{a}^{b} \frac{d}{dt} f(\gamma(t))\,dt =
\int_{\partial \gamma} f
$$
となります.ここで,一番右の式は「境界 $\partial\gamma$ 上での $0$-形式 $f$ の積分」という意味です($0$-形式とはただの関数のことです).$\text{Stokes}$の定理の主張を思い出してこの式を見てみると良いかもしれません.しかし,微分形式の積分を扱っていないので,上の式変形は完全に形式的なもので,数学的な厳密性はまだありません.雰囲気を味わってください.
さて,$1$-形式が何かは既にわかりました.そして前節の最後に$1$-形式で線積分を表現できそうなことも確認しました.
微分形式の目標の一つとしては,「積分を統一的に扱う」というのがあります.$1$-形式はベクトルを一つしか受け取りませんから,$2$つのベクトルによって張られる平面上での面積分などは扱えなさそうです.どうにかして,$\omega(u, v)$のように複数のベクトルを受け取れるものを構成できないのでしょうか?
ならばシンプルに,$dxdy$と一つ増やして積をとれば良いのかというと,そう簡単にはいかないようです.ここでは計算しませんが,$x = f(u, v), y = g(u, v)$のように変数変換し,$dx, dy$をそれぞれ全微分だと思って積をとると,不都合が生じると思います.
重積分の変数変換の際に,面積や体積は$\text{Jacobian}$を考えることによってうまく変換できましたよね.積分を自然に扱うためには,面積や体積に対応した微分形式の対象も行列式と同じ性質をもっていてほしそうです.行列式には,二つの列(行)を交換すると符号が反転するという重要な性質があります。ここで再び逆手に取ります.行列式の演算規則を抜き出した一般化にあたる演算として,外積$\wedge\;(\text{wedge}$積$)$を
$$dx^i \wedge dx^j = -dx^j \wedge dx^i$$
と定義します.定義から直ちに$dx^i \wedge dx^i = 0$を得ます.そしてこの演算は分配法則などの代数的な規則を満たしています.
正直この外積という演算は受け入れるのが一番だと感じたので,だらだらする前に次の定義に移りたいと思います.
この外積により,次の$2$形式を定義できます.
$f_{ij}(\boldsymbol{x})\,(1 \leq i < j \leq n)$を$n$次元$\text{Euclid}$空間の開集合$U$上の$C^{\infty}$級関数とするとき,
$$\sum_{1 \le i< j \le n} f_{ij} dx^i \wedge dx^j$$
を$U$上の2-形式($\text{2-form}$)という.
では,実際にこの演算がどのようなことをしてくれるのか見てみましょう.全微分$df, dg$に対して,
$$
\begin{align*}
df \wedge dx =
\left(
\frac{\partial f}{\partial x}dx +
\frac{\partial f}{\partial y}dy
\right)
\wedge dx \\
dg \wedge dy =
\left(
\frac{\partial g}{\partial x}dx +
\frac{\partial g}{\partial y}dy
\right)
\wedge dy
\end{align*}
$$
を考えます.計算規則$dx \wedge dx = dy \wedge dy = 0,\, dx \wedge dy = -dy \wedge dx$より
$$
df \wedge dx + dg \wedge dy =
\left(
\frac{\partial g}{\partial x} -
\frac{\partial f}{\partial y}
\right)
dx \wedge dy
$$
を得ます.左辺を$d(f\,dx + g\,dy)$と書くことにすると,$\text{Green}$の定理は
$$
\iint_{D}
d(f\,dx + g\,dy)
= \oint_{\partial D} f \; dx + g \; dy
$$
と書けそうです.最初にもチラ見せした$d(f\,dx + g\,dy)$の”$d$”は外微分とよばれるものです.雰囲気だけ掴んでください.
最後に$1$-形式の外積を定義して終わります.
$1$-形式の外積を
$$
\left( \sum_{i=1}^{n} f_{i}\, dx^{i} \right)
\wedge
\left( \sum_{j=1}^{n} g_{j}\, dx^{j} \right)
=
\sum_{i,j=1}^{n} f_{i}g_{j}\, dx^{i} \wedge dx^{j}
$$
とする.
