(こちらの記事は Wathematicaアドベントカレンダー2024 向けに書かれたものです)
こんにちは。Wathematicaアドベントカレンダー、7日目担当のharu(Twitter:@haru___open)です。先日雪江先生の「代数学2」(いわゆる青雪江)を読むゼミを終えました。せっかくなので今回はそれに関連して、方程式を解くということについて、1の$p$乗根を根に持つ円分多項式を通して見ていくという内容で記事を書いてみました。
これには「周期」と呼ばれるきれいな対称性を持った概念が関係しています。
証明は割愛して、なんとなくの雰囲気がわかるように努めました。
例えば以下の方程式
$$
x^{2}+bx+c=0
$$
の解$\alpha$が
$$
\alpha = \frac{-b\pm\sqrt{b^2-4c}}{2}
$$
であることはよく知られています。しかしながらより次数の高い方程式については簡単にはいきません。そこで登場するのが補助方程式という概念です。
方程式$f(X)=0$の補助方程式とは以下の性質を満たす$g_i(X)=0(0 \leq j \leq l)$の集合である。
ちんぷんかんぷんなので具体例を見てみましょう。
3次方程式$f(X)=X^3++3X+2=0$の解は$\omega=\frac{-1+\sqrt{-3}}{2}$とすれば
$$
\omega^k\sqrt[3]{-1+\sqrt{2}} -\frac{1}{\omega^k\sqrt[3]{-1+\sqrt{2}}}\:(k=0,1,2)
$$
と表されます。
この$f(X)=0$に対しては、補助方程式を
と取ってあげればよいです。確かに$f(X)=0$の解が有理数と$\alpha_0,\alpha_1,\alpha_2$の四則演算で表現されていますね。しかもこの補助方程式を解くのは元々の$f(X)=0$を解くよりもずっと易しくなっています。このように上手いこと難しい方程式を簡単なものに還元しようということを昔の賢い方々は考えたわけですね。
お気づきの方もいると思いますが補助方程式のややこしい言い回しは体論の言葉を使えばスマートに言い換えられます。
補助方程式$ g_0(X)=0$の解の一つを$\alpha_0 \in \mathbb{C} $とします。$g_1(X)=0$の係数は$\mathbb{Q}$の元と$\alpha_0$の四則演算で表されるので、$K_1=\mathbb{Q}(\alpha_0)$とすれば$g_1(X) \in K_1[X]$となります。
以下帰納的に$g_i(X)=0$の解の一つを$\alpha_i$とし、$K_{i+1}=K_i(\alpha_i)$と定めれば体の列
$$
\mathbb{Q}=K_0 \subset K_1 \subset ...\subset K_{l+1}
$$
を得ます。方程式 $f(X)=0$の解は$\mathbb{Q},\alpha_0,...,\alpha_l$から四則演算で得られるので、$K_{l+1}$に属しているということになります。
つまり補助方程式を得ることと、体の拡大を考えることが対応しています。
本題に入る前にGaloisの基本定理の主張を述べておきます。
$E/F$をGalois拡大とし、そのガロア群を$G=Gal(E/F)$とする。$G$の部分群$H$と$E/F$の中間体$K$に対し
$\mathcal{F}(H)=\{\alpha \in H \mid \alpha^\tau=\alpha, \forall\tau\in H \}$
$\mathcal{G}(K)=\{\sigma \in G \mid r^\sigma=r, \forall r\in K \}$
とすれば以下が成立。
(1){$E/F$の中間体}$ \ni K \rightarrow \mathcal{G}(K) \in${$Gal(E/F)$の部分群}
(2)$K,K_1,K_2$を$E/F$の中間体とする。この時以下が成立。
$K_1 \supset K_2 \Longleftrightarrow \mathcal{G}(K_1) \subset \mathcal{G}(K_2)$
$<\mathcal{G}(K_1) \cup \mathcal{G}(K_1)> = \mathcal{G}(K_1 \cap K_2) $
$\mathcal{G}(K_1) \cap \mathcal{G}(K_2)=\mathcal{G}(K_1K_2)$
$\sigma \in Gal(E/F)$に対し$\mathcal{G}(K^\sigma)=\sigma \mathcal{G}(K) \sigma^{-1}$
(3)$E/F$の中間体$K$に対して、
