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大学数学基礎解説
文献あり

微分方程式と解析接続

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はじめに

 この記事では微分方程式の解の解析接続とモノドロミーについて要所を掻い摘んで解説していきます。
 以下ではD上正則な係数p1(z),p2(z),,pn(z)を持つ微分方程式
dnudzn+p1(z)dn1udzn1++pn(z)u=0
を考えます。

基本群

基本群

 連続写像φ:[0,1]Dであってφ(0)=φ(1)=aを満たすものをaを基点とする閉曲線と言う。
 aを基点とする閉曲線φ,φに対しそのφφ
φφ(t)={φ(2t)(0t1/2)φ(2t1)(1/2t1)
によって定める。
 またφφに対し連続写像h:[0,1]×[0,1]Dであって
h(s,0)=h(s,1)=a,h(0,t)=φ(t),h(1,t)=φ(t)
を満たすようなものが存在するときφφホモトピー同値であると言う。
 aを基点とするD内の閉曲線全体C(D,a)をホモトピー同値で割った集合C(D,a)/のことをaを基点とするDの基本群と言いπ1(D,a)と表す。基本群の元[φ],[φ]に対し積
[φ][φ]:=[φφ]
はwell-definedに定まり、π1(D,a)はこの演算について群を成す。

 φφがホモトピー同値であるとは簡単に言うとφφが(D内での)連続変形によって写り合うことを表している。
 例えばDが単連結領域であれば任意のφ,φはホモトピー同値となる。また例えばD=C{0}においてφ(t)=e2πit,φ(t)=2e2πitのように定めると、φはどのように連続変形してもz=0をその"外側"に出すことはできないのでφとはホモトピー同値にはなり得ない。
 一般に次のような事実が知られている。

 DCから丁度ma1,a2,,amを除いた領域であるとき、任意のaDに対してπ1(D,a)m個の生成元を持つ自由群となる。
 特にφkakを一周し、その他の点を周回しないような閉曲線とすると
π1(D,a)=[φ1],[φ2],,[φm]
が成り立つ。

解析接続とモノドロミー

 連続曲線φ:[0,1]Dについて、各tに対しz=φ(t)の円盤近傍Ut上定義された正則関数Ft
・任意のt0(0,1)に対し、区間I=(t1,t2)t0φ(I)Ut0を満たすように任意に取ったとき、任意のtIに対しUtUt0FtFt0が成り立つ。
を満たすとき、その族{Ft}曲線φに沿うF=F0の解析接続であると言う。

解の存在と一意性

 微分方程式
dnudzn+p1(z)dn1udzn1++pn(z)u=0()
の係数p1(z),p2(z),,pn(z)D上正則であれば、初期値
u(k)(a)=bk(k=0,1,,n1)
を満たす正則な解uが、aを含む任意の単連結領域DaDにおいてただ一つ定まる。
 特にこの微分方程式のDa上の解全体をVaとおくと、これはn次元C-線形空間となる。

解の解析接続可能性

 上のような解uaを始点とする任意の連続曲線φに沿って解析接続でき、それによって得られる関数utも上の微分方程式を満たす。

 いまuVaaを基点とする閉曲線φによって解析接続したとき、その終点において定まる関数v=u1Vaに含まれることになる。特にこの対応による線形写像
ρφ:VaVa,uv
はホモトピー同値によって不変であり
ρ[φ]ρ[φ]=ρ[φ][φ]
を満たすことがわかるので、これによって準同型
ρ:π1(D,a)GL(Va)
が得られる(ただしGL(V)は一般線形群、つまりVの線形自己同型全体とした)。
 この準同型ρのことを(aを基点とする)()モノドロミー表現と言う。

 一般に群Gの元をある線形空間Vの自己同型に対応させる準同型写像GGL(V)のことを群の表現と言う。

 また適当にVaの基底u1,u2,,unを取り、この基底に関するρ[φ]の表現行列、つまり
[ρ[φ](u1)ρ[φ](u2)ρ[φ](un)]=[u1u2un]M[φ]
によって定まる準同型
M:π1(D,a)GL(n,C)
を考えたとき、この像の定めるGL(n,C)の部分群のことを基底u1,u2,,unに関するモノドロミー群と言う。

 例えばD=C{0}上正則な係数を持つ微分方程式
d2udz2+1zdudz=0
を考えると、これはz0において
u=A+Blogz=[1logz](AB)
と解ける。またこれのφ(t)=e2πitに沿った解析接続を考えると
ρ[φ](u)=A+B(logz+2πi)=[1logz](12πi01)(AB)
と変換されることとなる。したがってこの微分方程式の基本解1,logzに関するモノドロミー群は
(12πi01)={(12πin01)nZ}
となる。

 また例えば微分方程式
dudzαzu=0
を考えると、これはz0において
u=Azα
と解け、これは
ρ[φ](u)=Aeα(logz+2πi)=Ae2πiαzα
と解析接続される。したがってモノドロミー群は
e2πiα={e2πinαnZ}
となる。

普遍被覆面

 上ではモノドロミー表現を基本群を用いて定義したが、これは被覆面の理論を使うことでより扱いやすい形に書き換えることができる。そのことについても以下で見ていこう。

普遍被覆面

 位相空間Dから領域Dへの全射連続写像pであって
・任意のzDに対してある開近傍Uzが存在し、p1(U)の任意の連結成分Vに対しp|V:VUは位相同型となる。
を満たすものが存在するときDD被覆面であると言う。
 特に(弧状連結かつ)単連結な被覆面のことを普遍被覆面と言う。

