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大学数学基礎解説
文献あり

GL_n, SL_nのアーベル化について

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{ab}[0]{\mathrm{ab}} \newcommand{Aut}[0]{\operatorname{Aut}} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{c}[0]{\cdot} \newcommand{com}[0]{\text{交換子}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[0]{\mathbb{F}} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{FF}[6]{{}_3F_2\left(\begin{matrix}#1,#2,#3\\#4,#5\end{matrix};#6\right)} \newcommand{G}[0]{G^{\mathrm{ab}}} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{La}[0]{\Lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{M}[4]{\begin{pmatrix}#1& #2\\#3& #4\end{pmatrix}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{O}[0]{\Omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{p}[4]{\begin{pmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \end{pmatrix}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{sgn}[0]{\operatorname{sgn}} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では体$K$に対し一般線形群
$$GL_n(K)=\{A\in M_n(K)\mid \det A\neq0\}$$
のアーベル化を求めていきます。
 ただし群のアーベル化とは以下のように定められる群のことを言います。

 群$G$に対し、その交換子群
$$D(G)=\langle xyx^{-1}y^{-1}\mid x,y\in G\rangle$$
による商$G/D(G)$$G$アーベル化と言い、$G^\ab$などと表す。

 そして$GL_2(K)$のアーベル化は以下のように求まります。

 行列式による準同型
$$\det:GL_n(K)\to K^\times$$
は同型$GL_n(K)^\ab\simeq K^\times$を与える。
 ただし$GL_2(\F_2)$のときは
$$\sgn:GL_2(\F_2)\simeq S_3\to\{\pm1\}$$
が同型$GL_2(\F_2)^\ab\simeq\{\pm1\}$を与える。

アーベル化について

 ちなみに群のアーベル化は以下のような性質を持ちます。

 群$G$からアーベル群$A$への準同型
$$\vp:G\to A$$
に対しある準同型
$$\ol\vp:G^\ab\to A$$
が存在し$\vp=\ol\vp\circ\pi$が成り立つ。
 ただし$\pi$は自然な準同型$\pi:G\to G^\ab$とした。

 特にこのことと命題1から以下のような興味深い事実が成り立ちます。

 $GL_n(K)$からアーベル群$A$への準同型
$$\vp:GL_n(K)\to A$$
に対し、ある準同型
$$\ol\vp:K^\times\to A$$
が存在し$\vp=\ol\vp\circ\det$が成り立つ。
 ただし$SL_2(\F_2)$のときはある$\ol\vp:\{\pm1\}\to G$が存在し$\vp=\ol\vp\circ\sgn$が成り立つ。

 ついでに以下で示されるようにほとんどの場合において$SL_n(K)^\ab=1$が成り立つので、以下のような事実も得られます。

 $SL_2(\F_2),SL_2(\F_3)$の場合を除き、$SL_n(K)$からアーベル群$A$への準同型は自明なものに限る。

証明

$$SL_n(K)=\Ker(\det)=\{A\in M_n(K)\mid\det A=1\}$$
とおくと$D(GL_n(K))\subseteq SL_n(K)$は明らかなので逆の包含を示せばよい。
 また$SL_n(K)$は単位行列の$(i,j)$成分を$c$に置き換えた行列(基本行列)
$$E_{ij}(c)=\begin{pmatrix} 1\\ &\ddots\\ &&1&&c\\ &&&\ddots\\ &&&&1\\ &&&&&\ddots\\ &&&&&&1 \end{pmatrix}\quad(i\neq j,c\in K)$$
たちによって生成されることに注意すると、これらが$E_{ij}(c)\in D(GL_n(K))$を満たすことを示せばよい。
 ついでにほとんどの場合において$E_{ij}(c)\in D(SL_n(K))$、つまり$SL_n(K)=D(SL_n(K))$が成り立つことが示せる。

 $n\geq3$において$SL_n(K)=D(SL_n(K))$が成り立つ。

 任意の$i\neq j$に対し$k\neq i,j$なる$k$を取ると
\begin{align} E_{ij}(c) &=E_{ik}(c)E_{kj}(1)E_{ik}(-c)E_{kj}(-1)\\ &=E_{ik}(c)E_{kj}(1)E_{ik}(c)^{-1}E_{kj}(1)^{-1} \end{align}
が成り立つことからわかる。