これよりもっと細かい部分に関しては,皆さん自身で嗜んで頂ければと思います.
基本的な動機付けは前節までで散々したので,あとは数学的に理論を構成するだけの段階なのかなと思ったので,ここからはサクサクやっていきます.
やることは簡単で,上でやったことを一般化するだけです.$1$-形式を外積によって組み合わせることで$dx^{i_{1}} \wedge \cdots \wedge dx^{i_{k}}$のような基底をつくることができます(後で軽く紹介する外積代数$\Lambda^k(T_{p}^{*} \mathbb{R}^n)$の基底になります).これらの線形結合により定義されます.
$
f_{i_{1} \cdots i_{k}}(x)
\;\;(1 \le i_{1} < \cdots < i_{k} \le n)
$を$n$次元$\text{Euclid}$空間の開集合$U$上の$C^{\infty}$級関数とする.このとき,各点$p \in U$に$T_{p}\mathbb{R}^n$上の交代$k$-線形写像$\omega_{p}:(T_{p} \mathbb{R}^n)^k \to \mathbb{R}$を割り当てる対応
$$
\omega =
\sum_{1 \le i_{1} < \cdots < i_{k} \le n}
f_{i_{1} \cdots i_{k}}
dx^{i_{1}} \wedge \cdots \wedge dx^{i_{k}}
$$
を$U$上の$k$次微分形式,$k$-形式 ($\text{k-form}$)などという.
$\text{< advanced>}$
$k$-形式全体を$\Omega^{k}(U)$と表す.微分形式全体$\Omega^{*}(U)$は直和分解
$$\Omega^{*}(U) = \bigoplus_{k=0}^{n} \Omega^{k}(U)$$
をもつ.$\Omega^{*}(U)$は,外積代数の積を自然に拡張した微分形式の間の外積$\omega \wedge \eta$が定義され,$U$の$C^{\infty}$関数全体からなる環上の代数になる.
$p$-形式と$q$-形式の外積を次のように定義します.
$p$-形式と$q$-形式の外積を次のように定義します.
$$
\begin{align*}
&\left(
\sum_{i_{1} < \cdots < i_{p}}
f_{i_{1} \cdots i_{p}}
dx^{i_{1}} \wedge \cdots \wedge dx^{i_{p}}
\right)
\left(
\sum_{j_{1} < \cdots < j_{q}}
g_{j_{1} \cdots j_{q}}
dx^{j_{1}} \wedge \cdots \wedge dx^{j_{q}}
\right) \\
=
&\sum_{i_{1} < \cdots < i_{p}, j_{1} < \cdots < j_{q}}
f_{i_{1} \cdots i_{p}} g_{j_{1} \cdots j_{q}}
dx^{i_{1}} \wedge \cdots \wedge dx^{i_{p}}
\wedge
dx^{j_{1}} \wedge \cdots \wedge dx^{j_{q}}
\end{align*}
$$
先ほどから,登場しては説明が後回しにされていて気持ちが晴れなかったことでしょう.遅くなりましたが,これから説明していきます.
便宜上$f$は$C^{\infty}$級とします.すると,全微分$df$は
$$d:C^{\infty}(\mathbb{R}^n) \to \Omega^{1}(\mathbb{R}^n)$$
という微分作用素によって($0$-形式)$f$が$1$-形式になっていると解釈できます.$2$-形式のときに定義した$d(f\,dx + g\,dy)$も,$1$-形式から$2$-形式になっていることが確認できます.すなわち外微分とは,微分形式の次数を$1$つ上げる作用素のことです.
これを一般の次数に拡張します.
微分形式上の微分作用素$d:\Omega^{k}(U) \to \Omega^{k+1}(U)\;;$
$$
d\omega =
\sum_{i_{1} < \cdots < i_{k}}
\left(
\sum_{j=1}^{n}
\frac{\partial f_{i_{1} \cdots i_{k}}}{\partial x_{j}}dx^{j}
\right)
\wedge dx^{i_{1}} \wedge \cdots \wedge dx^{i_{k}}
$$
を外微分という.
定義を見ると身構えてしまいますが,やっていることは単純で,係数を微分して$dx$をつけるだけです.
