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行列式がパフィアンの二乗に等しいことのグラフを用いた証明

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はじめに

2n次の交代行列A=(aij)に対して, Aパフィアン(Pfaffian)Pf(A)とは以下で定義される値のことを指す:
Pf(A)=σsgn(σ)i=1naσ(2i1)σ(2i)
ここでσ1,2,,2nの置換であって

σ(2i1)<σ(2i)(i=1,2,,n)
σ(1)<σ(3)<<σ(2n1)

を満たすもの全体を動く.

A2×2行列のときPf(A)=a12

A4×4行列のときPf(A)=a12a34a13a24+a14a23

このとき以下の関係式が成立することが知られている.

det(A)=(Pf(A))2

以下この等式が成立することの証明をする.

証明

左辺について

まず左辺のdet(A)の意味付けをする. 各σS2nについて, 1,2,,2nを頂点としiσ(i)の向きに有向辺を張った有向グラフを考える. なお, 以下グラフを考えるときはすべて1,2,,2nを頂点とするものを考える. 辺ijの重みをaijとし, 有向グラフGの重みw(G)Gのすべての有向辺の重みの積として定義する. すると,
det(A)=σS2nsgn(σ)i=12naiσ(i)
は各σに対応する有向グラフGの重みw(G)sgn(σ)との積をσS2nすべてにわたって足し合わせたものと捉えられる. ここで各頂点についてその点から出る辺とその点に入る辺の本数はどちらも一本であるから, これらのグラフはいくつかのサイクルに分解できる. いまAは交代行列でありaij=ajiを満たすから, Gのあるサイクルを逆向きに変えたグラフGについてw(G)w(G)は符号の差異をのぞけば等しい. よって, 有向グラフG,Gが辺の向きを無視して無向グラフとして見たときに一致するときw(G)w(G)は符号の差異をのぞけば等しい.

各頂点の次数が2である無向グラフgに対して, gの各サイクルに対する向き付けの方法σ全てにわたるsgn(σ)w(gσ)の総和をw(g)で表す(ただしgσgσに対応する向きをつけた有向グラフ). このとき
det(A)=gw(g)
であることが従う(ただしgは各頂点の次数が2である無向グラフ全体を動く).

gが長さ奇数のサイクルを含むとき, w(g)=0

gが長さ1のサイクル(つまりループ)を含む場合は明らか(Aは交代行列よりaii=0).
gが長さL(L3以上の奇数)のサイクルsを含むとする. gに対する向き付けσを一つとる. sのみ逆向きにし, 他のサイクルはσと同じ向きにする向き付け方をσとする. このとき, L本の辺を逆向きにしたことからw(gσ)=(1)Lw(gσ)=w(gσ). また, 一般にsgn(τ)=sgn(τ1)が成り立つことを利用すれば, sgn(σ)=sgn(σ)が得られる(置換の逆元をとる操作が, 対応する有向グラフの辺をすべて逆向きに変える操作に相当することに注意する). 以上よりsgn(σ)w(gσ)=sgn(σ)w(gσ)であり, w(g)=0が導かれる.

補題2より, gとして任意のサイクルの長さが偶数であるようなものだけを考えればよい. そのようなgを一つとって固定する. 補題2の証明を応用すれば, gに対する任意の向き付けσについてw(gσ)の符号が一致し, 故にsgn(σ)w(gσ)の符号が一致することが従う. またgの長さ4以上の各サイクルに対して向き付け方はそれぞれ2通りあるので, gの長さ4以上のサイクルの個数をNとおけばw(g)=2Nsgn(σ)w(gσ). ただしσgに対する適当な向き付け方.

以下sgn(σ)を計算するためにいくつかの補題を用意する.

巡回置換σ=(i1 i2  im)について, sgn(σ)=(1)m1

σ=(i1 im)(i1 im1)(i1 i2)より従う.