 $K$$4$個以上の元を持つとき$SL_2(K)=D(SL_2(K))$が成り立つ。

 仮定より$a\neq 0,\pm1$なる$a\in K$が取れ、このとき
$$A=\begin{pmatrix} a&0\\0&a^{-1} \end{pmatrix},\quad B=\begin{pmatrix} 1&b\\0&1 \end{pmatrix}$$
とおくと
$$ABA^{-1}B^{-1}=\begin{pmatrix} 1&b(a^2-1)\\0&1 \end{pmatrix}$$
が成り立つので、$b=(a^2-1)^{-1}c$とおくことで
$$E_{12}(c)=ABA^{-1}B^{-1}$$
を得る($E_{21}(c)$についても同様)。

 $SL_2(\F_3)=D(GL_2(\F_3))$が成り立つ。

$$A=\begin{pmatrix} 1&0\\0&-1 \end{pmatrix},\quad B=\begin{pmatrix} 1&-c\\0&1 \end{pmatrix}$$
とおくと
$$ABA^{-1}B^{-1}=\begin{pmatrix} 1&-2c\\0&1 \end{pmatrix} =\begin{pmatrix} 1&c\\0&1 \end{pmatrix}=E_{12}(c)$$
が成り立つことからわかる($E_{21}(c)$についても同様)。

 ちなみにこの場合は$SL_2(\F_3)=D(SL_2(\F_3))$は成り立たず、実際
$$D(SL_2(\F_3))=\l\{\pm\p1001,\pm\p0{-1}10,\pm\p111{-1},\pm\p{-1}111\r\}$$
と求まるらしい(これは四元数群$Q_8$に同型であり、$SL_2(\F_3)^\ab$は位数$3$の巡回群となる)。

$GL_2(\F_2)$の場合

 $GL_2(\F_2)$$3$次対称群$S_3$と同型である。

 $GL_2(\F_2)$は集合
$$X=\F_2^2\setminus\{0\} =\l\{\begin{pmatrix} 1\\0 \end{pmatrix},\begin{pmatrix} 0\\1 \end{pmatrix},\begin{pmatrix} 1\\1 \end{pmatrix}\r\}$$
に作用し置換を引き起こすので、これにより準同型
$$GL_2(\F_2)\to S_3$$
が考えられる。
 簡単にわかるようにこの準同型は単射であり、また
$$GL_2(\F_2)=\l\{\p1001,\p0110,\p1101,\p1011,\p1110,\p0111\r\}$$
つまり$|GL_2(\F_2)|=|S_3|=6$が成り立つことから全射性もわかるので同型$GL_2(\F_2)\simeq S_3$を得る。

 符号による準同型
$$\sgn:S_n\to\{\pm1\}$$
は同型$S_n^\ab\simeq\{\pm1\}$を与える。

 $n$次交代群$A_n=\Ker(\sgn)$について$D(S_n)=A_n$が成り立つことを示せばよい。
 $D(S_n)\subseteq A_n$は明らかであり、また$A_n$は長さ$3$の巡回置換たちによって生成されることと
\begin{align} (a\ b\ c) &=(a\ b)(a\ c)(a\ b)(a\ c)\\ &=(a\ b)(a\ c)(a\ b)^{-1}(a\ c)^{-1} \end{align}
が成り立つことに注意すると$A_n\subseteq D(S_n)$がわかるので$D(S_n)=A_n$を得る。

 以上より以下の主張を得る。

 符号による準同型
$$\sgn:GL_2(\F_2)\simeq S_3\to\{\pm1\}$$
は同型$GL_2(\F_2)^\ab\simeq\{\pm1\}$を与える。

 ちなみに$GL_2(\F_2)$の交換子群は
$$D(GL_2(\F_2))=\l\{\p1001,\p1110,\p0111\r\}$$
と求まる。

参考文献

[1]
S. Lang, Algebra, pp. 536 - 541
投稿日:24日前
更新日:24日前
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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