この記事では体$K$に対し一般線形群
$$GL_n(K)=\{A\in M_n(K)\mid \det A\neq0\}$$
のアーベル化を求めていきます。
ただし群のアーベル化とは以下のように定められる群のことを言います。
群$G$に対し、その交換子群
$$D(G)=\langle xyx^{-1}y^{-1}\mid x,y\in G\rangle$$
による商$G/D(G)$を$G$のアーベル化と言い、$G^\ab$などと表す。
そして$GL_2(K)$のアーベル化は以下のように求まります。
行列式による準同型
$$\det:GL_n(K)\to K^\times$$
は同型$GL_n(K)^\ab\simeq K^\times$を与える。
ただし$GL_2(\F_2)$のときは
$$\sgn:GL_2(\F_2)\simeq S_3\to\{\pm1\}$$
が同型$GL_2(\F_2)^\ab\simeq\{\pm1\}$を与える。
ちなみに群のアーベル化は以下のような性質を持ちます。
群$G$からアーベル群$A$への準同型
$$\vp:G\to A$$
に対しある準同型
$$\ol\vp:G^\ab\to A$$
が存在し$\vp=\ol\vp\circ\pi$が成り立つ。
ただし$\pi$は自然な準同型$\pi:G\to G^\ab$とした。
特にこのことと命題1から以下のような興味深い事実が成り立ちます。
$GL_n(K)$からアーベル群$A$への準同型
$$\vp:GL_n(K)\to A$$
に対し、ある準同型
$$\ol\vp:K^\times\to A$$
が存在し$\vp=\ol\vp\circ\det$が成り立つ。
ただし$SL_2(\F_2)$のときはある$\ol\vp:\{\pm1\}\to G$が存在し$\vp=\ol\vp\circ\sgn$が成り立つ。
ついでに以下で示されるようにほとんどの場合において$SL_n(K)^\ab=1$が成り立つので、以下のような事実も得られます。
$SL_2(\F_2),SL_2(\F_3)$の場合を除き、$SL_n(K)$からアーベル群$A$への準同型は自明なものに限る。
$$SL_n(K)=\Ker(\det)=\{A\in M_n(K)\mid\det A=1\}$$
とおくと$D(GL_n(K))\subseteq SL_n(K)$は明らかなので逆の包含を示せばよい。
また$SL_n(K)$は単位行列の$(i,j)$成分を$c$に置き換えた行列(基本行列)
$$E_{ij}(c)=\begin{pmatrix}
1\\
&\ddots\\
&&1&&c\\
&&&\ddots\\
&&&&1\\
&&&&&\ddots\\
&&&&&&1
\end{pmatrix}\quad(i\neq j,c\in K)$$
たちによって生成されることに注意すると、これらが$E_{ij}(c)\in D(GL_n(K))$を満たすことを示せばよい。
ついでにほとんどの場合において$E_{ij}(c)\in D(SL_n(K))$、つまり$SL_n(K)=D(SL_n(K))$が成り立つことが示せる。
$n\geq3$において$SL_n(K)=D(SL_n(K))$が成り立つ。
任意の$i\neq j$に対し$k\neq i,j$なる$k$を取ると
\begin{align}
E_{ij}(c)
&=E_{ik}(c)E_{kj}(1)E_{ik}(-c)E_{kj}(-1)\\
&=E_{ik}(c)E_{kj}(1)E_{ik}(c)^{-1}E_{kj}(1)^{-1}
\end{align}
が成り立つことからわかる。
$K$が$4$個以上の元を持つとき$SL_2(K)=D(SL_2(K))$が成り立つ。
仮定より$a\neq 0,\pm1$なる$a\in K$が取れ、このとき
$$A=\begin{pmatrix}
a&0\\0&a^{-1}
\end{pmatrix},\quad
B=\begin{pmatrix}
1&b\\0&1
\end{pmatrix}$$
とおくと
$$ABA^{-1}B^{-1}=\begin{pmatrix}
1&b(a^2-1)\\0&1
\end{pmatrix}$$
が成り立つので、$b=(a^2-1)^{-1}c$とおくことで
$$E_{12}(c)=ABA^{-1}B^{-1}$$
を得る($E_{21}(c)$についても同様)。
$SL_2(\F_3)=D(GL_2(\F_3))$が成り立つ。
$$A=\begin{pmatrix}
1&0\\0&-1
\end{pmatrix},\quad
B=\begin{pmatrix}
1&-c\\0&1
\end{pmatrix}$$
とおくと
$$ABA^{-1}B^{-1}=\begin{pmatrix}
1&-2c\\0&1
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
1&c\\0&1
\end{pmatrix}=E_{12}(c)$$
が成り立つことからわかる($E_{21}(c)$についても同様)。
ちなみにこの場合は$SL_2(\F_3)=D(SL_2(\F_3))$は成り立たず、実際
$$D(SL_2(\F_3))=\l\{\pm\p1001,\pm\p0{-1}10,\pm\p111{-1},\pm\p{-1}111\r\}$$
と求まるらしい(これは四元数群$Q_8$に同型であり、$SL_2(\F_3)^\ab$は位数$3$の巡回群となる)。
$GL_2(\F_2)$は$3$次対称群$S_3$と同型である。
$GL_2(\F_2)$は集合
$$X=\F_2^2\setminus\{0\}
=\l\{\begin{pmatrix}
1\\0
\end{pmatrix},\begin{pmatrix}
0\\1
\end{pmatrix},\begin{pmatrix}
1\\1
\end{pmatrix}\r\}$$
に作用し置換を引き起こすので、これにより準同型
$$GL_2(\F_2)\to S_3$$
が考えられる。
簡単にわかるようにこの準同型は単射であり、また
$$GL_2(\F_2)=\l\{\p1001,\p0110,\p1101,\p1011,\p1110,\p0111\r\}$$
つまり$|GL_2(\F_2)|=|S_3|=6$が成り立つことから全射性もわかるので同型$GL_2(\F_2)\simeq S_3$を得る。
符号による準同型
$$\sgn:S_n\to\{\pm1\}$$
は同型$S_n^\ab\simeq\{\pm1\}$を与える。
$n$次交代群$A_n=\Ker(\sgn)$について$D(S_n)=A_n$が成り立つことを示せばよい。
$D(S_n)\subseteq A_n$は明らかであり、また$A_n$は長さ$3$の巡回置換たちによって生成されることと
\begin{align}
(a\ b\ c)
&=(a\ b)(a\ c)(a\ b)(a\ c)\\
&=(a\ b)(a\ c)(a\ b)^{-1}(a\ c)^{-1}
\end{align}
が成り立つことに注意すると$A_n\subseteq D(S_n)$がわかるので$D(S_n)=A_n$を得る。
以上より以下の主張を得る。
符号による準同型
$$\sgn:GL_2(\F_2)\simeq S_3\to\{\pm1\}$$
は同型$GL_2(\F_2)^\ab\simeq\{\pm1\}$を与える。
ちなみに$GL_2(\F_2)$の交換子群は
$$D(GL_2(\F_2))=\l\{\p1001,\p1110,\p0111\r\}$$
と求まる。