$K/F$がGalois拡大 $\Longleftrightarrow$ $\mathcal{G}(K) \lhd G$
このとき$Gal(K/F) \cong G/\mathcal{G}(K)$
証明は2をはじめとした、代数学の基本的な教科書にあります。ここでは既知のものとして話を進めます。
今回は$\mathbb{Q}(\zeta)/\mathbb{Q}$($\zeta$は1の原始$p$乗根)というGalois拡大について考えてみることにしましょう。
この体の拡大はGalois拡大であり、そのGalois群$Gal(\mathbb{Q}(\zeta)/\mathbb{Q})$は$\ (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^\cross $と同型になります。Galoisの基本定理によれば、この部分群と対応する$\mathbb{Q}(\zeta) $の部分体があるはずです。ではこの部分群と対応する部分体はどんなものなのでしょう?そして、その部分体と対応する補助方程式とはどんなものでしょう?
それには周期という概念が非常に密接に関わっています。
この話を始める前に少しだけ言葉の定義をしましょう。
$p \geq 3$を素数、$\zeta $を1の原始$p$乗根とする。このとき$Gal(\mathbb{Q}(\zeta)/\mathbb{Q})$の元は
$\sigma_a:\zeta \longrightarrow \zeta^a $: (gcd$(a,p)=1 $)
となるものに限られる。
また$g$を$\mod{p}$の原始根($p-1$乗して初めて1と合同になる数)としたとき、$<\sigma_g>=Gal(\mathbb{Q}(\zeta)/\mathbb{Q})$であり、その部分群$H_f $を
$H_f=<{\sigma_g}^{\frac{p-1}{f}}>$ ($ f\mid (p-1)$ )
と書くことにする。
では周期を定義しましょう。
1の原始$p$乗根$\zeta$と、$p-1$の正約数$f$に対して
$$
\eta_f(\zeta):= \sum_{h\in H_f}^{}h(\zeta)
$$
を$f$項周期と呼ぶ。
具体例を見てみましょう。
$2$は $5-1=4$の約数。$g=3$のとき、$H_2=<{\sigma_3}^2>$なので、
$$
\eta_2(\zeta)= \sum_{h\in H_2}^{}h(\zeta) ={\sigma_3}^2(\zeta)+{({\sigma_3}^2)^2(\zeta)}=\zeta^9+\zeta^{81}=\zeta^4+\zeta
$$
同様にして
$$
\eta_2(\zeta^2)=\zeta^3+\zeta^2
$$
$$
\eta_2(\zeta^3)=\zeta^2+\zeta^3
$$
$$
\eta_2(\zeta^4)=\zeta+\zeta^4
$$
確かに2つの項で書けていて、まさに2項周期といった感じです。
さらによく見ると、どうも$\zeta$と$\zeta^4$、$\zeta^2$と$\zeta^3$がペアになっているように見えます。
さらにもう1つ例を見てみましょう。
$3$は$7-1=6$の約数。$g=3$のとき、$H_3=<{\sigma_3}^2>=<\sigma_2>$なので、
$$
\eta_3(\zeta)= \sum_{h\in H_3}^{}h(\zeta) ={\sigma_2}(\zeta)+{\sigma_2}^2(\zeta)+{\sigma_2}^3(\zeta)=\zeta^2+\zeta^4+\zeta
$$
同様にして
$$
\eta_3(\zeta^2)=\zeta^4+\zeta+\zeta^2
$$
$$
\eta_3(\zeta^3)=\zeta^6+\zeta^5+\zeta^3
$$
$$
\eta_3(\zeta^4)=\;\zeta+\zeta^2+\zeta^4
$$
$$
\eta_3(\zeta^5)=\zeta^3+\zeta^6+\zeta^5
$$
$$
\eta_3(\zeta^6)=\zeta^5+\zeta^3+\zeta^4
$$
では初めの問いに戻りましょう。$H_f$に対応する部分体とは具体的には何でしょうか。Galoisの基本定理によればそれは$H_f$の不変体なのですが、この場合はもっと明確に記述することができます。
例2を見てみましょう。$\zeta$は$H_3 $の元により色々と移り変わってしまいますよね。しかし$\zeta+\zeta^2+\zeta^4$を1つのかたまりで見るとこれは全く変わっていないことがわかります。
そう、実は$H_3$に対応する部分体とは$\mathbb{Q}(\eta_3(\zeta))$であったのです!
