ここでは東大数理の修士課程の院試の2023B08の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
2023B08
次実正方行列全体のなす位相空間の部分位相空間を、行列で、以下の条件
(a)
(b) は対称行列
(c) の対角成分は全て非負
(d)
を満たすもの全体からなる空間とする。ここで写像
を考える(ここではの転置である)。
(1) ははめ込みであることを示しなさい。
(2) はの級部分多様体であることを示しなさい。
(3) 比を求めなさい。ここで及びは及びのEuclid計量から定まる及びの体積を表す。
- まずに対して
と表される。これをでそれぞれ微分したものは
であり、これらは線型独立であるからははめ込みである。 - をによる作用で割った空間を考えると、写像が誘導される。これは単射であり、しかも(1)からはめ込みであり、その像はのコンパクト空間に含まれているから埋め込みである。このときをに制限したものも埋め込みであり、はこの像であるからの部分多様体である。
- まずははめ込みであったから、誘導計量を考えることができる。ここでの点に於いては
と書き表される。いまは切断
で生成されているが、この切断に関するのGram行列は
と表される。以上の議論とが埋め込みを定めていることを考慮すると、はの下でのの体積のに等しいから求める比は
である。