σSnq個の巡回置換の積で書けるとき, sgn(σ)=(1)nq

各巡回置換の長さをm1,m2,,mqとおく. 補題3より,
sgn(σ)=(1)m11(1)m21(1)mq1=(1)nq.

補題4より, gのサイクルの個数をqとすれば
w(g)=2Nsgn(σ)w(gσ)=(1)2nq2Nw(gσ)=(1)q2Nw(gσ).

右辺について

次に右辺の(Pf(A))2の意味付けをする. 各σS2nについて, σ(2i1)σ(2i)の向きに有向辺を張った有向グラフを考える. その他の記号や重みについては上と同様とする. すると,
Pf(A)=σsgn(σ)i=1naσ(2i1)σ(2i)
は各σに対応する有向グラフGの重みw(G)sgn(σ)との積をσS2nすべてにわたって足し合わせたものと捉えられる. ここで, あるkについてσ
σ(n)={σ(n+1)(n=2k1)σ(n1)(n=2k)σ(n)   (otherwise)

で定めると,
sgn(σ)i=1naσ(2i1)σ(2i)=sgn(σ)i=1naσ(2i1)σ(2i)=sgn(σ)i=1naσ(2i1)σ(2i)
であるから, 各辺の向きを逆にしてもグラフの重みは保たれる. また, 辺の向きを無視して無向グラフとして見たときにこのグラフは完全マッチングとなる. Pf(A)の定義にあるσの条件より, 完全マッチングと条件を満たすσが一対一に対応することがわかる. そして完全マッチングを二つ重ね合わせてできる無向グラフは, 各頂点の次数が2であり, かつ長さが奇数のサイクルを含まない.

ここで, 各頂点の次数が2で任意のサイクルの長さが偶数である無向グラフgとその適当な向き付けσに対して, gが二つの完全マッチング(m1,m2)の合併として得られるようなすべての(m1,m2)の組にわたるsgn(σ1)sgn(σ2)w(gσ)の総和をw(g)で表す. ただしσ1m1σの向き付けをして得られる有向グラフに対応する置換であり, σ2についても同様.

このとき,

(Pf(A))2=σ1,σ2sgn(σ1)sgn(σ2)i=1naσ1(2i1)σ1(2i)i=1naσ2(2i1)σ2(2i)

gw(g)に等しいことが従う(ただしgは各頂点の次数が2で任意のサイクルの長さが偶数である無向グラフ全体を動く). 以下このようなgを一つとって固定する.

gのサイクルの個数をqとしたとき
sgn(σ1)sgn(σ2)=(1)q

gσの巡回置換(i1 i2  i2m)をとる. このサイクル内で, σ1i2k1i2kに, σ2i2ki2k+1に対応しているとしてよい(添え字は適宜循環させて考える). σ2に巡回置換(i2m1 i2m3  i3 i1)を乗じると, 変換後の対応はi2ki2k1になる. ここですべての辺の向きを逆転させる操作を行うことで, このサイクル内でσ2σ1に変えることができる. 最初の変換により, 補題3からsgn(σ2)の値は(1)m1倍され, 次の操作によりさらに(1)m倍される. つまり全体で(1)倍される. すべてのサイクルでこの操作を行うことを考えると, sgn(σ1)=(1)qsgn(σ2)が得られる. この式の両辺にsgn(σ2)を乗じれば求める結果が得られる.

gが二つの完全マッチング(m1,m2)の合併として得られるような(m1,m2)の組を数え上げる. gの長さ4以上の各サイクルに対して完全マッチングの組はそれぞれ2通りあるので, gの長さ4以上のサイクルの個数をNとおけば補題5とあわせてw(g)=(1)q2Nw(gσ).

以上よりw(g)=w(g)が条件を満たすすべてのgについて成立するので, gを動かしたときの総和を取ればdet(A)=(Pf(A))2が従う.

おわりに

以前この等式を示した際に, 愚直に係数比較をして示す方針をとったら思いの外興味深い方法で示すことができて驚いたので記事にしてみた.

投稿日:2024919
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翁
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