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同型が基底に依存するっていう意味がようやく分かった

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圏論の勉強をしている。自然同型に関して、
「線型空間$V$とその双対空間$V^*$とは同型($V \cong V^*$)だが標準的(canonical)な同型ではない。なぜならその同型写像は基底の取り方に依存するからだ。しかし$V \cong V^{**}$は標準的な同型である(= 恒等関手$\text{Id}$$(\cdot)^{**}$は自然同型である)」
みたいなことが書かれている。ググるといろんなページで同様のことが書かれている。しかしこれが何を言っているのか分からない。基底に依存するって何のこと? それが標準的か否かにどう関係しているの? 一生懸命考えて解き明かしてみた。

2026/7/9 修正
共変関手から反変関手への自然変換は存在しないというより、そもそも型が違うから定義できないという説明に変更。

2026/7/11 修正
注釈を追加。

自然変換、自然同型の定義

まず自然変換の定義を確認しておく。

自然変換

$\mathcal{C}$から圏$\mathcal{D}$への2つの関手$F, G: \mathcal{C} \to \mathcal{D}$があるとき、$F$から$G$への自然変換$\alpha: F \Rightarrow G$とは、$\mathcal{D}$の射の族$\{\alpha_X: F(X) \to G(X)\}_{X \in \text{ob}(\mathcal{C})}$であって、$\mathcal{C}$の任意の射$f: A \to B$について以下の図式を可換にする(整合性条件を満たす)ものである。

自然変換の整合性条件 自然変換の整合性条件

直感的には、$\mathcal{D}$の世界において$f$を作用させてから$\alpha$で変換しても($F(A) \overset{F(f)}{\longmapsto} F(B) \overset{\alpha_B}{\longmapsto} G(B)$の右回りルート)、$\alpha$で変換してから$f$を作用させても($F(A) \overset{\alpha_A}{\longmapsto} G(A) \overset{G(f)}{\longmapsto} G(B)$の左回りルート)結果が変わらないものである[1]

そして自然同型とは、$\alpha$のすべての成分$\alpha_X$が同型射である(逆射が存在する)もの。

ちなみに「自然」という言葉は「自然変換を成す」という意味で圏論的に厳密に定義されるんだけど、「標準的(canonical)」という言葉はなんかもっとふんわり使われているっぽいんだよな。勉強不足で違いがよく分からない。

$V$$V^*$の同型が標準的でない(自然同型でない)ことの証明

$K$上の有限次元線型空間の圏$\mathbf{FDVect}$を考える。射は線型写像である。線型空間$V$$W$を考え、線型写像$p: V \to W$があるものとする。$V$$W$の双対空間をそれぞれ$V^*$$W^*$とする。線型空間からその双対空間への線型同型写像が存在することは、線型代数のよく知られた結果なのでそれを受け入れることとする。その線型同型写像を$\eta_V: V \to V^*$$\eta_W: W \to W^*$とする。

以上を図式に表すと次のようになる。

線型空間とその双対空間との間の線型同型 線型空間とその双対空間との間の線型同型

$p^*: W^* \to V^*$$p^*(f) = f \circ p$と定義される写像で、$p$によって誘導される引き戻し写像[2](あるいは転置写像[3])というらしい。線型汎関数$f: W \to K$(すなわち$f \in W^*$)に対して$f \circ p: V \to K$となるので、$f \circ p \in V^*$である。この対応を表す写像が$p^*$というわけだ。$p$$p^*$は向きが逆になることに注意。

さて、線型空間を双対空間に写す関手$(\cdot)^*$は、反変関手$(\cdot)^*: \mathbf{FDVect}^\text{op} \to \mathbf{FDVect}$である。なぜなら、上で見たように$p: V \to W$$p^*: W^* \to V^*$は向きが反転するからだ。恒等関手$\text{Id}_\mathbf{FDVect}: \mathbf{FDVect} \to \mathbf{FDVect}$は共変関手であり、双対を取る関手$(\cdot)^*$は反変関手である。従ってこれらの間に自然変換は存在しない。だから自然同型もあり得ない。

図2の四角形の図式で、左上の$V$から右下の$W^*$に至るルートが右回りルート($V \overset{p}{\longmapsto} W \overset{\eta_W}{\longmapsto} W^*$)しかないことからも分かるだろう。もし$\eta_V$$\eta_W$が自然変換を成すなら、右回りルートと左回りルートが存在して、それらに沿った射の合成が一致するはずだ。左回りルートが存在しない以上、自然変換の定義に合わない。

