この記事ではRamanujan's Master Theorem
$$\int^\infty_0\l(\sum^\infty_{n=0}\frac{\vp(n)}{n!}(-x)^n\r)x^{s-1}dx=\G(s)\vp(-s)$$
について解説していきます。
この定理はラマヌジャンのNotebook 2の初めの方に登場します。
Ramanujan's Notebook 2より
実はここにラマヌジャンによる導出も記されており、それは次のような説明になっています。
"質のいい"関数$\vp(s)$に対し
$$\int^\infty_0\l(\sum^\infty_{k=0}\frac{\vp(k)}{k!}(-x)^k\r)x^{n-1}dx=\G(n)\vp(-n)$$
が成り立つ。
変数変換により
$$m^{-n}\G(n)=\int^\infty_0e^{-mx}x^{n-1}dx$$
が成り立つことに注意すると質のいい関数$f$に対し
\begin{align*}
\G(n)f(r^{-n})
&=\G(n)\sum^\infty_{k=0}\frac{f^{(k)}(0)}{k!}(r^k)^{-n}\\
&=\sum^\infty_{k=0}\frac{f^{(k)}(0)}{k!}\int^\infty_0e^{-r^kx}x^{n-1}dx\\
&=\sum^\infty_{k=0}\frac{f^{(k)}(0)}{k!}\int^\infty_0\l(\sum^\infty_{j=0}\frac{(-r^kx)^j}{j!}\r)x^{n-1}dx\\
&=\int^\infty_0\l(\sum^\infty_{j=0}\frac{f(r^j)}{j!}(-x)^j\r)x^{n-1}dx
\end{align*}
が成り立つので$\vp(n)=f(r^n)$とおくと
$$\int^\infty_0\l(\sum^\infty_{k=0}\frac{\vp(k)}{k!}(-x)^k\r)x^{n-1}dx=\G(n)\vp(-n)$$
を得る。
この証明では
$$\vp(n)=\sum^\infty_{k=0}\frac{f^{(k)}(0)}{k!}(r^k)^n$$
と展開しているので
$$\vp(s)=\sum_{a\in A}\la(a)a^s$$
と展開できることを仮定していたshihさんの記事と本質的に同じ説明となっています。
上の定理はハーディにより次のように一般化・精密化されました。
$\phi(s)$を$\Re(s)\geq-\d\;(0<\d<1)$において正則で、ある定数$C,P,\e\;(0<\e)$によって
$$|\phi(s)|< Ce^{P\s+(\pi-\e)|t|}\quad(s=\s+it)$$
と評価できるものとする。このとき$0< c<\d$および$x>0$に対し
$$\Phi(x)=\frac1{2\pi i}\int^{c+i\infty}_{c-i\infty}\frac\pi{\sin\pi s}\phi(-s)x^{-s}ds$$
とおくと$0< x< e^{-P}$において
$$\Phi(x)=\sum^\infty_{n=0}\phi(n)(-x)^n$$
が成り立つ。特に$0<\Re(s)<\d$において
$$\int^\infty_0\Phi(x)x^{s-1}dx=\frac\pi{\sin\pi s}\phi(-s)$$
が成り立つ。
$z=x+iy$に対して$|\sin z|^2=\sin^2x+\sinh^2y$が成り立つ。
特にある$y$によらない定数$m=m(x)$が存在して$|\sin z|\geq me^{|y|}$が成り立つ。
前者については
\begin{align*}
|\sin z|^2
&=|\sin x\cosh y+i\cos x\sinh y|^2\\
&=\sin^2x\cosh^2y-(\sin^2 x\sinh^2y-\sin^2x\sinh^2y)+\cos^2\sinh^2y\\
&=\sin^2x+\sinh^2y
\end{align*}
とわかる。またこのことから$X=\sin^2x,Y=e^{-|y|}$とおくと
\begin{align*}
4e^{-2|y|}|\sin z|^2
&=4Y^2\sin^2x+Y^2(Y-Y^{-1})^2\\
&=(1+4X)\l(Y-\frac1{1+4X}\r)^2+1-\frac1{1+4X}\geq\frac{4X}{1+4X}
\end{align*}
つまり
$$|\sin z|\geq \frac{|\sin x|}{\sqrt{1+4\sin^2x}}e^{|y|}$$
と評価できる。
上では特に断りもなく$x>0$で
$$\frac1{2\pi i}\int^{c+i\infty}_{c-i\infty}\frac\pi{\sin\pi s}\phi(-s)x^{-s}ds$$
を、また$0< x< e^{-P}$で
$$\sum^\infty_{n=0}\phi(n)(-x)^n$$
を定めていたが、一応これらの収束性について確認しておこう。
まず積分については上の補題および$\log x\in\R$に注意すると
\begin{align*}
\l|\int^{c+i\infty}_{c-i\infty}\frac\pi{\sin\pi s}\phi(-s)x^{-s}ds\r|
&\leq\int^{c+i\infty}_{c-i\infty}\frac\pi{me^{\pi|t|}}Ce^{P\s+(\pi-\e)|t|}x^{-\s}|ds|\\
&=\frac{C\pi}me^{Pc}x^{-c}\int^\infty_{-\infty}e^{-\e|t|}dt\\