 被覆面を定める写像(被覆写像)の条件は次のようにも言い換えられる。

  • 任意のzDに対してp1(z)Dにおいて離散位相を持つ。
  • またある開近傍Uzが存在して同相ψ:p1(U)U×p1(z)が成り立つ。
  • 特に第一成分への射影をπとおくとp|p1(U)=πψが成り立つ。

このように被覆面は局所的にUを"束ねた"空間となっており、p1(U)の各連結成分のことをU上のシートp1(z)のことをz上のファイバーとも呼ばれる。
 なお以下でも触れるようにDC内の領域としていたことからDには自然に二次元実多様体としての構造が入り、それゆえに被覆"面"と呼んでいることに注意する。ちなみに一般の位相空間Yに対する被覆Xは単に被覆空間と呼ばれる。

被覆変換群

 被覆DpDについて、Dの位相自己同型σであってpσ=pを満たすものをDpD被覆変換、被覆変換全体のなす群のことを被覆変換群と言いΓ(DpD)と表す。
 また任意のzDおよびz1,z2p1(z)に対しz1=σ(z2)を満たすような被覆変換σが存在するような被覆のことをガロア被覆(または正則被覆や正規被覆)と言う。

 次の主張は代数学におけるガロア理論の基本定理に酷似した非常に興味深い定理となっている。

 被覆DpDにおいてpによるD内の閉曲線はD内の閉曲線に写され、これによって定まる準同型
p:π1(D,z)π1(D,z)(z=p(z))
は単射となる。
 またπ1(D,z)の任意の部分群Γに対しある被覆DpDが存在しΓ=p(π1(D,z))が成り立つ(特にDの被覆全体に対しある同値関係を入れることでこの対応は一対一となる)。
 特にΓπ1(D,z)の正規部分群であることとDpDがガロア被覆であることは同値であり、このとき同型
π1(D,z)/ΓΓ(DpD)
が成り立つ。

 任意の領域Dに対し普遍被覆面Dが存在し、同型
π1(D,z)Γ(DpD)
が成り立つ。

微分方程式と普遍被覆面

 被覆面D~には各点z~D~に対して適当なシートVz~を取り局所座標系p|Vz~を入れることで自然に複素多様体、つまりリーマン面の構造が備わる。一応リーマン面の定義を提示しておこう。

リーマン面

 位相空間Xとその開集合Uλ上の写像φλ:UλC
Xは連結なハウスドルフ空間
{Uλ}λΛXの被覆、つまりX=λΛUλ
φλ:Uλφλ(Uλ)は同相写像
UαUβならφαφβ1:φα(UαUβ)φβ(UαUβ)は正則関数
を満たすとき、(X,{(Uλ,φλ)}λΛ)リーマン面、あるいは単にXはリーマン面であるという。
 この各写像φλのことを局所座標系(Uλ,φλ)のことを座標近傍、その組{(Uλ,φλ)}λΛのことを座標近傍系という。

 D上の正則関数fは被覆写像pによって被覆面D~上の正則関数fpに持ち上げられる(正確には引き戻しであるが)。慣例に従ってこれをfp=pfと表す。
 いまこの作用によってD上正則な係数を持つ微分方程式
dnudzn+p1(z)dn1udzn1++pn(z)u=0
D~上正則な係数を持つ微分方程式
dnu~dzn+p~1(z~)dn1u~dzn1++p~n(z~)u~=0
に持ち上げられる。特にD~を普遍被覆面とすると定理2,3は次のように一般化される。

解の存在と一意性

 単連結なリーマン面D~上正則な係数p~1,p~2,,p~nを持つ微分方程式
dnu~dzn+p~1(z~)dn1u~dzn1++p~n(z~)u~=0(~)
は任意の初期条件
u~(k)(a~)=bk(k=0,1,,n1)
に対してD~上正則な解u~がただ一つ定まる。
 特に(~)D~上の解全体をVとおくと、これはn次元C-線形空間をなす。

 いま上のように(~)の各係数p~kD上の正則関数pkを用いてp~k=ppkと書ける場合を考える。このとき任意の被覆変換γΓ(D~pD)に対しγp~k=(pγ)pk=p~kが成り立つことに注意するとv~=γu~(~)を満たすことがわかる。特にこの作用は線形同型
γ:VV
を引き起こし、この対応によって定まる準同型
Γ(D~pD)GL(V),γγ
のことをモノドロミー表現と言う。またVのある基底に関する表現行列のなす群のことをモノドロミー群と言う。

 例えばD=C{0}の普遍被覆面として螺旋面
D~={(rcosθ,rsinθ,θ)r,θR,r>0}
および被覆写像として射影
p:(rcosθ,rsinθ,θ)reiθ
が取れる。またこのとき任意の被覆変換γはある整数nを用いて
γ:(rcosθ,rsinθ,θ)(rcosθ,rsinθ,θ+2πn)
と表せる。

 このことを踏まえると微分方程式
d2udz2+1zdudz=0
D~上で
u~=A+B(logr+iθ)=[1logr+iθ](AB)
と解け、これは被覆変換によって
γu~=A+B(logr+i(θ+2πn))=[1logr+iθ](12πi01)(AB)
と変換されることとなる。

参考文献

[1]
久賀道郎, ガロアの夢:群論と微分方程式, 日本評論社, 1968
[2]
高野恭一, 常微分方程式, 朝倉書店, 2019
投稿日:2023125
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子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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