よって$V \cong V^*$$W \cong W^*$は同型だが、標準的な同型ではない。

いやいや、なんかおかしくないか? 共変関手から反変関手への自然変換が存在しないというより、型が合わないからそもそも自然変換を語る土俵にすら上がっていないだけだ。そもそも$V \cong V^*$を見ただけで、恒等関手$\text{Id}_\mathbf{FDVect}$双対空間を取る関手$(\cdot)^*$との間の自然同型(自然変換)を考えようとしたのが早とちりだったのでは。恒等関手ではなくて何か謎の反変関手$H: \mathbf{FDVect}^\text{op} \to \mathbf{FDVect}$から$(\cdot)^*: \mathbf{FDVect}^\text{op} \to \mathbf{FDVect}$への自然変換を考えるなら、少なくとも型エラーにはならない。しかしそのような謎の反変関手$H$が存在するのだろうか? $V$$V$に写して、かつ$p$の向きを反転させるような。うーん、よく分からない。

同型と基底との関係性を考えたかったのだが、そもそも前提がおかしくて話が進まなくなってしまった。

対角自然変換

考え方を変えよう。「標準的な同型」というものが勝手に自然同型のことだと思い込んでいたが、「標準的」という言葉の意味を弱めて、基底との関係性を議論する土俵に乗せることはできないだろうか?

実はできそうだ。自然変換を一般化した対角自然変換(dinatural transformation, diagonal natural transformation)というものがあるらしい。

対角自然変換

$\mathcal{C}$$\mathcal{D}$があり、2つの関手$F, G: \mathcal{C}^\text{op} \times \mathcal{C} \to \mathcal{D}$があるとき、$F$から$G$への対角自然変換$\alpha: F \overset{\cdot \cdot}{\to} G$とは、$\mathcal{D}$の射の族$\{\alpha_X: F(X, X) \to G(X, X)\}_{X \in \text{ob}(\mathcal{C})}$であって、$\mathcal{C}$の任意の射$f: A \to B$について以下の図式を可換にするものである。

対角自然変換の整合性条件 対角自然変換の整合性条件

共変関手と反変関手の間に自然変換が定義できないのなら、$\mathcal{C}^\text{op}$$\mathcal{C}$を両方いっぺんに引数としてとる双関手$F, G$を考えてやりゃいいだろという発想である。$F, G$の第1引数については射の向きが$f$と反対(反変)で、第2引数については$f$と同じ(共変)であることが見て取れる。

$\mathcal{C}^\text{op}$$\mathcal{C}$の対象の組は$(A, A), (A, B), (B, A), (B, B)$などがあるが、これらを行列のように並べたときの対角成分である$(A, A)$$(B, B)$のみについて$\alpha$の成分を考えればよいというところが、「対角」自然変換の名前の由来なのだろう。

さて、これを今回の$\mathbf{FDVect}$に適用するとどうなるだろう。$X$$\mathbf{FDVect}$の任意の対象または射として
$$ \begin{align*} F(X, \cdot) &= \text{Id}_\mathbf{FDVect}\\ G(\cdot, X) &= (\cdot)^* \end{align*} $$
と定義してやる。つまり、$F$の第1引数は捨てて第2引数に関して恒等関手とする。$G$の第2引数は捨てて第1引数に関して双対を取る。そして線型空間$V, W$及び線型写像$p: V \to W$に関して上の六角形の図式を描くと

圏FDVectにおける対角自然変換の整合性条件 圏FDVectにおける対角自然変換の整合性条件

となり、六角形の頂点が2つ潰れて以下の四角形の図式になる。

潰れた整合性条件 潰れた整合性条件

なるほど、この図式で右回りルート$V \overset{p}{\longmapsto} W \overset{\alpha_W}{\longmapsto} W^* \overset{p^*}{\longmapsto} V^*$と左回りルート$V \overset{\alpha_V}{\longmapsto} V^*$の射の合成が一致すれば、すなわち$p^* \circ \alpha_W \circ p = \alpha_V$ならば、$\alpha$は対角自然変換だということだ。

