はじめに
次の交代行列に対して, のパフィアン(Pfaffian)とは以下で定義される値のことを指す:
ここではの置換であって
を満たすもの全体を動く.
このとき以下の関係式が成立することが知られている.
以下この等式が成立することの証明をする.
証明
左辺について
まず左辺のの意味付けをする. 各について, を頂点としの向きに有向辺を張った有向グラフを考える. なお, 以下グラフを考えるときはすべてを頂点とするものを考える. 辺の重みをとし, 有向グラフの重みをのすべての有向辺の重みの積として定義する. すると,
は各に対応する有向グラフの重みと との積をすべてにわたって足し合わせたものと捉えられる. ここで各頂点についてその点から出る辺とその点に入る辺の本数はどちらも一本であるから, これらのグラフはいくつかのサイクルに分解できる. いまは交代行列でありを満たすから, のあるサイクルを逆向きに変えたグラフについてとは符号の差異をのぞけば等しい. よって, 有向グラフが辺の向きを無視して無向グラフとして見たときに一致するときとは符号の差異をのぞけば等しい.
各頂点の次数がである無向グラフに対して, の各サイクルに対する向き付けの方法全てにわたるの総和をで表す(ただしはにに対応する向きをつけた有向グラフ). このとき
であることが従う(ただしは各頂点の次数がである無向グラフ全体を動く).
が長さのサイクル(つまりループ)を含む場合は明らか(は交代行列より).
が長さ(は以上の奇数)のサイクルを含むとする. に対する向き付けを一つとる. のみ逆向きにし, 他のサイクルはと同じ向きにする向き付け方をとする. このとき, 本の辺を逆向きにしたことから. また, 一般にが成り立つことを利用すれば, が得られる(置換の逆元をとる操作が, 対応する有向グラフの辺をすべて逆向きに変える操作に相当することに注意する). 以上よりであり, が導かれる.
補題より, として任意のサイクルの長さが偶数であるようなものだけを考えればよい. そのようなを一つとって固定する. 補題の証明を応用すれば, に対する任意の向き付けについての符号が一致し, 故にの符号が一致することが従う. またの長さ以上の各サイクルに対して向き付け方はそれぞれ通りあるので, の長さ以上のサイクルの個数をとおけば. ただしはに対する適当な向き付け方.
以下を計算するためにいくつかの補題を用意する.
補題より, のサイクルの個数をとすれば
右辺について
次に右辺のの意味付けをする. 各について, の向きに有向辺を張った有向グラフを考える. その他の記号や重みについては上と同様とする. すると,
は各に対応する有向グラフの重みと との積をすべてにわたって足し合わせたものと捉えられる. ここで, あるについてを
で定めると,
であるから, 各辺の向きを逆にしてもグラフの重みは保たれる. また, 辺の向きを無視して無向グラフとして見たときにこのグラフは完全マッチングとなる. の定義にあるの条件より, 完全マッチングと条件を満たすが一対一に対応することがわかる. そして完全マッチングを二つ重ね合わせてできる無向グラフは, 各頂点の次数がであり, かつ長さが奇数のサイクルを含まない.
ここで, 各頂点の次数がで任意のサイクルの長さが偶数である無向グラフとその適当な向き付けに対して, が二つの完全マッチングの合併として得られるようなすべてのの組にわたるの総和をで表す. ただしはにの向き付けをして得られる有向グラフに対応する置換であり, についても同様.
このとき,
はに等しいことが従う(ただしは各頂点の次数がで任意のサイクルの長さが偶数である無向グラフ全体を動く). 以下このようなを一つとって固定する.
の巡回置換をとる. このサイクル内で, がに, がに対応しているとしてよい(添え字は適宜循環させて考える). に巡回置換を乗じると, 変換後の対応はになる. ここですべての辺の向きを逆転させる操作を行うことで, このサイクル内でをに変えることができる. 最初の変換により, 補題からの値は倍され, 次の操作によりさらに倍される. つまり全体で倍される. すべてのサイクルでこの操作を行うことを考えると, が得られる. この式の両辺にを乗じれば求める結果が得られる.
が二つの完全マッチングの合併として得られるようなの組を数え上げる. の長さ以上の各サイクルに対して完全マッチングの組はそれぞれ通りあるので, の長さ以上のサイクルの個数をとおけば補題とあわせて.
以上よりが条件を満たすすべてのについて成立するので, を動かしたときの総和を取ればが従う.
おわりに
以前この等式を示した際に, 愚直に係数比較をして示す方針をとったら思いの外興味深い方法で示すことができて驚いたので記事にしてみた.