証明は省略しますが,以下に性質をまとめておきます.
外微分$d$は任意の微分形式$\omega, \eta$に対して,以下が成り立つ.
ただし,$\omega$が$k$-形式のとき,$\deg{\omega} = k$である.
蛇足:
外微分はチェイン複体や$\text{de・Rham}$複体といった系列の記述にも用いられます.例えば,
$$
\xymatrix{
0 \ar[r]
& \Omega^{0}(M) \ar[r]^{d\;}
& \Omega^{1}(M) \ar[r]^{\;\;d} & \cdots \ar[r]^{d \qquad}
& \Omega^{n}(M) \ar[r]
& 0
}
$$
みたいに出てきたりします.唆られますねぇ.
さて,以上の内容までで満足しても良いかもしれませんが,微分形式は積分してこそ本来の真価が現れます.
では実際にどうやって積分するんでしょうか.例えば,曲線$\gamma$上で$1$-形式$\displaystyle{\omega = \sum_{i=1}^{n} f_i dx^i}$を積分する,つまり$\displaystyle{\int_{\gamma} \omega}$ を考えようと思っても,曲線上には$dx$という座標はありませんから「何を積分するんや」となってしまいます.そこで,”引き戻し”というものが活躍します.やっていることは置換積分に近いです.
$V \subset \mathbb{R}^m$から$W \subset \mathbb{R}^n$への$C^{\infty}$級写像 $\varphi:V \to W$と$C^1$級関数$f:W \to \mathbb{R}$に対して,$f \circ \varphi$は$V$上の$C^1$級関数である.これについて定理$2$に基づくと,$C^1$級関数$\gamma:[a, b] \to V$に対し,$\varphi \circ \gamma:[a, b] \to W$は$C^1$級曲線であり,
$$
\int_{\gamma} d(f \circ \varphi) =
f(\varphi(\gamma(b))) - f(\varphi(\gamma(a))) =
\int_{\varphi \circ \gamma} df
$$
となります.全微分の形で書くと,
$$
\int_{\gamma} \sum_{j=1}^{m}
\frac{\partial(f \circ \varphi)}{\partial x^j} dx^j =
\int_{\varphi \circ \gamma} \sum_{i=1}^{n}
\frac{\partial f}{\partial y^i} dy^i
$$
となりますが,$\displaystyle{\frac{\partial(f \circ \varphi)}{\partial x^j} = \sum_{i=1}^{n} \frac{\partial f}{\partial y^i} \circ \varphi \frac{\partial \varphi_i}{\partial x^j}}$であるので,この対応を全微分に対して拡張することで,曲線$\gamma$上の線積分と$\varphi \circ \gamma$上の線積分が同じになります.
$m$次元$\text{Euclid}$空間の開集合$V$から$n$次元$\text{Euclid}$空間の開集合$W$への$C^{\infty}$級写像 $\varphi:V \to W$と$W$上の$1$-形式$\displaystyle{\omega = \sum_{i=1}^{n} f_i dy^i}$に対し,$\displaystyle{\sum_{i=1}^{n} \sum_{j=1}^{m} f_i \circ \varphi \frac{\partial \varphi_i}{\partial x^j}dx^j}$を$\omega$の$\varphi$による引き戻しと呼び,$\varphi^{*} \omega$と書く.
$W$上の関数$f$の引き戻しを$\varphi^{*} f = f \circ \varphi$と定義すると,次が導かれます.
$d(\varphi^{*} f) = \varphi^{*} df$が成立する.
$1$-形式$\omega$についても,全微分に対して成立していた式$\displaystyle{\int_{\gamma}} \varphi^{*}\omega = \int_{\varphi \circ \gamma} \omega$が成立しています.この調子で$\text{k-form}$の引き戻しを定義します.