そして、「標準的な同型」の意味を「自然同型」から「対角自然同型」に弱めてやれば、晴れて「$V \cong V^*$が基底に依存することと標準的であることにどういう関係があるか」が論じられることになる。

基底を考えてみる

改めて、体$K$上の有限次元線型空間$V$とその双対空間$V^*$を考える。次元は$n$とする。線型同型写像$\eta_V: V \to V^*$を考える。線型同型写像$\eta_V$は、$\eta_V(v_1)(v_2) = B(v_1, v_2)$なる非退化双線型形式$B: V \times V \to K$と一対一対応するらしい。$\eta_V$$B$のカリー化というわけだ。

双線型というのは第1引数と第2引数ともに線型性が成り立つことで、双線型形式というのは$K$上の値を取る写像だということ。そして、$V$の基底を決めると、双線型形式は表現行列$M$と一対一対応する。今、$V$の基底を$(e_1, \dots, e_n)$とすると、$M$$i$$j$列成分は
$$ M_{ij} = \eta_V(e_i)(e_j) = B(e_i, e_j) $$
だということだ。たとえ表現行列が同一でも、基底ごとに異なる双線型形式があるということになる。ちなみに非退化というのは、この表現行列が正則であることらしい。

つまり、$V$から$V^*$への線型同型写像を決めるということは、非退化双線型形式$B$を決めることと同値だし、$V$の基底と表現行列$M$を両方決めることと同値である。

ベクトル$v \in V$は、ある基底$(e_1, \dots, e_n)$を使うと$v = a_1 e_1 + \cdots a_n e_n$と書ける。また、別の基底$(e'_1, \dots, e'_n)$を使うと$v = a'_1 e'_1 + \cdots a'_n e'_n$と書ける。ふたつの基底の関係を、正則行列Aを使って$[e'_1 \dots e'_n] = [e_1 \dots e_n] A$と書くとすると、$A$
$$ \begin{align*} p(v) &= p\left( \begin{bmatrix} e_1 \dots e_n \end{bmatrix} \begin{bmatrix} a_1\\ \vdots\\ a_n \end{bmatrix} \right)\\ &= \begin{bmatrix} e_1 \dots e_n \end{bmatrix} A \begin{bmatrix} a_1\\ \vdots\\ a_n \end{bmatrix}\\ &= \begin{bmatrix} e'_1 \dots e'_n \end{bmatrix} \begin{bmatrix} a_1\\ \vdots\\ a_n \end{bmatrix} \end{align*} $$
という可逆な線型変換$p: V \to V$を定める。ちなみに
$$ \begin{bmatrix} a_1\\ \vdots\\ a_n \end{bmatrix} = A \begin{bmatrix} a'_1\\ \vdots\\ a'_n \end{bmatrix} $$
である。

さて、恣意的だが行列$M$をひとつ決めたとする。基底$(e_1, \dots, e_n)$に対して、表現行列を$M$とする線型同型$\eta_V: V \to V^*$が定まる。同様に基底$(e'_1, \dots, e'_n)$に対して、表現行列を$M$とする線型同型$\eta'_V$が定まる。$p$$\eta_V$$\eta'_V$を図式に書き表すと以下のようになる。$\mathbf{FDVect}$の単一の対象$V$だけに着目した図式だ。

基底に依存する線型同型 基底に依存する線型同型

左上の$V \overset{p}{\longmapsto}$右上の$V \overset{\eta'_V}{\longmapsto}$ 右下の$V^* \overset{p^*}{\longmapsto}$左下の$V^*$という右回りルート(合成射$p^* \circ \eta'_V \circ p$)と、左上の$V \overset{\eta_V}{\longmapsto}$左下の$V^*$という左回りルートがある。$p^* \circ \eta'_V \circ p$$\eta_V$は一致するだろうか?

