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大学数学基礎解説
文献あり

【備忘録/用語集】リーマン面上の関数の零点と極

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(零点とその位数)

$X$をリーマン面とし,$f \colon X \to \mathbb{C}$$X$上の$0$でない正則関数とする。
$P_0 \in X$における$f$の座標表示を考える。
$P_0$の座標$z_0$が座標表示された関数の$m$位の零点であるとき,$P_0$$f$$m$位の零点であるという。

(上の定義が座標表示の仕方に依らないこと)

$P_0$を含むような$X$の座標近傍$(\tilde{\phi} \colon U \to \tilde{\mathbb{U}}, U)$を考えたとき,$f$の座標表示が
$$ f(\tilde{\phi}^{-1} (z)) = (z - z_0)^m \tilde{g}(z) \text{, } \tilde{g}(z_0) \neq 0$$
となったとする。

$\mathbb{U} = \tilde{\mathbb{U}} - z_0$と置き,新たに局所座標関数
$$ \phi \colon U \to \mathbb{U}; P \mapsto \tilde{\phi} (P) - z_0$$
を考える。

$\phi$の逆写像が
$$ \phi^{-1} \colon \mathbb{U} \to U; s \mapsto \tilde{\phi}^{-1} (s + z_0)$$
であることに注意すると,$f$の座標表示は
$$ f(\phi^{-1}(s)) = f(\tilde{\phi}^{-1}(s + z_0)) = s^m g(s)$$
となる。ただし,$g(s) = \tilde{g}(s + z_0)$である。

$P_0$における$f$の別の座標表示を考えたとき,$P_0$の座標$w_0$が座標表示された関数の$l$位の零点であったとする。

このとき,上と同様にして,$P_0$のある局所座標近傍$(\psi \colon V \to \mathbb{V}, V)$を用いた$f$の座標表示が
$$ f(\psi^{-1}(t)) = t^l h(t) \text{, } h(0) \neq 0$$
となるようにできる。

$P_0$の2つの局所座標近傍の間の変換関数
$$ T_{\psi \phi} \colon \phi(U \cap V) \to \psi(U \cap V)$$
を考えたとき,$0 \in \mathbb{W} \subset \phi(U \cap V)$を満たすような$\mathbb{C}$のある開集合$\mathbb{W}$$\mathbb{W}$上の正則関数$u \colon \mathbb{W} \to \mathbb{C}$が存在して,$\mathbb{W}$
$$ T_{\psi \phi}(s) = s u(s) \text{, } u(0) \neq 0$$
が成り立つ。

したがって,$\mathbb{W}$
$$ s^m g(s) = f(\phi^{-1}(s)) = f(\psi^{-1}(T_{\psi \phi}(s))) = s^l u(s)^l h(s u(s)) $$
であり,$\mathbb{W} \setminus \{0\}$
$$ s^{m-l} = \frac{u(s)^l h(s u(s))}{g(s)}$$
である。

$s \to 0$のとき,右辺はゼロでない有限の値に収束するので,$m = l$である。

リーマン面$X$上の$0$でない正則関数の零点全体からなる集合は$X$内に集積点を持たない。

$X$をリーマン面とし,$E$$X$の閉集合とする。
いま,$X \setminus E$$X$内の領域になっていると仮定する。
$f \colon X \setminus E \to \mathbb{C}$$X \setminus E$上の正則関数とし,$P_0$$E$の孤立点とする。
$P_0$を含むような$X$の座標近傍$(\phi \colon U \to \mathbb{U}, U)$$U \cap E = \{P_0\}$を満たすようなものを考える。
このとき,$U \setminus \{P_0\} \subset X \setminus E$であり,写像
$$ \mathbb{U} \setminus \{z_0\} \to \mathbb{C}; z \mapsto f(\phi^{-1}(z))$$
が定義される。(ただし,$z_0 = \phi(P_0)$である。)
これを$P_0$における$f$の(ひとつの)座標表示という。

(極とその位数)

上の状況で,$z_0$が座標表示された関数の$m$位の極であるとき,$P_0$$f$$m$位の極であるという。

(上の定義が座標表示の仕方に依らないこと)

まず,$\lim_{P \to P_0} |f(P)| = + \infty$であり,$P_0$を除いた$P_0$の十分近くで$f(P) \neq 0$が成り立つ。

そこで関数$g(P)$$P \neq P_0$のとき$g(P) = 1/f(P)$, $g(P_0) = 0$と定めると,$g(P)$は正則となる。

$P_0$$g(P)$$m$位の零点なので,$m$の値は座標表示の仕方に依らない。

リーマン面$X$の部分集合$E$$X$内に集積点を持たないとき,$X \setminus E$$X$内の領域となる。

(有理型関数)

