はじめに
この記事では微分方程式の解の解析接続とモノドロミーについて要所を掻い摘んで解説していきます。
以下では上正則な係数を持つ微分方程式
を考えます。
基本群
基本群
連続写像であってを満たすものをを基点とする閉曲線と言う。
を基点とする閉曲線に対しその積を
によって定める。
またとに対し連続写像であって
を満たすようなものが存在するときとはホモトピー同値であると言う。
を基点とする内の閉曲線全体をホモトピー同値で割った集合のことをを基点とするの基本群と言いと表す。基本群の元に対し積
はwell-definedに定まり、はこの演算について群を成す。
とがホモトピー同値であるとは簡単に言うととが(内での)連続変形によって写り合うことを表している。
例えばが単連結領域であれば任意のはホモトピー同値となる。また例えばにおいてのように定めると、はどのように連続変形してもをその"外側"に出すことはできないのでとはホモトピー同値にはなり得ない。
一般に次のような事実が知られている。
がから丁度点を除いた領域であるとき、任意のに対しては個の生成元を持つ自由群となる。
特にをを一周し、その他の点を周回しないような閉曲線とすると
が成り立つ。
解析接続とモノドロミー
連続曲線について、各に対しの円盤近傍上定義された正則関数が
・任意のに対し、区間をを満たすように任意に取ったとき、任意のに対し上が成り立つ。
を満たすとき、その族は曲線に沿うの解析接続であると言う。
解の存在と一意性
微分方程式
の係数が上正則であれば、初期値
を満たす正則な解が、を含む任意の単連結領域においてただ一つ定まる。
特にこの微分方程式の上の解全体をとおくと、これは次元-線形空間となる。
解の解析接続可能性
上のような解はを始点とする任意の連続曲線に沿って解析接続でき、それによって得られる関数も上の微分方程式を満たす。
いまをを基点とする閉曲線によって解析接続したとき、その終点において定まる関数もに含まれることになる。特にこの対応による線形写像
はホモトピー同値によって不変であり
を満たすことがわかるので、これによって準同型
が得られる(ただしは一般線形群、つまりの線形自己同型全体とした)。
この準同型のことを(を基点とする)のモノドロミー表現と言う。
一般に群の元をある線形空間の自己同型に対応させる準同型写像のことを群の表現と言う。
また適当にの基底を取り、この基底に関するの表現行列、つまり
によって定まる準同型
を考えたとき、この像の定めるの部分群のことを基底に関するモノドロミー群と言う。
例えば上正則な係数を持つ微分方程式
を考えると、これはにおいて
と解ける。またこれのに沿った解析接続を考えると
と変換されることとなる。したがってこの微分方程式の基本解に関するモノドロミー群は
となる。
また例えば微分方程式
を考えると、これはにおいて
と解け、これは
と解析接続される。したがってモノドロミー群は
となる。
普遍被覆面
上ではモノドロミー表現を基本群を用いて定義したが、これは被覆面の理論を使うことでより扱いやすい形に書き換えることができる。そのことについても以下で見ていこう。
普遍被覆面
位相空間から領域への全射連続写像であって
・任意のに対してある開近傍が存在し、の任意の連結成分に対しは位相同型となる。
を満たすものが存在するときはの被覆面であると言う。
特に(弧状連結かつ)単連結な被覆面のことを普遍被覆面と言う。
被覆面を定める写像(被覆写像)の条件は次のようにも言い換えられる。
- 任意のに対してはにおいて離散位相を持つ。
- またある開近傍が存在して同相が成り立つ。
- 特に第一成分への射影をとおくとが成り立つ。
このように被覆面は局所的にを"束ねた"空間となっており、の各連結成分のことを上のシート、のことを上のファイバーとも呼ばれる。
なお以下でも触れるようにを内の領域としていたことからには自然に二次元実多様体としての構造が入り、それゆえに被覆"面"と呼んでいることに注意する。ちなみに一般の位相空間に対する被覆は単に被覆空間と呼ばれる。
被覆変換群
被覆について、の位相自己同型であってを満たすものをの被覆変換、被覆変換全体のなす群のことを被覆変換群と言いと表す。
また任意のおよびに対しを満たすような被覆変換が存在するような被覆のことをガロア被覆(または正則被覆や正規被覆)と言う。
次の主張は代数学におけるガロア理論の基本定理に酷似した非常に興味深い定理となっている。
被覆においてによる内の閉曲線は内の閉曲線に写され、これによって定まる準同型
は単射となる。
またの任意の部分群に対しある被覆が存在しが成り立つ(特にの被覆全体に対しある同値関係を入れることでこの対応は一対一となる)。
特にがの正規部分群であることとがガロア被覆であることは同値であり、このとき同型
が成り立つ。
任意の領域に対し普遍被覆面が存在し、同型
が成り立つ。
微分方程式と普遍被覆面
被覆面には各点に対して適当なシートを取り局所座標系を入れることで自然に複素多様体、つまりリーマン面の構造が備わる。一応リーマン面の定義を提示しておこう。
リーマン面
位相空間とその開集合上の写像が
・は連結なハウスドルフ空間
・はの被覆、つまり
・は同相写像
・ならは正則関数
を満たすとき、はリーマン面、あるいは単にはリーマン面であるという。
この各写像のことを局所座標系、のことを座標近傍、その組のことを座標近傍系という。
上の正則関数は被覆写像によって被覆面上の正則関数に持ち上げられる(正確には引き戻しであるが)。慣例に従ってこれをと表す。
いまこの作用によって上正則な係数を持つ微分方程式
は上正則な係数を持つ微分方程式
に持ち上げられる。特にを普遍被覆面とすると定理2,3は次のように一般化される。
解の存在と一意性
単連結なリーマン面上正則な係数を持つ微分方程式
は任意の初期条件
に対して上正則な解がただ一つ定まる。
特にの上の解全体をとおくと、これは次元-線形空間をなす。
いま上のようにの各係数が上の正則関数を用いてと書ける場合を考える。このとき任意の被覆変換に対しが成り立つことに注意するともを満たすことがわかる。特にこの作用は線形同型
を引き起こし、この対応によって定まる準同型
のことをモノドロミー表現と言う。またのある基底に関する表現行列のなす群のことをモノドロミー群と言う。
例えばの普遍被覆面として螺旋面
および被覆写像として射影
が取れる。またこのとき任意の被覆変換はある整数を用いて
と表せる。
このことを踏まえると微分方程式
は上で
と解け、これは被覆変換によって
と変換されることとなる。