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東大数理院試過去問解答例(2023B08)

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ここでは東大数理の修士課程の院試の2023B08の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。

2023B08

$4$次実正方行列全体のなす位相空間$M_4(\mathbb{R})$の部分位相空間$M$を、行列$A=(a_{ij})_{i,j}$で、以下の条件
(a) $\mathrm{rank}A=1$
(b) $A$は対称行列
(c) $A$の対角成分は全て非負
(d) $\sum_{i,j}a_{i,j}^2=1$
を満たすもの全体からなる空間とする。ここで写像
$$ \begin{split} \phi:\mathbb{R}^4&\to M_4(\mathbb{R})\\ x&\mapsto xx^T \end{split} $$
を考える(ここで$x^T$$x$の転置である)。
(1) $\phi|_{\mathbb{R}^4\backslash\{0\}}:\mathbb{R}^4\backslash\{0\}\to M_4(\mathbb{R})$ははめ込みであることを示しなさい。
(2) $M$$M_4(\mathbb{R})$$C^\infty$級部分多様体であることを示しなさい。
(3) 比$\frac{\mathrm{vol}(M)}{\mathrm{vol}(S^3)}$を求めなさい。ここで$\mathrm{vol}(M)$及び$\mathrm{vol}(S^3)$$M_4(\mathbb{R})$及び$\mathbb{R}^4$のEuclid計量から定まる$M$及び$S^3$の体積を表す。

  1. まず$x=(x,y,w,z)^T$に対して
    $$ xx^T=\begin{pmatrix} x^2&xy&xz&xw\\ yx&y^2&yz&zw\\ zx&zy&z^2&zw\\ wx&wy&wz&w^2 \end{pmatrix} $$
    と表される。これを$x,y,z,w$でそれぞれ微分したものは
    $$ \begin{pmatrix} 2x&y&z&w\\ y&0&0&0\\ z&0&0&0\\ w&0&0&0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 0&x&0&0\\ x&2y&z&w\\ 0&z&0&0\\ 0&w&0&0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 0&0&x&0\\ 0&0&y&0\\ x&y&2z&w\\ 0&0&w&0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 0&0&0&x\\ 0&0&0&y\\ 0&0&0&z\\ x&y&z&2w \end{pmatrix} $$
    であり、これらは線型独立であるから$\phi|_{\mathbb{R}^4\backslash\{0\}}$ははめ込みである。
  2. $\phi|_{\mathbb{R}^4\backslash\{0\}}$$\{\pm1\}$による作用で割った空間$X$を考えると、写像$\phi:X\to M_4(\mathbb{R})$が誘導される。これは単射であり、しかも(1)からはめ込みであり、その像は$M_4(\mathbb{R})$のコンパクト空間$S^{15}$に含まれているから埋め込みである。このとき$\phi$$S^3/\{\pm1\}$に制限したものも埋め込みであり、$M$はこの像であるから$M_4(\mathbb{R})$$C^\infty$部分多様体である。
  3. まず$\phi_{\mathbb{R}^4\backslash\{0\}}$ははめ込みであったから、誘導計量$\phi^\ast g$を考えることができる。ここで$S^3$の点$(x,y,z,w)$に於いては
    $$ (\phi^\ast g)_p=\begin{pmatrix} 2x^2+2&2xy&2xz&2xw\\ 2xy&2y^2+2&2yz&2yw\\ 2xz&2yz&2z^2+2&2zw\\ 2xw&2&2zw&2w^2+2 \end{pmatrix} $$
    と書き表される。いま$TS^3$は切断
    $$ v_1=\begin{pmatrix} -y\\ x\\ w\\ -z \end{pmatrix},v_2=\begin{pmatrix} -z\\ -w\\ x\\ y \end{pmatrix},v_3=\begin{pmatrix} -w\\ z\\ -y\\ x \end{pmatrix} $$
    で生成されているが、この切断に関する$\phi^\ast g$のGram行列は
    $$ \begin{pmatrix} 2&0&0\\ 0&2&0\\ 0&0&2 \end{pmatrix} $$
    と表される。以上の議論と$\phi$が埋め込み$S^3/\{\pm1\}$を定めていることを考慮すると、$\mathrm{vol}(M)$$\phi^\ast g$の下での$S^3$の体積の$\frac{1}{2}$に等しいから求める比は
    $$ \frac{\mathrm{vol}(M)}{\mathrm{vol}(S^3)}=\frac{1}{2}\times2^3={\color{red}4} $$
    である。
投稿日:20231030

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投稿者

佐々木藍(Ai Sasaki)です。趣味の数学と院試の過去問の(間違ってるかもしれない雑な)解答例を上げていきます。X(旧Twitter)→@sasaki_aiiro

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