$X$をリーマン面とし,$E$$X$内に集積点を持たないような$X$の部分集合とする。
$X \setminus E$上の正則関数$f \colon X \setminus E \to \mathbb{C}$$E$の各点を極に持つとき,組$(f, E)$$X$上の有理型関数という。

また,$X$の開集合$U$上の有理型関数とは,$U$の各連結成分を$X$の開リーマン面とみて,その上の有理型関数を考え,それらを組にしたもののことである。

(点における関数の位数)

$X$をリーマン面とし,$U$$X$の開集合とする。
$f$$U$上の有理型関数であって$U$のどの連結成分においても$0$でないものとする。
このとき,$P \in U$に対し,
$$ \operatorname{ord}_P (f) = \begin{cases} m & \text{($P$が$f$の$m$位の零点のとき)} \\ -m & \text{($P$が$f$の$m$位の極のとき)} \\ 0 & \text{(それ以外のとき)} \end{cases} $$
と定め,これを$P$における$f$の位数という。

$\mathbb{P}^1$上の有理型関数)

$\mathbb{P}^1$$\mathbb{C} \cup \{\infty\}$の間の対応をひとつ固定する。
$N, S \in \mathbb{P}^1$をそれぞれ$\infty$, $0$に対応する点とし,座標関数$\phi \colon \mathbb{P}^1 \setminus \{N\} \to \mathbb{C}$, $\psi \colon \mathbb{P}^1 \setminus \{S\} \to \mathbb{C}$
$$ \phi(S) = 0 \text{, } \psi(N) = 0$$
$$ \psi(\phi^{-1}(z)) = \frac{1}{z} \quad (z \in \mathbb{C} \setminus \{0\})$$
$$ \phi(\psi^{-1}(w)) = \frac{1}{w} \quad (w \in \mathbb{C} \setminus \{0\})$$
を満たすとする。$\phi$を通じて$\mathbb{P}^1 \setminus \{N\}$$\mathbb{C}$を同一視する。)

$f, g \colon \mathbb{C} \to \mathbb{C}$$\mathbb{C}$上の多項式関数としたとき,$\mathbb{C}$上の有理関数$h = f/g$が有理型関数として定まる。
(ただし,$g \neq 0$とする。)

この$h$$\mathbb{P}^1$上の有理型関数$\tilde{h}$に延長することを考える。

$h$の極全体の集合を$E$とする。
$g$は多項式関数なので,$E$は有限集合である。)

$\tilde{E} = \phi^{-1} (E)$と置き,$(\mathbb{P}^1 \setminus \{N\}) \setminus \tilde{E}$
$$ \tilde{h}(P) = h(\phi(P))$$
と定める。
$\tilde{E}$の各点は$\tilde{h}$の極となる。)

$\tilde{h}$が連続であるようにしたいので,$\lim_{P \to N} \tilde{h}(P)$の様子が分かればよい。

$N$とは異なり$N$の十分近くの点$P$に対して
$$ \tilde{h}(P) = h(\phi(\psi^{-1}(\psi(P)))) = h \left( \frac{1}{\psi(P)} \right) $$
が成り立つ。

$g$の零点は有限集合なので,$N$とは異なり$N$の十分近くの点$P$に対して$g(1/\psi(P)) \neq 0$が成り立つ。

したがって,
$$ h \left( \frac{1}{\psi(P)} \right) = \frac{f \left( \frac{1}{\psi(P)} \right)}{g \left( \frac{1}{\psi(P)} \right)} = \frac{a_m \left( \frac{1}{\psi(P)} \right)^m + \cdots + a_0}{b_n \left( \frac{1}{\psi(P)} \right)^n + \cdots + b_0} $$
である。
(ただし,$a_m z^m + \cdots + a_0$, $b_n z^n + \cdots + b_0$はそれぞれ多項式関数$f(z)$, $g(z)$を書き下したものである。)

$m \leq n$のとき,
$$ \lim_{P \to N} \tilde{h} (P) = \lim_{P \to N} \frac{a_m \psi(P)^{n-m} + \cdots + a_0 \psi(P)^n}{b_n + \cdots + b_0 \psi(P)^n} $$
は有限の極限値$\alpha$を持つ。

この場合,$\tilde{h}(N) = \alpha$と定めて,$\mathbb{P}^1$上の有理型関数$(\tilde{h}, \tilde{E})$が得られる。

$n < m$のとき,
$$ \lim_{P \to N} |\tilde{h}(P)| = \lim_{P \to N} \left| \frac{a_m + \cdots + a_0 \psi(P)^m}{b_n \psi(P)^{m-n} + \cdots + b_0 \psi(P)^m} \right| = + \infty $$
である。