出てくる写像は全て線型写像なので、写像が一致することを確認するには基底ベクトルの入力だけ見れば十分である。右回りルートの合成射に基底ベクトル$e_i$を入力すると
$$ \begin{align*} \left(p^* \circ \eta'_V \circ p\right)(e_i) &= \left(p^* \circ \eta'_V\right)(e'_i)\\ &= p^*\left(\eta'_V(e'_i)\right)\\ &= \eta'_V(e'_i) \circ p \end{align*} $$
となる。一方、左回りルートでは$\eta_V(e_i)$である。

$\eta'_V(e'_i) \circ p$$\eta_V(e_i)$$V^*$の要素であり、つまり線型汎関数$V \to K$なので、再び基底ベクトルを入力してみる。$\eta'_V(e'_i) \circ p$$e_j$を入力すると、
$$ \begin{align*} \left(\eta'_V(e'_i) \circ p\right)(e_j) &= \eta'_V(e'_i)\left(p(e_j)\right)\\ &= \eta'_V(e'_i)(e'_j) \end{align*} $$
であり、$\eta'_V$の定義よりこれは$M_{ij}$に等しい。一方$\eta_V(e_i)$に同じく$e_j$を入力すると、$\eta_V$の定義よりこちらも
$$ \eta_V(e_i)(e_j) = M_{ij} $$
となる。従って任意の基底ベクトル$e_i, e_j$について
$$ \left(p^* \circ \eta'_V \circ p\right)(e_i)(e_j) = \eta_V(e_i)(e_j) $$
が成り立つので、$p^* \circ \eta'_V \circ p = \eta_V$であり、図6の図式は可換になる。おお。

じゃあ$\eta_V$$\eta'_V$を成分に持つ対角自然変換$\eta$が存在するかというと、そうはならない。対角自然変換$\eta$がもし存在するなら、各対象に対してちょうど1つの成分が存在して整合性条件を満たすはずだが、$V$に対する成分が$\eta_V$$\eta'_V$の2つ出てくるのはおかしい(というか$V$の基底を取るたびに$\eta_V, \eta'_V, \eta''_V, \eta'''_V, \dots$と射$V \to V^*$が無数に出てくる)。対象$V$に対して2つの射$\eta_V$$\eta'_V$を使いたいです、というのは対角自然変換の定義に合わない。

つまり、基底に依存する同型を考えると、それを成分とする射の族$\eta = \{\eta_X\}_{X \in \text{ob}(\mathbf{FDVect})}$というものが構成できないので対角自然変換を成さない。

基底に依存しない同型を取った場合

では基底の選択とは無関係に、$V$に対して何らかの線型同型写像$\eta_V: V \to V^*$をひとつ選んだとするとどうだろう。そして$\eta_V$$V$成分とした対角自然変換$\eta: \text{Id}_\mathbf{FDVect} \overset{\cdot \cdot}{\to} (\cdot)^*$が存在すると仮定する。すると、任意の線型変換$p: V \to V$$\eta_V$について以下の図式が可換になるはずだ。再び、$\mathbf{FDVect}$の単一の対象$V$だけに着目した図式だ。

基底に依存しない線型同型 基底に依存しない線型同型

もし上記図式が可換なら、$p^* \circ \eta_V \circ p = \eta_V$である。これが成り立つかどうか確かめてみよう。

$p^* \circ \eta_V \circ p$$\eta_V$は双線型形式$V \times V \to K$(のカリー化)であり、基底を入力したときの値が一致するかどうか確かめれば十分である。ある基底$(e_1, \dots, e_n)$を取り、この基底に対する$\eta_V$の表現行列を$M$とする。すなわち$\eta_V(e_i)(e_j) = M_{ij}$である。基底$(e_1, \dots, e_n)$の各要素が線型写像$p$によって$(e'_1, \dots, e'_n)$に移るとし、その関係性を行列Aを使って$[e'_1 \dots e'_n] = [e_1 \dots e_n] A$と書くとする。すなわち$e'_i = \sum_{k=1}^n e_k A_{ki}$である。

$p^* \circ \eta_V \circ p$$e_i$を入力すると
$$ \begin{align*} \left(p^* \circ \eta_V \circ p\right)(e_i) &= \left(p^* \circ \eta_V\right)(e'_i)\\ &= \eta_V(e'_i) \circ p \end{align*} $$
であり、これに$e_j$を入力すると
$$ \begin{align*} \left(p^* \circ \eta_V \circ p\right)(e_i)(e_j) &= \left(\eta_V(e'_i) \circ p\right)(e_j)\\ &= \eta_V(e'_i)(e'_j)\\ &= M'_{ij} \end{align*} $$
となる。ただし$\eta_V(e'_i)(e'_j)$$ij$成分として持つ行列を$M'$とおいた。$\eta_V(\cdot)(\cdot)$の双線型性から、
$$ \begin{align*} M'_{ij} = \eta_V(e'_i)(e'_j) &= \eta_V \left(\sum_{k=1}^n e_k A_{ki}\right)\left(\sum_{l=1}^n e_l A_{lj}\right)\\ &= \sum_{k=1}^n \sum_{l=1}^n A_{ki} \eta_V(e_k)(e_l) A_{lj}\\ &= \sum_{k=1}^n \sum_{l=1}^n A_{ki} M_{kl} A_{lj} \end{align*} $$
すなわち
$$ M' = A^T M A $$
が得られる。