$V \subset \mathbb{R}^m:\rm{open}$ から$W \subset \mathbb{R}^n:\rm{open}$ への$C^{\infty}$級写像 $\varphi:V \to W$と$W$上の$k$-形式$\displaystyle{\alpha = \sum_{i_1 < \cdots < i_k}^{\phantom{a}} f_{i_1 \cdots i_k} dy^{i_1} \wedge \cdots \wedge dy^{i_k}}$に対し,$\varphi^{*}:\Omega^{k}(W) \to \Omega^{k}(V) \, ;$
$$
\varphi^{*} \alpha =
\sum_{i_1 < \cdots < i_k}
f_{i_1 \cdots i_k} \circ \varphi \,
d\varphi_{i_1} \wedge \cdots \wedge d\varphi_{i_k}
$$
を$\alpha$の$\varphi$による引き戻しと呼ぶ.ただし,$\displaystyle{d\varphi_{i_j} = \sum_{\ell=1}^{m} \frac{\partial \varphi_{i_j}}{\partial x^{\ell}}dx^{\ell}}$(全微分)である.これにより$V$上の微分形式にすることができる.
ガチの蛇足:
圏論には$\text{pull back}$という概念がありますが,どうやら上の引き戻しと同じものではないようです.しかしお互いに写像を逆向きに作用させるという「反変的」な振る舞いを持つため、同じような名前で呼ばれているようです。
$$
\xymatrix{
v \ar@/^1pc/[rdr]^{q_1}
\ar@/_1pc/[ddr]_{q_0}
\ar@{-->}[dr]^{^{\exists !} h}
\\
& u \ar[r]^{p_1} \ar[d]_{p_0}
& b \ar[d]^{g}
\\
& a \ar[r]_{f}
& c }
$$
↑ちなみにこれが$\text{pull back}$
引き戻しの性質をまとめておきます.
$V, W, U$をそれぞれ$\text{open subset}$ $V \subset \mathbb{R}^m, W \subset \mathbb{R}^n, U \subset \mathbb{R}^l$とし,$F:V \to W, G:W \to U$に対して
述べる意味は特にありませんが,性質$2$より以下の可換図式
$$
\xymatrix{
\Omega^{k}(W) \ar[r]^{d } \ar[d]_{F^{*}}
& \Omega^{k+1}(W) \ar[d]^{F^{*}} \\
\Omega^{k}(V) \ar[r]_{d }
& \Omega^{k+1}(V)
}
$$
を得ます.圏論チックでなんだかすごいことしてる気分になれますね(笑)
最後に重要な補題を示します.置換積分が少しチラついています.
$\mathbb{R}^n$の開集合$U$から,同じ次元の$\text{Euclid}$空間への$C^{\infty}$級写像$\varphi:U \to \mathbb{R}^n$に対して
$$\varphi^{*}(dy^1 \wedge \cdots \wedge dy^n) = (\det{J_{\varphi}}) dx^1 \wedge \cdots \wedge dx^n$$
が成り立つ.ただし,$J_{\varphi} = \displaystyle{\left( \frac{\partial \varphi_i}{\partial x^j} \right)_{n \times n}}$は$\text{Jacobi}$行列である.
\begin{align*} \varphi^{*}(dy^1 \wedge \cdots \wedge dy^n) &= \varphi^{*}dy^1 \wedge \cdots \wedge \varphi^{*}dy^n \\ &= \bigwedge_{i=1}^{n} \left( \sum_{j=1}^{n} \frac{\partial \varphi_i}{\partial x^j} dx^j \right) \\ &= \sum_{j_1, \cdots, j_n = 1}^{n} \left( \prod_{i=1}^{n} \frac{\partial \varphi_i}{\partial x^{j_i}} \right) dx^{j_1} \wedge \cdots \wedge dx^{j_n} \\ &(\text{↓ 同じ添字のときは0になるので,残るのはこれだけ}) \\ &= \sum_{\sigma \in \mathfrak{S}_n} {\rm{sgn}}(\sigma) \left( \prod_{i=1}^{n} \frac{\partial \varphi_i}{\partial x^{\sigma(i)}} \right) dx^{1} \wedge \cdots \wedge dx^{n} \\ &= (\det{J_{\varphi}})dx^1 \wedge \cdots \wedge dx^n \quad _\blacksquare \end{align*}
さて,いよいよ上で定義した引き戻しを使って積分を定義していきます.$n$次元$\text{Euclid}$空間の開集合$U$上の$1$-形式$\displaystyle{\alpha = \sum_{i=1}^{n} f_i dx^i}$の曲線$\gamma:[a, b] \to U$に沿う線積分$\displaystyle{\int_{\gamma} \alpha = \int_{a}^{b} \sum_{i=1}^{n} f_{i}(\gamma(t)) \frac{d \gamma_i}{dt}(t) \, dt}$に対し,$\displaystyle{\gamma^{*} \alpha = \sum_{i=1}^{n} f_{i}(\gamma(t)) \frac{d \gamma_i}{dt}(t) \, dt}$であるから,
$$\int_{\gamma} \alpha = \int_{\rm{id}} \gamma^{*} \alpha$$
となっています.