もっと一般に以下の事実が成り立ちます。
Galois拡大$\mathbb{Q}(\zeta)/\mathbb{Q}$において、$H_f \subset Gal(\mathbb{Q}(\zeta)/\mathbb{Q})$と(Galoisの基本定理の意味で)対応する$\mathbb{Q}(\zeta)$の部分体は$\mathbb{Q}(\eta_f(\zeta))$である。
証明は割愛します。
最後に$p=7$の場合の円分多項式の補助方程式の系列を確認して終わりましょう。
$p$を$3$以上の素数とする。この時$p$-円分多項式$\phi_p(X) $を
$\phi_p(X)=X^{p-1}+X^{p-2}+...+X+1 $
と定義する。
これは$\zeta$の$ \mathbb{Q}$係数最小多項式になっています。
$p=7$のとき
$\phi_7(X)=0$は6次方程式ですから、このままでは解けそうにないですね。
では補助方程式を作ってみましょう。
体の列$\mathbb{Q} \subset \mathbb{Q}(\eta_3(\zeta)) \subset \mathbb{Q}(\zeta)$ が取れます。$\phi_7(X)=0$の補助方程式としては
が取れればよさそうです(もちろん元の方程式より難しくなってはだめです)。
これは周期の対称性から、簡単に用意することができます。
\begin{eqnarray} g_0(X) &=&(X-(\zeta+\zeta^2+\zeta^4))(X-(\zeta^3+\zeta^5+\zeta^6))\\ &=&X^2-(\zeta+\zeta^2+\zeta^4+\zeta^3+\zeta^5+\zeta^6)X+(\zeta+\zeta^2+\zeta^4)(\zeta^3+\zeta^5+\zeta^6)\\ \end{eqnarray}
とすれば、各係数は$<\sigma_3>=Gal(\mathbb{Q}(\zeta)/\mathbb{Q})$で不変になっているので、$g_0(X) \in \mathbb{Q}[X] $となります。
さらに
\begin{eqnarray}
g_1(X)
&=&(X-\zeta)(X-\zeta^2)(X-\zeta^4)\\
&=&X^3-(\zeta+\zeta^2+\zeta^4)X^2+(\zeta\zeta^2+\zeta^2\zeta^4+\zeta^4\zeta^2)X-\zeta\zeta^2\zeta^4
\end{eqnarray}
とすればこの各係数は$H_3=<\sigma_2>$で不変になるので、$g_1(X) \in \mathbb{Q}(\eta_3(\zeta))[X] $となります。
なおそれぞれ計算すると
$$
g_0(X)=X^2+X+2
$$
$$
g_1(X)=X^3-\frac{-1+\sqrt{-7}}{2}X^2+\frac{-1-\sqrt{-7}}{2}X-1
$$
($\zeta$は$\eta_3(\zeta)=\frac{-1+\sqrt{-7}}{2} $となるように選んだ)
ご覧いただきありがとうございました。今回の内容についてより詳しいことや、証明が知りたい方は是非参考文献の1をご覧ください。とてもわかりやすく丁寧に書いてあります。