$M'$$M$は等しいか? $\eta_V$の表現行列$M$が単位行列でかつ$p$が直交変換($A$が直交行列)という限定的な場合ならば等しいが、一般には$M' \neq M$である。すなわち$p^* \circ \eta_V \circ p \neq \eta_V$であり、図7の図式は可換ではない。

どんな$\eta_V$を取ってきても(たとえ表現行列が単位行列でも)、整合性条件を満たさない線型写像(= 非直交変換)が存在するので、$\eta$という対角自然変換は存在しないことになる。

結局、$\mathbf{FDVect}$の単一の対象$V$について見ただけで、基底に依存しようがしまいがどんな線型同型を選んだとしても対角自然変換が存在しないことが分かった。当然すべての対象についても対角自然変換が無い。

結論

$V$$V^*$との同型写像が基底の取り方に依存する」とは、双線型形式の表現行列を固定すると、基底を変えるたびに異なる同型写像が得られるということが言いたいらしい。(ちなみに何の断りもなく暗黙的に単位行列を選ぶことが多い[4]

$V \cong V^*$が「標準的」でないという意味を「自然同型」が存在しないと考える限り、$\text{Id}_\mathbf{FDVect}$が共変関手で$(\cdot)^*$が反変関手であり型エラーを起こすので話が進まず、基底云々が出る余地がない。しかし仮に「標準的同型」の意味を「対角自然同型」に緩めたとしても、「どんな同型を(基底に依存しようがしまいが)選んだとしても、対角自然変換にならない」のであって、「同型が基底に依存するから対角自然変換にならない」というわけではない。

なぜ「基底に依存しない」という言い回しが使われるのか? おそらく、基底を選ぶという行為が分かりやすく派手に自然性を破壊するからだろう。圏論の厳密な議論に踏み込むのを嫌い、派手な例を持ち出してお茶を濁しているのではないか。つまり「線型空間$V$とその双対空間$V^*$とは同型($V \cong V^*$)だが標準的(canonical)な同型ではない。なぜならその同型写像は基底の取り方に依存するからだ」という言い回しは、「標準的な同型」というものを圏論の言葉ではなくて線型代数の言葉だけでなんとか説明しようという横着から生まれた不正確な表現だったのだ。

今後の予定

以下の内容を別の記事として執筆予定。

  • 基底に依存しないけれど標準的同型にならない例
  • $V$$V^{**}$との標準的な同型の話
  • 内積空間の$V$$V^*$が標準的な同型になる話



[1]: 初めて学んだときはこれを「自然」と呼ぶのがどうにも納得できなかったが、なんかもう麻痺してしまった。初心を忘れてしまった。そういう$\alpha$は個々の対象$A$とか$B$とかに依存しているのではなく、$F$$G$の構造自体に由来してそこに自然に存在しているとかなんとか。ああやっぱり納得できないわこの名前。

[2]: $p^*(f) = f \circ p$を、$p$に沿った$f$の引き戻しという。写像$p^*$のことを単に引き戻しということもある。なお、圏論にも引き戻しという概念があるようだが、不勉強のためそれとの関係性はよく分からない。

[3]: $V$$W$のある基底の下で$p$が行列$A$で表現されるとする。すると双対基底の下で$p^*$は転置行列$A^T$で表される。ゆえに$p^*$$p$の転置写像と呼ばれるらしい。

[4]: おそらく暗黙的に双対基底を考えているのだと思う。双対基底を使うということは、表現行列が単位行列の双線型形式を使うということだ。「基底の選択は恣意的だから$V \cong V^*$は標準的同型でない」という言い方は、まるで双対基底を使うことは恣意的ではなくcanonicalだと言っているように聞こえるが、別にそんなことなく恣意的である。


投稿日:12日前
更新日:6日前
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