つぎに,これを一般化し,$U$上の$k$-形式$\displaystyle{\alpha = \sum_{i_{1} < \cdots < i_{k}}^{\phantom{a}} f_{i_{1} \cdots i_{k}} dx^{i_{1}} \wedge \cdots \wedge dx^{i_{k}}}$を$\kappa:[a_1, b_1] \times \cdots \times [a_k, b_k] \to U$で引き戻すと,補題$8$により直方体$[a_1, b_1] \times \cdots \times [a_k, b_k]$上の$k$-形式
$$
\kappa^{*}\alpha =
f_{i_{1} \cdots i_{k}}(\kappa(t_1, \dots, t_k))
\det
\begin{pmatrix}
\frac{\partial \kappa_{i_1}}{\partial t_1}
& \cdots &
\frac{\partial \kappa_{i_1}}{\partial t_k} \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
\frac{\partial \kappa_{i_k}}{\partial t_1}
& \cdots &
\frac{\partial \kappa_{i_k}}{\partial t_k}
\end{pmatrix}
dt^1 \wedge \cdots \wedge dt^k$$
が得られます.線積分と同様に考えて
$$\int_{\kappa \phantom{,}} \alpha = \int_{\rm{id}} \kappa^{*} \alpha$$
となるように定義することにします.
$\text{Euclid}$空間の開集合$U$上の$k$-形式$\displaystyle{\sum_{i_{1} < \cdots < i_{k}}^{\phantom{a}}
f_{i_{1} \cdots i_{k}}
dx^{i_{1}} \wedge \cdots \wedge dx^{i_{k}}}$の$\kappa:[a_1, b_1] \times \cdots \times [a_k, b_k] \to U$に沿う積分を次で定義する.
$$
\begin{align*}
&\int_{\kappa}
\sum_{i_{1} < \cdots < i_{k}}
f_{i_{1} \cdots i_{k}}
dx^{i_{1}} \wedge \cdots \wedge dx^{i_{k}} \\
=
&\int_{a_1}^{b_1} \cdots \int_{a_k}^{b_k}
\sum_{i_{1} < \cdots < i_{k}}
f_{i_{1} \cdots i_{k}}(\kappa(t_1, \dots, t_k))
\det
\begin{pmatrix}
\frac{\partial \kappa_{i_1}}{\partial t_1}
& \cdots &
\frac{\partial \kappa_{i_1}}{\partial t_k} \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
\frac{\partial \kappa_{i_k}}{\partial t_1}
& \cdots &
\frac{\partial \kappa_{i_k}}{\partial t_k}
\end{pmatrix}
dt^1 \cdots dt^k
\end{align*}
$$
これによって,曲線や一般的な立体上の積分を,引き戻しによって簡単な直方体上での積分として表現することで,計算できる形まで持っていけるようですね.こりゃあすごいや.
そして,次の定理が言えます.
$m$次元$\text{Euclid}$空間の開集合$V$から$n$次元$\text{Euclid}$空間の開集合$W$への$C^{\infty}$級写像 $\varphi:V \to W$と$W$上の$k$-形式$\alpha$,$k$次元直方体からの$C^{\infty}$級写像 $\kappa:[a_1, b_1] \times \cdots \times [a_k, b_k] \to V$に対し,
$$\int_{\kappa} \varphi^{*} \alpha = \int_{\varphi \circ \kappa} \alpha$$
が成り立つ.
$$ \int_{\kappa} \varphi^{*} \alpha = \int_{\rm{id}} \kappa^{*} \varphi^{*} \alpha = \int_{\rm{id}} (\varphi \circ \kappa)^{*} \alpha = \int_{\varphi \circ \kappa} \alpha \quad _\blacksquare $$
最後に$\text{Stokes}$の定理を紹介して終わろうと思いますが,私の勉強不足によりあまり深くは話せません.