この場合,$N$$\tilde{h}$の極となり,$\mathbb{P}^1$上の有理型関数$(\tilde{h}, \tilde{E} \cup \{N\})$が得られる。

逆に,$\mathbb{P}^1$上のすべての有理型関数は$\mathbb{C}$上の有理関数を延長したものである。

以下,そのことを確かめる。

$(\tilde{h}, \tilde{E})$$\mathbb{P}^1$上の$0$でない有理型関数とする。

$\mathbb{P}^1$はコンパクトなので,$\tilde{E}$は有限集合である。

$(\tilde{h}, \tilde{E})$$\mathbb{C}$に制限した$\mathbb{C}$上の有理型関数$(h, E)$を考える。

ここで,
$$ E = \phi(\tilde{E} \setminus \{N\})$$
$$ h \colon \mathbb{C} \setminus E \to \mathbb{C}; z \mapsto \tilde{h}(\phi^{-1}(z)) $$
である。

$E$の元を$b_1, b_2, \ldots, b_n$と書き並べ,$e_j$$h$の極$b_j$の位数とする。

$\mathbb{C}$上の多項式関数$g(z) = (z - b_1)^{e_1} \cdots (z - b_n)^{e_n}$を考え,$f = g h$と置くと,$f$$\mathbb{C}$上の正則関数となる。

$f$$\mathbb{C}$における冪級数展開を$a_0 + a_1 z + a_2 z^2 + \cdots$とする。

$f$$\mathbb{P}^1$に延長可能な$\mathbb{C}$上の有理型関数$g$, $h$の積なので,それ自身$\mathbb{P}^1$に延長されて有理型関数$\tilde{f}$となる。

特に,$\tilde{f}$$N$において高々極を持つ。

したがって,座標近傍$(\psi, \mathbb{P}^1 \setminus \{S\})$を用いた$N$における$f$の座標表示は$w = 0$を除いた$0$の十分近くで
$$ \tilde{f}(\psi^{-1}(w)) = a'_m w^m + a'_{m + 1} w^{m + 1} + \cdots$$
とローラン展開される。

ただし,$m = \operatorname{ord}_N (f)$, $a'_m \neq 0$である。

一方,$w \neq 0$のとき,
\begin{align} \tilde{f}(\psi^{-1}(w)) & = \tilde{f}(\phi^{-1}(\phi(\psi^{-1}(w)))) \\ & = \tilde{f} \left( \phi^{-1} \left( \frac{1}{w} \right) \right) \\ & = a_0 + a_1 \frac{1}{w} + a_2 \frac{1}{w^2} + \cdots \end{align}
である。

したがって,ローラン展開の一意性より

  • $m > 0$ならば$f = 0$(これは実際にはあり得ない。)
  • $m = 0$ならば$f = a_0 \neq 0$
  • $m < 0$ならば$f = a_m z^m + a_{m-1} z^{m-1} + \cdots + a_0$, $a_m \neq 0$

となる。

いずれにしても$f$は多項式関数で,$\mathbb{C}$$h = f/g$は有理関数となる。

直前の例と同じように,$\mathbb{P}^1$$\mathbb{C} \cup \{\infty\}$の間の対応をひとつ固定する。

これに基づいて,リーマン面$X$上の有理型関数$(f, E)$$X$から$\mathbb{P}^1$への正則写像$\tilde{f}$に延長することができる。

つまり,$X \setminus E$$\tilde{f}(P) = \phi^{-1}(f(P))$と定めると,$\tilde{f}$$X$全体に延長され,正則写像$\tilde{f} \colon X \to \mathbb{P}^1$を定める。

以下,そのことを確かめる。

まず,$P_0 \in E$とすると,$P_0$$E$の孤立点であることから,$X$のある開集合$U$が存在して$U \setminus \{P_0\} \subset X \setminus E$となる。

$P_0$$f$の極なので,必要であれば$U$を小さく取り替えることにより,$U \setminus \{P_0\}$$f(P) \neq 0$であるとしてよい。

このとき,
\begin{align} \lim_{P \to P_0} \tilde{f}(P) & = \lim_{P \to P_0} \phi^{-1}(f(P)) \\ & = \lim_{P \to P_0} \psi^{-1}(\psi(\phi^{-1}(f(P)))) \\ & = \lim_{P \to P_0} \psi^{-1} \left( \frac{1}{f(P)} \right) \\ & = \psi^{-1}(0) \\ & = N \end{align}
が成り立つ。

そこで,$E$$\tilde{f}(P) = N$と定めると,$\tilde{f}$$X$全体に連続に延長され,$E$の各点においても正則となる。

参考文献

[1]
小木曽啓示, 代数曲線論, 数学の考え方, 朝倉書店, 2002
投稿日:210

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