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東大数理院試過去問解答例(2021B07)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2021B07の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2021B07

連結かつ向き付け可能なコンパクト$2$次元多様体$S$及びその上のRiemann計量$g$を定める。ここで$C^\infty$級写像$\varphi:S\to S$に対して
$$ \begin{split} D_-(\varphi)&:=\inf\left\{\frac{\|d\varphi(v)\|_g}{\|v\|_g}\middle|p\in S, v\in T_pS\backslash\{0\}\right\}\\ D_+(\varphi)&:=\sup\left\{\frac{\|d\varphi(v)\|_g}{\|v\|_g}\middle|p\in S, v\in T_pS\backslash\{0\}\right\} \end{split} $$
とおく。
(1) $g$の面積要素$\mathrm{vol}_g$に対して
$$ D_-(\varphi)^2\leq \frac{\left|\int_{S}\varphi^\ast\mathrm{vol}_g\right|}{\int_S\mathrm{vol}_g}\leq D_+(\varphi)^2 $$
が成り立つことを示せ。
(2) $m$を自然数とする。$m< D_-(\varphi)$ならば$\sqrt{m^2+1}\leq D_+(\varphi)$であることを示せ。
(3) $1< D_-(\varphi)$かつ$D_+(\varphi)=\sqrt{2}$であるような$S,\varphi,g$の例を挙げなさい。

  1. まず各点$p$の近傍の座標系$(x,y)$$dx\wedge dy$が体積形式$\omega$を定めるようにとる。そしてこのようにとったときの$\varphi(p)$の近傍の座標系を$(u,v)$とおく。このとき
    $$ \begin{split} (\varphi^\ast\omega)_p\left(\frac{\partial}{\partial x}\wedge \frac{\partial}{\partial y}\right )&=(\omega\circ d\varphi)_p\left(\frac{\partial}{\partial x}\wedge \frac{\partial}{\partial y}\right)\\ &=(\det d\varphi)\omega_{\varphi(p)} \left(\frac{\partial}{\partial u}\wedge \frac{\partial }{\partial v}\right)\\ &=(\det d\varphi)\omega_p\left(\frac{\partial}{\partial x}\wedge \frac{\partial}{\partial y}\right ) \end{split} $$
    である。ここで$\det d\varphi$は常に
    $$ D_-(\varphi)^2\leq |\det d\varphi|\leq D_+(\varphi)^2 $$
    を満たしているから、辺々積分$\int_S\omega$をとることによって結果が従う。
  2. まず写像度
    $$ \deg \varphi=\frac{\int_{S}\varphi^\ast\omega}{\int_{S}\omega} $$
    は必ず整数であるから、これと(1)より、$D_-(\varphi)>m$のとき$D_+(\varphi)\geq\sqrt{m^2+1}$が従う。
  3. $S=T^2:=\mathbb{R}^2/\mathbb{Z}^2$とし、$g$$\frac{\partial}{\partial x}$及び$\frac{\partial}{\partial y}$についてのGram行列
    $$ \begin{pmatrix} \frac{1}{4}&{0}\\ 0&\frac{1}{2} \end{pmatrix} $$
    によって定める。ここで
    $$ \begin{split} T^2&\to T^2\\ (x,y)&\mapsto (y,2x) \end{split} $$
    とおく。このとき$v=s(\frac{\partial}{\partial x})_p+t(\frac{\partial}{\partial y})_p$に対して
    $$ \frac{\|dF(v)\|_g}{\|v\|_g}=\frac{\sqrt{\frac{s^2}{2}+t^2}}{\sqrt{\frac{s^2}{4}+\frac{t^2}{2}}}=\sqrt{2} $$
    であるから、これは例になっている。

 

投稿日:20231124
更新日:2023127
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藍色の日々。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。リンクはX(旧Twitter)アカウント

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