多様体上での$\text{Stokes}$の定理はとても美しい形で記述されるようですが,$\text{Euclid}$空間上だと,どうやら面倒くさいらしいです.ちゃんと説明しようとすれば新しい事柄を何個も持ち出す羽目になるので,概要だけ述べようと思います.
まず,簡単な場合については示してみようと思います.
$n$次元直方体$D:[a_1, b_1] \times \cdots \times [a_n, b_n]$上の$n-1$次微分形式を$\displaystyle{\omega = \sum_{i=1}^{n} (-1)^{i-1} f_i \, dx^1 \wedge \cdots \widehat{dx^i} \wedge \cdots \wedge dx^n}$という形で置く.ただし,$\widehat{dx^i}$は「$dx^i$を除く」という意味である.このとき,
$$\int_{D} d\omega = \int_{\partial D} \omega$$
が成り立つ.ただし,$D_{i}^{+} = \{ x \in D:x^i = b_i \},\, D_{i}^{-} = \{ x \in D:x^i = a_i \}$と置き,$\displaystyle{\partial D = \bigcup_{i=1}^{n} (D_{i}^{+} \cup D_{i}^{-})}$である.
ここで言及しておくが,上で置いた$(n-1)$-形式
$$\omega = \sum_{i=1}^{n} (-1)^{i-1} f_i \, dx^1 \wedge \cdots \widehat{dx^i} \wedge \cdots \wedge dx^n$$
は,基底$dx^1 \wedge \cdots \widehat{dx^i} \wedge \cdots \wedge dx^n\;\; (i=1,\dots,n)$の一次結合で表されているので,一般性を失っていない.安心だね.
$$
\int_{D} d\omega =
\int_{a_1}^{b_1} \cdots \int_{a_n}^{b_n} \sum_{i=1}^{n}
\frac{\partial f_i}{\partial x^i} \,
dx^1 \cdots dx^n
$$
と書ける.積分の線型性と$\text{Fubini}$の定理より
$$
\int_{D} d\omega =
\sum_{i=1}^{n}
\int_{a_1}^{b_1} \cdots \int_{a_{i-1}}^{b_{i-1}}
\int_{a_{i+1}}^{b_{i+1}} \cdots \int_{a_n}^{b_n}
\left(
\int_{a_i}^{b_i}
\frac{\partial f_i}{\partial x^i} \, dx^i
\right)
\,
dx^1 \cdots \widehat{dx^i} \cdots dx^n
$$
となる.このとき,微積分学の基本定理より
$$
\int_{a_i}^{b_i}
\frac{\partial f_i}{\partial x^i} \, dx^i =
f_i(x^1, \cdots, b_i, \cdots, x^n) -
f_i(x^1, \cdots, a_i, \cdots, x^n)
$$
となるので,したがって
\begin{align*}
\int_{D} d\omega
=
\sum_{i=1}^{n}
&\left\lbrack
\int_{D_{i}^{+}}
f_i \, dx^1 \cdots \widehat{dx^i} \cdots dx^n -
\int_{D_{i}^{-}}
f_i \, dx^1 \cdots \widehat{dx^i} \cdots dx^n
\right\rbrack
\end{align*}
を得る.そしてこの領域の”境界の向き”というものを外向き法線に対応させることにより,上の式は$\displaystyle{\int_{\partial D} \omega}$と等しいことがわかる.$\blacksquare$
直方体上においては成り立つことがわかりましたが,積分する領域はこんなに都合が良くなくても$\text{Stokes}$の定理は成り立ちます.踏み込む気力がもうありませんが,包含写像による引き戻しをはじめとした座標変換において$\text{Stokes}$の定理は形を変えないことがわかり,そこから一般の領域でも成立することが示唆されます.詳しくはご自身で調べていただけると助かりますが,最後にこれに関するモチベーションを話して終わりにしましょう.
