ここでは東大数理の修士課程の院試の2022B10の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
複素平面$\mathbb{C}$上で定義された正則関数$f(x)$が$$\mathrm{Re}f(z)\leq 1+|z|^2 \quad (z\in\mathbb{C})$$
を満たすとき、$f$は$2$次以下の多項式であることを示せ。
まず$f-1$を改めて$f$とおくことで、上の条件式は$$\mathrm{Re}f\leq|z^2|$$の条件下で示せば良いことがわかります。ここではもう少し一般的な結果を示しましょう。
複素平面$\mathbb{C}$上で定義された正則関数$f(x)$が、$m$次多項式$p$について$$\mathrm{Re}f(z)\leq |p(z)| \quad (z\in\mathbb{C})$$
を満たすとき、$f$は$m$次以下の多項式である。
以下証明をしていきましょう。条件の式を簡単な場合に帰着していきます。まずpがどのような形であれ、この条件は$p=Kz^m$の場合、つまりある定数$K>0$について
$$
\mathrm{Re}f(z)\leq|K
z^m|
$$が成り立つについて示せば十分です。
この条件の下で$f$がm次以下の多項式であることを示していきます(結局元の問題とほぼ同じことを示すことになってしまいました)。まず$f(z)=u(z)+iv(z)$とおき、そのTaylor展開を$f=\sum_{i=0}^\infty a_iz^i$とおきます。ここで$k\geq m+1$に対して$a_k=0$であることが示したいことです。そのため$a_k$を$u=\mathrm{Re}f$を用いて表示して、さらにそれと条件式を使ってそれを示していきます。
上記の記号の下$$a_k=\frac{2}{\pi r^k}\int_0^{2\pi}u(re^{i\theta})e^{-ik\theta}d\theta$$
が成り立つ。
Cauchyの積分定理によって$$a_k=\frac{1}{2\pi}\int_{|\zeta|=r}\frac{f(\zeta)}{\zeta^{k+1}}d\zeta=\frac{1}{\pi r^k}\int_0^{2\pi}f(re^{i\theta})e^{-ik\theta}d\theta$$である。一方、同様にCauchyの積分定理によって$$0=\int_{|\zeta|=r}f(\zeta)\zeta^{k-1}=ir^k\int_0^{2\pi}f(re^{i\theta})e^{ik\theta}d\theta$$も成り立っている。初めの式と二つ目の式の共役を$-\frac{1}{i\pi r^{2k}}$倍したものを足し、それを$2$で割ることで結果が従う。
晴れて$a_k$の値を$u$を使って表示することに成功しました。ここで複素解析の定跡(?)どおり絶対値を取って上から抑えたいところですが、まだ一つ問題があります。それは$u$の範囲が上からしか抑えられていないことです。そこでそれに対処するため次の式を使います。
$$
u(0)=\frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi}u(re^{i\theta})d\theta
$$
これらの式を何倍かして足すことで
$$
|a_k|r^k+4u(0)\leq\frac{2}{\pi}\int_0^{2\pi}|u(re^{ik\theta})|+u(re^{ik\theta})d\theta
$$
が得られます。ここで上で導出した$|a_k|r^k+2u(0))$の上界の式から
$$
|a_k|r^k+4u(0)\leq \max\{0,4\max_{|z|=r}|u(z)|\}
$$が分かります。これを変形することで$$|a_k|\leq\max\{0,\frac{4\max_{|z|=r}u(z)}{r^k}\}-\frac{4u(0)}{r^k}\leq\frac{4}{r^{k-m}}+\frac{4u(0)}{r^k}$$が得られ、極限$r\to\infty$を取ることで$k\geq m+1$に対して$a_k=0$が示せました。