&=\frac{2C\pi}{\e m}e^{Pc}x^{-c}
\end{align*}
と評価できるので$x>0$において絶対収束することがわかる。
また級数については
$$\limsup_{n\to\infty}\sqrt[n]{|\phi(n)|}\leq\limsup_{n\to\infty}\sqrt[n]{Ce^{Pn}}=e^{-P}$$
と評価できるのでコーシーの冪根判定法より$|x|< e^{-P}$において絶対収束することがわかる。
$N$を正の整数とし、経路
$$\G_N:c-i\infty\to c+i\infty\to-N+c+i\infty\to-N+c-i\infty\to c-i\infty$$
における積分
\begin{align*}
\frac1{2\pi i}\oint_{\G_N}\frac\pi{\sin\pi s}\phi(-s)x^{-s}ds
&=\sum^N_{n=0}\Res_{s=-n}\l(\frac\pi{\sin\pi s}\phi(-s)x^{-s}\r)\\
&=\sum^N_{n=0}\phi(n)(-x)^n
\end{align*}
を考える。
いま上の補題に注意すると
\begin{align*}
\l|\int^{c\pm iT}_{-N+c\pm iT}\frac\pi{\sin\pi s}\phi(-s)x^{-s}ds\r|
&\leq\int^{c\pm iT}_{-N+c\pm iT}\frac\pi{|\sinh\pi t|}Ce^{-P\s+(\pi-\e)|t|}e^{P\s}|ds|\\
&=CN\pi\frac{e^{\pi T}}{\sinh\pi T}e^{-\e T}\to0\quad(T\to\infty)\\\\\
\l|\int^{-N+c+i\infty}_{-N+c-i\infty}\frac\pi{\sin\pi s}\phi(-s)x^{-s}ds\r|
&\leq\int^{-N+c+i\infty}_{-N+c-i\infty}\frac\pi{me^{\pi|t|}}Ce^{-P\s+(\pi-\e)|t|}x^{-\s}|ds|\\
&=\frac{C\pi}{m}\l(\frac{e^{-P}}x\r)^{-N+c}\int^\infty_{-\infty}e^{-\e|t|}dt\\
&=\frac{2C\pi}{\e m}\l(\frac{e^{-P}}x\r)^{-N+c}\to0\quad(N\to\infty)
\end{align*}
と評価できる。したがって$N\to\infty$とすることで
$$\frac1{2\pi i}\int^{c+i\infty}_{c-i\infty}\frac\pi{\sin\pi s}\phi(-s)x^{-s}ds
=\sum^\infty_{n=0}\phi(n)(-x)^n$$
を得る。またこれにメリン変換を施すことで
$$\frac\pi{\sin\pi s}\phi(-s)=\int^\infty_0\Phi(x)x^{s-1}dx$$
を得る。
$\G$関数の相反公式
$$\G(s)\G(1-s)=\frac\pi{\sin\pi s}$$
に注意して$\phi(s)=\vp(s)/\G(s+1)$とおくことでラマヌジャンの考えた形の公式が得られる。
$0< c<\d$および$x>0$に対して
$$F(x)=\frac1{2\pi i}\int^{c+i\infty}_{c-i\infty}\G(s)\vp(-s)x^{-s}ds$$
とおくと$0< x< e^{-P}$において
$$F(x)=\sum^\infty_{n=0}\frac{\vp(n)}{n!}(-x)^n$$
が成り立つ。また$0<\Re(s)<\d$において
$$\int^\infty_0F(x)x^{s-1}dx=\G(s)\vp(-s)$$
が成り立つ。
ちなみにラマヌジャンが考えたのは上で見たように$s=n$の場合のみであり、それの連続化まで考えたのはハーディであったらしく"Ramanujan's Notebooks"においてバーントはこの定理を"Ramanujan's master theorem or Hardy's theorem"と呼んでいます。
ラマヌジャンの考えた公式では明らかに$0< s<\d$ではありませんでしたが、これは簡単に正当化することができます。
というのもハーディの定理により少なくとも$0< s<\d$において
$$\int^\infty_0\Phi(x)x^{s-1}dx=\frac\pi{\sin\pi s}\phi(-s)$$
となることが保証されているので、解析接続によりこの両辺がそれぞれ"意味を持つ"限り任意の$s$に対しこれは成り立ちます。
例えば$x\to\infty$において$\Phi(x)=O(x^{-a})$を満たすとき$\Re(s)< a-\ve$において
$$\l|\int^\infty_1\Phi(x)x^{s-1}dx\r|\leq C'\int^\infty_1x^{-a}x^{a-\ve-1}dx=\frac{C'}{\ve}$$
のように評価できるので$\int^\infty_0\Phi(x)x^{s-1}dx$は$0<\Re(s)< a$で正則関数を定め、したがってこのとき
$$\int^\infty_0\Phi(x)x^{s-1}dx=\frac\pi{\sin\pi s}\phi(-s)$$
は$0<\Re(s)< a$において成り立つことになります(何か間違ったことを言っていたらすみません)。
このようなことを理解していればこの定理を使うとき$0<\Re(s)<\d$という制限はあまり気にしなくて大丈夫だと思います。