$\text{Stokes}$の定理において重要なのは「向き」であると考えています.例えば,格子の上に反時計回りに回転している円状の領域があると考えましょう.そうすると,隣り合っているところは互いに逆向きに回転しているのがわかると思います.これにより,互いに打消しった結果残るのは大外の境界部分だけですよね.このイメージを持ってみると,物理学などで$\text{Stokes}$の定理が出てくることにも納得がいきます.
今までは全てベクトル空間$\mathbb{R}^n$で議論を展開してきました.しかし,本来微分形式が真価を発揮するのは,球面やトーラス,さらにはもっと複雑な空間の上です.だからと言って今までの議論が意味をなさないわけではありません.
例えば地球の表面を考えてみましょう.地球は球面ですから,全体を一枚の平面として表すことはできません.実際,世界地図を作ると必ずどこかに歪みが生じます。しかし,十分小さな範囲,例えば自分がいる街を高台から見てみると,ほとんど平面ですよね.多様体はこの考えに基づいて構成されます.
もう少し数学らしく言えば,多様体とは,各点の近傍が$\mathbb{R}^n$の開集合と連続かつ連続逆写像をもって対応する位相空間に微分が扱える構造をいれたものです。この対応を座標近傍(チャート)と呼びます。複数のチャートを貼り合わせることで,多様体全体を記述できます。世界地図を一枚ではなく,日本地図・ヨーロッパ地図・アメリカ地図...というように何枚も用意するイメージです。
このため,多様体上でも自然に微分形式を定義できます。実際には,各チャート$(\approx \mathbb{R}^n)$で積分を計算し,それらが矛盾なく貼り合わさることによって,多様体全体で積分が定義されます。そして,$\text{Stokes}$の定理は任意の「向き付け可能な多様体」というものの上でも成り立ちます(正確にはチャート同士の貼り合わせ写像が滑らかであることも仮定します。).このようにして微分形式は多様体の世界でも活躍します.というかそれがメインです.
最後に多様体における$\text{Stokes}$の定理を紹介して終わりにします.
境界を持つコンパクトで向き付けられた$n$次元多様体$M$上の$n-1$次微分形式$\omega$に対し
$$\int_{M} d\omega = \int_{\partial M} \omega$$
が成り立つ.ただし,$\partial M$には$M$の境界としての向き付けを与えている.
本文では$dx\wedge dy=-dy\wedge dx$という演算を突然導入しました。実はこの演算は,思いつきではなく外積代数$\text{(exterior algebra)}$という一つの代数構造から自然に生まれます。ここでは(私も説明できるほど理解していないので)その概略だけ紹介します。
$n$次元ベクトル空間$V$の双対空間$V^{*}$から,交代的な$k$変数線形写像の集合
$$
\Lambda_{n}^{0}(V^{*}),
\Lambda_{n}^{1}(V^{*}), \dots,
\Lambda_{n}^{k}(V^{*}), \dots,
\Lambda_{n}^{n}(V^{*})
$$
を構成します.これらの直和
$$
\Lambda_{n}^{*} =
\bigoplus_{k = 0}^{n}
\Lambda_{n}^{k}(V^{*})
$$
を外積代数といいます.外積代数では
$$
\wedge:
\Lambda^{p}(V^{*})
\times
\Lambda^{q}(V^{*})
\to
\Lambda^{p+q}(V^{*})
$$
という積が定義されます.とくに次数付き可換性
$$\beta \wedge \alpha = (-1)^{pq} \alpha \wedge \beta$$
が重要だそう.
本文では「外積を道具として使う」ことを目的としていましたが,その背後にはこのような代数構造が存在しています.興味があれば線形代数や微分幾何の教科書で外積代数を学ぶと,微分形式をより統一的な視点から理解できるでしょう.
まとめです.今回は$\mathbb{R}^n$での微分形式について見ていき,最後に$\text{Stokes}$の定理がどんなものかを知ることができました.
ただ反省として,動機づけにこだわりすぎたというか,少し冗長になりすぎた部分もあったかもしれませんし,逆に後半の方は投げやり感が出ちゃったなぁと感じております.原因としては編集日の間隔があいたことにより,新鮮味がなくなってしまったのでしょう.ま,そういう日があっても良っか!
それでは,またのお越しをお待ちしております.